7
ぐり子は東日本在庫監視委員会西多摩支部へと足を運んでいた。
(……なんつーか、数年ぶりにここに来たような感じがするな)
そんなメタフィクション的な思考は程々にしつつ、ぐり子は支部長室のドアをノックした。
「入るぞ」
ぐり子は短く言って、部屋へと入っていった。
「おお! ぐり子くん、久しぶりだね! 二年ぶりくらいかな?」
「おいやめろ、さっきそのメタフィクション的ツッコミはしたばかりだ」
はっはっは、と言いながらタンクトップ姿の支部長は書類をぐり子に差し出した。
ぐり子はその書類を突然貰って、何が何だか解らなかった。
ぐり子の視線は書類と支部長の顔を往来する。
「……これは?」
「まあ、先ずは書類を見てくれ。話はそれからと行こうじゃないか」
「……相変わらず面倒な奴だ。スタンスを崩さない、とでも言えばいいか」
「まあ、いいじゃないか。とにかく見てくれ。それで何となく話の流れを理解してくれるはずだ。私はそう期待している!」
相変わらず暑苦しい男だ。ぐり子はそう思いながら書類の一ページ目を見た。
そこにはこう記載されていた。
怪物化残売品対抗人型兵器試作品について。
それを見たぐり子は目を細めて、支部長を見た。
「支部長、流石に悪趣味が過ぎないか? これって要するに新しいポッキー戦士を堅苦しく言っているだけだよな? しかも、今となっては人権の問題があるからこのような古臭いネーミングはしなかったはずだが……」
「実は、新しいポッキー戦士を実践投入しようという流れが出てきている。今のポッキー戦士では、日々強くなっていくアンソウルド・モンスターに勝ち目がないのではないか、そういわれているのだよ」
アンソウルド・モンスターは、怪物化残物品とかつて呼ばれていた時代があった。
そうして今も国の機関では正式な文書にはそう記載する必要がある。古い時代の柵、とでも言えばいいだろうか。いずれにせよ、アンソウルド・モンスターというネーミングが一般的に普及している昨今では、この名前を使い続ける日本国政府について懐疑心を抱く人間が多くなってきていてもおかしくなかった。
「……それで? まさか、新しいポッキー戦士をここに導入する、という話じゃないだろうな。だったら、別に私たちに事前情報を仕入れることなく普通に導入しておけばいいじゃないか」
「いいや、問題はそれじゃない」
そう言って支部長は指を弾く。すると背後のモニターにある少女の顔が浮かび上がった。
「彼女の名前は……はっきり言ってまだ無い。強いてあげるならば『PW-001-NE』と呼ぶべきか」
製造番号(シリアルナンバー)。
それは今までのぐり子も一度以上は経験のあることだった。はっきり言って、人間が番号で呼ばれて気持ちのいいことなど有り得ない。もし、その人間に人間という道徳が残っていれば、の話になるが。
「……なるほど。まだ正式リリースされていないから、名前もついていないと。ほんとう、赤ん坊以下だよな。リリース前のポッキー戦士は」
「まあ、そういってくれるな。私だって心苦しいものがあるよ。だが、アンソウルド・モンスターを倒すためにはどうしても君たちの協力が必要だ。それについては理解してもらいたい」
「それくらい解っているよ。……私たちとしても平和に学生生活を送れることが一番いいことではあるのだけれど。まあ、それも上手くはいかないか。最近はアンソウルド・モンスターが非常に多く出現していて、学生生活もままならねえって言うのに」
「そういえば、江崎くんは?」
「江崎か。あいつなら集合時間に三十分経過しても集合場所に来なかったから『馬鹿野郎』とメールを送ってそのまま捨て置いた。きっと今頃こっちに向かっているだろうよ。……流石に電車に乗っておいてはいてほしいがね」
そう言ってぐり子は深い溜息を吐く。ああ突き放したような言い方をしているが、内面は彼のことを心配しているのだ。
「……そうか。まあ、今回のことは江崎くんにはあまり関係のないことだ。君に資料を見せたのも、それが一因だと考えてもらっていい。要するに……そのポッキー戦士を実践投入していくうえで一度調整をする必要があるそうなのだよ。それも、実戦で。普段は模擬戦で調整しているそうだが……やはり限界があるそうでね」
「そうして白羽の矢が私に立った、と。つまり、戦闘をすればいいのか。これは、勝ち負け関係なし? 例えば負けておかないとメンツが保てないとか」
「それは関係ないだろう。思う存分戦ってくれて構わない。相手はポッキー戦士の新型。きっと私たちの想像の範疇を上回るものだと思う。油断するな、ぐり子くん」
「それくらい解っているよ」
「そうか。そうだ。……どうせならその書類を読んでおいてくれ。きっと相手も君の情報を仕入れているはずだ。ええと、彼女の能力は『計算(シミュレート)』。ポッキーは……」
「塩ポッキー……か。また珍しいポッキーだな。それに、計算とは? まさかコンピュータのように緻密にパターンを考えるということか?」
そこまで聞いて支部長は両手を上げる。
「残念ながら、そこまでは」
それを聞いてぐり子は何も言わずにソファに腰かけて、書類を熟読していくのだった。
次回より、書下ろし分。