東日本在庫監視委員会西多摩支部。
支部長室。
タンクトップに短パン姿で一年のうち三百六十四日を過ごすという支部長は先程江崎に見えた手紙をじっくり読んでいた。
この『ミカド教団』は不可思議な点があまりにも多すぎるためだ。ミカド教団というものが在庫監視委員会――さらにはこの国のデータベースに引っかからないこと自体がおかしかった。
「『ミカド教団』……いったい何者なんだ」
「お呼びでしょうか」
声を聞いて、支部長は目線を上げる。そこにはひとりの女性が居た。
愛洲能美という女性だった。彼女は東日本在庫監視委員会広報部に所属している。
が、それは表の顔。
裏の顔は他の在庫監視委員会や小売店などにアンソウルド・モンスターの情報を確認するために活動するスパイのような存在だ。
在庫監視委員会は東日本・西日本・東海・北海道・四国・九州の六つに分かれており、さらにそれぞれ一つの本部と十つの支部に分かれている。例えば東日本であれば、東東京本部、西多摩支部、高崎支部、水戸支部、奥日光支部、館山支部、第三新東京(箱根)支部、会津若松支部、多賀城支部、秋田支部、新青森支部の十つだ。
そして西多摩支部は東日本在庫監視委員会の中でも本部に次ぐ重要な立場を任されており、その一例が『他区画へのスパイ行為の容認』であった。
「……さて、君を呼んだのはほかでもない」
「『ミカド教団』の下調べはすでに済んであります」
そう言って能美は資料を一冊、支部長に渡した。
支部長は小さく頷いて、資料の表紙を見る。表紙にはこう書かれていた。
――『在庫監視委員会再編・解体計画 第七十九次企画書』
「ふむ……再編?」
支部長は目をひそめてぺらぺらと一枚ずつめくっていく。
「ええ。そちらをご覧いただければ解ることではあるのですが、再編計画が持ち上がっている……これは公式です。そこで今回の計画で不満を抱く支部が多いとのことです」
「何故だ?」
「名前のとおり、再編を行うためです。現在ある支部が十個ありますが、そのうち四つが消滅し、新しい支部が編成されるか、もしくは既存の支部に吸収されていく……その何れかになります。そうした支部が憤慨しているのです。恐らく、一番はポッキー戦士を二人所有する西多摩支部……我々を優先的に襲うことでしょう」
「『ミカド教団』との協力関係を結んでいる支部が、存在するということだな?」
「そういうことになります。流石にそこまでは調べきれてはいませんが……」
「解った。そこまでが解れば充分だ」
そう言って支部長は資料を机上に置く。
ノックが響いたのは、ちょうどその時だった。
「どうぞ」
そう言った声を聞いて、入ってきたのは女性だった。お盆には二つのお皿――ラーメンを入れるようなお皿だ――が置かれていた。
女性はお皿を机上に置くと、そのまま頭を下げて部屋を出て行った。
皿の中身はラーメンだった。出来立てらしく、まだ湯気がたっており、その香りがとても香ばしい。
「……これは?」
「見たことのないだろう。我々は在庫処分もしなくてはならないからな、その中の一つだ。その名も『オモちゃん製麺』らしい。美味いことは美味いんだが、イマイチ知名度が低かったらしくてな、今は我々の非常食みたいなものとなっている」
「非常食……ですか」
そう言って、箸を手に持ち、席に座り、能美はラーメンを一口啜った。
「……美味い」
「だろ? ともかくこれをどうにかせねばならなくてな……」
「どれくらいですか?」
「今月と来月の二ヶ月間の全職員の給料をオモちゃん製麺のインスタントラーメンにしてもいいくらいだ」
「これはひどい」