「つまらないよ」
モニターを見ていた少女が言った第一の感想がそれだった。少女は回転椅子に座っていて、その椅子をぐるぐると一回転させた。
少女は、ネオ・ポッキー戦士と呼ばれる存在だった。
しかし、もともとは東日本在庫監視委員会水戸支部に所属するポッキー戦士だった。
彼女はポッキー戦士としてアンソウルド・モンスターを倒して倒して倒し続けていた。しかし、そんな単純作業を繰り返していれば何れ飽きてしまうのは道理である。
そのとおり、彼女は飽きてしまった。そして、ポッキーを食べることをとうとうやめてしまったのだ。
しかしあるとき、彼女は『ミカド教団』に招待を受けた。
男の名前はアッシュ・ファーマ。ヨーロッパの出身であるが、日本語は堪能であった。
男から、「新しいポッキー戦士になってみないか?」と言われその誘いを受け、ネオ・ポッキー戦士になったのだ。
「どうした。そんなにつまらなそうな顔をして」
そこにやってきたのはアッシュだった。すっかり白くなっている顎鬚を蓄え、メガネをかけている男だった。風貌は優しそうに見えるが、目つきだけは鋭く彼女を突き刺していた。
「いえ、何も?」
彼女はそう首を振ると、アッシュは微笑む。
「そうか、ならばいい。そうだアミ、これから作戦会議を行おうと思うんだが、他のネオ・ポッキー戦士について知らないかい?」
それについて、アミは首を横に振った。
彼女は別段、他人に興味を持たないからである。
ならば、なぜ彼女がモニターを眺めているのか?
「そういえば……何を眺めているんだい、アミ?」
「西多摩支部のポッキー戦士がどんなやつか見ておこうと思って。どうせ、いつか戦うことになるのだから」
「なるほど」
アッシュは顎鬚を捻りながら答える。
「しかし君は大丈夫だ。なにせ『ネオ・ポッキー戦士』の中では一番の実力だからな。素質が他のとは違った。君はネオ・ポッキー戦士の中でも強いということは、旧世代のポッキー戦士になど叶うはずがない……ということだからね」
アッシュはアミの頭をぽんぽんと叩いて、言う。
アミは少しだけ顔を赤らめたが、直ぐに、
「そうだけれど、やはり調査は怠ってはいけないし。それより、会議ですって? それじゃあ私も行かなくちゃいけないのよね?」
「そういうことになるね」
「会議って本当につまらないのだけれど」
「だけどチーム戦のときどうするんだい?」
「私は個人のほうがいい、と言ったのはあなたでしょう?」
アッシュはそう言われて、頷く。
「……ああ、そうだったな」
「まあ、会議に出ないわけにはいかないから、こうして出るんだけれど」
アミはそう言って、アッシュの少し後ろをついていく。
「……まったく、可愛げがない」
アッシュはそうつぶやいて、ため息をついたが、それが彼女に聞こえることはなかった。
アンソウルド・モンスターを倒すにはポッキー戦士の力が必要である。
それはどうしてだろうか?
在庫監視委員会は続出する『在庫の怪物』をどうにかして減らさねばならないと思っていた。そのための具体的な対策をどうすればよいかと考えた。
その一つとして挙げられたのはお菓子の力だ。
グリコーゲンという高分子がある。多数のブドウ糖分子がグリコシド結合によって重合し、枝分かれの非常に多い構造になった高分子である。
これはカキの煮汁に入っており、これから生み出されたお菓子――これが俗に言う『グリコ』である。
グリコーゲンはエネルギーが凝縮されていることから、『糖原』とも呼ばれている。
そして、それを他のお菓子にも入れることは出来ないだろうか? それを効率よく使うことは出来ないのだろうか? 科学者は考えた。
在庫の怪物を倒すには特殊な力を必要とする。そして、そのためには、瞬間的に大量のエネルギーを手に入れる必要がある。
そこでグリコーゲンを手っ取り早く手に入れる必要があった。従来通りキャラメルという手もあったが、キャラメルは瞬間的に食べるには少々手間がかかった。
ならば、どうすればよいか。
そこで考えついたのが、ポッキーだった。ポッキーは細長いスティック状になっている。そのため消化も早く、多く噛み砕く必要はない。結果として、選ばれたのがポッキーであった。
もう一つ、理由があった。
それは、ポッキーが一番彼女たちに相性がよかったからであった。どうしてかは、科学者は未だに解っていない。しかし、結果としてポッキー戦士はポッキー戦士として成功しているのだから、その対策を取ることもなかった。
こうしてポッキー戦士は生まれたのだ。
しかし、まだ疑問がある。
アンソウルド・モンスターはどうしてポッキー戦士にだけ攻撃が通用するのだろうか?
一説にはアンソウルド・モンスターは自然発生ではない、と言われている。
では、誰が? 何のために?
――そう考えてしまうと、話が尽きない。
さて。
ポッキー戦士として素質のある人間は、そう多くいたわけではない。
中でもあるひとりの女性が、強い素質を持っていた。しかし、正確には彼女がその素質を持っていたわけではない。
その素質を持っていたのは、彼女が身篭っていた子供だった。
彼女の子供には強い素質がある――そう知った科学者たちは彼女を手厚く保護した。
だが、彼女は死んでしまった。
幼い二人の子供を遺して、死んでしまった。
遺された子供がどうなったのかは――今は殆ど知る者はいない。