その頃。
何事もなくフロアマップのそばまでやってきたポッキー戦士たちは、先ず、このフロアーにあるものを見ることとした。
「ここは五階か……ポッキーショップ以外にはおもちゃコーナーがあるんだな……そういやカービィ買ってないな……」
「ぐり子ちゃん今それ話すところかな? というかぐり子ちゃんゲームするんだ?!」
「なんだ、まるで人がゲームをしない真面目っ子だと思っていたのか? そんなわけはない。私だってゲームくらいするさ。ああ、でもまだゼルダが積んでいたな……カービィは諦めるか……」
「ゼルダもやっていたんだねぐり子ちゃん……」
江崎はそう呟いた。
「そういう江崎はゲームしないのか?」
「僕はあんまりゲームはしないかなあ。ポケモンくらい」
「ほう、実は私もやっていてだな。もうとっくにXは全クリしている」
「まだ発売して三ヶ月じゃあなかったっけ……」
「ああ、そうだったな……」
そう言ってぐり子はくつくつと笑ったが、如何せん今はそういうことをする時間もなかった。
「さて、警備室はどう行けばいいかな?」
「とりあえず関係者以外立ち入り禁止の場所であることは確かだよね」
「そりゃあそうだ」
「だからここから関係者以外立ち入り禁止と書かれた看板を探そうと思うんだ」
「なるほど。それならば問題はない。じゃあ行こう」
そうして二人がその場を立ち去ろうとした、その時だった。
「アンギャオオオオオオオオオオオ!!」
この世のものとは思えない、怪物の鳴き声が聞こえた。その声の大きさとは、彼女たちの鼓膜が破れそうなほど大きかった。
そして、彼女たちは振り返る。
そこには――形容するならば『ティラノサウルス』とでも言わんばかりの恐竜に近い化物が息を荒げて立っていた。
「あいつら……各フロアーにアンソウルド・モンスターを放つだとか言っていたが、こんなどでかいのを放ってやがったのか?!」
そう言って、ぐり子は後退する。
江崎は彼が背負っていたギターケースのようなものを床に置いた。
知識のない人間ならば、ギターケースと見間違えるそのつくりであるが、江崎は敢えてそれを狙っていた。
チャックを開けて中から取り出したのは一挺のライフルだった。
スプリングフィールドM14。
アメリカのスプリングフィールド造兵廠が開発したライフルのことだ。
口径七.六二ミリ、銃身長五十六センチあまりのその銃は、あまりにも江崎に似合いすぎていた。
この銃はアサルトライフルの中でも有効射程が長いとされている。そのため、長距離射撃に向いているこの銃を使っている軍隊も少なくはない。
その銃は普通の中学生が持つべき代物ではない。しかし彼はそれを持っていた。
ポッキー戦士だから――そういえば凡てが済んでしまう職だ。
だが、彼としては未だやはり銃には慣れなかった。慣れたくない、というのが本音だった。
撃つ目標がアンソウルド・モンスターといった人間でない存在であるからとはいえ、その銃は重い。物理的な重さ、ではなく精神的な重さといった方が正しいかもしれない。
ある会社においてこのような就職試験があったという。
「目の前にあるスイッチを押すとある国の罪もない少女がショットガンで撃たれて殺される。さて、あなたは押しますか?」
そのような問題だ。
まず普通ならばノーというに決まっているだろう。
しかし、このボタンを押した人間はその度胸を買われて採用されたのだという。
勿論それは偽物であるのだが、「次はどうなるのだろう」や「このようなケースが本当に起こりうるのか」といったことを考えさせられる試験である。
因みにこの試験は次の年には廃止されたらしいのだが、実際にそのような場面にあったとき、どのような行動を人間は取るのだろうか?
例えばそれがボタンではなく、実際に小銃を持っていたとして、そう命令されたとき、本当にその引き金を引くことは出来るのだろうか?
胸を張って、『出来る!』と言える人間はそういないだろう。
だが、この江崎という人間はそう言える人間だった。
だが、時折江崎は恐怖に襲われる時がある。
それは一度だけあった、ターゲットをミスした事故のことだった。
アンソウルド・モンスターが幼い少女を人質に捕らえたのだった。
アンソウルド・モンスターは知性が高いものが時折現れ、それを彼らは『レベル2』と呼んでいる。
レベル2のアンソウルド・モンスターはあろうことか人間を人質に取り、江崎はいつものようにビターポッキーを食べて集中した。
そして放たれた弾丸は――アンソウルド・モンスターに当たった。
しかし、少女の脇腹を経由した形――であった。
江崎はそれに対して何度も自分を責めた。少女は命に別状こそ無かったし、少女の親からも助けたことへの感謝が伝えられたが、それでも未だに深層心理の中では少女を間違えて撃ったときの情景がはっきりと残っていたのだった。
「おい、江崎。何しているんだ」
ぐり子の声を聞いて、彼は我に返った。
「あ、ご、ごめん……ちょっと考え事を」
「呑気なやつだ。こんなタイミングでも考え事なんぞしている暇があるんだからな」
そんなダメだしを聞きながら彼はライフルを構えた。
ライフルを構えたあとは、再びライフルケースを弄り、そこからビターポッキーを取り出す。
「……さあ、いっちょやったろうじゃあないか」
そう言ってぐり子はアンソウルド・モンスター目掛けて駆け出した。
◇◇◇
その頃、一階ホール。
「ポッキー戦士が居る?」
そのような報告を受けて、男は思わず聞き返した。
黄色いバンダナを頭に巻いた男だった。男は顎鬚を生やし、サングラスをかけて煙草をふかしていた。
「ええ。どうやら姿を現したようです。……『あの人』の言うとおり」
そう言って、男二人はそちらを向いた。
そこに居たのはピエロだった。白を基調として目と口の周りを赤く塗り、鼻には赤く塗られたボールがくっついている、いかにもピエロらしい仮面をかぶったピエロがいた。服装も赤と黄色のストライプで派手だった。
「おい、あんたの言うとおり『ポッキー戦士』が姿を現したらしいぞ」
男がそう言うと、ピエロは振り返る。
ピエロはゆっくりと立ち上がると男の目の前まで歩き出した。
「報告ご苦労さま。ま、あとは僕がやるよ。ポッキー戦士に関しては任せてくれ、という契約だからね」
「ああ、解っている。それにポッキー戦士には俺たちは勝ち目なんてないからな。全部そっち任せで構わない」
それを聞いてピエロは大きく頷く。仮面をかぶっているから表情は一定のはずなのだが、どこかピエロの表情は先程よりも歪んでいるように見えた。
ピエロはそして歩き出して、エスカレーターへと向かい、それに乗った。そのあとピエロはずっと見えなくなるまでこちらを向いて、手を振っていた。その光景はあまりにも不気味だった。
ピエロが居なくなってから、部下の一人がバンダナの男に耳打ちする。
「なんであんなやつと協力したんですか、ボス?」
それに対して、男はため息をつく。
「俺だってしたくなかったさ。だがな、破格の報酬があった。やらざるを得なかったんだ」
そう言って、再び男は煙草をふかした。口から吐かれたその煙はうっすらと上がっていった。