夕霧を書くのが楽しいでやがる。
このツッコミっぷり、まるでそう……第2のクックちゃん!?
ここから先は、美空達が鬼によって凌辱された後の世界の話だ。
この世界の虎松が絶命した後の事であり、当然、どの世界の虎松も知らない事だ。
「……ふわっぁあっんんっ! ぁあっんんっ! ぁあっぁふわっ!」
鬼に跨り、鬼の男根を自らの下の口に咥え込み、長尾景虎が腰を揺さぶっていた。
「あぁあっ! あっふわっんんっ! んううぅ!」
これは演技だ、これは演技なんだ、敵を油断させるための演技に過ぎないのだと自分に言い聞かせながら、長尾景虎は腰を揺さぶっていた。
「ううぅふわっ! ふわっううぅ……っぁあっんんっ!」
演技なんだ、演技なんだと言い聞かせているのに、長尾景虎は自分の子宮に熱が入るのを感じていた。
子宮口がぐぃっと開き、亀頭に吸い付き、子種を求め始めているように感じていた。
「ぁあっぁあっ……あっぁあっ!」
長尾景虎は、自分が雌になっていくのを感じていた。
子宮を抉られ、胸を咬まれ、時には口や不浄の穴を使われ、全身を快楽の対象にされ……自分が鬼のチOポによって雌にされていくのを感じていた。
「んんっ! あんんっ! あぁあっっ!」
長尾景虎は、自分が長尾景虎で無くなっていくような気がした。
腰を振るい、男根が膣内を往復する度に、自分がただの雌に、ただの孕み袋にされていくような気がしていた。
「ふわっんんっ! ううぅふわっあ!」
気持ち良い、気持ち良い、気持ち良い……自分の心がそれだけで満たされていくような感覚がした。
「ふわっんんっ! ぁあっ……んんっ! ううぅ!」
気持ち良い、気持ち良い、気持ち良い、気持ち良い、気持ち良い、気持ち良い、気持ち良い、気持ち良い、気持ち良い、気持ち良い、気持ち良い、気持ち良い、気持ち良い、気持ち良い、気持ち良い、気持ち良い、気持ち良い、気持ち良い、気持ち良い、気持ち良い……もっと交わりたい、もっと鬼と交わりたい、子種が欲しい。
「ふわっあふわっんんっ! ぁあっっんあぁ!」
長尾景虎は、自分の心がそれに支配されていくのを感じていた、自分の心が捻じ伏せられていくのを感じていた、自分の心が塗り潰されていくのを関していた。
「ぁふわっ……ぁあっぁっあっんんっ! ふわっ!」
気がつけば、自分の腰が勝手に動いていた。
自分の腰が勝手に動いて、子宮に鬼のおOんちんを受け入れ、交合を楽しんでいた。
まるでそうなるのが当然の事のように感じていた。
感じて、感じて、感じて……何度も何度も絶頂に達していた。
「ぁあっ……んんっ! ……あぁぁあっあっふわっ!」
びくん、びくんと、何度も全身が痙攣し、膣肉が痙攣し、絶頂の快楽が脳髄を侵していた。
長尾景虎が長尾景虎で無くなり、ただの雌へと造り変えられていた。
そして……鬼の子種が長尾景虎の子宮を満たした。
「あ……ああぁ……ぅああ……」
もう何度目になるかも分からない孕ませ汁を受け、自分の子宮が鬼の児を孕んだのを感じた。
3日3晩の後、自分はまた鬼の児を産まされるのだと理解した。
理解して……また産みたい、また鬼と交わりたいと欲してしまう自分がいた。
限界が近いと、美空は感じていた。
自分が自分でなくなってしまうと、自分を形作っていたものを、自ら捨て去ってしまう瞬間がすぐそこまで迫っていると感じていた。
「誰か……助けてよ……お願いだから……」
気がつけば美空は、そんな弱音を吐いていた。
気がつけば美空は、柘榴達の前では決して吐けなかった弱音を口にしていた。
気がつけば美空は……助けを求めていた。
……
…………
………………
薄暗い地下牢の中に、美空と柘榴、松葉、犬子、そして秋子が繋がれていた。
あの悍ましき凌辱劇から1ヶ月……鬼と化した信虎は主無き春日山城に攻め入り、陥落させた。
空と愛菜、名月、貞子と沙綾は辛うじて脱出に成功したものの、秋子を始めとした長尾の重臣達は皆殺しにされ、ほんの数名が孕み袋として生かされていた。
この場に居る5人は、三日三晩で出産に至る鬼の児を何度も何度も産まされていた。
犯され、孕まされ、産まされ、犯され、孕まされ、産まされ、犯され、孕まされ、産まされ、犯され、孕まされ、産まされ、犯され、孕まされ、産まされ、犯され、孕まされ、産まされ、犯され、孕まされ、産まされ、犯され、孕まされ、産まされ……それを何度も何度も繰り返してきた。
国を奪われ、数えきれない程の民を殺められた事への口惜しさ、人外に手籠めにされる屈辱と、自分が戦力増強のための道具にされている事への無力感、出産に伴う体力の消耗……5人が5人とも、時間と共に自分の心が黒く塗りつぶされていくかのように感じていた。
自分の心が絶望で染まり切り、全てを諦めてしまうのではないかと……そう感じていた。
いや……
「……反撃、できるかもしれない」
……5人中4人が、絶望しつつあった。
美空だけは違った、美空だけは考えていた、考え続けてきた。
ここから脱出する方法を、信虎に一泡吹かせる方法を。
今にも砕け散ってしまいそうな心で、今にも鬼に媚びを売り、子宮に子種をくださいと尻を振ってしまいそうな身体で、必死になって考え続けていた。
「御大将、何かあるっすか?」
出産をまじかに控え、風船のように腹を含まらせた柘榴がそう尋ねる。
「春日山城には、貴女達にも教えていない抜け道が何個かあるの。
武器、兵糧、砂金を隠した場所も何か所か……それが、この近くにもあるわ」
瞬間、美空を除く4人の目の色が変わった。
「今までの経験から、柘榴が出産するまで半日も無い。
柘榴が出産をしたら、私達は5人全員腹の中に子供がいない状態になる。
つまり……次に犯される時は5人同時、5人同時に牢獄の外に出られる。
試作したドライゼを隠した場所まで逃げ切れれば、勝機はある」
ああそうだ、あんな弱い自分は長尾景虎ではない。
ああそうだ、涙を零し弱音を吐くなんて長尾景虎らしくない。
美空は今にも壊れ、崩れ落ちそうな魂を奮い立たせた。
「柘榴は御家流一発分くらいは回復してるっす、松葉はどうっすか?」
「……同じく」
柘榴と松葉がふっと笑う。
そうでなければ長尾美空景虎ではない、こうでなければ長尾じゃない。
この程度の逆境で諦めてたまるか……美空の半生は、そう叫び続けた半生だから。
「イチかバチかの賭けになるわ。
一度失敗をすれば、二度目を狙える程甘いとは考えない方が良い」
犬子と秋子が顔を見合わせ、決意し……美空に向かって大きく頷いた。
柘榴と松葉は先程から、聞くまでもなかろうよという表情を崩さない。
「やるわよ」
そう告げた。
心のどこかで、いっそ失敗しても良いと考えながら。
心のどこかで、鬼と交わり、鬼の児を孕み、鬼の児を産み続ける今の生活が幸せなんじゃないかと考えながら。
そんな邪な考えを必死になって押し殺しながら、そう告げた。
顔には出さなかったが、美空はもうギリギリであった。
「おうっす!」
「御意」
「はい!」
「わんっ!」
その後、武田信虎は知る事になる。
どんなに追い詰められても酒飲んでゲロ吐いて胃を痛めながら戦って、最後にはなんやかんやでどうにかするのが長尾美空景虎である事を。
……
…………
………………
美空達が密かに反撃の決意を固めている頃、春日山城の外に武装集団が来ていた。
「……光璃、これが終わったら何でお前が戦国武将なんてやってるのか、
聞かせてもらうからな」
「……九十郎、これが終わったら、
貴方の知る武田光璃という人物が何者なのか、教えてもらう」
「御屋形様と九十郎の関係も後でじっくり聞かせてもらうんだぜ。
何だよ幼馴染って、そういうのは早く言ってほしかったんだぜ」
武装集団の中に、しぶとく生き残っていた九十郎がいた。
大人しく死んでいた方がこの世界は平和であったのであろうが、とにかく生き残っていた。
九十郎の傍には武田光璃晴信と、山県粉雪昌景の姿もあった。
「いずれにせよ、その辺は犬子と柘榴、可能なら美空を取り戻してからだ」
主君の主君を後回しにする冷血漢がいた。
「母様がこれ以上勢力を伸ばす前に潰す、今度は骨の一片たりとも残さずに潰す。
話はそれから」
「犬子と九十郎には危ない所を助けてもらった恩義があるからな。
話はそれをキッチリ返してからにするのぜ」
九十郎が、光璃が、粉雪が、遠くにそびえる春日山城を睨みつける。
「リベンジマッチだ!」
「……リベンジマッチ」
「りべんじまっちなんだぜ!」
次の日の晩……春日山城が血と硝煙の臭いに、無数の鬼達の断末魔で包まれる。
美空は賭けに勝った、九十郎は光璃と手を組み、犬子と柘榴を取り戻した。
武田信虎は深手を負い、命からがら逃げだした。
だがしかし……美空の心が限界を超え、壊れてしまった。
……
…………
………………
後日、躑躅ヶ崎館。
「お、御屋形様が……」
山県昌景・通称粉雪が驚愕していた。
「お、御屋形様が……」
高坂昌信・通称兎々が愕然としていた。
「あ、姉上が……」
武田信繁・通称夕霧が唖然としていた。
「お、お姉ちゃんが……」
武田信廉・通称薫が目を丸くしていた。
そう、それもそのはず……
「……丸くなってるんだぜ」
「……丸くなってるのら」
「……丸くなってるでやがる」
「……丸くなっちゃった」
彼女達の視線の先、九十郎膝の上で武田光璃晴信が昼寝をしていた。
眉が緩み、頬を緩ませ、規則正しく寝息をたてていた。
4人にとって、それは余りにも衝撃的な光景であった。
「御屋形様の寝顔、初めて見たのら」
「あ、あたいもなんだぜ」
「自分もでやがる」
「あんなに脱力してる光璃お姉ちゃん、滅多に無いよ」
「……いや、ちょっと、あんたら妹だろ!?」
「姉上は少しでも近づいたらぱちって目覚めるでやがる。
湖衣みたいに気配を消す特別な訓練でも積んでないと、
寝顔が観察できる距離に近づけねえでやがるよ」
「兎々も昔こっそり近づいてみようとしたのら……そして怒られたのら」
「私は、頑張れば寝顔が見れる場所まで近づけるけど……
しばらく機嫌が悪くなっちゃうから、最近はやらないかな」
「あの男、何者でやがる?」
「九十郎、昔危ない所を助けてもらった奴だぜ。
神道無念流って剣術を修めていて、ちょっと……
ほんのちょっぴりだけ、勇気があって、侠気があって、格好良い奴なんだぜ」
「とりあえず粉雪がホの字だって事は理解できたでやがる」
「ばっ! ちがっ! ああいや……ち、違わない……かも、なんだぜ……」
基本がさつで大雑把で男勝りな粉雪が、しおしおと勢いを失っていく。
目を伏し、頬を真っ赤に染め、顔を隠すように魔理沙っぽい帽子を深々と被り直した。
「そっか、そっか、粉雪も恋の季節か。 なんか羨ましいな、そういうの」
「か、薫様、あんまり揶揄わないでほしいんだぜ」
「あの男、本気で何者でやがる?
姉上の幼馴染って話が本当なら、私や薫が気づかない筈無いでやがる……
それなのに……」
「今まで一回も話らいにれなかったのも不思議なのら」
「あたいに聞かれたって困るぜ、九十郎も全然話題に出さなかったし……
九十郎は一体どうやって御屋形様をああも安心させたのかも……」
「顎をこしょこしょ~ってしてたのら、そしたら御屋形様はとろ~ってなって、
うとうとして、丸くなって寝始めたのら」
「何が言ってるのかわからねーと思うでやがるが、
夕霧にも何をしたのかわからなかったでやがる。
頭がどうにかなりそうだったでやがる。
催眠術だとか超スピードだとか、そんなチャチなもんじゃない……
もっと恐ろしいものの鱗片を味わったでやがる」
そうして兎々、粉雪、夕霧、それに薫があーだこーだと話していると……
「夕霧、うるさい」
「さっきから五月蠅いぞ防災頭巾」
そんな不機嫌そうな呟きが4人の耳に届いた。
ぶす~っと頬を膨らませ、眉間に皺を寄せた少女……武田晴信が起き上がり、4人を睨みつけていた。
「あ、姉上……お、御目覚めでやがるか……」
「お目覚めでやがる、どこかの誰かが騒がなければもっと眠れたでやがる」
何の意味も無く夕霧の口調を真似しながら、光璃がぷく~っと頬を膨らませた。
「あ、いやその……」
防災頭巾という言葉の意味は誰も知らなかったが、とりあえず光璃も九十郎も苛立っている事だけは理解できた。
「九十郎、防災頭巾って何?」
話題が別の方向に向き、夕霧達4人は内心ほっと一息をつく。
「地震が起きると、あんな感じの頭巾を被って避難するんだよ。
建物が崩れたり、窓ガラスが割れたり、棚から物が落っこちてくると危ないだろ。
中に綿とか詰めて、物が当たった時の衝撃を和らげたり、
尖った物が頭に刺さらないようにする訳だな」
「夕霧のアレにそんな意味が……」
「いや、ねえでやがるからなぁっ!!
そもそも窓がらすって何の話でやがる! 鳥か何かでやがるか!?」
「なら、どんな意味が?」
光璃は夕霧の疑問を軽くスルーした。
「恰好つけでやがるぅっ!
背が小さいから威厳が出なくて、少しでも恰好がつくように被ってるでやがるぅっ!!
これで満足でやがるか姉上ぇっ!!」
「その……典厩様は、威厳あると思うのぜ」
「と、兎々もそう思ってるのら」
「夕霧お姉ちゃん、背が低いの気にしてたんだ……
良いんだよ、夕霧お姉ちゃんはそのままでも」
そう言って武田四天王のちっちゃいコンビと妹が夕霧の肩を叩く。
「変な同情をするなでやがる……」
「そ、それにしても……九十郎が御屋形様の幼馴染って全然分からなかったぜ。
九十郎もお館様ももっと早く言ってくれればよかったのぜ」
これ以上の追撃は拙いと感じ、粉雪は慌てて話題を変えた。
「幼馴染じゃない、この人は……」
そこで光璃がはたと考え込む。
九十郎を一言で、端的に示すような言葉を探す。
今自分が抱いている心の安らぎを一言で示すなら……
「この人は光璃のお母さん」
言った光璃自身頭のイカれた台詞だと思ったが、その言葉が一番しっくりきた。
そして気づいた、自分はずっと母親の代わりを求めていたのかもしれないと。
「いきなり何を言ってるでやがるか姉上ぇっ!?」
「訳が分からないのらぁっ!?」
「御屋形様が狂ったんだぜ!?」
……が、部下2名と妹1名からの反応は散々だった。
光璃はさっき以上にぶす~っと不機嫌そうに頬を膨らませ、そっぽを向いた。
「姉上、今の発言はどういう趣旨でやがるか?」
「言うなればそう、ザ・ニューお母さん」
C-MOONでも使うのであろうか。
「さらに意味が分からなくなったでやがる!?」
「真面目な話、文句と罵声と暴力しか飛んでこない上、家臣に見限られて家から追い出され、
挙句の果てには文字通り鬼にでなった人を母親と呼ぶくらいなら、
この人をお母さんと呼ぶ方が万倍マシ……万倍マシだけど、
決して消去法でお母さんと呼びたい訳でもない。 不思議な感覚、上手く説明できない」
「光璃お姉ちゃんの気持ちは分かるけど、あんなのでも一応はお母さんなんだよ、一応」
「か、薫は姉上の気持ちが分かるでやがるか?」
「まあ、ちょっとだけね。 あの人ちょっと高圧的で人の話を聞かない所があったから」
「九十郎の膝の上は安心できる、優しい匂いがする」
それは錯覚である。
九十郎からは思わず燭台を蹴り飛ばしたくなるようなゲロ以下の匂いしかしない。
「うん、まあ、あの人の近くは全然安心できなかったよね。
いつどんな理由で殴られる分からないから」
「そ、そうだったでやがるか?」
光璃と薫がコクコクと頷く。
姉妹間の母親像の違いに、夕霧は若干ショックを受けていた。
「そりゃあ領民の胎を引き裂いたとか、諫言する家臣を手打ちにしたとか、
色々と悪い噂はあったでやがるが……」
「夕霧の前では比較的大人しかった」
「夕霧お姉ちゃんがいない時は特に酷かったよね。
一日一回は血走った眼で刃物を振り回していたよね」
「一日一回は返り血を浴びていた、しかもあれが夕霧を叩いたのは数える程しか無い。
顔の形が変わる程殴られた事は生涯忘れない」
「自分で殴った上に、なんだその顔はふざけているのかって言って殴るんだよね、あの人。
その時の気分で言う事もコロコロ変わるし、私が血を吐いて地面に転がってるのを見て、
助けるどころか唾を吐いて踏みつけてくるし」
「薫の手当てをしていたら背中を刺された。
下らない事をしている暇があったら剣の振り方でも覚えろと言って」
「あったね、そんな事も」
「いつか殺してやろうと思った」
「正直、あの時殺しておけば良かったって思っているよ」
「あの時、夕霧が止めなければ……」
「うん、あの時夕霧お姉ちゃんが止めなかったら……」
「いや、ちょっと姉上、薫も変な言いがかりはよすでやがる」
「じと~……」
「じと~……」
同じ顔が2つ並んで夕霧を見つめる。
数秒か、数十秒か、しばしの間無言の抗議が続き……
「よろしくね、新お母さん」
「よろしく、ザ・ニューお母さん」
……2人の姉妹が爽やかに笑い、武田信虎との親子の縁をゴミ箱にダンクシュートした。
「御屋形様、兎々はなにがろうなってるのか、全然分からないのら……」
「なあ、九十郎的にはアリなのか?
その……年下で、しかも男なのにお母さんとか呼ばれて」
「光璃が突拍子も無い事を言い出すのはいつもの事だからな、正直もう慣れた。
薫は可愛いから許す。
それにまあ、年下の男を母親って呼ぶのも、シャアよりマシだって思うぞ」
「しゃあ?」
「シャア・アズナブル、やれば出来るのに滅多にやる気を出さないマザコン」
やる気を出してもロクに役に立たない屑が何を言うか。
「そうでやがる! 百歩譲って……
何で夕霧が譲らなきゃいけないのかまるで分らんでやがるが、
百歩譲っても母親は無いでやがる! せめて父上と呼ぶでやがる!」
「新お母さん、おやつにドーナツ食べたいな」
「ニューお母さん、今日の晩ご飯はローストビーフが良い」
薫と光璃は夕霧の叫びをスルーした。
「分かった分かった、作ってやるから材料買うの手伝えよ。
俺は今素寒貧だし、この辺は土地勘が無いんだ」
「お母さんと一緒にお買い物……光璃は今、猛烈に感動している……」
「旧お母さんじゃあり得ない対応だよね」
「旧お母さんじゃない、元お母さん」
「ああ、そうだったね。 『旧』じゃなくて『元』だったね」
ひたすらに武田信虎に対し辛辣な姉妹であった。
「いや、だから……姉上、薫、あの人が武士の誇りを投げ捨てた外道としても、
血の繋がりを一片の紙のように投げ捨てるのはどうかと思うでやがる……」
そんな夕霧の懇願のような呟きを聞き、光璃はう~んと考え込み……
「真(チェンジ!!)お母さん」
地球最後の日のような呼び方である。
「あ、姉上の発想が分からねえでやがる……」
「兎々もなのら……」
「光璃だからしょうがない……て、その呼び方だと俺3話くらいで降板するんじゃねえの?」
夕霧は頭を抱え、九十郎はいつもの事だと涼しい顔をしている。
九十郎の前の生では何度も何度も繰り返していた光景であった。
この男にとって、光璃が唐突に狂った事を言い出すのはいつもの事である。
そうして躑躅ヶ崎館に混沌とした空気に包まれる中。
「……九十郎、美空を助けて」
小さく、静かに、唐突に、しかし確かな意思を籠めてそう告げた。
九十郎は小さくため息をつき、面倒臭そうに頭を掻き……
「分かった、任せておけ」
そう答えた。
武田光璃の幼馴染である九十郎には、ずっと光璃の世話を焼き続けてきた九十郎には、光璃の頼みを拒む選択肢は存在しない。
断ると後々面倒臭い事になるとこれでもかって位に経験しているのだ。
元お母さん……武田信虎ならば、怒鳴って、罵って、暴力を振るっていた。
ほんの僅かな落ち度を見せても、ほんの小さな悩みや弱音を知られても、信虎は光璃に罵声を浴びせ、骨が折れ、身体が痣だらけになるまで殴って蹴り飛ばしてきた。
九十郎はそれをしなかった、九十郎は助けると、力になると言ってくれた。
光璃はそれがたまらなく嬉しかった。