「四六時中見張られてるってのは、やっぱ居心地が悪いっすね。
何日経っても慣れねえっす」
縁側でお茶を啜りながら、柘榴がそう呟いた。
「あれは監視であると同時に、護衛。
お互いに今まで何度も殺し合った相手、当然、禍根はある」
松葉が柘榴の呟きに答える。
武田家中の者には、越軍の要ともいえる秋子、柘榴、松葉に恨みを持つ者が多い。
父の仇、母の仇、兄弟の仇、我が子の仇、主君の仇……そういうものが次から次へと出てくるのが長尾と武田の関係なのだ。
「それは分かってるっすよ。
分かってるっすけど、たまには身体をばぁーって動かさないとあちこちが鈍るっす」
「我慢してください、今の私達は居候同然の立場なのですから」
そう言いながら、秋子がはぁっとため息をつく。
柘榴も松葉も釣られてため息をついた。
信虎に占拠された春日山城から無事脱出できたものの、今の越後は鬼達の巣窟と化し、およそ人間が住めるような状態ではなくなってしまった。
その代わり駿府は平和そのものだし、今川鞠氏真も朝比奈泰能も元気に傾きかけた今川の引き締めに奔走しているのだが、そんな事は柘榴達にとって何の慰めにもなりやしない。
「それにしても、あんな事があったというのに平気そうですね。
美空様は今でも寝込んでいるというのに……」
「過ぎた事をウダウダ言っててもしょうがないっす」
「……泣き言を言っても、解決にならない」
柘榴はあっけらかんと、松葉は少し視線を落としながらそう答えた。
一ヶ月近く、何度も何度も強姦され、何度も何度も鬼の児を産む羽目になったというのに、柘榴はあんまり気にしている様子が無い。
「犬子さんは平気なんですか?」
「えっと……全然平気だって言ったら嘘になると思いますけど……
でも、もう一生会えないと思ってた九十郎が生きてて、
しかも犬子達を助けるために命懸けで戦ってくれたんですよ。
正直、悲しい気持ちや悔しい気持ちよりも、嬉しいって気持ちの方が大きいです」
孤立無援の状況で、数えるのも億劫になるような大量の鬼達と戦い、戦い、戦い、徐々に徐々に疲弊し、傷つき、もう駄目かと思ったその時……
『他人の彼女を強姦しておいてタダで帰れると思ってんのかこらぁっ!!』
とかいう私怨丸出しな叫び声が聞こえ、マッチョな大男が風林火山の強化が乗ったテキサス・コンドルキックを信虎に叩き込んだ。
その時、犬子は自分の顔がにやけていくのを感じていた。
鬼に囲まれ、絶体絶命の情況だというのに、嬉しくて嬉しくて仕方が無かった。
いつだって九十郎は自分を助けてくれた。
助けてほしいと思った時、必ず助けに来てくれた。
自分はきっと、九十郎の愛がある限り、何があっても大丈夫だ……犬子はその時、本気でそう思っていた。
できれば彼女ではなく嫁か妻か女房と呼んで欲しかったが、それは些細な事である。
「おいす~」
そんな中、ただ一人監視無し、行動制限無しで動く事を武田晴信から許されている男、九十郎が現れた。
「九十郎! 会いたかったよ!」
主人の帰りを今か今かと待ちわびていた愛犬の如く、犬子が九十郎に飛びついた。
「おお犬子か、元気そうだな。 何日ぶりだったかな?」
「3日ぶりになるよ。 本当は毎日だって会いたいのにさ」
「悪いな、光璃の奴が中々離してくれないんだ」
「光璃さん……九十郎のふぁあすと幼馴染さんだっけ? 未来の?」
「まあな、俺もまさか光璃が戦国時代で武田信玄をやってるだなんて思いもしなかったよ」
幼馴染が武田信玄だった……普通に考えると意味不明、理解不能な言葉であるが、大江戸学園なら普通にありそうな点が、大江戸学園の恐ろしい所である。
「まあ、普通は考えつかないよね」
「あれが俺の知る光璃と同一人物なのかは……まだ何とも言えん。
別人にしちゃ思考のパターンや雰囲気が似すぎているし、
同一人物ならスーパー戦隊ゲッターを空で歌える筈だが歌えねえし」
酷い見分け方である。
「たぶん……たぶんだがあれは、俺や担庵と出会う前の光璃なんだと思う。
俺と担庵が知っている光璃は、戦国時代の武田信玄の記憶や人格を受け継いだ……」
「生まれ変わり?」
「……なのかもしれん、違うかもしれん。
まあ俺は何かを考察するのは苦手でね、そういうのは大体光璃か担庵に丸投げしてる。
今回は武田信玄か上杉謙信にでも考えてもらうさ」
「あはは、言いたくはないけど犬子も考えたり推理したりするの苦手だしね……」
「まあ、それはそれとして……
光璃に美空を助けてくれって言われたんで、美空を探している。
今どこに居るのか知らないか? 粉雪は知らないらしくてな」
「あ……えっと……美空様は……」
犬子と柘榴が顔を見合わせる。
言っても良いのかと、伝えても良いものかと……そんな迷いが見てとれた。
「武田晴信さんはお見通しっすか……
いや、当然っすかね、ここは武田の本拠地っすし、
どんだけ隠そうとしても隠しきれないっすよ」
「本当に……本当に本当に、何のお役にも立てない自分が嫌になってしまいますね」
「……同感」
秋子と松葉が視線を落とす。
この時点で、九十郎は自分が途轍もなく面倒臭い事に巻き込まれつつあると気づいた。
正直逃げてえとも思ったが、光璃がやってくれと言った事を放置したり後回しにすると、大抵の場合後々酷い目に遭うので、逃げる訳にはいかなかった。
「美空はどこだ?」
「……奥の部屋っす」
九十郎は嫌々ながら、柘榴が指差した先に向かった。
武田晴信が用意した屋敷に入り、玄関を通り、廊下を通り、一番奥の部屋の襖に指をかけ……
「あ~あ、猛烈に嫌な予感がしてきたぜ全く……」
九十郎が襖に指をかけた状態で硬直していた。
何とも表現し難い、異様な雰囲気を感じていた。
あえてそれを文字にするならば、『空気が重い』になるだろうか。
「でもぶっちゃけ、具体的にどう助けるかはノープランなんだよな。
美空って上杉謙信だぞ、俺なんぞが助けになれる事があるのか?
いやだが、光璃が俺にどうにかしろって言ったって事は、
俺じゃないと駄目とか、俺が一番の適任だとか、何かしら理由があるしな……」
そして、意を決して九十郎が襖を開け……そっと閉じた。
ナイトメアフォクシーを見た時のFNAF4主人公よりも素早く迷いの無い動きであった。
「……やべえ、見なかった事にしてえ。 このまま回れ右して帰りてえ」
春日山城での脱出劇から一度も体を洗っていないのではないかと思わんばかりの悪臭、ボサボサの髪、ガサガサの肌、輝きを失った瞳……
「だが……放置したら本気でヤバイ事になりそうだよな……」
基本的にこの男、放置してもしぶとく生き残りそうな者には辛辣だ。
そして同時に、放置したら野垂れ死にしそうな者には意外と有情である。
だからこそ、今の美空を……幽鬼のように弱弱しくなっている美空を放置できなかった。
「入るぞ、美空」
そう告げて、九十郎は再び襖を開けた。
鼻にツンと、何日も放置された汗の臭い、ほんの僅かに混ざる尿の臭いが突き刺さる。
美空は部屋の隅に腰を下ろしていた。
壁に体重を預け、だらんと手足を投げ出していた。
全てがどうでもいい、全てが虚しい……美空の目からは、深い深い虚脱感が窺い知れた。
まるで生きる事そのものを諦めているようだと、九十郎は感じた。
「何の用?」
美空がぼそりと呟いた。
声に張りが無かった、生気を失っているかのようであった。
「ヒッポロ系ニャポーンしに来た」
その表現が通じるのは魔法陣グルグルの読者だけである。
「どうしたんだ美空、お前はもっと強い奴だろう」
美空はその言葉を聞き、しばしの間沈黙し、瞑目し……
「一人にして」
……そう呟いた。
九十郎的には、はいわかりましたと言って帰りたい気分であったが、放置するとヤバそうなので踏みとどまった。
「柘榴から聞いたぞ、メシを殆ど食ってないんだろう。
身体は拭かないし、着替えもしない……
ずっとずっと部屋の隅で壁を眺めて過ごしているって」
美空は何も答えない。
そうだとも違うとも言わずに、何も無い空間に視線を向けていた。
「上手く言えねえが……良くねえよそういうの、健康的じゃねえ。
外に出て、日を浴びて、メシを食って、皆で神道無念流をしようぜ」
神道無念流をやる必然性はまるでない。
「分かっているわ、そんな事は」
美空が九十郎を拒絶した。
自分が駄目になりつつあるのを誰よりも痛感しているのは美空であった。
誰よりも痛感しているが……それでも、九十郎の言葉を受け入れられなかった。
「光璃も心配している」
「知っているわ、それも」
再び九十郎を拒絶した。
今度は僅かな苛立ちを伴って。
「私は……何もかもを喪ってしまったわ。
国も、城も、人も、何もかもを……」
「まだ全部じゃねえだろ、柘榴と松葉、秋子、それに犬子は今でもお前を支える気だぞ」
なお、美空の醜態を見た九十郎は見限る気が生じつつある。
薄情な男である。
「私は……もう駄目よ、もう駄目なのよ」
「何がどう駄目だってんだ」
「き、気持ち良く……気持ち良いって……そう、思って……」
今にも掻き消えそうなか細い声でそう呟き、美空は口を閉ざした。
九十郎は何が何だかまるで理解できなかったが、それでも自分が何をしなくちゃいけないのかは理解した。
早い話、自信を喪失した美空をどうにかしろと言われているのだと。
「光璃はさ……お前の事を評価しているよ。 凄い奴だって思っている。
外道で非道な手段しか思いつかないし、良心の呵責も特に無い自分とは違うって、
糞みてえな時代に生まれたのに、糞じゃない生き方がしたいって叫んで、
一生懸命あがいている凄い奴だって思っている。
だから色々な人がお前に惹かれるんだって……」
だから伝えた、お前は凄い奴だと。
お前は立てると、立てば凄い事ができる奴だと伝えた。
「それ、本当に光璃が言っていたの?」
「いや、言ってねえな、全然言ってねえ」
美空がじと~っとした抗議の視線を九十郎に向ける。
「言ってねえが……分かるよ、光璃が考えてる事、光璃が考えそうな事、全部分かる。
俺もあいつと同じ屑だし、それに……生まれた時からの腐れ縁で、幼馴染だからな」
九十郎は、戦国時代の武田光璃晴信の幼馴染ではない、腐れ縁でもない。
だがしかし……少なくとも九十郎の眼には、戦国時代の武田光璃晴信と、大江戸学園の武田光璃が同じ人間として映っていた。
泣き虫で、寂しがり屋で、自己表現が下手で、基本的に屑な少女だと思っていた。
そんな九十郎の認識が合っているか、間違っているかは……光璃の反応を見れば分かるだろう。
少なくとも美空は、この時そう思った。
「ねえ……どうして言わなかったのよ、貴方が光璃の幼馴染だって事」
美空がそう呟いた。
その言葉は問いと言うよりもむしろ、己の運命に対する呪詛のようであった。
「俺自身気づいたのはつい最近なんだよ。
俺の幼馴染が戦国時代で武田信玄やってるだなんて分かる訳がねえだろ」
「ねえ、どうしてもっと早く越後に来てくれなかったの」
その言葉が八つ当たりである事は、美空自身も理解していた。
何の意味も無い八つ当たりをしている自分が嫌いになった。
「へ? いや……そんな事を言われてもな……」
「ねえ、どうしてもっと早く私の傍に居てくれなかったの」
「いや、だから……」
「どうして私の幼馴染が貴方じゃないの、どうして腐れ縁になっていないの」
「知らねえっての! んな事を俺に言っても仕方ねえだろうが!」
「どうして……どうして光璃には貴方がいて、私には貴方がいないの。
そうすれば……そうすればきっと、何も喪わずにすんだのに。
そうすればきっと、こんな所で惨めな思いをしなくてすんだのに。
そうすれば……そうすれば全部を喪う事なんて……」
「だから全部じゃねえだろ、柘榴も犬子も、今でもお前に従おうとしてる。
直接聞いた訳じゃねえが、松葉と秋子もたぶんそうだろう。
空と名月の事なら、たぶんどこかで生きてるだろ。
貞子は俺よりもつよ……いや、俺と互角の腕前だし、紗綾は抜け目が無い奴だ。
貞子と紗綾が付いてりゃ、鬼だってそう簡単に空と名月に手出しはできんさ」
なお、この男は今回の騒動で虎松と愛菜がくたばってりゃしないかなとか考えているし、後日愛菜が生き延びている事を知った時にちょっとがっかりする。
虎松よりも先に死ぬべきはこの男だったのではなかろうか。
まあ、いずれにせよ……
「一人にしてちょうだい。 もう少し……もう少しだけで、良いから……」
九十郎の言葉は、美空には届かなかった。
何かが足りない、何かを間違えている、何か勘違いをしている。
九十郎はそう思った、そう感じた。
だから考えた、美空が何を求めているのか、美空が何故立ち上がれなくなったかを。
そして光璃が何故自分をこの場に立たせ、何を自分にさせようとしているのかを。
「……考えてみれば」
……そこで、九十郎がふと気がつく。
「冷静になって考えてみれば、
こういうありきたりな励ましを柘榴達がしていない訳が無いんだ。
柘榴達が美空を見限っていない事なんて、
本人達の口から何度も何度も伝えている筈なんだ。
美空が凄い奴だなんて台詞、柘榴達が何度も何度も言っている筈なんだ。
柘榴達よりも付き合いの浅い俺の言葉が通じる訳が無いんだ」
美空は目を伏せながら、そんな九十郎の呟きを黙って聞いている。
そうだとも違うとも言わないが……九十郎は自分の推測が当たっているような気がした。
「むしろ逆なんじゃないのか?
むしろ、今なお柘榴達が美空を見限っていないから辛いんじゃないのか?
むしろ、今でも柘榴達が美空を凄い奴だと思っているから辛いんじゃないのか?
自分のような駄目人間を、凄い奴だなんて思ってほしくないんじゃないのか……」
そこまで考えて、九十郎は光璃の顔を思い浮かべる。
光璃は間違い無く美空を凄い奴だと思っている。
九十郎の経験と勘がそう告げている。
ならば何故、光璃は一度たりとも美空を凄いと言わなかったのか、言葉にしなかったのかと……
「光璃は……光璃がそれを言葉にすれば……むしろ美空を苦しめるから……」
そして九十郎は結論を導き出した。
九十郎の経験と勘が、光璃が自分に望んでいる事、光璃が自分に求めている事を導き出した。
「そうか逆なんだ、光璃が俺にやって欲しかった事は叱咤激励じゃないんだ。
その逆なんだ……」
九十郎はそれだけ言うと、部屋の隅に座り込む美空の二の腕をがしっと掴み、腕づく、力づくで立ち上がらせ、抱き寄せ……唇を重ねた。
「んぅ!? んんんーーーっ!!」
突然の出来事に美空が目を白黒させる。
何日もロクに食事を摂らず、ロクに寝れていない美空には抵抗する事ができなかった。
九十郎の腕の中でモゾモゾと動き、虚しく手足をバタつかせるのが精々であった。
……瞬間、美空の脳裏に鬼に押さえつけられ、そのまま強姦された記憶が蘇った。
その記憶は忌まわしい敗北の記憶であったが……同時に、甘美な肉の快楽の記憶でもあった。
「んんっ!? んん……むぅ……」
美空は抵抗する力が急激に弱まっていくのを感じた。
子宮が疼くのを感じた。
かつて鬼の逸物を下の口に咥え込み、肉の快楽を貪った記憶が蘇った。
自分の肉体が抑えられ、自分の中にある女の本性が呼び起されているようであった。
「んぅ……あ……」
美空の目尻が、とろんと下がってきていた。
数秒して、唇が離れる。
前田利家だけでも持て余してるってのに、上杉謙信にまで手を出すとか正気かよと、九十郎は自らの行動を早くも後悔し始めていた。
だがしかし、今更止まる訳にもいかない。
「キス……今の、キスよね……? キス、したの? 私に?」
美空の声は震えていた。
信じられないと……そう思っていた。
「ああしたよ。 しちゃ悪いか」
「汚くないの? 私……私は、鬼に……」
震える声で、目尻に涙を溜めながらそう尋ねる。
「汚くなんて……」
汚くなんてねえよ、お前は上杉謙信だろうに。 むしろ俺の方が見劣りするね……そう言おうとして、言いかけて……九十郎は慌てて口を噤んだ。
そうじゃない、光璃が俺に臨んでいる事は、俺が今からやらなきゃいけない事はそうじゃない。
今から自分がしようとしている事は、言うべき言葉はそれとは真逆なのだから……
「お前を俺の女にする」
だから九十郎はそう告げた。
前田利家だけでも頭が痛くて胃が痛いのに上杉謙信もかよ、勘弁してくれよ光璃ぃ……と、九十郎は叫びそうになったが、見栄と根性で耐えた。
「私……私は、何もかも失って……」
「ああそうだ、お前は鬼のおOんぽで気持ち良くなる淫売で、
慕ってくれる仲間が居るのに立ち上がれない腰抜けだ。
国も民も失った負け犬の落伍者だ」
胃がキリキリと痛むのを堪えながら、九十郎が美空を口汚く罵る。
どの台詞も九十郎のような屑に言う資格は無い。
「そうよ! そんな私にっ!」
「そんなお前でも肉穴としてなら使ってやらんでもない!
とっととマOコ晒して尻をこっちに向けろよ淫売!
てめぇみてえな汚らしい肉穴使ってやるんだ、感謝しろよ!」
畜生光璃め、後で覚えてろよ……美空に聞こえないよう、九十郎は小さな声でそう呟いた。
とりあえず光璃が見たら腹を抱えてゲラゲラと笑いだしそうな光景であった。
「う……うぅ……」
美空は九十郎から罵声を浴び……膣口に愛液が滲むのを感じていた。
自分の中にある女の部分が、九十郎に肉穴を使われるのを期待しているのだと思った。
男に強引に組み伏せられ、種付けられたいと叫んでいるようだと思った。
「私……私で……良いの……?」
こんなに汚くて、醜い自分でも良いのかと……気がつけばそう尋ねていた。
「てめぇに拒否権があるとでも思ってるのかよ」
頭痛と吐き気に耐えながら、九十郎はそう返答した。
「俺は光璃に直接口が利ける立場だ。
俺は一声かければ柘榴達を処刑させる事だってできる」
……絶対やりたくねえけどな! と、九十郎は心の中で付け加えた。
「や、やめなさい! あの娘達を殺して何の得があると言うの!?」
「生かしておく理由があるのかよ?
お前らが何回武田と戦って、何人武田の人間を殺したと思ってるんだ」
「う……そ、それは……」
美空は何か反論をしようとしたが、何も言う事ができなかった、何も思い浮かばなかった。
だから……
「お、お願いします……お願いします、どうか……私はどうなっても構いません。
だからどうか、皆の命まではとらないでください……」
だから美空は土下座をした。
惨めだった、悔しかった。
だけど他にできる事が思い浮かばなかった。
今はもう、柘榴達を守る手段が何も無い、九十郎の慈悲に縋るしかないのだと……
なお、九十郎はそんな美空の土下座を見て、罪悪感で死にたくなっていた。
そして後で光璃を殴ると、鼻血が出るまで殴ってやると決意した。
「土下座しろだなんて言ってねえだろ、てめえは耳も聞こえねえのか」
九十郎は思った、いっそ殺してくれと。
いっそ今すぐ舌を噛み千切って死にたい気分であった。
「は、はい……」
美空が九十郎の目の前で、下着を脱ぎ捨てた。
両脚を大きく開き、股座のワレメを大きく広げて見せた。
艶めかしく、ひくひくと蠢くピンク色の膣口を目の当たりにし、九十郎は息を呑んだ。
「ケツをこっちに向けて四つん這いになれよ」
顔を見ながらじゃ罪悪感で死ぬ……そう思い、九十郎は美空にそう命じた。
「……はい」
美空が九十郎の言葉に従い、後ろを向いて四つん這いになった。
今から犯されるというのに、無理矢理抱かれるというのに、屈辱と期待、恐怖と肉欲が入り混じった複雑な感情を抱いていた。
「美空、挿れるぞ……」
美空からは見えていなかったが、九十郎はもうどうにでもな~れとでも言いたげな表情であった。
上杉謙信を穴奴隷にするとか勘弁してくれよとか思っていたが、何度考え直しても他の手が思い浮かばないので、やけっぱちになっていた。
ごくり……と、美空と九十郎が同時に唾を飲み込んだ。
挿入したら、自分達の今までの関係が全く変わってしまうのだと、主君の主君、部下の部下ではなく、肉穴奴隷とご主人様の関係になるのだと。
「……あん……うぅっ!」
ずぷんっ! と、美空の膣肉を掻き分け、押しのけ、亀頭が子宮口と密着した。
美空の口から発情した雌の声が出た。
発情した雌の声をだしてしまう自分が、もっともっと嫌いになった。
鬼の逸物に比べれば硬さも長さも太さも熱量も劣る粗チンであったが、男の欲望の象徴が自らを貫いた事に、身体が……そして心が歓喜の悲鳴をあげていた。
「発情してんじゃねえよ雌豚ぁっ!!」
ばちぃんっ! と、九十郎の平手が美空の尻を張った。
2発、3発、4発と……何度も何度も引っ叩いた。
「はぁはぁっくっ…………うっ! ふっぐっ! うぁっ!」
叩かれる度に、尻に痛みが走る度に、九十郎に罵られる度に、美空の脳髄に鋭い刺すような快感が迸っていた。
自分の魂が九十郎に屈服し、自分の魂が九十郎の女に造りかえられていくような感覚があった。
それは今まで感じた事の無い甘美な痛みであった。
「なんだその様は!? これが越後の龍と畏れられた奴の顔かよ!?
叩かれて感じてるマゾじゃねえか、げっへっへっへっへっ!」
一方、九十郎が罪悪感で死にたい気分になっていた。
勘弁してくれよ光璃と泣き叫びたい気分になっていた。
上杉謙信を……歴史上の偉人を抱きながら、雌豚だのマゾだのと罵るなんて、光璃の頼みでもなければ絶対にやりたくない行動であった。
「ああんんっ! んんんっ! あっあううぅぁあっ!」
九十郎はやけくそになりながら腰を前後に振った。
肉棒がヒダヒダに包まれ、扱かれ、心情とは逆に男の昂ぶりが引き出されていく。
「ぁあっんんっ! ああんあん! あぁあっ!」
美空が泣いていた。
泣きながら男と交わり、泣きながら喘ぎ、泣きながら愛液を漏らし、泣きながら感じていた。
柘榴も、松葉も、秋子も、犬子も美空を見限っていない、美空に期待をしている。
それは美空自身が一番良く理解していた。
しかし、こうやって男に組み伏せられ、男根を受け入れ、気持ち良くなる自分もいた。
それが情けなかった、それが悲しかった、それが悔しかった。
「っぁあっんんっ! んんっ! ううぅ……っううぅううぅ!」
もうすぐイク、もうすぐ絶頂に達すると美空は予感した。
鬼と交わり、鬼に犯され続けた頃の経験がら、美空にはそれが分かった。
感じちゃいけないと布団の端を口に含み、強く強く噛み締めた。
声を殺し、丹田に力を入れ、必死になって押し寄せる快楽を押し殺した。
そんな儚い抵抗に何の意味があるのかも、何がしたいのかも分からず、美空はセックスの快楽に耐え続けた。
「うっ! ふっううぅあ! あっくっうはぁ! ……あぁんっ!!」
どすん! どすん! と、城門に破城鎚が叩きつけられるように、亀頭が子宮口を何度も何度もノックしていた。
その度に美空の決意にヒビが入り、朽ち果て、砕け散りそうになっていた。
津波の様に押し寄せる雌の快感を受け、脳髄が痺れて麻痺しつつあった。
「ああっあぁくっ! はぁっうっ! あ、はぁう!」
美空は自分の子宮が精液を飲み干すために降りていくのを感じていた。
愛液が次から次へと溢れ出し、膣内がピッタリと肉竿にくっつき、ぐにゅぐにゅと脈動するのを感じていた。
頭の中で何度も何度もイキたくない、気持ち良くなっては駄目だと念じているのに、それを遥かに上回る快楽の渦が、美空を飲み込んでいった。
「イ……いっぐぅ……イグ! イグゥッ!!」
ああ、もう駄目だ、もうイッてしまう……情けない、情けない、情けない……柘榴も、松葉も、秋子も、犬子も、光璃すらも自分の再起を信じてくれているのに、自分は女の快楽に負けて、女の本能に屈して、無様にイキ顔を晒してしまう。
絶望が美空の心を包み込んだ。
直後……
「……無理すんなよ、美空」
そんな言葉が美空の耳に届いた。
「認めちまえよ……いや、頼むから認めてくれよ、自分の弱い部分を。
認めてくれよ、できない事はできないって、自分は完璧なんかじゃないって。
そうじゃなきゃ……俺も美空も、犬子も柘榴も松葉も秋子も、辛いし悲しいだろ」
そんな言葉が美空の耳に届いた。
美空の視界に九十郎の顔は無かったが、美空はこの時、九十郎が泣いているような気がした。
美空のために、美空を救いたいがために、泣いているような気がした。
なお、九十郎は上杉謙信を肉穴奴隷扱いする苦痛で精神的に死にかけていた。
できる事なら今すぐ逃げ出したいと思っていた、光璃の頼みでなければ間違い無く逃げ出していた。
どこまでも自己中心的な男である。
「九十郎……」
九十郎の名前を呼んだ。
心なしか、自己嫌悪が僅かに軽くなったような気がした。
「どうしたい、美空? 教えてくれよ。
お前はどうしたい? お前は何がしたいんだ? 教えてくれ」
美空は考えた、自分がどうしたいかを、何がしたいかを……
「……越後を取り戻したい、鬼をやっつけたい。
空と名月と会いたい、皆と一緒にもう一度戦いたい」
考えて、そう告げた。
それは紛れも無い美空の本心からの言葉であった。
「おう良いぜ、一緒に戦おう。 そんで鬼退治して、信虎の屑野郎をブチ殺そう。
空と名月を探す手伝いもしてやるさ」
九十郎はニカッと笑ってそう答えた。
とりあえず上杉謙信を肉穴奴隷にするよりは千倍も万倍も気楽な願望だった。
そして……
「……騎乗位で、シたい。 おOんちんを咥え込んで、
腰を上下に振って、はしたなく喘いで、気持ち良くもなりたい」
考えて、考えて、考えて……そうも言った。
それもまた美空の本心からの言葉であった。
今まで認められなかった、認めたくないと拒み続けてきた、美空の弱い部分であった。
「確かに聞き届けた。 両方ともバッチリ手伝ってやるさ」
そう言って九十郎は肉棒を引き抜いた。
粘り気のある愛液が吊り橋のように糸を引き、亀頭とワレメを繋いでいた。
「ほら、来いよ」
九十郎が美空の前で横たわり、呼びかけていた。
美空はずっと着たままだった寝間着を脱ぎ捨て、全裸になり、九十郎の筋肉質な身体の上に乗っかった。
目の前に聳え立つ塔が、美空の身体を求めているかのようだった。
「さっき、柘榴達を処刑させるとか言っていたけれど、あれ、嘘よね?
貴方はそんな事、全く考えて無かったんじゃないの」
九十郎はバツが悪そうに視線を逸らした。
「いやその……ほ、本気だったぜ。
こう、柘榴とかをグルングルン回してブン投げて地獄の断頭台をだな……」
九十郎は嘘が苦手な性格だ。
だから美空には分かった、九十郎もまた自分を助けようとしているのだと。
「そう、なら……」
九十郎に柘榴達を殺す気が無かったのであれば、美空が九十郎に身体を差し出す理由は無くなる。
だから……
「……んんっ!」
……だからこれは、自分がシたいからするのだ。
だからこれは、自分が男性を……九十郎を求めているからシているのだ。
自分の意志で、自分の欲望に従って、自分の本能に従ってシているのだ。
美空は自らの女の部分に男根を宛がい、一気に腰を下げ、自らを貫かせた。
「あ……気持ち良い……」
ジンジンと、痺れるような感覚が美空を優しく包み込んでいった。
心の渇きと、身体の疼きが同時に満たされているように感じた。
「ううぅんんっ! ふわっんんっ! あっああああ!」
そこから先は、坂道を転がり落ちるかのように一直線であった。
美空も、九十郎も、我武者羅に、無我夢中になって腰を揺さぶった。
「こ、これ、好きぃ……んあぁう! 膣奥がこすれて……凄く……」
美空のナカが九十郎に吸い付く。
子宮口が鈴口を舐めまわし、快楽を貪る。
「っふわっぁ……ううぅぁあっぁあっあんんっ!」
さっきの何倍も、何十倍も心地良い快楽が美空を包んでいた。
心を苛むブレーキは既に無く、美空は一直線に絶頂まで上り詰めていった。
「んんっ! あんんっ! あっっううぅううぅあううぅ!」
イキたい、イキたい、イキたいと、美空はただひたすらに快楽を求めていた。
快楽に包まれ、雌になっていく自分を嫌悪するのはもうやめていた。
ただひたすらに、九十郎と交わっていた。
「あ、はぁっああっ…………ああっうああっ! い……イクッ! うああぁっ!!」
そしてその時が訪れた。
美空や九十郎が拍子抜けする位に簡単に、あっさりと、美空は絶頂に達していた。
気持ち良かった、ただただ気持ち良かった。
心が解放された気分だった。
……直後、九十郎の男根が膣内で脈打ち、子宮内にどくんどくんと子種が注ぎ込まれていたが、それすらも美空は心地良く感じていた。
「……あ、やっべ」
そんな呟きと同時に、九十郎が顔色を変えた。
九十郎的には、適当なタイミングでモノを引っこ抜いてお茶を濁そうと考えていたのだが、気がつけばそういう小細工を考える余裕が無くなっていた。
ふと我に返ったら、その時には射精をしていた。
「……ありがと、少し楽になったわ」
やべえよ、つい興が乗って上杉謙信に膣内射精しちまったよ、どうしよう……そんな事を考えながら冷や汗をかいている九十郎に対し、美空は微笑みながらそう告げた。
美空が自らの足で立ち、部屋を出て柘榴達の前に姿を現す日も、辛くも難を逃れていた空、愛菜、名月が美空達の前に姿を現す日も、それからすぐに訪れた。
そして後日、九十郎が……
『前田利家だけでも持て余してるってのに、上杉謙信の面倒まで見られるかっ!!』
……と叫び。
足利将軍家より誑し免状を賜った、日ノ本一のモテ男、新田剣丞が……
『途中で放り出すなよ! 無責任な奴だなお前は!』
……と叫び。
『適材適所だろ! 向いてる奴がやれば良いだろ!
構わずブスリとヤれよモテ男ぉっ!!』
『お前以上の適任がいるかっ!』
そんな感じで、壮絶で凄惨な長尾美空景虎の押し付け合いが始まり、犬子は泣き、柘榴は空や愛菜の耳を押さえながらそそくさと退避し、美空はブチ切れ、長ドス片手に責任をとれと九十郎に詰め寄り、光璃が必死こいて逃げ隠れする九十郎を指差しながらゲラゲラ笑うのであるが……それはまた別のお話である。