第42話URL『https://novel.syosetu.org/105831/33.html
第44話もエロ回ではありません。
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剣丞が戦国時代に来た原因について、独自の設定が提示されます。
独自設定、独自解釈が受け付けられない方は、閲覧しない事をお勧めします。
織田久遠信長は超能力者である。
妻の結菜も、側近の麦穂、壬月も、幼馴染である犬子も、新田剣丞も気づいていない。
当の本人すらも自覚が無いが、若干チート臭い超強力な超能力者である。
使える超能力はたった一つ……主人公を呼び出す事だ。
久遠よりも賢く、久遠よりも注意深く、久遠よりも思慮深く、久遠よりも思いやりがあり、久遠よりも強く、久遠よりも勇気があり、久遠よりも決断力があり、久遠よりも漢気に溢れ、久遠よりも美しく、久遠よりも魅力的で、久遠よりも人望があり、久遠よりもセックスも上手く、そして当然……久遠よりも織田の当主にふさわしい人物を呼び出す能力だ。
完全で完璧な主人公を呼び出す能力だ。
人望が無く、他人の感情を察する事が苦手で、妹に背かれ、大勢の家臣達を巻き込んだ殺し合いをしてしまった……そんな駄目な久遠よりも、織田の当主にふさわしい人物を呼び出す能力だ。
自分よりも優れた人物に全てを丸投げしたい、自分はもう何もやりたくない、何も見たくない、全てから目を背けたいという強い願望に……強い強い強い強い願望によって発現した能力だ。
だがしかし、織田久遠信長は優秀だ。
利根川幸雄と同じ位に優秀で苦労人だ。
久遠よりも賢い者なんて、そうはいない。
久遠よりも注意深い者も、そうはいない。
久遠よりも思慮深い者も、そうはいない。
久遠よりも思いやりがある者も、そうはいない。
久遠よりも強い者も、勇気がある者も、決断力がある者も、漢気に溢れる者も、美しい者も、魅力的な者も、人望がある者も、セックスが上手い者も、そうはいない。
久遠よりも織田の当主にふさわしい人物も……当然、どこにもいない。
織田信長みたいな奴が何人もいてたまるか、織田信長の上位互換のような存在なんて世界中探したっている訳が無いという話である。
それでも久遠は無意識の内に能力を発現させ、無意識の内に主人公を探した、探し続けた。
同じ世界には久遠の高すぎる理想を体現する人物はおらず、無数に存在する別の世界、別の平行世界まで探した、探し続けた。
そしてついに久遠は見つけたのだ、完全で完璧な主人公・新田剣丞を。
もう少し剣丞を見つけるのが遅かったら利根川幸雄が呼び出されていた可能性もあったが、とにかく新田剣丞を見つけたのだ。
自分の全てを捧げても良いと……いや、捧げたいとすら思えるような完全で完璧な主人公・新田剣丞を。
そして呼び込んだ、新田剣丞を、次元の壁をも超える強力な超能力で。
一目見ただけで、久遠は天空から降りてきた新田剣丞を好きになった。
だから久遠は、天人の風評を呼び込むだの、次々と舞い込んでくる縁談を断る口実だの、そんな尤もらしい理由をでっち上げ、会ったばかりの男を自分の夫にしたのだ。
自分の無意識の才能が呼び出した、完璧で完全な主人公であると気づきもせずに……
そして新田剣丞は、久遠の期待通りの活躍を始めた。
木曽川周辺を縄張りにする野武士の頭領・蜂須賀正勝を旗下に引き入れ、墨俣に一夜城を築くという妙手をもって美濃攻略足がかりを作り、今孔明と謳われる程の知恵者・竹中重治を味方につけ、難攻不落の堅城で知られる稲葉山城にいとも容易く侵入し、あらゆる場面で目覚ましい活躍をして、味方を勝利に導いた。
だから久遠は思った……新田剣丞は自分のような屑と違い、尾張の主にふさわしいと。
だから久遠は思った……新田剣丞は自分のような屑と違い、天下布武の理想を実現できる存在だと。
だから久遠は思った……新田剣丞は自分のような屑と違い、親兄弟で殺し合いをしなければならない、この糞みたいな時代を変えれる存在だと。
だから久遠は思った……新田剣丞は自分のような屑と違い、乱世を終わらせ、日ノ本に平穏な日々を取り戻す事ができる存在だと。
だから久遠は思った……新田剣丞は自分のような屑と違う、完全で完璧な主人公なのだと。
それが自分の思い込みに過ぎないと久遠が気づくのも、久遠が自らの歪な願望、歪な能力に気づくのも、新田剣丞もまた自分と同じ人間であると久遠が気づくのも、
完全で完璧な主人公なんてどこにもいないと久遠が気づくのも……もう少しだけ後の話である。
この世界に森蘭丸が生れ落ち、久遠が森蘭丸と出会った後の話である。
……
…………
………………
九十郎が戦国時代に生まれ、犬子と出会い、犬子を連れて織田から出奔した。
それによって何かが変わったと言えば……少なくとも、久遠や新田剣丞の周囲は特に何も変わらなかった。
強いて言うならば剣丞と久遠が男女の関係になるタイミングが、少し早くなった程度だ。
「ん、う……あぅ……」
久遠のワレメが剣丞の男根を飲み込んでいく。
稲葉山城攻略戦の少し後、若い衝動と共に処女と童貞を奪い奪われた日から、久遠と剣丞は時折身体を重ね合うようになった。
「まだ慣れぬな、胎内に男のモノを受け入れる感覚は……」
「俺もまだ慣れないかな……久遠が可愛いから、何回しても心臓がドキドキいうよ」
「ば、馬鹿者! 変な事を言うな!」
剣丞が顔を真っ赤にする久遠と唇を重ねる。
優しく、慈しむ様に……
「ん……ちゅ……んぅ……こ、こら、接吻で誤魔化そうとするな」
「久遠が可愛かったから」
「ま、また……」
久遠の顔がどんどん紅潮していく。
可愛いと言われた事も、唇を重ねた事も、膣内に男の感触を受けている事も、全てが久遠の心臓を高鳴らせ、幸せな気分にさせていく。
久遠が聞いた剣丞の言葉は、外交の場で白々しい世辞として言う『美しい』『可憐だ』という言葉とは違う、本心からの『可愛い』という言葉のように思えた。
「全く、褒めても何も出んぞ……」
「可愛い可愛い可愛い」
「いい加減にせんか!」
口ではそう言ったが、そんな言葉が久遠にとって何よりも嬉しかった。
自分は剣丞と出会う為に、剣丞の嫁になるために生まれてきたのではないかと思う程に。
心が、身体が、子宮が蕩けそうな幸福感があった。
「動くよ、久遠」
「う、うむ……」
自ら股を広げ、女の部分を晒し、膣奥を衝かれる……無防備な自分を他人に晒しているというのに、久遠は少しも嫌な気分にならなかった。
むしろ剣丞に包まれているかのようで、安らぎを感じていた。
「うくっ……くっふっううっ! ううぅはぁ!」
久遠の口から、甘く艶めかしい吐息が漏れ始める。
剣丞の男根が久遠の膣内を押し広げ、圧迫し、性感帯を的確に刺激してくる。
「んんっ! んんっ! あふわっんんっ! んぅっ!」
久遠が昂っていく、久遠の性的興奮が高まっていく。
ハジメテの時はお互い初心者で、何が何だか分からないまま終わってしまったが、今は自分が剣丞の逸物により、女の部分がどんどん開発されていくのを感じていた。
「ううぅぁあっぁあっ……ぁあっふわっああぁあっ!」
子宮が衝かれる度に、自分が剣丞の物にされていくような気がした。
剣丞に抱かれる度に、尾張織田家の当主・織田信長の仮面が剥がされ、ただの久遠になっていくような気がした。
それがたまらなく嬉しかった。
「久遠、久遠……」
剣丞が久遠の名を呼ぶ。
ただそれだけで、久遠の胸が躍った。
下腹部から受ける雪崩のような快楽が、一直線に久遠を絶頂に導いていく。
そして……
「ふわっっあんんっ! ……っあ」
そしてどくん、どくん、どくんと子宮が精液で満たされた。
久遠が絶頂に達するのとほぼ同じタイミングだった。
心地良い疲れが、汗に風があたる感覚が、久遠の多幸感を増幅させていた。
「剣丞、愛している……」
久遠がそう呟き、剣丞と唇を重ねた。
「俺も、愛しているよ」
剣丞がそう告げて、久遠の頭を撫でた。
久遠は剣丞と全身……男と女の部分も含めて、全身を密着させ、ぎゅうっと抱きしめた。
織田信長に中出しなんぞ、九十郎にとっては発狂しかねない蛮行である。
だがしかし、新田剣丞は一切物怖じせずに腰を振り、久遠を……織田信長を抱いていた。
九十郎にとって、久遠は織田信長、歴史上の偉人であるので、ただの久遠とは思えない。
前田利家や山県昌景に言い寄られただけでもヒーヒー言ってる九十郎が、織田信長を抱ける筈が無い。
しかし剣丞の目には、織田久遠信長という少女のありのままの姿しか映っていない。
目の前の人物が歴史上の偉人である事を理解して、その上でただの久遠を、ただの久遠として愛していた。
九十郎には一生実現不可能な境地である。
「当たり前だが、結菜や犬子よりも固いな……」
久遠が剣丞の体格を確かめながら、そう呟いた。
「犬子……?」
「うん? ああ、そういえば剣丞とは面識が無かったか。
犬子は我の古い友人だ。 幼い頃は2人で良く川遊びをして、悪ガキ共と喧嘩もした。
2人並んで草原に寝転んで昼寝をして……ああ、楽しかったよ」
「そっか……」
「拾阿弥が死んだ日に尾張を出て行った、今は越後の長尾景虎に仕えているらしい。
できれば……できれば、もう一度会いたいと思う……」
「会えるさ、きっと」
久遠は剣丞を抱き寄せながら、剣丞は久遠の手を握り、そのまま一夜を明かした。
目的地は……京都まであと少しだ。
……
…………
………………
「京都って案外ボロいんだな……」
「そうだね、犬子はこう……それこそ竜宮城みたいな、
絵にも描けないような煌びやかな建物が沢山並んでるのかと思ってたよ」
「戦乱も長いっすし、普通に寂れてるっすよ……
下手したら春日山城の方が賑わってるっす」
柘榴と九十郎の人生初京都組ががっかりとした表情で京の街を歩いていた。
目に映るのは、廃墟、浮浪者、廃墟、浮浪者……とても都には相応しくない人と物ばかりだ。
「応仁の乱からこっち、幕府と朝廷の権威が落ちて、
誰も彼もが命令無視、納税拒否を繰り返して……」
「権威が益々落ちて、また命令無視、納税拒否が横行して……ていう話っすよね
御大将が酒を呑むと必ず一回はそうやって愚痴るっすよ」
「愚痴りたくもなるわよ、もしも幕府がその名と権威に見合った実力があるなら、
私も国主なんて面倒な仕事に就かずに済んだし、
毎日胃を痛めながらゲーゲー吐く必要もなくなるし」
「秋子も御大将のゲロを掃除する必要もなくなるし、
松葉も廊下で寝てる御大将を寝室まで運ぶ必要はなくなるし、
柘榴は酔い潰れた御大将を空や名月が目撃しないよう退避させなくても良くなるっすね」
「み、美空様……」
「俺の中の上杉謙信のイメージが粉々に砕けそうなんだが……」
「お酒は人生の活力剤よ」
「美空さん、ドヤ顔で言う事じゃないの」
駿河から京までの旅路で、美空の酒癖の悪さをたっぷりと思い知った鞠がじと~っとした視線を向ける。
「ごほん、とにかく私と鞠は将軍に会ってくるわ」
「公方様にごめんなさいしてくるの」
「あれ? 美空様達2人だけで行かれるのですか?」
「今日は2人だけ、ちょっと形式ばった席になるからね。
ある程度官位が無いと入れて貰えないの」
「御大将、護衛は大丈夫っすか?」
「大丈夫大丈夫、丁度今迎えが……妖怪おぜぜよこせが来たから」
酷い言われようである。
やや遠方から、妖怪呼ばわりされた女性がへぷしっと可愛らしいくしゃみをしていた。
美空は懐の砂金を……佐渡の金山から算出された越後の宝物を確かめる。
妖怪おぜぜよこせを手懐け、公方との面会をスムーズに進めるための魔法の道具である。
「夕方頃にさっきの宿で合流、明日か明後日には茶会をすると思うから、
紅茶が淹れられるように準備しておいて」
「あいよ、任せておけ」
そうして、犬子と柘榴と九十郎は遠ざかる美空と鞠を見送り……
「良し、ナンパでもするか」
……直後、九十郎が実に最低な事を言い始めた。
だから貴様は九十郎なのだ。
「九十郎、ナンパって何っすか?」
「船でも沈める気なの?」
ナンパの意味を知らない戦後時代生まれの2人が首を傾げる。
「いや難波じゃねよ、ナンパだよ。
適当にブラブラ歩いて、可愛い女の子がいたら声をかける」
「うわぁ……」
「む~、犬子と柘榴と侍らしてるってのに不満っすか~?」
「男はな、可愛い彼女がいようが妻帯者だろうが、
美人とデートしたいと思っている生き物なんだよ」
それは貴様一人だけである。
「という訳で犬子、柘榴、しばらく別行動といこう。 夕方頃に宿で合流する。
目指せ京美人、探すぜ和服美人、巨乳ならなお良し、げっへっへっへっへっ」
「九十郎、変な病気貰ってくるんじゃないっすよ」
「安心しろ、粘膜接触はしねえようにするからな」
それだけ言い残すと九十郎は光の速さで明日にダッシュし、あっという間に犬子と柘榴の視界から消えていった。
「あ、行っちゃった……大丈夫かな、最近の京って治安悪いとか、
三好三人衆が色々と悪巧みしてるとか聞くけど……」
「何人か軒猿が追いかけて護衛してるし、たぶん大丈夫っすよ」
「変なのに捕まらなきゃ良いけど……柘榴様、犬子達はどうしましょうか?」
「そっすね、久々の京っすし、顔馴染みに会いに行くのが良いと思うっすけど。
ここからだと微妙に時間が……」
そんな事を話しながら、犬子と柘榴が2人で京の町を歩いていると……
「犬子……なのか……」
犬子の耳に、聞き覚えのある声が届いた。
懐かしい声だった、一時期は毎日のように聞き続けていた……昔の遊び仲間、幼馴染、そしてかつての主君の声であった。
「久遠様?」
その端整な顔つきに見覚えがあった、
太陽の光を浴び、絹よりも漆喰よりも美しく輝く黒い髪も見覚えがあった。
そして……犬子に抱きつく腕の柔らかさにも覚えがあった。
「く、久遠……様……」
声が震えた。
心が震え、魂が震え、涙腺が緩んでいた。
もう会う事は無いと思っていた。
九十郎と共に尾張を出て、九十郎と共に生きる決意をした事を後悔した事は無いが、それでも久遠の事はずっと気にかかっていた。
犬子は久遠が好きだったのだ。
「お、お久しぶりです……会いたかったです、久遠様……」
その懐かしい感触に、懐かしい匂いに、懐かしい声に、犬子は涙を零していた。
……
…………
………………
「……解せぬ」
ダッシュで逃げる和服美人を見送りながら、不細工でマッチョな大男がそう呟いた。
なお、九十郎は大江戸学園でも戦国時代でも普通に非モテである。
「これで9戦9敗と……
可愛い女の子はちょくちょく見かけるが、声をかけると露骨に警戒されるな」
むしろ何故上手くいくと思ったのだろうか。
「やっぱアレかな、2人でお茶でも飲まないかじゃありきたりだったか。
もっと俺らしく……ヘイ彼女、神道無念流やらねえか! の方が良かったかな」
何故それで上手くいくと思えるのだろうか。
しかし、基本能天気で考え無しの九十郎はめげずに胸の大きそうな女性を探し歩き、探し歩き、探し歩き……
「ヘイそこの金髪美人さん! 俺と一緒に神道無念流やらねぇか!」
あまりにも残念なナンパ行為を敢行し……
「て……え……? さ、坂本?」
そして九十郎は遭遇した。
大江戸学園の斎藤九十郎の後輩によく似た少女……ルイス・エーリカ・フロイス、あるいは明智十兵衛光秀と呼ばれる少女に。
「い、いや……坂本が戦国時代に居る筈が無いか。
それにしても良く似ているな、目鼻の形とか、ボディラインとか」
「あの……私に何か……?」
いきなりマッチョな大男から馴れ馴れしく話しかけられたエーリカが、やや警戒した様子でそう問いかける。
「ああすまん、昔の知り合いに良く似ていてな……」
「昔の知り合いですか? それは……しんろーむねんんりゅーという?」
心労無念流……疲れそうな流派である。
「神道無念流じゃねえよ、あいつは北辰一刀流。
度胸があるというか、思い切りが良いというか、中々スジが良かったんだがな……
俺も密かに狙ってたんだが、千葉のアンチクショウにかっさらわれた」
「は、はぁ……」
意味の分からない言葉が次々と出てきて、エーリカは益々混乱していく。
なお、マッチョな大男と武田信玄が乙級1年をストーカーする光景は、実に犯罪臭い光景であった事も付言しておこう。
最終的に北町奉行所が動くレベルの犯罪臭であった。
「あ、剣丞様、あっちの方に居ましたよ」
そこに聞き覚えがある声が聞こえてくる。
九十郎にとっても、エーリカにとっても聞き覚えのある声だ。
「ひよ子?」
「ひよさん?」
2人同時に声のする方へ振り替える。
これでもかって位に美形の少年と、前髪で顔が隠れた小柄な少女、そしてかつて犬子と九十郎が尾張で暮らしていた頃、2人の屋敷の隣に住んでいた少女……木下藤吉郎秀吉・通称ひよ子が駆け寄って来るのが見えた。
「駄目ですよエーリカさん、土地勘も無いのに一人で歩き回っちゃ。
この辺の治安、あまり良くないんですからね」
「すみません、珍しい物が多くて、つい目を奪われてしまいました」
「もう、探すの大変だったんですよ」
「すみません……」
「まあまあ、無事に見つかったんだから良いじゃないか」
九十郎の前で、九十郎の知らない美男子がエーリカをかばう。
見た目も、声も、仕草も……ため息が出そうになる程に完璧な美男子であった。
まるでおとぎ話か、テレビドラマの主人公のような超イケメンであった。
「女性に優しくするのは剣丞様の美点とは思いますが……
あまり度が過ぎないようにしてください」
「剣丞殿……」
「やあ、探したよエーリカ。
そろそろ久遠と合流する時間だから、待ち合わせ場所に向かおう」
「ご迷惑をおかけしました」
エーリカが礼儀正しくぺこりとお辞儀をする。
見た目は外国人そのもののエーリカであったが、その所作は古き良き大和撫子そのものようだと、九十郎は感じた。
「おいひよ子、誰だそいつら」
九十郎が昔の知り合いに声をかける。
「へ……ああっ!? 九十郎さん!? 九十郎さんじゃないですか!?」
ひよ子は予想外の人物との再会に、腰を抜かさんばかりに驚いていた。
「九十郎?」
「この方が……ウィンチェスターを作った……?」
イケメン男と前髪に顔が隠れた少女の視線が九十郎に向く。
「あ、えっと……とりあえず紹介します。
この方は新田剣丞様で……織田久遠信長様の夫で、私の上司にあたる方でもあります」
「新田剣丞です、よろしく」
「よろしくメカドック」
剣丞が右手を差し出し、九十郎が握り返す。
2人が握手をする……戦国時代で生まれ育った人間にはまず通じない礼儀作法であったが、あえて剣丞は九十郎に握手を求めた。
自分と同じように、別の世界から来た人物なのではないかと疑っていたが故に。
「こっちは竹中半兵衛さん。 通称は詩乃ちゃんって言います」
「竹中半兵衛詩乃重治と申します、以後お見知りおきを」
「超空忍者?」
「何の事だかわかりませんが、違いますと言っておきます」
この男はAZITO2をプレイしている人間が戦国時代にいるとでも思っているのであろうか。
「まさか黒田官兵衛と並ぶ秀吉の参謀と出会えるとはな……後でサインくれ」
「さ、さいん……?」
剣丞は確信した。
間違いなく未来の知識を持っていると。
そうでなければ『黒田官兵衛と並ぶ秀吉の参謀』なんて言葉が出てくる筈が無いと。
「そしてこちらはルイス・エーリカ・フロイスさんです」
「日ノ本の名前では、明智十兵衛と申します。 よろしくお願いいたします」
「え? こいつもしかして明智光秀? 坂本のご先祖の?
だから目鼻の形が良く似て……いや、流石に偶然か」
そして……
「貴方がウィンチェスター・ライフルを小夜叉に渡したんですか?」
剣丞がそう告げた。
もし九十郎に会う事があったら、真っ先に聞こうと思っていた言葉を投げかけた。
「ああ、アレ見たのか。 中々良い出来だっただろ?」
「何を考えているんだ! あんな危険なものをばら撒くなんて!」
「いや、危険って……150年以上昔の銃のどこが……」
そこまで言って、九十郎はハタと気づく。
そういえば今は1560年で、ウィンチェスターは300年後の銃だったと。
「150年前……」
そしてそんな九十郎の失言を見逃す竹中半兵衛では無い。
剣丞と詩乃は確信する……未来人だと。
「歴史が変わるぞ……」
「歴史? いきなり何を言ってるんだお前は。
人間多かれ少なかれ、自分の未来を変えようと足掻くもんだろうに」
「一歩間違えたら数えきれないような人が死ぬ」
「正気かてめぇ、戦国時代だぞ。 放っておいても数え切れない人が死ぬだろうが。
使える物を使わないで死ぬのも、俺が死んでほしくない奴らが死ぬのも、俺は嫌だね」
「あんたはそれで良いと思っているのか」
「こっちは命賭けてるんだ、犬子も柘榴も、命懸けで戦場に立っているんだ。
舐めプで死ぬなんて真っ平御免だね」
剣丞と九十郎が睨み合う。
睨み合いながら九十郎は思う……こいつはどこか、秋月八雲に似ていると。
自分が正しいと思った事を真っ直ぐに、信念をもって見つめる瞳が、秋月八雲に似ていると思った。
そして思い出す……
『情報操作も使いようだろ、クソガキ共。
こちとら命懸けで剣を振っているんだ、舐めプで死ぬなんて真っ平御免だね』
前の生、大江戸学園で、徳河吉音と秋月八雲に対して、そんな言葉を投げかけた事を。
そして思い出す、最終的に負けたのは、最終的に間違っていたのは自分であったと。
秋月八雲は主人公で、正しい奴で、価値のある男で、自分は取るに足らない屑であった事を。
九十郎はひよ子を見る……木下藤吉郎秀吉が、後の天下人・豊臣秀吉が剣丞を心配そうに見つめていた。
基本察しが悪く、女心が分からない九十郎であったが、ひよ子が剣丞に惹かれているのが理解できた。
歴史上の偉人・豊臣秀吉に愛されているのだと。
九十郎は詩乃を見る……豊臣秀吉の参謀として有名な竹中半兵衛が、九十郎をじっと見つめていた。
九十郎の言葉を一言たりとも聞き逃さない、その仕草を一瞬たりとも見逃さない、剣丞のために、剣丞の役に立つために……そんな決意の視線であった。
そして分かった、詩乃もまた、剣丞に惹かれているのだと。
歴史上の偉人・竹中半兵衛に愛されているのだと。
九十郎はエーリカを見る……さっき声をかけた時は警戒心丸出しの表情であったが、剣丞を見る視線は明らかに異なっていた。
それは信頼か、親愛か、愛情か、それとも……九十郎には判断できなかったが、エーリカもまた剣丞を憎からず想っているのだと感じた。
エーリカもまた剣丞を愛するようになるだろう……剣丞はそう予感した。
「秋月とも、昔こうやって言い争いをしたっけな……
あいつは正しい事を言って、俺が甘っちょろいと言い返して、そして……
最終的に間違っていたのは俺の方で、最終的に負けたのも俺の方だった。
あいつは学園上の美女達に愛されて、俺は最初から最後まで非モテだった」
だから九十郎は思った。
きっと新田剣丞は主人公なのだと。
きっと新田剣丞は勝利して、自分は負けるのだろうと。
きっと新田剣丞は大勢の価値のある女達に愛されて、
自分は1人無様に敗れ散ってしまうだろうと。
そして九十郎は幻視した……新田剣丞の男根を咥え込み、腰を振る犬子の姿を。