第47話URL『https://novel.syosetu.org/105831/36.html』
第49話はエロ回ではありません。
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裸の男女が抱き合っていた。
2人は一糸纏わぬ姿で抱き合っていた。
「あ……ん……」
ゴツゴツとした指が少女の柔らかな尻に沈む。
そのままぐにぐにと、むにむにと揉みしだく。
少女の……武田光璃の吐息が漏れる。
「九十郎……」
艶めかしい、緩み切った声で男の名を呼ぶ。
戦国時代の武田晴信は、今はただの女になっていた。
大江戸学園の剣術バカ、筋肉モリモリマッチョマンのブ男の名を呼び、男の背中に手を回し、強く抱きしめ、乳首にペロリと舌を這わせた。
「くすぐったいぞ、光璃」
「セクハラのお返し」
光璃が九十郎の肩のあたりを舐める。
汗の味、男の匂い……九十郎の存在を感じた。
「んじゃ、お返しのお返しだ」
九十郎が光璃を抱き寄せ、胸を揉み、乳首をピンッと弾く。
「ん……ぅうぁ……じゃあ、こっちもお返し……」
光璃と九十郎が唇を重ね合い、舌同士を絡め合う。
ぐちゅりぐちゅりと唾液が絡む水音がする。
隠微な音と、舌の感触が2人を昂らせていく……
「もう良いよな?」
そう言うと九十郎は小柄な少女の体躯をヒョイっと持ち上げ、近くに敷いてあった布団に運び、押し倒す。
裸の男女が2人きり……この後どうなるのかなんて分りきっている。
「抱くぞ、光璃」
ああ、これから自分は九十郎に抱かれるのだ、九十郎にハジメテを捧げて、九十郎の女になるのだ……光璃は顔を真っ赤にしながら何度も頷き、九十郎の手を引いた。
「足、開けよ」
光璃は九十郎に言われるまま、両足を大きく開く。
自らのワレメを、男女の交わりをする場所を自ら視線に晒させる。
新田剣丞にすら見せた事が無い女の部分を……
「奇麗だ」
その一言で、光璃の心臓が跳ねた。
そして同時に思い知らされる、自分は九十郎が好きなのだと。
九十郎の男根が光璃のソコに宛がわれた。
ついにこの時がきたのだと、ついに九十郎と男女の関係になるのだと、光璃は息を呑み、鎌首をもたげる肉槍を見つめる。
呼吸も、瞬きもせずにその時を待つ光璃に対し、九十郎は肩を抱き寄せ、耳元で囁いた。
「愛してるぜ、光璃」
瞬間、光璃は全身が震えた。
子宮から仙骨、仙骨から背骨、背骨から脳髄に幸せな感覚が迸った。
本気でこの声だけで、この言葉だけで孕んでしまうのではないかとすら感じた。
「大好き、九十郎」
光璃が九十郎と唇を重ねた。
同時に、九十郎が腰をぐいぃっと押し付け……光璃を貫いた。
膣奥を甘い痛みが走り、鈴口と子宮口が密着する。
「あ……ん……」
破瓜の痛みは、光璃自身が驚く程に小さかった。
その代わり、全身を多幸感が包んだ。
自分は今、斎藤九十郎の……愛する人の女になれたのだと。
「動くぞ、光璃」
直後、九十郎が光璃に覆いかぶさり、伸し掛かり、腰を上下に動かし始めた。
膣内を何度も何度も……何度も何度も肉棒が往復し、光璃を翻弄する。
「好き……好き、好き、大好き……九十郎ぉ……」
子宮をゴンゴンとノックされ、まるでこの世のものと思えないような肉の快楽に圧し潰されながら、光璃が九十郎の唇に吸い付く。
「おOんぽ、太いよ……ぁんんっ! んんっ! ぁんぁっあ! き、気持ち良い……」
舌と舌が絡み合い、唾液と唾液が混ざり合い、光璃は自分が骨抜きになっていくのを感じた。
戦国時代の武田晴信が消え、ただの武田光璃になっていくのを感じた。
それが堪らなく心地良かった。
「ぁあっふわっんんっ! ううぅああ!」
九十郎の男根により、光璃が女にされていた。
自分がかつて新田剣丞の妻であった事が、自分がかつて武田晴信であった事が、光璃の脳裏から消えていく……肉の快楽に溺れる、1人のメスになっていく。
「イクぞ光璃。 膣内に射精すぞ……」
子宮をガシガシと突きながら、九十郎がそう囁いた。
「だ……め……孕む、孕んじゃう……」
そんな懇願にも似た言葉を聞くと、九十郎は抽挿を一時止め、身体を曲げてもう一度光璃の耳元に顔を近づける。
「孕ませてやるよ、俺の子を産め光璃」
そして九十郎はそう宣言した。
「あ……」
自分達はまだ学生だとか、退学になったら就職が難しくなるとか、収入ゼロで子供なんて養えやしないとか、戦国時代の事とか、新田剣丞の事とか、色々と言いたい事はあった……そういうアレコレが一気に吹き飛んだ。
「もう一度、言って」
「孕ませてやる、俺の子を産め光璃」
もう一度九十郎は力強く宣言した。
お前の小賢しい計算なんて関係無い、俺が孕ませたいからスルのだと。
小難しい事は全部自分に任せて、お前は何も心配せずに俺の子を孕めと……そう宣言していた。
「ん……ちゅ……んぅ……」
直後、光璃と九十郎は再度唇を重ね合わせていた。
全身が密着し、汗に濡れた肌が密着し、ドロドロになって溶け合っていくかのように感じた。
いっそこのまま溶け合ってしまいたいとすら、光璃は思った。
自分を形作る全部がどうでも良くなる位、今の光璃は幸せだった。
「孕むから……子供、産むから……最後までシて、膣内に射精して、九十郎……」
この時光璃は確かに、新田剣丞の事を完全に忘れ去っていた。
斎藤九十郎が好きだと、斎藤九十郎の子を産みたいと、心の底からそう思っていた。
「イクぞ、光璃。 おOんこの奥で受け止めろ……」
「うん、うん……んぁあっんんっ! ううぅあ……」
九十郎がガクガクと腰を振る。
ガタイの大きい九十郎に伸し掛かられ、光璃の小柄な体躯が激流の中の木の葉のように翻弄される。
「ううぅんんっ! あっああふわっぁあっ!」
九十郎の息遣いが荒々しくなる。
腰を振る勢いも速く、激しくなっていく。
先端からはカウパーが漏れ、愛液と混ざり合い、2人の接合部をぐちゃぐしゃにしていく。
もうすぐイキそうなのだと、エロ本の知識でしか男性経験が無い光璃にも理解できた。
「くじゅ……ぁぁふわっ……んんっ! ぁあっんんっ! は、孕ませて……」
その余りに凄まじい快楽を受け止めながら、光璃はそう語りかけ、両足で挟み込むようにして九十郎の身体を抱き寄せる。
そして次の瞬間……
……
…………
………………
激走戦隊カーレンジャーのOP曲が大音量で鳴り響いていた。
およそ男女の秘め事には似つかわしくない、色気も何もありゃしない曲である。
自身の携帯電話のアラーム音により、大江戸学園の武田光璃が目を醒ました。
愛用の抱き枕を両足で挟み、まるでセックスをしているかのような姿勢で……今さっきまで見ていた甘美な光景が、これ以上無い程に幸せな一時が夢に過ぎなかったと否応無しに理解させられた。
「……という夢だったとさ、ちゃんちゃん」
光璃は死にたくなった。
窓の外から聞こえてくる雀の鳴き声が、光璃の虚しさとやるせなさを加速させていた。
布団の奥から手を伸ばし、携帯電話のアラームを止める。
もう一度目を閉じれば、もう一度同じ夢を……あの幸せな情景の中に戻れるだろうかと考えて、光璃は掛布団の中に潜り込んだ。
「……困った」
光璃は布団の中でそう呟いた。
「剣丞の顔が思い出せない、剣丞の声も思い出せない……」
夢の中で出てきた男性は、新田剣丞ではなく、斎藤九十郎であった。
光璃は剣丞ではなく、九十郎に抱かれる事を文字通り夢見て、股を濡らしていた。
かつて光璃は、確かに新田剣丞に惚れていた。
かつて光璃は、新田剣丞の妻であった。
かつて光璃は、どんな手を使ってでも、いかなる苦難を乗り越えてでも、戦国時代にいるであろう新田剣丞の元に帰ろうと誓っていた。
大江戸学園に来た理由も、戦国時代の武田晴信であった自分が現代ニホンに生まれ変わったメカニズムを解明し、戦国時代に戻る手段を模索するためであった。
だがしかし、大江戸学園の生活が楽しすぎた。
だがしかし、斎藤九十郎が隣にいる毎日が心地良かった。
斎藤九十郎の事を考えるだけで、胸が高鳴り、頬が熱くなり。子宮がうずいた。
自分が新田剣丞ではなく、斎藤九十郎を好きになりつつあると理解できた。
少しずつ少しずつ、新田剣丞の事を考える時間が短くなり、斎藤九十郎の事を考える時間が長くなっていった。
「あ……映画……」
剣丞の顔や声は思い出せなかったが、昨日見た恋愛物の映画の内容は思い出せた。
学園で上映するにしては妙に濡れ場がしっかりと描写される映画だった。
明らかに仕事をサボっている北町奉行が、うっへっへっへっとか言いながら鼻息を荒げるような映画であった。
というか荒げていた、周囲の観客がドン引きする勢いで息を荒げていた。
つまりは色々とギリギリの所を攻める映画で、その時見た光景は、どことなくさっきまで見ていた夢に似ていたような気がした。
「九十郎……」
昨日の事を思い出す。
2人でカップルパフェを食べた事も、2人で映画を見に行った事も、光璃にとって大切な大切な思い出だ。
「九十郎……」
もう一度九十郎の名前を呼んだ。
名前を呼ぶだけで幸せな気分になれた。
九十郎に抱かれる妄想をしただけで、アソコがぐちょぐちょに濡れ、全身が九十郎に抱かれたい、交わりたいと叫び震えるように感じた。
「ん……ぅ……」
自然と指先がワレメに伸びた。
自然と指先がクリに触れ、左右に弄び始めた。
今この瞬間にちOこをブチ込まれても問題無いんじゃないかって程に、アソコが湿っていた。
「くじゅう……ろぉ……あ、くっふっ!」
名前を呟くだけで、胸がぴくんと震えた。
膣肉がうねり、子宮が疼き、愛する人の子を産みたいと全身が渇望する。
「はぁっううぅうっ! くっうあ」
指先が止まらない、オナニーを止められない。
頭ではこんな事をしていてはいけない、すぐに着替えて、教室に向かわなければならないと分かっている。
それでもなお、光璃は目の前の快楽を振りきれない、抗えない。
「九十郎ぉ……あ、うあぁ……うううぅ……あぅ」
目を閉じれば、光璃の脳裏に浮かぶのは斎藤九十郎の姿であった。
前の生での夫であった新田剣丞ではなく、九十郎であった。
頭の中では、夫に操を立てなければならないと、御旗・楯無の前で誓った夫婦の誓いを違えてはいけないと考えていた。
「九十郎、九十郎……あ、ううぅあ、ううぅあ! はぁあぁ!」
それでもなお、指が止まらない、九十郎の名を呼ぶのも止められない。
九十郎を想うのを止められなかった。
そして……ついに指での自慰が物足りなくなり、
光璃はのそのそと布団から這い出て、勉強用の机に腰を押し付け始めた。
「ん……んんっ……」
大きく息を吐き、腰を下げる。
机の角が湿った寝巻越し、濡れた下着越しにクリトリスを刺激する。
「んっ……っんんっ! んふわっぁあっあ!」
腰を前後に揺らしながら、気持ち良くなれるお豆に机の角を押し当てる。
何度も何度もその動作を繰り返す……さっき見た夢を、九十郎に抱かれる光景を頭の中で反芻しながら。
「っふわっんんっ! ぁあっんんっ! ふわっぁあっぁ……」
そろそろ支度をしないと授業に遅れる。
いやその前に基本寝坊助な自分を起こしに幼馴染達がやってくる。
だから今すぐ自慰をやめないといけない……頭ではそれを理解していたが、身体が言う事を聞いてくれなかった。
「んんっ! ぁあっううぅんんっ! んんっ! ぁんんっ!」
どんどん息が荒くなる、全身が快楽に染まり、昂っていく。
もう少し、もう少しでイける……
「おーい光璃~、起きてるか~、朝飯作って来てやったぞ~」
「そろそろ起きたまえ妹分、遅刻をしてしまうぞ」
……直後、幼馴染2名が空気を読まずに光璃の部屋に入ってきた。
「……ん?」
「……むむっ」
幼馴染2名が机の角に跨ったまま硬直する光璃を目撃し……
「なんだオナニーか」
「我が妹分よ、朝からお盛んだね。 いや、元気があって大変結構」
……全てを察した。
光璃は顔から火が出るような思いをし、とりあえず九十郎をぽかぽかと殴る事にした。
「あ、おいこら無言で殴り掛かってくるな!
てか何で俺だけターゲットにするんだよ!? 担庵も同罪だろ!」
なお、坦庵と九十郎が光璃のオナニーを目撃するのは今日が初めてではないし、赤面する光璃が九十郎に殴りかかってきたのも今日が初めてではない。
「そうだぞ妹分、殴るなら私も殴りたまえ」
「あ、ごめん、こいつマゾだったわ。 やっぱ殴らなくて良いぞ光璃、悦ぶだけだ」
「酷いぞ弟分! 良い時も悪い時も、富める時も貧しき時も、
病める時も健やかなる時も、いつまでも一緒だと誓い合ったではないか!?」
「誓ってねぇよ! てかそれ結婚式のフレーズじゃねえか!?
俺はてめぇと結婚した覚えも無ければ結婚する気も無えよっ!!」
『結婚』という単語を聞き、光璃は自分がウェディングドレスを着て、九十郎と共にバージンロードを歩く光景を幻視する。
光璃はキリシタンでも何でもないし、この世に存在するありとあらゆる宗教を金を巻き上げる道具か、戦争を引き起こす口実程度にしか思っていない。
戦国時代に生きていた頃はともかく、今の光璃は御旗楯無すらも苔の生えた骨董品程度にしか思えない。
だがそれはそれとして、女としての幸せを求める気持ちはあった。
キリスト教は微塵も信じていないが、九十郎の嫁になった自分は幸せそうで、嬉しそうで……
「……はぁ」
ため息が漏れた。
九十郎との情事や結婚式を想像し、妄想しているだけで、今の自分は恋人でも妻でも無く、それどころか既婚者だの武田信玄だのといった秘密を抱えている身だ。
武田光璃はかつて戦国時代を生きる武田晴信で、新田剣丞の妻だった。
過去に何度か、担庵と九十郎に全てを打ち明けてしまおうかと考えた。
考えたがどうしても決断できなかった、いつまでもウジウジと悩むだけで終わった。
今が心地良すぎるから、今が楽しすぎるから……
「光璃、とりあえず朝メシ用意するから着替えてこい」
「朝オナの件はお互い忘れようではないか、妹分よ。
なあに早朝にムラッと来る事なんて良くある事さ、私でも良くある」
「誰もてめぇのシモ事情なんて聞いてねえよ」
そんなこんなで、武田光璃のいつもの朝が始まった。
いつも通り、ただの学生として……ただし、魔境・大江戸学園の学生として生きる騒がしい日々が始まった。
「九十郎、今日のお弁当は何?」
「今日はオムライスだ、いつもみたいにパセリを残すんじゃないぞ。
昼は教室の前で合流で良いか」
「分かった、待ってる。 でもパセリは美味しくないと思う」
「ははは、パセリ作ってる農村マン達に土下座して謝ってこい」
光璃は愛液でぐしゅぐしゅになった下着やパジャマを脱ぎ、大江戸学園の制服に着替える。
着替えながら、湿気を含んだパンツを見ながら、光璃は思う……もしさっきの夢のように、『孕ませてやる、俺の子を産め光璃』と囁かれたら、自分はどうするだろうかと。
光璃は自分が陥落寸前だと思った。
新田剣丞を捨て、武田晴信を捨て、御旗楯無の誓いすらも捨て、ただの光璃に……九十郎の女になりたい、九十郎の妻になりたいと願ってしまいそうだと思った。
だだしかし……それを九十郎に伝える事はできなかった、その勇気が出なかった。
実は既婚者だとか、実は武田信玄だとか、実は斎藤九十郎が好きだとか……その秘めたる想いを隠しながら、光璃のいつもの日常が始まった。
後に、何故もっと早く九十郎に全てを打ち明けなかったのか、何故もっと早く九十郎に抱かれ、九十郎の女になり、九十郎の子を産まなかったのかと死ぬほど後悔する日が来るのであるが……それは別の話である。
……
…………
………………
「おいっす~」
「来たぞ詠美殿、今日も元気に生徒会活動を開始しようではないか」
放課後、九十郎と九十郎のセカンド幼馴染が生徒会執行部に顔を出していた。
「……こんにちは」
……訂正、今日は珍しくファースト幼馴染も同行していた。
やる気になれば色々できる彼女であるが、基本はものぐさであるため、来れば確実に事務作業の手伝いをやらされる執行部室には近づきたがらない。
彼女の一般的な放課後は、練兵館でゴロゴロしながらテレビを見てるか、担庵か九十郎と共に悪だくみをしているかのどちらかだ。
「来たか筋肉ダルマ、貴様の分はそっちだ、さっさと手伝え」
会計部長をしている酉居葉蔵が不機嫌そうな顔で九十郎に仕事を投げる。
まあ、こいつがご機嫌な時は他人に嫌味を言っている時だけだが。
「よし分かった、とっとと終わらせて飯でも食いに行こうぜ」
「誰が行くか、俺は貴様らのような暇人とは違うのだ」
「じゃあ神道無念流やろうぜ」
「やらんっ!!」
普通の人間なら……もとい普段の九十郎なら、手伝いに来てやったのにその言い草は何だと文句の一つも言うような場面だが、九十郎はニコニコと笑いながら席に着き、パートタイム執行部員を開始する。
九十郎は鳥居の事が結構気に入っているのだ。
「長谷河、最近美味い飯屋開拓したりしてねえか?」
九十郎と同じく手伝いに駆り出されている火盗長官・長谷河平良に話を振る。
「この辺りでか? そうだな……和食と洋食、どっちが良い?」
「洋食だな」
「この前大通りから少し外れたにできたパスタの店はどうだ。
あれは中々美味かったし、値段も手ごろだったぞ」
なお、大江戸学園の飲食店は、学食を含めた全てが学生によって運営されている。
当然、安定した味や値段のチェーン店はほぼ存在しないし、学生の入れ替わりと同時にメシの美味さがガラッと変わったり、卒業シーズンに人気店が相次いで閉店する事が良くある。
そのため、大江戸学園の学生達にとって最新の良店情報は貴重なのである。
「お、良いんじゃねえかそこで、なあ鳥居」
「行かんと言ってるだろう! しれっと俺が飯屋に行く前提で話を進めるな!」
「じゃあ神道無念流……」
「だからやらんっ! 良いから黙って手を動かせっ!」
「へ~いへい……」
九十郎が学園の会計資料を処理し始める。
この男は基本能天気で考え足らずだが、難関で知られる大江戸学園の入試を普通に通過する程度には優秀だ。
無駄に簿記1級を取っている知識も駆使し、手早く書類を処理していく。
「さて詠美殿、こちらもぼちぼち始めるとしようか」
坦庵と詠美が机に向かい、書類の確認と決済を始める。
「助かるわ、毎年この時期はやらなきゃいけない事が急に増えてしまうから」
「全くだね、学生に税金の計算をさせる学園なんて、ここくらいのものさ」
「毎年必ず脱税を図る学生が出るのよね」
徳河宗家の娘として、入学直後から執行部の仕事に関わっている詠美が、毎年の苦労を思い出してため息をつく。
大江戸学園の魔境たる所以である。
「妹分は会計監査を頼む。 そっちに資料は纏めてある」
「らじゃ」
しばらくの間、全員が黙々と会計処理や会計監査をする静かな時間が過ぎる。
光璃が脱税容疑濃厚な者を何人かピックアップしていき、九十郎は納税申告書に不備が無いかをチェックし、少なくない数に再提出のスタンプを押していく。
「長谷河、これ終わったらメシでも食いにいかねえか?
鳥居は行きたくねえみてえだけど」
瞬間、光璃と詠美の手がピタッと止まる。
本人は隠しているつもりだが、九十郎は長谷河平良に惚れている。
平良と朱金の仲が破綻する原因を作ってしまった事を後悔していて、それをなんとかしたいと思っている。
それは光璃と詠美の共通認識になっていた。
「私なんかを誘ってどうする気だ?
昨日光璃と一緒にデートしていたって火盗で話題になっていたぞ。
ねずみ屋のカップルパフェを食べさせあってたとか何とか」
ビキィッ!! と、詠美が持っているシャーペンに皹が入る音がした。
そして詠美が光璃に対し、羨ましい、妬ましいという感情が籠った視線を向けた。
「ああ、アレは一日限定でカップルってのをやってただけだよ。
光璃がカップルパフェを食べたいとか何とか言い出してな」
「なんだ、正式な付き合いじゃないのか?」
「そりゃそうだろ、お付き合いするならもっと面倒が少ない女が良いね」
ミシィッ!! と、今度は光璃が持っているシャーペンに皹が入る音がした。
「そういうの詐欺って言わないか?」
「別に構わんだろ、高々パフェ一個食べに行っただけだ」
「たかがパフェ。されどパフェだ。
世の中にはパフェ一個に命を賭けるようなヤツも大勢いる」
「お前甘党だしな」
平良の持つペンがぴたりと止まった。
「な……何の話かな……?」
「隠すなよ、バレバレだから。
超美味かった、いや流行るのも納得の出来だったね。
ありゃ美味い、俺も認めざるを得ない……しかも長谷河好みの味だったね」
ミシィと、平良の持つペンに皹が入った。
「く……お、おのれ……」
カップルパフェの味を想像してしまい、平良は仕事どころではなくなっていく。
本人は威厳が無くなるとか何とか言って必死に隠しているが、彼女は大の甘味好きだ。
「弟分、妹分、ずるいぞ。 私に黙ってそんな美味しいものを食べに行くなんて。
どうして一言言ってくれなかった。
と言うか私も連れて行きたまえ、私達はいつでも3人一緒だっただろうに」
「いや3人カップルで行ける訳ねえだろうが!」
「私が正妻、妹分は側室という事ではどうだろうか」
「真顔で何言ってんだてめえ!? 今が何時代だと思ってやがる!」
「駄目、光璃が正妻」
「ははは、てめえらパフェ食いたさに何血迷ってやがる」
場が混沌とする中で、詠美から光璃に羨ましいぞという視線が向けられ、光璃がパフェ食っただけだよこのやろー、ばかやろーめという視線が返される。
まるでアムロ・レイとララァ・スンのような以心伝心っぷりである。
ジト~っという視線が2人の間に行き交い、光璃がふぅっとため息をつき、詠美の隣に移動して……
「大丈夫、光璃は一夫多妻に理解がある方だから」
耳元でそう囁いた。
「一体何がどう大丈夫って言うかニホンの法律と正面衝突してますからね!?」
詠美の渾身のツッコミが飛ぶ。
戦国時代では普通の事であるが、現代ニホンでは普通に重婚罪(刑法184条)である。
「全く……ずるいぞ妹分弟分、普通に羨ましいぞ。
あそこのカップルパフェは、まだ食べていないというのに」
「ははは、恨むなら彼氏の一つも捕まえられない自分の喪女っぷりを恨むが良いさ」
「うぅ……それを言われると辛いものがあるな。
私ももう甲級2年、5年の学園生活で一度も浮いた話が無いというのは……
そうだ弟分、しれっと私と2人でだな……」
「昨日の今日で別の女連れて入店できるかっ!!」
なお、後日秋月八雲がそれをやり、ねずみ屋の三姉妹達を盛大に呆れさせる。
「うぅ~む、それでは卒業するまでにカップルパフェを食べに行けないではないか。
なら鳥居殿を……」
「俺は行かんぞ」
「そうだ! 長谷河殿を男装させてボーイフレンドと言い張るのはどうだろうか!」
「う……いや、流石にそれはだな……」
甘党の平良は一瞬心が動かされかけた。
「駄目か……それなら……いやしかし……」
喪女一直線の江川担庵が暗ぁ~い顔でブツブツと独り言を呟く。
自分達の片想いが実るのはまだまだ遠そうだと、詠美と光璃が密かにため息をつくのを、九十郎は全く気付かなかった。
秋月八雲が大江戸学園に転入し、九十郎の心にトラウマが刻まれるのも、
九十郎がトラックに轢かれて死に、光璃と詠美が絶望と後悔の涙を流すのも、
まだ先の話である……