「あ~」
「ああ~」
「あああ~」
馬鹿2名(貞子と九十郎)と新戸が温泉につかり、なんとも脱力感あふれる声を漏らす。
駿河で起きた惨状をすっかり忘れているかのようなリラックスっぷりであった。
「いやぁ、極楽極楽……」
「リラックスできるな、屑郎」
「ははは、ナチュラルに屑呼ばわりするなよ糞ニート。
しかしまあ、前の生なら毎日普通に入れた湯船もこっちじゃ贅沢だ。
湯を沸かすのに大量の薪が必要になるからな」
「前の生? 何の話ですか九十郎殿」
「うん? ああ、いや……まあ、昔色々あったって話だよ」
九十郎が話を打ち切り、全身を脱力させて湯船につかる。
貞子もやや釈然としない様子を見せたが、すぐに忘れて同じく全身を脱力させる。
駿河の一件を忘れてしまったという訳ではない。
貞子と九十郎は、見知らぬ誰かがミンチにされて喰われた程度でいちいち心を痛める程優しくないし、新戸は新戸で無数に存在する他の世界の虎松達を通じ、数えきれない程の人の死に触れ続けてきたため、良くも悪くも他人の死に慣れてしまっているのだ。
「旅の疲れが吹き飛びますねえ、九十郎殿」
「全くだな貞子、ただ問題は……」
「ええ、問題は……」
貞子と九十郎が視線を交わす。
そして無言の内に、視線と視線で今の問題点を確認し合う……
「ここが思いっ切り武田の勢力圏だって所だよな」
「ここが思いっ切り武田の勢力圏だって所ですよね」
馬鹿2名、未だ越後に戻らず。
駿河で段蔵と鬼達から辛くも逃げ延びた一行は、気がつけば武田の勢力圏に足を踏み入れてしまっていた。
信虎が密かに用意していた逃走経路が、どれもこれも甲斐に向かうためのものであったのが原因である。
「見つかったらどうなりますかねえ」
「鞠って今川の当主なんだろ、捕まったら人質待った無しだろ」
「私は……正直人質としての価値は低いですかね。
武田の人を斬った回数なんて数えきれない程ありますし」
「くっころだな」
「くっころ?」
「敵に捕まった武人が、くっ殺せって言って、最終的にぐちょぐちょに犯される」
それは九十郎の大好きなシチュエーションであった。
趣味の悪い男である。
「戦国では良くある光景ですよ」
「マジかよ」
貞子がくっころするシチュエーションを……貞子の豊満な肢体が蹂躙される光景を思い浮かべ、九十郎のアレに力が入る。
率直に言って最低な男である。
「安心しろ、ここは武田で管理している隠し湯の一つ。
この場所を知っている者は武田の頭首である我と数人の側近のみだ。」
血塗れ、傷だらけ、垢まみれの着物をジャブジャブと洗いながら、信虎がそう告げる。
サラシと褌だけの姿に、経産婦とは思えない艶やかにハリのある女体に、九十郎は思わずくっころを想像してしまう。
マジで最低の男である。
「ここで休んでいても武田の手の者と鉢合わせをしないと」
「数日程度なら、余程運が悪くない限りな」
「じゃあ何日かがっつり休ませてもらうか」
そして貞子と九十郎が、
敵地であるというのにこれ以上無い程にリラックスしてだらけ始める。
まるで究極の怠惰を開発しようとしている時の太公望である。
「これでお酒もあれば言う事無しなんですがねえ」
「同感だねえ。 おい信虎、ここって酒は置いてねえのか」
しかも駄目出しをした上、武田の元頭首をパシリに使おうとする屑がいた。
「どうだろうな、我はかれこれ20年近くも駿河に追放されていたのだ、
物の置き場所も変わって……いや待てよ、アレが酒を隠すとしたらこの辺りに……
ふふふ、晴信め、こんな分かり易い所に酒を置くとは、成長の無い奴よ」
信虎が脱衣所の床板の裏から目敏く酒瓶を見つけ出す。
娘の秘蔵の酒を収奪する屑がいた。
信虎は昔から光璃の物は我の物、我の物は我の物を地でいくジャイアニズム溢れる性格である。
それ故に光璃との仲は険悪そのものなのだ。
「お前らも飲むか?」
「ははは、飲むに決まってるだろ」
「ご伴侶に預かりたいですね」
「待ってろ、今杯を探してくる」
湯屋から離れる信虎の背中をガン見しながら……
「良いケツしてるよな」
九十郎はそんな最低すぎる事を呟いた。
九十郎は信虎を信玄に追い出された迂闊な人程度にしか思っておらず、前田利家や山形昌景と違って歴史上の偉人と認識していない。
この男は一度信虎に土下座して謝るべきである。
「おや、今日の九十郎殿はお胸よりもお尻の気分ですか?」
「俺だってたまにはそんな気分になるさ」
既に九十郎は塔のように直立する男の象徴を隠すのを諦めている。
犬子との結婚を拒絶した日から一度も女を抱かず、鞠の付き添いとして越後を離れた日から一度もヌイていないためか、未知との遭遇、生命の危機を掻い潜った事により生殖本能が呼び起されているのか、いずれにせよ九十郎は今、欲情して勃起していた。
「しかしお前ら普通に裸になったよな。 警戒心とか無えのかよ、襲うぞ」
屑は水面越しに見える自分好みなグラマラスな肉体に視線を落としている。
「……良いですよ、襲っても」
しかし貞子は九十郎に肩を寄せ、軽くもたれかかり、そう答えた。
「死んだ魚みたいな目で、つまらなそうに剣を振ってる九十郎殿が相手なら、
真っ平御免と逃げ出すところですけど。
今の九十郎殿のお相手をするのなら……まんざらでも無いですから」
貞子が九十郎の身体を預ける。
首筋を伝う汗が、湯気や水音が、吐息が……九十郎の九十郎をさらにさらに元気にさせる。
「んふふ~」
貞子の指が湯船の中の男根に伸びる。
そして新戸がそそくさと九十郎達から離れ、隅っこで1人物理的にも精神的にも沈んでいる鞠の傍に行く。
新戸は九十郎が巨乳好きで、性格的にも合わず、奇跡的な程の幸運が無い限り自分に欲情する事は無いと知っているのだ。
「ではでは……こういうのはどうでしょうか~?」
貞子が湯船の中の九十郎の逸物に手コキをし始めた。
強すぎず、弱すぎず、絶妙な力加減で九十郎の性感を刺激していく。
「お、おい……どこで覚えたんだこんなテク」
「てく……確か技術の事ですよね?
そりゃあ、またシましょうねって言ったんですから、準備の一つや二つしていますよ。
九十郎殿はいつまで待っても手を出してきませんでしたけど」
「添え膳食わぬは国家安寧の計って昔から言うだろ」
「言いません、聞いた事もありません。
もう、女が一糸纏わぬ姿で、こんな事を言っているんですよ。
もっと雰囲気ってのを感じてくださいよ」
貞子の攻勢が強くなっていく。
時に優しく、時に激しく、そしていやらしく男の昂りを引き出していく。
「ん……くぅ……」
男根が破裂しそうな程に、痛々しい程に隆起する。
九十郎に余裕が無くなっていく。
そして九十郎がイク寸前になって、貞子が手を止めた。
「もう一度シませんか、九十郎殿」
貞子がそう言って、もう一度九十郎を誘惑した。
九十郎の腕にその豊満な胸を押しつけ、脚に九十郎以外の誰の侵入も許していないワレメを押しつける。
「え……いや、それは……」
一瞬……ほんの一瞬だけ、犬子と柘榴との結婚の話を保留にしているってのに、新しい女を作るような真似をするのは如何な物かと、九十郎にしては珍しくマトモな事を考えた。
「また、シましょう……やぶさかでも、ありませんから……」
貞子の熱い熱い吐息が九十郎の耳にかかる。
それは九十郎の理性を決壊させるに十分なもので……
「……スルか、貞子」
故に九十郎のマトモな思考も一瞬の事……すぐに目の前の女体に目が奪われ、股間に滾る性欲に思考を覆われ、まあ良いやどうにかなるだろうと能天気で考え無しな方向性に修正された。
「いやあ、空様の護衛をぶっちして同行した甲斐があったというものですね」
「お前その内クビにされるぞ」
美空にも柘榴にも一言も相談せずに鞠の護衛役を買って出た屑が何かを言っている。
とりあえずこの男は美空と柘榴に土下座して謝るべきである。
「その時は九十郎殿に永久就職という事で一つ。
九十郎殿に永久就職……自分で言っておいて何ですが、胸が躍りますねえ」
「ふざけんな、前田利家だけでも持て余してんのに貞子の面倒まで見られるか」
「じゃあ、私は愛人枠という事で……シましょう、九十郎殿。
嫁にしろとか、認知しろとか、そんな野暮な事は言いませんから。
一夜限りの孕ませおOんこがあるとでも思ってもらえれば、それで……」
湯船の中で胡坐をかく九十郎を椅子にするように、貞子が背を向け、尻を向け、腰を下ろす。
亀頭とワレメが触れ合う、亀頭をワレメが飲み込む、そして……
「ん……ん、う……」
再び、貞子の膣肉が九十郎の男根を包み込んだ。
酔った勢いではなく、今度は貞子自身のの意思で、今度は貞子自身の女の直感に従い……貞子の子宮が求めるままに、貞子のメスの本能が求めるままに、九十郎のオスを飲み込んだ。
「待たせたな、ようやく人数分の器が見つかった。 昔とは置き場所が変わっていて……」
タイミングが良いのか悪いのか、酒を飲むための杯を探していた信虎が湯屋に戻ってきた。
「……お盛んだな、貴様ら」
湯船の中でヤッている2人に対し、呆れたように声をかける。
「そういう雰囲気でしたので」
「何つーか、そういう事になった」
九十郎の視線は素っ裸一歩手前……いや、一糸纏わぬ裸体となった信虎の豊満な身体に釘付けになっている。
犬子と柘榴との結婚を保留にしている最中だというのに、今まさに貞子を抱いているというのに……最低な屑である。
「もう、九十郎殿、私を抱きながら他の女を見ないでくださいよ。 焼いちゃいますよ」
「ああ、悪い悪い」
九十郎が腰を上下させる。
水面が大きく波立ち、貞子のナカが揺さぶられる。
「う……はぁふっ……はぁっう」
貞子の声が漏れる。
接合部から押し寄せる歓喜、膣内を覆う快感に喘ぐ。
「英雄色を好むとは言うがな……」
信虎はやや面白くなさそうにそう呟き、湯船にお盆を浮かべ、持ってきた御猪口に甲斐の地酒を注いでいく。
「んぅっ……あっんんっ! あんんっ!」
貞子の子宮口が何度も何度もノックされる。
貞子の卵巣が開き、子宮が開き、九十郎の子を孕む準備を始める……
信虎にとって、性交は跡継ぎを孕むための儀式……いや、ただの業務に過ぎなかった。
何度ヤっても幸せだとももう一度シたいとも思わなかった。
必要だからスル……ただそれだけの行為であった。
「九十郎……殿ぉ……あっ……んんっ! んんっ! っんんっ! あっふわっ!」
貞子が唇を噛みしめ、必死になって声を押し殺し……押し寄せる快楽に翻弄されていた。
女の幸福に包まれ、表情が緩みきり、涎をまき散らしながらセックスを堪能していた。
「何故そうも幸せそうになる……?」
信虎はそう呟き、さっきの何倍も、何十倍も不機嫌そうな顔で持ってきた酒を一気に飲み干した。
胸がムカムカした、理由は信虎にも理解できなかったが。
「貴様らも飲め、せっかく我が探してきたのだ、飲んでしまえ」
セックス中の2人に押し付けるように酒を差し出す。
「ああ、悪いな」
「甲斐のお酒、戴きます」
貞子と九十郎がずっぷりぬっぷりと突き刺さる肉棒を一瞬たりとも引き抜かず、差し出された酒を一気の飲み干す。
光璃が隠し持っていた酒の味が、アルコールの匂いが、そしてセックスの快楽と高揚が貞子と九十郎を興奮させる。
「九十郎殿、分かりますか? 私の子宮が降りてきているのを、
私の子宮が九十郎殿のややこを孕みたい、身籠りたいって叫んでいるのを」
「いや、全然分らねえ」
九十郎はバッサリと切り捨てた。
だから貴様は九十郎なのだ。
「もう九十郎殿、こういう時は嘘でも良いから肯定するべきじゃないですか」
「だがな、ナカがぎゅうって締め付けてくるのは分るぜ。
貞子が良い女だって事とか、俺が今貞子を抱いてるって事は良く分かってる」
「もう……本当にもう、九十郎殿はどこまで私好みなんですか。
本気になってしまいそうですよ、
本気で九十郎殿の子を孕みたいって気分になっちゃいますよ」
「認知はしてやるよ。 嫁にする気は全く無いが」
九十郎は屑である。
「あはは、愛人で良いですよ。 愛人で良いですから、九十郎殿の子を産ませてください。
凄くキラキラした目で剣を振れる貴方の子を……あんんっ! ぁあっあっぁ!」
湯船の中では分かり辛いが、貞子のナカが愛液で溢れていた。
九十郎のチOコを受け入れ、孕む準備をしていた。
貞子のナカで、九十郎の鈴口からカウパーが漏れ始めていた。
貞子の膣奥に子種を流し込み、孕ませる準備をしていた。
「今の私、本気で九十郎殿の子を孕みたいって考えてますから……」
貞子をそう言って発情し、メスの顔になり、腰を振り、男根を自らの膣内にねじ込ませていた。
それはまるで、獣の交尾のようであった。
「ほら鞠、お前の分だ、飲めよ」
湯屋の隅っこで縮まっている鞠にも酒が入った杯とお盆を流す。
「そんな……そんな気分になれないの……」
鞠は拒絶した。
温泉に浸かりながら、彼女は全くリラックスできなかった。
段蔵や鬼との戦いで、少なからず傷ついていた。
度重なる戦いと長い旅路で、泥のように疲れ切っていた。
それでもなお、鞠は休む気になれなかった。
脳裏に浮かぶのは朝比奈泰朝が段蔵に……異形の怪物に喰われる瞬間の光景。
異形の怪物に歯が立たず、逃げるしかなかった自分の不甲斐なさ。
自責の念で心が一杯になる。
「後悔してるのか? 泰朝とかいうのを助けられなかった事を」
九十郎はそう尋ねる。
貞子のマOコにチOコがずっぷしぬっぷしハメられていなければ良い台詞である。
「死んじまったら仕方ねえよ。
ウジウジ考えるより、酒飲んで神道無念流して良い女抱いて忘れようぜ」
人類全員が九十郎のようになったら世界はおしまいである。
鞠は、酒の乗った盆に手を伸ばし、ぐいっとそれを飲み干した。
酒を飲み慣れていないとはいえ、流石に御猪口一杯で酔い潰れはしない。
「うぅ……ぐす……あぁ……うあぁ……」
だがしかし、鞠はその酒を飲んで、涙が溢れた。
涙が溢れて溢れて止まらなかった。
家臣を守れなかった自分が情けなかった。
偉大すぎる母に比べ、何倍も、何十倍も器の浅い自分が情けなかった。
いっそ死んでしまいたい気分になった。
「……九十郎殿」
「何も言ってやるなよ、貞子。 あいつは今、泣きたい気分なんだよ」
貞子も九十郎も笑えなかった。
信虎も新戸も笑えなかった。
4人とも知っているのだ、理解しているのだ。
全力で挑んでもなお、負ける時はあるのだと。
死んでほしくない人が死に、自分だけが無様に生き延びてしまう時もあるのだと。
だからこそ、命は素晴らしいものだと。
生きているという事は、それだけで価値があるのだと。
「そういえば護衛代はどうするおつもりで?
朝比奈殿は死んじゃいましたし、今川殿の手持ちのお小遣いじゃ全然足りませんよ」
「うっかり忘れるところだったな、おい鞠ちょっとジャンプしてみろよ」
それはそれとして貞子と九十郎は駿府館まで護衛をした報酬を取り立てようとした。
屍を鞭で打つような真似だが、死人が出た程度でいちいち取り立てを諦めていたら、戦国時代では生きられない。
「は、払うの……なんとか、なんとかしてお金を作って……」
そうは言うが、鞠は何をどうやったらお金が稼げるのかを知らない。
生まれてこのかた、アルバイトなんてした事は無いし、考えた事すら無かった。
「何とかってどうやってだよ?」
「う……それは、その……」
そして鞠は護衛代を踏み倒したり、その辺にいる人を斬って金品を略奪するなんて外道な真似ができない程度には優しかった。
光璃か信虎だった間違いなく踏み倒している。
踏み倒せない事情があったら適当に略奪して支払っている。
「の、信虎おばさ……」
「金なら貸さんぞ」
鞠の救援要請を信虎はバッサリと切り捨てた。
そもそも信虎は金を持っていない。
「そんな……」
「我と貴様は金の融通をしあうをする中では無かろう。
謀略を用い監禁した側と監禁された側、詰まる所が敵同士だ」
「鞠は信虎おばさんの事、敵だなんて思っていないの」
「ふん、我はそうは思っておらん。
それよりどうするつもりだ義元の娘、今川の現当主よ。
まさか護衛代を踏み倒す気ではあるまいな?」
「う……」
鞠が絶句する。
現在鞠が持たされているおこづかいでは、貞子と九十郎に支払うと約束した護衛代の半分も支払えないのだ。
「なら仕方が無いな、身体で支払うが良い、それが一番手っ取り早い」
光璃が隠していた上等な酒を略奪し、気分良く酔っていた信虎が最悪な提案をした。
「か、身体って……」
「分らないか? 今貞子がヤってるような事だ。
九十郎のマラを股ぐらに挿れて、淫らに腰を振れと言ったんだ」
鞠の視線が貞子のアソコに向く。
九十郎の醜悪な肉棒をズッポリと飲み込んだアソコを……
「そ、そんな事できないの!」
「俺、貧乳にはあんまり食指が伸びねえんだけどな……」
「なら夜鷹でもヤらせろ、見た目は悪くない、すぐに客がつくさ」
夜鷹とは娼婦の隠語の一つである。
早い話、信虎は鞠をその辺の男に抱かせて金を調達させろと言っているのだ。
「う……うぅ……そんなの……」
そんなのは嫌だと、見知らぬ男に抱かれるなんて嫌だと言いたかった。
だがしかし、駿河の人々が鬼にされようとしていると聞き、居ても立ってもいられずに越後を飛び出したのは鞠だ。
貞子と九十郎を半ば無理矢理引っ張り出したのも、駿府館に着いたら報酬を支払うと約束したのも鞠だ。
その意味では、筋が通っているのは信虎の方なのだ。
「善意で忠告しておいてやるが、否と言うならこの場で放り出されるぞ。
ここは武田の勢力圏、武田の手の者がお前を捕えればどう扱うかな。
まあ今川の直系だ、命は奪われまい……
その代わり、身の自由と貞操は確実に奪われるだろうがな。
ああそうだ九十郎よ、いっそ晴信に売り渡すというのはどうだ?
アレは今川の血の価値を見誤るような事はすまい、高値で売れるぞ」
「え……?」
武田に引き渡される自分の姿を想像する。
誰とも知れぬ男の元に送られ、婚姻を結ばされ、そしてその身を穢される光景を想像する。
身の毛がよだつ、怖気が走る光景であった。
「信虎、晴信に売り飛ばすっても俺には伝手なんて……
ああ、粉雪経由で話を持ってけば良いか」
「粉雪……誰だ?」
「山県昌景」
「ああ飯富の妹か、何年か前に山県に改姓したらしいな。
飯富も晴信に背くなら我に一声かければ良かったものを、
せっかくアレの首を討つ好機であったのにな」
「いくらで売れるかな?」
「護衛代よりは高く売れるだろうさ」
信虎と九十郎が……屑2名が喜々として鞠を武田に売り飛ばす算段を立て始めた。
九十郎のちOこを咥え込む貞子も2人の会話を止めようとも嗜めようともしていない。
鞠はこの時、自分が本気で武田に売り飛ばされそうになっていると理解した。
そう、理解してしまったのだ……信虎も、九十郎も、無償で手助けをしてくれる程優しくはないと。
「え……あ……?」
それを理解した瞬間、身体が震えた。
適温になるよう調節された天然温泉につかってるが故、寒さは無い。
震えているのは、恐怖があったからだ。
逃げてしまおうとは考えなかった。
鞠は甲斐の地理を知らず、路銀もほぼ無い、武術の達人である貞子と九十郎、この辺りの地理をこれでもかって程に熟知している信虎相手に逃げ切る自信も無かった。
それに……貞子と九十郎に対し、駿河に着いたら必ず御礼はすると言い、半ば無理矢理越後から連れ出したのは鞠自身、今ここで護衛代を支払えないのは、鞠の見通しが甘かったからなのだ。
故に……
「お、お願い……します……なの……」
震える声で、鞠は九十郎に声をかけた。
泣き出したい、逃げ出したい気持ちを押し殺しながら、鞠は一糸まとわぬ裸体を晒した。
見知らぬ男の袖を引き、抱かれるのに比べればいくらかマシ……それでも、自分の身体を金の代わりに差し出す事への嫌悪感は拭いきれなかった。
「ま、鞠を……鞠を抱いてください……なの……」
鞠は心のどこかで、九十郎を信じていた。
鞠は心のどこかで、九十郎は自分に酷い事をしないと思っていた。
鞠は自分自身の酷い能天気さに呆れ、死にたくなった。
「鞠を抱いて……身体、差し出すから……護衛代の代わりにしてください……」
鞠は震える声でそう告げた。