第15話URL『https://novel.syosetu.org/105831/15.html』
第17話にはエロ描写はありません。
第17話URL『https://novel.syosetu.org/105831/16.html』
岡崎城下での逃走劇から3日……
一刻も早く松平葵元康の勢力圏から脱するべく、2人は不眠不休で逃げ続けていた。
目立つ表街道は使えず、道無き野山を駆け続け、少なくなっていく水と食料、破損が増えていく衣服と草鞋……2人の気力と体力は限界に近付きつつあった。
「……土砂降りだな」
「……うん、土砂降りだね」
2人の呟きが雨音によってかき消される。
この日、突然のゲリラ豪雨によって犬子と九十郎の逃走劇は止められていた。
偶然見つかった岩穴に逃げ込み、縮こまり、震えながら空を見る……
「流石にこの豪雨の中で進むのは危ないよね」
「この状況下で風邪でもひいたら洒落にならん、雨が止むまで待つしかなさそうだな。
不幸中の幸いか、雨宿りができそうな岩陰はすぐに見つかった。
できれば濡れて使えなくなる前に薪集めもしたかったがな……」
「うん……ちょっと冷えるね……」
三河侍達から逃げるためとはいえ、上着を脱がされた犬子はかなり薄着になっている。
濡れて素肌に張り付き、胸やら鎖骨やらが透けている少女の姿は何とも蠱惑的だ。
九十郎が視線を逸らそうとしながら、チラリチラリと犬子の胸元をのぞき込んでいる。
その事に犬子は気づいていた。
「犬子、もう少しこっちに寄れ」
「九十郎も濡れちゃうよ」
「アホな事を言ってないで来い」
やや気恥ずかしそうにする犬子を強引に抱き寄せる。
筋骨隆々な大男が小柄な少女を抱き寄せる、強烈な犯罪臭がする光景である。
指先が触れ合い、肩先が触れ合い……自分から言い出した事だというのに、九十郎は目に見えて動揺していた。
上着もギリースーツも脱いでいたために、今現在犬子はかなり薄着になっている。
雨に濡れているが故に、犬子の柔肌が透けて見えている。
体温が下がらぬようにと密着してしまったが故に、九十郎は少女の温もりと柔らかさを直に感じている。
九十郎の頭の中で、邪な考えが浮かんでは消える。
三河から脱出した日、犬子と唇を重ねた瞬間がフラッシュバックする。
「何をやっているんだ俺は、何を考えているんだ俺は……
前田利家だぞ、前田利家なんだぞ、こいつは……こいつは……」
九十郎が大量に汗を流しながらブツブツと呟き続ける。
この男は今葛藤していた、戦っていた。
幸せそうに視線を落とし、自分に体重を預けてくる少女を押し倒したいという欲求と。
特に何の意味も必要性も必然性もなく戦っていた。
「九十郎、震えてるよ。 もしかして寒いの?」
こっちに来いと言った割に、自分から抱き寄せた癖に、つかず離れず微妙な距離と保とうとする九十郎の顔を犬子は心配そうに見上げていた。
「寒くは……ないと言ったら嘘になるが、俺は今それどころじゃない……」
「風邪をひいたら大変だよ! ほら、もっとこっちに来て!」
「あ、いや俺は……俺は、べ、別にだな……」
渋る九十郎を、今度は犬子が強引に引き寄せる。
肩や指先が触れ合うどころか、抱き合うような体勢になる。
犬子のマシュマロのような弾力がある胸が九十郎の腹に当たり、男の本能を大いに刺激し、男の理性をガリガリと削り取っていく。
揉みてぇ……と、九十郎は心の中で呟いた。
口には出さなかったのは成長だろうか、退化だろうか、気遣いだろうか、ヘタレであろうか。
なんにせよ、九十郎の視線は犬子のダブルメロンに釘付けだ。
当然、犬子も九十郎の下卑た視線、欲望に満ちた視線に気づいていた。
しかし、犬子はそれを遮ろうとはしなかったし、嫌悪もしなかった。
彼女の心中にあるのはむしろ、幸福感と充実感……心の底から好きになった男が自分を見てくれている、そんな想いだ。
「(また、口づけをしてくれないかな……あの時みたいに……)」
自らの心拍音が早まっていくのを感じながら、犬子は九十郎の唇の感触を思い浮かべた。
この世にこれ程の快感があるのか、これ程の充実感があるのかと驚き戸惑う程、あの日、あの瞬間の犬子は幸福であった。
「(できたら……その先もシテ欲しい……よね……)」
下腹部が、子宮が、女の本能が、雌の本能が九十郎を求めているのを感じていた。
三日三晩も不眠不休で逃げ続け、何度も何度も身の危険を感じ、身も心も疲れ切っているというのに……いや、疲れ切っているからこそ、生殖したい、そして子をなしたい、惚れた男に身を委ねたい、抱かれたい、愛されたいという生の欲求が高まり、昂っていた。
「九十郎……」
犬子が九十郎の胸の中で顔を上げる。
九十郎が犬子を両腕で抱きながら、視線を下げる。
2人の視線が交差する……
「犬子……俺は……お、俺は……いやだが……」
九十郎は迷っていた。
犬子を抱きたい、手に入れたい、愛されたいという本能にも似た感情と、自分のような屑が前田利家と釣り合う筈がない、自分なんぞが前田利家に愛される筈がない、そもそも前田利家は俺じゃなくて松とかいう女を嫁にする筈だろう、俺が前田利家を抱いたりなんかしたら歴史が変わっちまう……そういった思い込みが何度も何度もぶつかり合い、何度も何度も渦巻き合い、九十郎の精神をぐしゃぐしゃにかき乱していく。
「九十郎……」
再び名前を呼ばれる。
ただそれだけで心臓が飛び出るような感覚に陥った。
頬が熱くなり、両肩が強張った。
九十郎は自らの心中を読み解く事も、御する事もできなくなりつつあった。
「好きだよ、大好きだよ九十郎」
俺だって好きだよコンチキショウめ……九十郎はそう叫びかけ、慌てて口を噤んだ。
それを言ってしまえば、認めてしまえば、もう行きつくところまで行ってしまうような気がしたからだ。
「言うなよ……頼むからそれ以上言ってくれるな、前田利家」
普段のように犬子とは呼べなかった。
まるで当てつけのように『前田利家』と呼んだ。
こいつは前田利家なんだ、加賀百万石の大名で、歴史上の偉人、俺のような屑と釣り合う筈がないんだ、こんなのは何かの間違いなんだ……九十郎は必死に自分に言い聞かせる。
だがしかし、利家と言った瞬間、九十郎は自分の心臓に矢でも刺さったかのような激痛を感じた。
その痛みが何を意味するのかも理解せずに……いや、理解してはいけないと必死に自分に言い聞かせて、必死に目を逸らして。
「犬子だよ」
「煩いぞっ!! お前は前田利家だ! 誰が何と言おうが前田利家なんだよっ!!」
九十郎が息を荒げ、声を荒げる。
刀で切られ、槍で刺された時と同じ位……いや、それ以上の痛みを覚えながら叫んでいた。
「犬子だよっ!!」
「だが前田利家だろうがっ!!」
「前田利家だけど犬子だよっ!!」
「どう違うんだ!?」
気づけば九十郎は怒鳴り声になっていた。
全く冷静さを欠いていた。
心の中は、痛い痛いと泣いていた。
全く情けない男である。
「分からない、分からないけど……
九十郎が前田利家って呼んでる時、凄苦しそうで、凄く険しい顔をしてるのは分かるよ。
九十郎は……九十郎は前田利家をどう思っているの? 犬子と前田利家の何が違うの?」
「う……ま、前田は……前田利家ってのは……」
九十郎はモヤモヤでグシャグシャになっている頭で、言うべきか隠し続けるかを考える。
自分は未来人だと、前田利家は加賀百万石……加賀百万石がどれだけ凄い事なのか九十郎は良く分かっていないが、太閤豊臣秀吉の信任が厚い偉大な人物であったと言うべきなのか。
九十郎は考えれば考える程に自分が混乱していくのを感じた、視界が歪む程に激しい頭痛と吐き気も感じた。
いっそ今すぐこの場で犬子を張り倒して逃げてしまおうかとも考えた。
考えたが……どうしても実行には移せなかった。
「犬子は、ただの犬子だよ」
そう思えたらどんだけ幸せか分かんねぇよと、九十郎は小声で毒づいた。
「九十郎にとっての前田利家がどんな言葉なのは分からないけどさ……
前田利家が九十郎を苦しめてるのなら、犬子はただの犬子で良い。
前田とは縁を切る事になっても良い、そう思ってるよ」
「縁とか家とかそういう問題じゃねぇんだよ!」
「じゃあどういう問題なのっ!?」
「それ……は……だな……」
九十郎は再度何も言えなくなる。
決心がつかない、覚悟が決められない、自分がどうするべきか分からない……
「俺は……俺はお前を嫁にするために近づいた訳じゃない、
嫁にしたくて守ってきた訳でもない。
俺は前田利家に媚び売って、安寧な生活を確保して、
毎日毎日神道無念流だけやって生きていければ良いなっておもっていた」
……分からないまま、九十郎は吐き出した。
言ってはならない事、死ぬまで隠し続けなければならない事、言えば軽蔑され、幻滅されると思っていた事……言うつもりはなかったというのに、訳が分からないまま、混乱した頭で吐き出していた。
「それは悪い事なの?」
「分かってない! 俺は利己的な打算でお前に近づいたんだ!
お前を惚れさせるつもりなんてこれっぽっちも……」
「それと犬子が九十郎を好きになった事! どう関係があるのさっ!!」
「俺は前田利家に愛されるような価値のある男じゃないんだよっ!!」
……直後、パァン!! という鋭い音が洞窟に響く。
犬子が九十郎の頬を平手で叩いたのだ。
「犬子は……いや……」
犬子は茫然としている九十郎を真っすぐに見ている。
澄んだ瞳で、決意と信念を込めた視線で……みっともなく狼狽する九十郎を見据えていた。
「私は九十郎が好きになったよ。 九十郎が何を考えて私に近づいたのかなんて関係無い、
価値のあるなしで好きになった訳でもない……
私はどうしようもない位に九十郎が好きなんだ」
犬子は初めて、自分の事を『私』と呼んだ。
言葉に、声に、強い強い信念を込めよう、溢れんばかりの愛を乗せよう……そう思ったら、自然と自分を私と呼んでいた。
九十郎は子供の頃からずっと犬子の傍に居た、傍で守り続け、傍で見続けていた。
犬子の事で知らない事は無いと思っていた。
だがしかし、今日の犬子は、九十郎の知るどの犬子とも違って見えた。
「だがな……だが前田利家、お前にはもっと相応しい奴が現れる、そういう運命なんだよ」
九十郎の脳裏に浮かぶのは、秋月八雲の姿だ。
あるひふらっと転校してきて、学園中の美女達を纏めて掻っ攫っていった超の付くモテ男。
九十郎に深刻なトラウマを刻み付けた男である。
「九十郎が良いんだよ」
「前田利家が俺みたいな屑と釣り合う訳がないだろうがっ!!」
「九十郎じゃなきゃ嫌だよっ!!」
「お前は何も分かっていない!!」
「九十郎こそ犬子の気持ちを全然理解してくれないっ!!」
九十郎は頑なだ。
頑なに自分は前田利家と釣り合わないと叫び続ける。
あの日……九十郎が密かに惚れていた女が秋月八雲と恋仲になっていると知った日。
自分には一度も見せた事が無い幸せな顔で、女の表情で、よりにもよって奉行所で男女の関係になっているのを目の当たりにした日に、九十郎は自らの精神の安定のため、こう思い込んだ……あんなに良い女が自分のような屑と釣り合う筈がない、秋月八雲のような良い男にこそ相応しい、だからこれで良いんだ、これが正しいのだと。
「九十郎はカッコイイよ、犬子を何度も何度も助けてくれた」
「違う、俺は屑だ。
お前みたいな価値のある女と釣り合っちゃいない、付き合っちゃいけない。
価値のある女には、価値のある男の傍が良いんだ」
「そんな、でも……でも犬子は、価値のあるなしで好きになった訳じゃないよ」
不毛な平行線だ……犬子も九十郎もそう思った。
九十郎は前田利家のような価値のある女が、自分のような屑に釣り合う筈が無いと思い込み、犬子は価値のあるなしは関係ないから自分を愛してほしいと訴える。
傍から見ていると滑稽なすれ違いであったが、当人にとっては重要で深刻な問題であった。
雨はさらに勢いを増し、2人は空を見上げながら身を寄せ合う。
「やまないね、雨」
「全くだな」
結局の所、九十郎は自信が無いのだ。
自分が前田利家という歴史上の偉人に愛されているという確信を持てないのだ。
そして九十郎は怖いのだ。
今この瞬間こそ、犬子は自分を好きかもしれない。
だけど将来、秋月八雲のような価値のある男が現れたら、犬子は自分を捨ててその男を愛するかもしれない、女の顔になってその男に跨るかもしれない、交わるかもしれないと……そんな光景を見るのが怖くて怖くてたまらないのだ。
そう思った犬子は、大きく深呼吸をして九十郎の手を引いた。
同じ事を考えた九十郎は、小さく舌打ちをして犬子の肩を押した……
九十郎が犬子を押し倒したのか、犬子が九十郎を引き倒したのか、どちらが先で、どちらが後か、それは2人にも分かっていない。
だが現実問題として、犬子は岩肌に横たわり、九十郎はそれに覆いかぶさるような姿勢になっていた。
……その体格差から犯罪臭が半端でない光景であった。
「……なあ、前田利家」
「犬子だよ」
「犬子は俺が抱きたいと言ったら、抱かれるのか?」
「うん、抱かれるよ」
即答であった。
「俺の嫁になれって言ったら、嫁になるのか?」
「うん、なるよ」
これも即答であった。
迷いや戸惑いは一切なかった。
「俺の子を産めって言ったら、産んでくれるのか?」
「うん、産むよ」
またも即答した。
どの質問も九十郎にとっては重すぎる不利益を突き付けたつもりであった。
自分のような屑に抱かれたいと思う女も、嫁になりたいと思う女も、子を成したいと思う女もいないと、居る筈がないと思い込んでいた。
特にそれが、前田利家のような価値のある女ならば……と。
だがしかし、犬子にとってはどれもこれも当然の前提、迷うまでもなく考えるまでもない愚問であった。
「九十郎……」
凄まじいまでの汗を流し、信じて良いのか、抱いても良いのかと迷う中、犬子は硬直する九十郎を不安げに見上げている。
九十郎が唾をごくりと飲み込んだ。
「犬子……」
九十郎が犬子の……前田利家ではなく犬子と呼ぶと、その肌がピクンと跳ね、頬が赤らんだ。
犬子の胸が歓喜に震えた。
服ははだけ、肌は上気し、割と大きめの胸は完全に露出して、下着は……下着は僅かに、しかし確実に湿気を帯びていた。
九十郎の体の下で、犬子がモゾモゾと下着を脱ぎ捨てる。
男の逸物を受け入れる姿勢になり、弱弱しい力で九十郎を抱き寄せようとする。
その視線から不安と期待の入り混じった感情が見えた。
俺が犬子を抱くのかどうか、俺が犬子を女として見ているかどうかを、犬子は知りたがっている、確かめたがっている。
……九十郎はそう思った。
「犬子……俺で……俺で良いのか?」
犬子は大きく一回頷いた。
迷うそぶりは一切無かった。
「俺は……俺は苗字すら無いただの極貧農家の子で……お前は荒子城主の……」
先程と同じように、九十郎は犬子を拒む理由を言おうとする。
先程とは違って弱弱しく、迷いながら……
「勘当されちゃったから、今はただの犬子だよ」
そう告げられ、九十郎はそっと犬子の髪を飾る、小さな笄に手を伸ばす。
犬子が元服した日に送ったプレゼントであり……犬子が勘当された原因になった忌まわしき物品。
だがしかし、犬子にとっては何よりも大切な九十郎との絆の証、九十郎が自分を助ける為に命を賭けた証の品だ。
「俺は……」
「九十郎じゃなきゃ、ヤダよ」
未だに迷い続ける九十郎に対し、犬子はそう宣言した。
確かな意志と決意を籠めた声でそう宣言した。
それは九十郎にとって、歴史の否定以外の何物でもない。
九十郎の指先が、再び笄に触れる。
九十郎以外の誰が触っても、まるで逆鱗に触れられた龍が如く吠え、比喩表現でなく噛み付く犬子であったが……今の犬子は穏やかだ。
「……ここが俺のルビコン川なのか?」
九十郎は静かにそう呟いた。
「るび……こん……カエサルの……?」
股間の肉棒はビンビンに隆起していた。
犬子に欲情し、今すぐにでも抱きたい、挿入したいと叫んでいるかのようだった。
九十郎の迷いや懸念なんて些細なものだと、九十郎の本能が認めているようであった。
「九十郎の……大きくなってるね……」
犬子が股間の肉棒を凝視していた。
クリクリとした純真で幼い瞳が男の欲望を見据えていた。
見据えた上で、理解をした上で……犬子の喉がごくりと鳴り、両脚が僅かに広がった。
それは無言の意思表示であった。
「犬子……」
「九十郎……」
名前を呼び合う。
ただそれだけで2人の胸が高鳴る、両肩に力が入る。
額から、両手から、止めどなく汗が流れる。
何が犬子をこうにまでさせたのかはまるで見当もつかないが……いずれにせよ今の犬子は、抱こうとすれば抱かれるだろう、孕ませようとすれば孕むだろう、そして……娶りたいと言えば、喜んでその身を差し出すだろう。
そして抱けば恐らく情が沸く。
二度と犬子から離れられなくなるだろう。
歴史を取り返しがつかない程に変えてしまうだろう。
九十郎はそう確信した。
一度でも進めば後戻りはできない、故にこの場は自分のルビコン川だと。
そして九十郎は深く静かに思いを馳せ……犬子との思い出を一つ一つ反芻し……
「……んっ!」
……そして九十郎はルビコンを渡った。
少女の女陰は、九十郎が想像したよりも容易く男のモノを飲み込み、銜え込んだ。
同時に、矢が刺さったかのような痛みと熱さが犬子の下腹部を襲ったが、犬子の心に苦痛は無く、悲しみも喪失感も無かった。
あるのは歓喜……愛する男と結ばれた事への、強く大きな歓喜だけであった。
「こんな時にこんな事を言うのもアレだがな……好きだぞ、犬子」
そう言って九十郎は体を曲げ、犬子と唇を重ねる。
「んっ……んむ……」
犯罪臭が半端でない光景だが、犬子は耳まで真っ赤にして、懸命に体を伸ばして、嬉しそうに九十郎と舌先を絡ませ合う。
自分も犬子と同じ位に唇と舌先の感触に夢中になっている事に気づき、ああくそ、可愛いじゃねえかと九十郎は心の中で毒づいた。
「ちょっと血が出てるな、痛くはないか?」
「顔に矢が刺さった時はこんなものじゃなかったよ」
「少しは痛いと……どうする? やめるか?」
「大丈夫だよ、犬子は今震える位に幸せだから」
そう言うと犬子は両足で九十郎の胴体を挟み、逃げ場を塞ぐ。
「九十郎がここに居て、九十郎のを受け入れてるんだって思うと、
幸せすぎて痛みなんて消えちゃうからさ……だから、最後までシて欲しいかな」
「優しくできるかは保証できんぞ。 その……俺はこういう経験が全く無いんだ」
「犬子もハジメテだよ」
お互いに初経験と聞き、お互いに内心でガッツポーズをとる。
ある意味では似た者同士かもしれない2人である。
「じゃ、じゃあ……動くぞ?」
「うん、良いよ」
九十郎は微妙に声が裏返り、肩は日課の筋トレをしている時以上に強張っている。
童貞丸出しの情けない姿であったが、目の前で狼狽えている姿を見て、犬子は少し緊張が解れた。
「ん……あ……あっ……」
ユサユサと犬子の体がリズミカルに揺れる。
視界に映る鏡餅のように大きく丸い双丘が、巨乳好きの九十郎を興奮させる。
ガチガチに緊張して、吐き気を覚える程に迷って悩んでいた男の思考が、徐々に男女の営みの方へと傾いていく。
「犬子……」
「九十郎ぉっ!」
両足だけでなく、全身を使って犬子が九十郎にしがみつく。
名前を呼び合いながら、野獣のように腰と腰を押し付け合い、たたきつけ合う。
「っんんっ! ぁあっ! ぁあっ!」
狭く薄暗い洞窟の中に、少女の喘ぎ声が響く。
ぐちゅぐちゅという水音が、雨音と共に漏れ始める。
痛みも出血もお構いなしに、犬子は全身全霊で九十郎を求めていた。
「あっぁふわっぁ! あっふわっぁんんっ! あっぁ!」
徐々に昂る、犬子も九十郎も……
思考が流れ落ち、そぎ落とされ、目の前にある異性を味わう事だけに没頭している。
「ぐ……吸い付いて……」
腕や足だけではない、肉壁までもが竿や亀頭に絡みつき、密着していた。
互いの性器を我武者羅に揺すり合う単純で原始的なセックスが、2人に性の快楽を与えていた。
そして……
「あ、出てる……」
幕切れはあっけなく……どくんっ、どくんっと男根が大きく脈動し、子宮に精液が流し込まれる。
ペースも限界も何も考えず、ただただ無心になって快楽を貪った童貞が長持ちする筈もなかった。
ああもぅ絶対に後戻りできねぇぞという焦燥や後悔に似た気持ちと、最後の最後まで自分を求め続けてくれた犬子の……前田利家に対する、なんとも表現しがたいむずむずとした心地良い感情が九十郎の心中に渦巻く。
「……そろそろ腹、括らなきゃいけねえ時が来たって所か」
自分はルビコンを渡り、心情的にも世間体的にも絶対に後戻りできない所まで達したのだと、ようやくこの男は自覚した……いや、改めて確認した。
犬子の膣内に収まっていた男根を引き抜く。
どろりとした血と愛液と精液の混合物が流れ出し、生まれて初めて……前の生を含めて初めて女を抱いたのだと実感する。
「九十郎ってさ、時々道場でシてるよね?」
「シてるって何を?」
「おOんちんをさ……その、自分で……こう、扱いてて……」
「うげ、見てたのか!?」
「その時、思ったんだよ……もったいないなぁって」
情けない姿を見られたと慌てふためく九十郎をよそに、犬子は陰唇から漏れ出る白濁液を指先で掬い、幸せそうに微笑んだ。
「紙や手ぬぐいに出す位なら、犬子に注いでくれればいいのにって……」
白濁液を鼻に近づけて、すんすんと臭いを確かめる。
かつて必死に息を潜めながら道場で嗅いだのと同じ臭い……九十郎の臭いがした。
「その夢……叶ったよ」
お世辞にも良い香りとはいえない臭いであったが、それでもなお犬子にとっては惚れた男の臭い、夢見て欲した臭いであった。
「お前の胸が大きくなってくのを見て、俺はこう思っていた。
あのデカいおっぱいに顔を埋めてぇなと」
負けじと九十郎は秘めていた欲望を口に出す。
カッコいい事を言っているようにも聞こえるが、全くカッコ良く無い。
「じゃあ、今から夢叶える?」
だがしかし、時々妙に恰好悪くなる所も含めて、犬子は九十郎に惚れたのだ。
「……好きだぞ、犬子」
視線を逸らし、顔を真っ赤にして、独り言のように呟いていた。
こんな台詞は自分には似合わないと分かっていたが、九十郎には他に言うべき言葉が浮かばなかった。
「犬子も大好きだよ、九十郎の事が大好きだよ!」
犬子は信じていた、信じ切っていた。
自分は九十郎と……愛する男と想いを通じ合ったのだと。
欲しくて欲しくてたまらないものがようやく手に入ったのだと。
だがしかし……
「信じるぞその言葉……信じる、からな……信じさせてくれよ、頼むから……」
……だがしかし、九十郎は信じ切れていなかった。
前田利家は本当に自分を愛してくれているのだろうか、仮に自分を愛してくれていたとしても、自分よりも良い男が現れたら、自分よりも価値のある男が現れたら、前田利家はその男を愛して、その男を追って自分の元から去っていくのではないか……秋月八雲が転校してきた時のように。
……
…………
………………
「快晴だぁーっ!」
「快晴だぁーっ!」
一夜明け、犬子と九十郎は緊急避難先であった洞窟から這い出し、絶好の旅日和となった事を喜び合った。
精液と愛液、汗と涎、雨水泥水……犬子も九十郎も、およそ清潔とは言い難い状況にあった。
「……犬子、大丈夫か?」
「すごく痛かったよ、九十郎。
それにお股の所、何か挟まってる感じがする……」
処女だというのに一晩中猛る性欲の捌け口となった少女は、内股の状態でゆっくりと歩み出す。
だけど表情は澄み渡る大空のように晴れ晴れとしている。
愛する男と結ばれ、九十郎の秘密、九十郎の言う前田利家の意味……九十郎が未来の知識を持っている事を打ち明けられたが故に。
「歩けそうか?」
「ど、どうにか……どうにか歩けるけど……ちょっと辛いかも……」
とはいえ、ハジメテの痛みに、ゴツゴツしてジメジメしていた洞窟で一晩中激しくシタ負担、逃走劇による疲労、負傷、寝不足、そして関節痛……犬子のコンディションはかなり悪い。
「日が出ている間に少しでも距離を稼ぐぞ。
今は一日でも早く三河から……松平元康の勢力圏から離れる」
「そうだね」
犬子が何度もよろめきながら、服や手荷物、刀を拾い集める。
万一に備えて用意していた路銀も保存食も残り少ない。
「周囲に人の気配は……無いな。 犬子、急ぐぞ」
「う、うん……」
犬子は不安そうな表情で付いて来る。
不安そうに俺の腕をぎゅっと掴み……少しだけ九十郎の頬が緩んだ。
「えへへ、くじゅ~ろぉ~」
犬子は緩む九十郎の頬を見て、昨晩の睦事を思い出し、自らの頬もまたこれ以上無い程に緩みきっていくのを感じた。
決死の逃避行をしているとは思えない、幸せいっぱい、希望でいっぱいといった顔だと九十郎は思った。
「……あまり引っ付くな、歩き辛い」
そんな事を言いながら、九十郎は犬子を振り解けなかった。
頬が緩み、口角が上がり、顔が熱くなるのを抑えられなかった。
どうしようもなく追い詰められているというのに、今が幸せだと感じていた。
「だってさ、九十郎に好きって言えたんだよ。
だってさ、九十郎に好きって言って貰えたんだよ。
嬉しすぎてニヤけちゃうし、幸せすぎて引っ付きたくなるよ」
同感だと言いたくなるのを、九十郎は必死の思いで堪える。
「今は我慢しろ」
「ええ~」
不満そうに頬を膨らませる少女の頭に手を置いて、わしゃわしゃと撫で回す。
たったそれだけで、犬子は本物の犬のように気持ち良さそうに息を漏らす。
「日が落ちるまで我慢しろ、野営の支度までしたら……また、な……」
犬子の仕草が可愛らしくて、愛おしくて九十郎はそんな提案をしてしまう。
そんな提案をして、もう一度犬子の唇に吸い付いてしまう。
こんな事をしている暇は無いと、松平元康の放った追手が迫っていると分かっているのにだ。
「ん……んちゅ……うんっ! 約束だよ九十郎!」
つい先程まで顔色が悪く、ヨロヨロとした動きになっていた犬子が途端に元気になった。
「しかし……あの竹千代が領主になるとは、誤算だったな……
あれ? そう言えば本多忠勝って、徳川家康の家来だったような……
何で元康なんかに仕えているんだ? 歴史が変わったか?
それとも後で何かあって主替えをするのか?」
「そんな事、犬子に言われたって分からないよ」
様々な考察や妄想を振り払い、九十郎は深く深く溜め息をつく……
「何にせよ、もうじき沈むと分かり切っている船に乗せられてたまるかってんだ」
九十郎はルビコンを渡った、既に後戻りはできない。
前田利家を抱く覚悟……歴史を変える覚悟を決めたのだ。
「目指せ! 犬子と一緒に安寧な生活ぅっ!!」
「目指せ! 九十郎と一緒に幸せな生活ぅっ!!」
2人で気合いを入れ直す。
「好きだぞ、犬子」
抱いた勢いとか、成り行きとか、吊り橋効果とか、そういうのはどうでも良い。
俺は心の底から犬子を愛している、その一点だけは誰に対しても断言できる……九十郎は自らの心に刻まれたトラウマから必死に目を逸らし、必死に自分に言い聞かせる。
……秋月八雲の名は、秋月八雲の姿は、秋月八雲の生き様は、九十郎にとってあまりにも重い。
重い、重い、重い、重い、重い、重い、重い、重い、重い、重い、重い、重い、重い、重い、
重い、重い、重い、重い、重い、重い、重い、重い、重い、重い、重い、重い、重い、重い、
重い、重い、重い、重い、重い、重い、重い、重い、重い、重い、重い、重い、重い、重い、
重い、重い、重い、重い、重い、重い、重い、重い、重い、重い、重い、重い、重い、重い、
重い、重い、重い、重い、重い、重い、重い、重い、重い、重い、重い、重い、重い、重い、
「大好きだよ、九十郎」
犬子が九十郎にそう告げる。
その言葉が九十郎の心に響いていないとは思いもせずに……
結局、九十郎は未だに犬子の愛を信じ切れていない。
結局、九十郎は未だに犬子をただの犬子とは思えていない。
結局、九十郎は未だに秋月八雲によって刻まれたトラウマを払拭できていない。
九十郎が犬子の愛を信じられるようになるのも、前田利家ではなく、ただの犬子として愛せるようになるのも、秋月八雲によって刻まれ、新田剣丞によって抉られたトラウマを乗り越えるのも、もう少し後の話である。