(警告・原作キャラのNTR描写があります)
「……お前が、儂を助けたという鬼子か?」
意識は戻ったとはいえ、いまだ寝たきりの状態である桐琴が、来訪者に対しそう尋ねた。
「そうだ」
来訪者……新戸が短くそう告げる。
桐琴は全身がバラバラにされたため、新戸は全身バラバラにされた桐琴の命を無理矢理つなぎとめるべく、限界を超えて超能力を行使したため、お互いにボロボロの状態だった。
「まだガキではないか」
「見た目はな、だがオレは、桐琴の10倍近くの歳を重ねた」
「儂を助けた能力は、歳を重ねて得たものか?」
「いいや、生まれつきだ。 オレは鬼子、特別な鬼子だから」
桐琴がゆっくりと病床から起き上がる。
指一本動かすだけで全身が軋み、身が引き裂かれるような激痛があった。
「特別な鬼子とは何だ?」
「普通の鬼子は、母親の胎を破裂させはしない、超能力も使えない。
オレ達鬼子は、人間の暗い部分、汚い部分、醜い部分をドロドロに煮詰めたものだ。
暗く汚く醜い部分が鍋を破裂させる程に大きく濃ければ、特別な鬼子が生まれる」
桐琴はその言葉を聞くと、深く瞼を閉じ、何かを考え始める。
脳裏に浮かんだのは、金ヶ崎の撤退戦……自分が鬼に犯された時、聞こえた声……
『教エテクレ、本当ノ愛ハドコニアル』
そんな声を思い出した。
あの声は、まるで自分の胎内から響いてくるように聞こえてきた。
あの声が聞こえ始めた頃から、鬼とも性交がどんどん気持ち良くなっていった。
苦痛と、屈辱がどんどん消えていき、快楽だけが天井知らずに増幅されていった。
そして桐琴には、あの言葉の出所がなんとなく分かっていた。
その餓鬼臭い言葉には覚えがあった。
かつて桐琴が……まだ伴侶も無く、子も成していなかった頃の桐琴が口癖のように言っていた言葉だからだ。
「あれは……儂の未練か?」
桐琴は目の前の鬼子に、そう尋ねた。
「オレの母親は、鏡に映った自分の姿しか話し相手がいない、悲しい女だった。
そんな母親から生まれたオレは、別の世界のオレ達と会話をする能力を持っていた」
「他の鬼子も、そうか?」
「特別な鬼子は、たぶん全員がそうだ。 母親が抱いていた後悔、未練、渇望……
それに関係した能力を持ち、それに関係した行動を起こす。
オレ達鬼子は、人間の暗く、汚く、醜い部分をドロドロに煮込んだものだからな」
「そう……か……」
桐琴は静かにため息をつく。
彼女には直感的に理解できた、自分の胎から産まれた鬼子が剣丞達に何をしたかを。
今どこで何をしているのかまでは分からなかったが、ソレがこれからどんな事をしでかそうとしているのかは、なんとなく分かっていた。
「儂が……止めなくてはな……教えてやらねばな……本当の愛は、どこにも無いと……」
桐琴はそう言うと、近くにあった杖を手に取り、立ち上がろうとする。
立ち上がろうとしたが……
「うぐっ……」
足を動かそうとした瞬間、さっき以上の激痛が走った。
彼女の両脚は岩のように硬く、重くなっており、少しも動いてはくれなかった。
「無理をするな桐琴、今は休め」
「だが……あぐっ、こ、これしき……」
新戸は止めようとするが、桐琴は止まらない。
足が動かないなら這ってでも病床から抜け出し、鬼子の元へと向かうつもりだ。
しかし、そんな事をしてもどうにもならないと新戸は知っている。
桐琴から産まれた鬼子が……森蘭丸がどれ程恐ろしいのか、理解しているからだ。
蘭丸の能力は洗脳や催眠、精神操作に特化していて、常人ならほんの数秒視線を合わせただけで記憶や意識を書き換えられる。
セックスをしようものなら、どんなに強靭な意志を持とうとも、多少の耐性があろうと、同じ鬼子である虎松達であってもたちまち魂を溶かし尽くされ、記憶も意識も人格も好き勝手に改変されてしまうのだ。
桐琴一人で向かって行っても、敵の持ち駒が増えるだけなのだ。
「寝テロ」
だから新戸は、桐琴に催眠術をかけた。
新戸は蘭丸程催眠術が得意ではないので、数日大人しくさせるのが精一杯であるが、当面の足止めにはなる。
「う……あぁ……ぐっ……」
桐琴が新戸の催眠の声に導かれ、全身を弛緩させる。
ここで寝ている場合ではないと頭では理解していたが、意識は急速に眠りへと向かっていき……1分もしない内に、桐琴は安らかな寝息をたて始めた。
「あまり面倒をかけさせるな、桐琴。 お前を助けた事、後悔させないでくれ」
新戸はそれだけ言うと、金ヶ崎の負傷者の為に用意された長屋から外に出る。
その日は夕焼け空が美しく鮮やかな日であった。
「オレも、多少は回復したが……まだ万全には程遠い……な……」
ズキズキと頭が痛くなっていた。
たった一人に催眠術をかけ、眠らせた程度で頭が痛くなるというのは、新戸の気力と体力が回復し切っていない証拠である。
それはつまり、今の新戸では蘭丸には絶対に勝てないという事だ。
それどころか、蘭丸が近づいてきていても、それに気づく事すらも難しいという事だ。
唯一蘭丸に対抗しうる剣丞の刀も今はボロボロであって、あの恐るべき特別な鬼子……森蘭丸がどこまでもどこまでも好き勝手に行動できる状態であるという事だ。
「頼むから動いてくれるなよ、蘭丸……」
新戸はそう祈っていた。
祈ったところでどうにもならないとは理解していたが、それでもなお祈らざるを得なかった。
そして新戸は外で待っていた小夜叉に対し桐琴は眠ったと声をかけ、2人で練兵館へと歩き出した。
今、犬子と剣丞がナニをしているかなど、想像すらせずに……
……
…………
………………
ずりゅんっと、剣丞のモノは犬子のナカに飲み込まれ、咥え込まれた。
それが取り返しのつかない一歩であるとは思いもせずに。
「ん……あぁっ!!」
犬子が艶めかしい声をあげる。
九十郎とセックスした時だけに漏らす声だ。
「ん……し、締まる……」
キューっと締まる膣内の感触が剣丞を襲う。
何人もの戦国時代の英雄達を食い散らかした剣丞にとっても、犬子の膣肉は名器であった。
それこそ、すぐに射精したくなる程の名器だった。
「ううっ! くっああっ……」
ぐっち、ぐっちと、いやらしい水音が部屋に響く。
つい先ほど一回イカされた事もあってか、犬子の最奥部は既に愛液で溢れていた。
「あっっあ……んんっ! あっ……」
剣丞の抽送が徐々に激しくなっていく。
それと同時に、犬子の高ぶりもどんどん増していく。
「ああっあぁ……う……あ、はぁっはぁっ! ううぅ!」
ガシガシと剣丞の肉棒が犬子の膣内を蹂躙し、子宮口を突き、責め立てていく。
ソレが膣内を前後する度に、犬子は目を白黒させながら女の快楽に浸る。
「イイ……イイよぉ……よりも……んんっ! ぁあっぁあ! ふわっあふわっううぅ!」
それは犬子の感じる場所を、感じやすい場所を的確に責めるセックスだった。
犬子にとって今までで一番気持ち良いセックスだった。
少なくとも、九十郎とシたセックスよりは気持ち良かった。
「あんんっ! ぁあっぁあっんんっ! ぁあっあっ!」
犬子が恍惚とした表情で、獣のような雄叫びをあげていた。
それは九十郎すらも見た事が無い顔で、聞いた事が無い声であった。
そして……
「うっ……くぅ……」
「あっ……」
剣丞の玉がきゅうっと縮んだ。
剣丞がイキそうだと、射精しそうだと犬子には分かった、理解できた。
今までのセックスの経験から、犬子にはそれが分かった。
それが誰との経験だったのか、誰と愛し合ったのか、自分が誰を愛したのか、犬子には分からなかった、思い出せなかった。
「出して……孕ませて……剣丞様の子供、犬子に産ませてください……」
犬子はそう言って、剣丞の身体をぎゅっと抱きしめた。
身体全体で抱きしめて、下腹部に力を込めた。
そうすれば膣肉がきゅうっと狭まって、ナカに挿れている男性を悦ばせる事ができると経験上知っていたからだ。
そして……
「んんっ! んんっ! ぁ……」
剣丞の肉竿がビクンッと跳ねた。
犬子の子宮に勢い良く射精し、ナカが精液で満たされた。
「膣内で出てる……剣丞様ぁ……剣丞様のが……」
犬子は笑っていた。
幸せ一杯といった顔で笑っていた。
自分の子宮が剣丞の精子で一杯になるのが嬉しかった。
犬子は忘れていた、九十郎の事を、自分が九十郎を好きになり、九十郎と愛し合った事を。
今、剣丞に抱かれる事に、剣丞と愛し合う事に、剣丞の逸物を膣内に受け入れる事に、剣丞の子を孕む事に、何の疑問も抱いていなかった。
「剣丞様、もう一回、良いですか? 犬子、まだイケてなかったですから……」
犬子がメスの顔になって、剣丞にそっと口づけをする。
剣丞の唇に吸い付いて、舌を絡め合って、唾液を舐め合った。
「ん……ぅむ……ああ、良いよ」
剣丞が犬子の耳元で優しく囁く。
そして犬子は剣丞の肩をそっと押し、正常位の姿勢から騎乗位の姿勢になった。
「剣丞様、もっと犬子を愛してください。 もっともっと激しく抱いてください」
犬子は妖艶な笑みを浮かべながら、腰を上下に揺さぶった。
射精によって萎えかけた剣丞のモノが再び硬さを取り戻すまで、そう時間はかからなかった。
「ぁあっんんっ! んんっ! んんっ! あぁあっううぅ……」
犬子の声が再び艶を帯びたものになった。
メスの顔になり、メスの声を挙げ、無心に剣丞とのセックスを楽しんでいた。
「あっぁぁっふわっ……ぁあっあっ! あぁぅっ!!」
犬子の情欲がどんどん昂っていった。
犬子はもうすぐイキそうだった、もうすぐ絶頂に達しそうになっていた。
そんな時……
「犬子……何を……何をしてるっすか……?」
……犬子と剣丞の視界に、1人の女性がいた。
呆然とした様子で佇んでいた。
彼女は犬子の艶やかな喘ぎ声が聞こえて、妙だと思って様子を見に来たのだ。
「何をヤッってるっすか……犬子……」
柘榴には眼前に広がる光景が信じられなかった。
柘榴が知る限り、犬子は九十郎一筋だった。
犬子は自分の魂を歪める程に九十郎が大好きで、犬子が九十郎以外の誰かに抱かれる姿は想像できなかった。
「あ、柘榴……柘榴も混ざる? 剣丞様とスルの、凄く気持ち良いよ」
犬子は恍惚とした表情でそう言って、柘榴に手招きをしていた。
そして剣丞の逸物を下の口で咥えながら、腰を前後に艶めかしくグラインドさせた。
膣内がぐにぐにと動き、射精寸前にまでなっていた剣丞のモノを責め立てる。
「な……何で……何を……」
その光景も柘榴にとって、信じられない光景だった。
「何をしてるっすか!? 犬子ぉっ!!
柘榴は叫んだ。
そして犬子の肩に掴みかかった。
「忘れたっすか!? 忘れちまったっすか!? 九十郎の事をっ!!」
柘榴がそう叫んだ、その瞬間……犬子は思い出した。
そして蒼褪めた。
「九十……郎……?」
犬子は思い出した、九十郎の事を。
自分が九十郎の妻である事を。
九十郎が好きになり、九十郎を好きだと叫び、今まで何度も何度も九十郎を愛し合った事を。
だから蒼褪めた。
自分は九十郎を裏切ってしまったのだと……
「え……犬子……なんで……え? どうして……?」
ほぼ同時に剣丞も思い出した。
今自分が抱いている人物が、ついさっき自分が膣内射精した人物が、既婚者の人妻であった事を。
「あ……!? ああっ!? お、俺はとんでもない事を!」
剣丞がそう叫んだ直後、剣丞の棒がビクンと跳ねた。
びゅる! びゅる! と尿道から白濁液が遡り、犬子に二度目の膣内射精が行われた。
……
…………
………………
「一目見た時から、貴方を好きになりましたっ!!」
夕刻ごろ、人気の無い密室の中で、雫がそう告げた。
九十郎に……ではなく、近所の農村マンから借りて来た案山子にだ。
「う~ん、やっぱり嘘はいけないですよね……
好きになったのは確かですけど、一目見てって訳では……」
人気の無い小屋の中で、雫が自問自答をする
「指輪と兜が素敵だったので好きになりましたっ!」
そして雫は案山子に対し、次なる告白の言葉を告げる。
「自分で言うのもアレですけど、最低の告白ですよね、コレって。
嘘ではないですけど、まるで金子に釣られているみたいで……」
しかし、二度目の告白練習は、ただでさえ酷かった一度目よりもさらに良くないと判断する。
「そりゃもちろん大金を積まれて、嬉しいと思ったのは事実ですけど……
美空様に一万石を与えるって言われた時、胸が弾んだのも事実ですけど……」
『一万年と二千年前から愛してましたあああぁぁぁ~~~っ!!』
そんな九十郎の叫びを思い出す。
そんな九十郎との衝撃的な出会いを思い出す。
あの時、九十郎は目は真剣そのものだった。
本気で、本心から目の前の人物は自分を好きになっているのだと確信できた。
だからこそ雫は、斎藤九十郎という人物を好きになったのだ。
だからこそ雫は……
「貴方の……貴方の言葉が嬉しかった。 兜が素敵で、指輪も素敵でした。
嬉しくて嬉しくて……嬉しくて嬉しくて……涙が出る位に嬉しくて……
気がつけば私は、貴方の事が好きになっていました」
だからこそ雫は、近所の農村マンが作った案山子にそう告げた。
心を籠めて……朝食の時にした祈りと同じ位に心を籠めて、雫は告げた。
会心の出来だと思った。
自分の想いを、今の気持ちを……九十郎への愛情を率直に表した言葉だと思った。
そしてその言葉は……
「……か、案山子フェチか?」
練習のつもりで告げたその言葉は、本番の相手の耳に思い切り届いていた。
「いや、ブリュナエンジンと半自動紡績機の試作品が完成したから、
試運転に官兵衛も呼ぼうと思ってだな……」
何か言い訳をしながら九十郎は立ち去ろうとする。
「ま、待ってください! 一体いつから……?」
「一目見た時から、貴方を好きになりましたの辺りからだが……」
「さ、最初から!?」
雫は愕然とした。
まるで九十郎を篭絡するために策を巡らせる悪女のように思われたのではと……実際の所、剣丞のために九十郎から情報を抜こうとしている雫は悪女一歩手前なのだが、とにかく雫は最悪の状況に愕然とした。
しかし……
「迷惑……ですか……?」
雫は聡明だ。
すぐに状況を立て直す手立てを打つべく、思考を高速で巡らせる。
「迷惑って、別に俺は官兵衛が案山子フェチでも別にどうとも思わないぞ」
「ふぇち……?」
「官兵衛が案山子が好きで好きで仕方が無くても別に構わん。
剣丞ハーレムに入らなきゃ別にどうでも」
「案山子なんてどうでも良いです!」
「え? じゃあ官兵衛は何で案山子にあんな事言ってたんだ?」
「貴方に想いを告げるためですっ!!」
雫は力強く断言した。
顔が真っ赤になっていた。
心臓が高鳴り、汗が次から次へと流れ落ちていた。
練習の時の何倍も、何十倍も緊張していた。
命懸けで戦っている時よりも緊張しているような気さえした。
「は? え? 俺に……?」
正直、黒田官兵衛から好かれているだなんてチラリとも考えていなかった九十郎は、思わず面食らう。
「さっき告げた言葉は、私の本心からの言葉です。
私は貴方が好きになって、貴方の妻になりたいと思っています。
一生を共にしたいと思っています」
そう告げながら、雫は自らの良心がチクリと痛むのを感じた。
九十郎を好きになったのは確かだが、雫は九十郎の想いを利用し、九十郎を裏切り、剣丞に情報を流すつもりでもあるからだ。
「官兵衛が、俺の……?」
九十郎は信じられないと言いたげな顔を雫に向ける。
「はい、ご迷惑ですか? 九十郎さんは私がお嫌いですか?」
雫はさらに畳みかける。
それは雫にとって一世一代の告白であった。
九十郎を好きになった雫の、一世一代の愛の告白であった。
それを……
「え? やだよ」
……そんな雫の告白を、九十郎はバッサリと切り捨てた。
「はい?」
今度は雫が困惑する番だ。
九十郎は幾度と無く雫に求愛の言葉を告げて、素敵な贈り物をしてきた。
九十郎が雫に求婚している事は、当然の前提と言うべきじ事実だった。
正直な話、九十郎が雫の想いに応じない事は想定外だった。
「な、何故……ですか……」
「だって官兵衛って梅毒だし」
そして言った。
デリカシーも何も無く直球で言った。
だから貴様は九十郎なのだ。
「梅毒……? 私が性病だって言うんですか!?」
そして美空や柘榴と違って、雫は梅毒の事を知っていた。
子供の頃に聞いた宣教師の話の中には、そういう男女の交わりで伝染する病気のことが含まれていたからだ。
「だったらどうして!? どうして私を今日で攫ったりしたんですか!?」
「前にも言っただろう、官兵衛が剣丞の嫁になられたら困るんだ」
「何故!?」
「いやだって、信長とか秀吉とかが全員梅毒に患ったら拙いだろ」
九十郎は再度デリカシーも何も無く言った。
そんな九十郎言葉は、舞い上がっていた雫の精神を地獄の底に叩き落すには十分すぎる言葉であった。
「梅毒……私が、梅毒で……剣丞様達にうつすのが困るから……」
そして聡明な雫は気づいてしまった。
できれば気づきたく無かったが気づいてしまった、理解してしまった。
九十郎の愛してる発言も、数々の贈り物も、自分を嫁にしたくてしたものでは無かったのだと。
誰が性病持ちの女に求婚などするものかと……
「そんな……そんなの、酷すぎませんか……
希望を持たせて突き放すなんて……私、私は……は、初恋だったんですよ……」
雫の瞳に涙が浮かんでいた。
ただただ悲しかった、ただただ悔しかった。
熱烈な求愛に浮かれて、舞い上がって、九十郎を好きになった軽薄な自分を呪った。
「いやもちろん、黒田官兵衛の事は好きだぞ。
愛してると言っても過言じゃないくらいに好きだ。
ただ正直……嫁にするのは御免だなと思ってるだけで……」
そんな九十郎の言葉は、雫を地獄の底に叩き落す、悪魔のような言葉であった。
雫は反射的に、九十郎の頬をぱぁんっと叩いた。
「酷すぎますっ! 女の子を……私を何だと思ってるんですかっ!!」
そう叫んで、雫はどこかへと走り去ってしまった。
頬を叩かれた九十郎には、走り去る姿を後ろから眺める事しかできなかった。
「(勝手に求婚されたと思い込んで、勝手に浮かれて、勝手に好きになって、
勝手に失望して、八つ当たりして……私、酷い事を……)」
雫は走った。
泣きながら走った。
今までに起きた色々な事を思い出し、後悔して、泣いた。
ただ一つ分かっている事は……自分は九十郎の嫁には決してなれないという事だけだ。
「……仕方ねえだろ、俺には前田利家がいるんだから。
前田利家だけでもヒーヒー言ってるんだ。 黒田官兵衛の面倒まで見れるかよ」
一方、九十郎は誰かに言い訳でもするかのように呟いた。
雫から叩かれた頬が、ズキズキと痛んだ。
この男は基本的に女心に疎い男であったが……それでもなお、雫が深く悲しんで、深く傷ついた事を理解する程度の知能は持ち合わせていた。
「今日は……今日は犬子を抱いてから寝るかな……」
九十郎は無性に犬子に会いたくなった。
犬子に会って、その豊満な胸に顔を埋めたくなった。
犬子は斎藤九十郎を……基本的に屑な自分を愛してくれていると再確認するために……
そして九十郎はとぼとぼと歩き出す。
星々が輝く夜空の下を歩き続ける。
その先に何があるか、犬子が何をシてるかを知りもせず。
『酷すぎますっ! 女の子を……私を何だと思ってるんですかっ!!』
そんな雫の言葉が何度も何度も脳裏に過った。
九十郎は雫からの問いに対し、何の答えも出せなかった。
そして気がつくと……
「九十郎! 来ちゃ駄目っす!」
そんな柘榴の声が聞こえた。
そんな柘榴の鬼気迫る叫び声で、九十郎は我に返った。
「……え?」
直後……九十郎の目に飛び込んできた光景は……
犬子が一糸纏わぬ姿で新田剣丞に跨り、股間の肉棒を下の口で咥え込み、全身から汗と愛液と精液の匂いを……セックスの臭いを漂わせる犬子の姿であった。
「え……あ……なん、で……?」
混乱する九十郎の目の前で、犬子のワレメから勃起した剣丞のちOこが引き抜かれる。
直後、栓が抜かれた肉穴の奥から……白濁液が零れ落ちた。
その瞬間、九十郎は思い出した。
前の生で、自分が失恋した事を思い出した、
前の生で長谷河平良に惚れた事、平良と親友である遠山朱金の仲がこじれる原因を作ってしまった事、どうにかして仲直りさせたいとずっとずっと思っていたが、手をこまねいて見ている事しかしなかった事を。
そして秋月八雲がやって来た事、秋月八雲が朱金と平良の仲を修復した事、そして朱金と平良の両方と恋仲になり……ある日の事、平良が一糸纏わぬ姿で秋月八雲に跨り、股間の肉棒を下の口で咥え込み、淫らに腰を上下に振っていた事を思い出した。
メスの顔で、メスの声を出していた事を思い出した。
あの日見た光景は、あの日見てしまった光景は、斎藤九十郎の最大最悪のトラウマを生み出した光景は、今のこの状況とそっくりであった。
犬子が……斎藤九十郎が惚れて、愛した女が別の男に跨っていた。
跨るだけじゃない、全身からセックスの臭いを漂わせて、膣奥から濃厚な精液を漏らしていた。
「剣丞えええぇぇぇーーーっ!!」
九十郎は叫んだ。
叫んで、走った。
走って、剣丞の胸倉を掴み、拳を握り……しかし、殴れなかった。
怒りに任せて殴り掛かろうとしたが、九十郎には振り上げた腕を動かせなかった。
あの時も今と同じように、八雲を殴れなかった。
本能的に察してしまったのだ。
秋月八雲が主人公で、自分は脇役、端役に過ぎなかったのだと。
長谷河平良や、遠山朱金のような価値のある女は、秋月八雲のような価値のある男と結ばれるべきだ……そう思い込んでしまったのだ。
だから殴れなかった、怒鳴り込む事すらできなかった。
「このっ!!」
そして殴る事も逃げる事もできずに硬直する九十郎に代わってなのか、柘榴が剣丞の顔面を一発ブン殴った。
「ぐぅっ!」
剣丞は殴られた勢いでふらつき、部屋の隅にぺたんと尻もちをつく。
「……誑し免状ってのは、こういう意味だったっすか?」
「ち、ちが……」
剣丞は違うと言おうとした。
だが言えなかった。
相手が人妻だという事を失念していただなんて酷い言い訳が、怒気と殺気を孕んだ視線を向ける女性に通じるとは思えなかった。
「柘榴も、御大将も、いずれこうするつもりだったっすか?」
「それ……は……」
剣丞は何も言い返せなかった。
日ノ本の大名達と縁を結び……つまり嫁にする事で、日ノ本全部を巻き込んだ大同盟を結ぶのが、誑し免状の本質だからだ。
剣丞は人妻には手を出さないと心に誓っていたが……つい先ほどまで犬子が人妻である事を失念し、抱き、そして膣内射精までした剣丞が何を言ってもまるで説得力が無い。
「犬子、こっちに来るっすよ」
そして柘榴は硬直したままの九十郎をやや強引に抱き寄せると、犬子に対して手を伸ばした。
「待って……ち、違う……わた、犬子は……違う、の……
こんなの……何かの、ま、間違い、で……何か……嘘、嘘だよ、こんな……」
しかし犬子はガタガタと怯え、震えながら、何か譫言を言うだけで、柘榴の言葉に反応していない。
「来れなきゃ本当にお終いになるっすよ! 早く立つっす!」
「ひゃいっ!!」
柘榴の怒号が響き、犬子がビクンと肩を強張らせる。
そして犬子はガタガタと震えながらゆっくりと立ち上がり、一歩ずつ柘榴の元へと歩いていった。
「大丈夫、大丈夫っすから……」
柘榴は九十郎を右腕に、犬子を左腕で抱えると、
自力で歩く事すら困難な2人の背中を押しながらどこかへと立ち去っていく。
剣丞はその後ろ姿を呆然と見送る事しかできなかった。
「……アンタは、柘榴を、本気で怒らせた」
去り際に柘榴は、剣丞を仇でも見るような鋭い視線を向け、そう告げた。
ぞっとするぐらい鋭く、冷たい視線であった。
たった今、自分は彼女から不倶戴天の敵と認識されたのだと、剣丞には分かった。
……
…………
………………
この物語は『犬子と柘榴と九十郎』の物語である。
秋月八雲によって刻まれ、新田剣丞によって抉られるトラウマを心に抱える男、九十郎。
犬子をただの犬子と思えなくなった男、九十郎。
そんな九十郎が、犬子に力の限り『I love you』を叫ぶ物語。
そんな九十郎が、柘榴に魂を籠めて『I want you』を叫ぶ物語。
犬子と柘榴が、そんな九十郎にありったけの愛を注ぐ物語。
この物語は、九十郎が柘榴の力と想いを糧に、自らを蝕むトラウマを乗り越え、犬子をただの犬子として愛せるようになるまでの物語……『犬子と柘榴と九十郎』の物語。
「やめて……くれ……やめてくれよ……頼むから……」
九十郎は泣いていた。
柘榴に肩を預けながら、無様に、情けなく泣き続けていた。
九十郎の脳裏に、秋月八雲に跨って、淫らに腰を振る長谷河平良の姿が浮かんだ。
九十郎の脳裏に、新田剣丞に跨って、その男根を銜え込んでいた犬子の姿が浮かんだ。
九十郎の心を抉る2つの光景を何度も何度も思い出しながら、泣き続けた。
「捨てられる……捨てられちゃうよ……何で、どうして……どうしてこんな……」
犬子が震えていた。
一時とはいえ、愛する九十郎を忘れてしまった事も、一度とはいえ、愛する九十郎以外の男に抱かれてしまった事も、九十郎を深く深く傷つけてしまった事も、犬子にとっては耐えがたい苦痛だった。
そして何より、愛する九十郎に捨てられてしまうかもしれないという恐怖が、犬子を包み込んでいた。
「(どうすりゃ……どうすりゃ良いっすか、柘榴は……)」
そんな2人に肩を貸しながら、柘榴は歩いた。
左右から聞こえてくる嘆きと絶望の声が、柘榴の心を締め上げる。
柘榴は歩いた。
黙って歩き続けた。
実を言えば、彼女自身もどこに歩いているのか、どこに向かうべきなのかまるで分かっていなかったが、とにかく歩いた。
この物語は『犬子と柘榴と九十郎』の物語である。