「あ……」
近くの茂みから黒い影が飛び出した。
それが隠れて機会を窺っていた人間だと気づくよりも早く、少女の視界が反転し、暗転した。
「あ、この……はな……放すんだぜ……ぐぅっ!?」
少女に大柄な男性が覆いかぶさっていた。
少女はその勢いで後頭部を強く打ちつけ、目の前に火花が散ったかのような衝撃を感じた。
視界が歪み、意識が朦朧とする。
気絶しなかったのが奇跡のように思える程少女は弱っていた。
どうにか逃れようとジタバタともがくが、出血が増し、身体に激痛が走り、腕にも足にも力が入らない。
普段の少女ならばあり得ない不注意、ありえない不覚。
負け戦の疲弊、敗走による消耗、それが少女の注意力を削っていた。
腕力も握力も、普段の半分以下になっていた。
「放せぇっ!!」
こんな所で捕まる訳にはいかない、こんな所で死ぬ訳にはいかない、散っていった部下達のためにも、自分の帰りを待つ主君や友のために……しかし、傷ついた身体は、ボロボロになった武具は、名も無き雑兵一人跳ね除ける事すら困難にさせていた。
「こっちだぁっ!! 誰か来てくれ! こっちも一人捕まえたぞ!」
少女に覆い被さる男が叫ぶ。
人が集まってくる気配がする。
一刻も早く逃げ出さなければならないのに、普段の少女ならばこんな雑魚は1秒もかからず首を跳ねられるのに、少女は成す術も無くモゾモゾと手足をバタつかせる事しかできなかった。
「へ……へへへ……ボロボロだが、こいつ結構良い鎧してんじゃねぇか……
身分がある奴か……ついてるぜ……」
覆い被さる男が少女の両腕をがっしと掴み、捻じり上げながらぼそぼそと呟く。
下卑た笑みが、少女のプライドをガリガリと削る。
こんな奴に取り押さえられるなんて情けない、こんな奴すら跳ね除けられないなんて情けない、部下達や主君に合わせる顔が無いと……少女は死にたくなっていた。
「畜生……畜生、放せ……」
「何が畜生だ、志賀城の事を忘れたのか、武田の外道がよ」
「う、煩い! そんな事はあたいが……」
あたいが一番良く分かっている……そう言おうとして、少女は気づく。
志賀城の一件で一番苦しんだのは誰であったか、一番悲しんだのは誰であったかを。
自分は一番……この世で一番、志賀城の蛮行を分かっていなかったのではないのかと、分かったつもりになっていたのではないかと、少女は思った。
「やるじぇねえか、お手柄だぞ!」
「見ろよ、こっちも首を獲ってきたぜ。 武田の赤備えの首だぞきっと」
そして人が集まってきた。
全員が血走った目で少女を見下ろしている。
どす黒い、ヘドロのような、背筋も凍らんばかりの悪意や敵意、害意を感じた。
「あ、やめ……」
男達が数人がかりで、少女が着る陣羽織と鎧を力任せに引きちぎる。
連戦により消耗していた少女では、抵抗もできなかった。
度重なる戦いによりボロボロになっていた鎧は部品を繋ぐ紐や鎖が千切れかけており、いとも容易くバラバラのズタズタに引き裂かれてしまう。
「何だよ、ボロボロじゃねえかこの鎧。 あんまり高くは売れねぇかな」
胸当てが引っぺがされ、少女の乳房が露わになる。
九十郎が憐みの視線と共にそっと肩に手を当てるレベルの平坦さであった。
「へ、へへへ……貧相な体だな、こいつ……」
下着が引っぺがされ、女の部分が露わになる。
羞恥心から少女は両足を閉じるが、そんな儚き抵抗は、むしろ男の征服欲を刺激するだけだ。
「とっとと殺して首を持ち帰ろうぜ」
「いや、生かして領主様に引き渡した方が良いんじゃないのか」
男達が下卑た目で少女に視線を集中させる。
鎧も、陣羽織も、刀も槍も、下着すらも剥ぎ取られ、今の少女は全裸であった。
そしてこういう状況に陥った女が次に何をされるかは……知っていた、分かっていた。
「殺す前に楽しもうぜ」
……知っていた、分かっていた、楽しむとはどういう意味なのかを、これから自分に何をしようとしているのかを。
知っていたし分かっていたが、少女は喉の奥から怖気がこみ上げてくるのを抑えられなった。
先程少女に覆い被さり、抑え込んでいた男が言った。
反射的に悲鳴を上げそうになるのを少女は寸での所で堪えた。
嫌だとか、助けてくれとか、やめてくれとか、泣き言を叫びながら許しを請いそうになるのを、寸での所で堪えた。
「一回出したら交代だぞ、忘れんなよ」
「最近はこういう役得が無かったからな、10回は出せそうだ」
「へっ、ガバガバになっちまうんじゃねえか?」
「そん時はスパッと殺せば良いだろ」
少女を取り囲む男達が、ニタニタと笑いながら両手、両足をガッチリと抑える。
逃がす気はない、抵抗も許さない……少女の心は絶望に染まりそうになっていた。
その時、少女はふと、2人の男女が遠くからこちらを覗いている事に気がついた。
やたらとガタイの良い、筋骨隆々の男と、胸の大きい亜麻色の髪をした少女だ。
2人ともみすぼらしい恰好をしていたが、鍛えられていると、一門の武芸者に違いないと……一流の武芸者であった少女には分かった。
2人と少女の視線が交差した。
亜麻色の髪の少女が男の手を引き、助けに行かないのかと無言で訴えた。
ガタイの良い男は黙って首を横に振り、今まさに強姦させようとしている少女に背を向ける。
関わり合いになるな……その目が、仕草が、雄弁に物語っていた。
「あ……」
少女は僅かに肩を落とし、声を漏らす。
漏らしてしまう……直後、少女は余りの情けなさに死にたくなった。
いくら消耗していたとはいえ、いくら孤立無援だったっとはいえ、いくら今にも強姦され、今にも殺されそうな状況だったとはいえ、見ず知らずの人間に助けを請いそうになり、見ず知らずの人間に見捨てられた事に落胆しそうになったのだから。
「ふん……好きにすれば良いんだぜ」
最後の最後まで諦めない。
何度犯されても、何度膣内に注がれても、見知らぬ男の子を孕む事になろうとも諦めない。
必ず脱出の機会を見つけ、必ず生きて甲斐に戻る、主君の元へ帰るのだと……少女はそう決意して、絶望を振り払った。
「へ、へへへ……そうそう、大人しくしてりゃあ痛い思いはしなくて済むんだ。
すぐにアヘアヘ言わしてやるからよ」
少女の視界に、力尽き、ピクリとも動かなくなった赤備え……部下達の姿があった。
落ち武者狩りの連中が、まるで茸かドングリでも拾っているかのような気安さで、部下達の首を切り落としていた。
1人、また1人と首を打たれていくのを眺め、少女は静かに慟哭する。
走馬灯のように部下達との思い出が脳裏に流れる。
槍一つ握れないヒヨッコだった時期もあった、たった一刻走らせただけでヘバッていた頃もあった、一緒に悩んで、一緒に鍛えて、一緒に戦場を駆け抜け、武功を重ね、武田の赤備えの名を轟かせた戦友達……それが今、死んでいく。
彼ら、彼女らは自分を守る為に命を投げ出したというのに、自分はこうして捕らわれ、武器も防具も奪われ、犯されるのを待つばかり……余りの無力さ、情けなさに少女は死にたくなった。
涙が次から次へと零れ落ちた。
だが死ぬ訳にはいかなかった、諦める訳にもいかなかった……主君・武田光璃晴信と、刎頸の友・内藤心昌秀に誓ったのだ。
必ず生きて戻ると、最後の最後まで決して諦めないと。
それに何か急に謀反を起こして失敗して自害した姉、飯富虎昌の分まで生きなければ、家が潰れてしまう、武田の赤備えが潰えてしまう。
「ゴツゴツしてるかと思ったが、柔らけぇな」
少女に覆いかぶさる男が品定めをするように乳房を揉みしだく。
下種がと悪態をつきたかった、払いのけたかった、唾を吐きかけたかった。
背筋を伝う嫌悪感を必死に押し殺し、少女はあえて男の手に身を任せる。
少しでも体力を温存するために、無力な少女だと、反撃する気力も残っていないと誤信させるために……ほんの僅かな好機であろうと逃さないために。
「おい、ヤルならとっととヤッちまえよ、後がつかえてんだぞ」
「おお、悪い悪い……よっと」
男が少女の両足首を掴み、ぐいっと開脚させる。
親以外誰にも見せた事のない秘部に、大勢の男達の欲望に満ちた視線が注がれる。
「(耐えろ……耐えるんだぜ……ここで暴れても、ここで叫んでも意味がないんだぜ。
反撃の機会はきっとくる、きっと……)」
少女は祈るように瞳を閉じる。
本当に反撃の機会が来るかなんて分からない。
ここで体力を温存する事に意味なんてないかもしれない、無駄かもしれない。
だがしかし、少女はそんなか細い希望に縋る他なかった。
「おいこいつ処女だぜ! 膜が見えらぁ!」
覆い被さる男が、泥と汗と垢に塗れた汚い指先で、少女のワレメを大きく開かせていた。
寒気がした、吐き気がした。
それでもなお少女は耐えた、歯を食い縛って耐えた。
「マジかよ、運良いなお前!? おいちょっと俺に代わんねぇか?」
「へん、誰が代わるかよ。 役得役得……」
肉槍がムクムクと鎌首をもたげる。
今まで一度も男を受け入れた事のない未開の花園に、亀頭があてがわれる。
男根の温かさを感じた瞬間、ミシリと……心臓の辺りが軋んだように、少女は感じた。
「じゃあ、早速味合わせてもらおうか」
「一回出したら交代だぞ、分かってるな」
「分かってる、分かってるよ」
亀頭がゆっくりと少女の膣内に割り込んでいく。
ミシリミシリという音が少女の脳内に響く。
初めて受け入れる男性器に身体が悲鳴を上げているのか、心か魂が悲鳴を上げているのか、少女は口惜しさと悲しさで臍を噛んだ。
少女の目尻が涙で滲んでいる事に気づく者はいなかった。
「おい、こいつもしかして山県昌景じゃないか!?」
……しかし、少女の持ち物に描かれていた家紋に目ざとく気づく者は居た。
「丸に花菱の家紋に、赤い鎧の将って言ったら山県昌景だろ?」
「おいおいマジかよ!? 報奨金幾ら貰えるんだ!?」
男達が騒めく。
少女は……山県粉雪昌景は唇を強く強く噛み締め、家紋入りの薬篭を親の仇のように睨みつける。
今この瞬間、自分の価値が男達の中で跳ね上がった。
いくら無力な小娘を装おうとしても、この男達はそう易々と油断をしてはくれないだろうし、そう易々と逃がしてはくれないだろう。
それに村上に組する者にとって、山県昌景とは志賀城で3000人の降兵を虐殺し、その首を石垣に並べた腐れ外道の名前である。
恨みに思う者がこの中に居れば、今この瞬間に殺される事だってありうる。
「へへへ……武田四天王様の貫通式ってか? マジで運が良いなぁ」
粉雪に覆いかぶさる男が、再び腰に力を籠め、体重をかける。
粉雪の純潔の証が圧力に負け、ミシミシと引き裂かれていく。
もう駄目なのかと、粉雪が瞳を閉じる……
「フライング斎藤パァンチィッ!!」
……直後、粉雪の目に入ったのは凄い勢いでブッ飛んで来るマッチョな巨漢と、巨漢にブン殴られて凄い勢いでカッ飛んでいく強姦(未遂)男の姿であった。
「……え?」
「な、なんだてめぇは!? どっから来た!?」
突然の出来事に粉雪を取り囲んでいた男たちが狼狽する。
粉雪も何がどうなってこうなったのか全く理解できていない。
理解が追いついていないのだ。
辛うじて認識できたのは、今飛び込んできた男が、さっき目が合った2人の武芸者のうちの1人だという事だけだ。
「……正義、仮面ライダー2号」
お前はどこの一文字隼人だ。
そして一度は関わり合いになりたくなくてそそくさと立ち去ろうとした男に、正義を名乗る資格があるとでも思っているのだろうか。
一応、念のために書いておくが、乱入してきた男は一文字隼人ではない、九十郎だ。
「九十郎、いくらなんでもその名乗りは理解不能だよ」
亜麻色の髪の少女が苦笑しながら駆け寄ってくる。
武田四天王であり、精鋭赤備えを磨き上げてきた教官でもある粉雪は確信する。
2人とも、かなりの凄腕の剣客だと。
「てめぇらも武田の手の者か!?」
「武田とは縁も所縁もねぇよ、だが俺は山県昌景を知っている、一方的にだがな。
でだ……お前ら今、こいつが山県昌景だって言わなかったか? 言ったよなぁ?」
目が据わっていた。
これ以上面倒事に関わってたまるかという気だるげで面倒臭がりな目ではなくなっていた。
「こ……こいつが山県昌景だったら何だってんだ?」
「ころしてでもうばいとる」
「何で!?」
「こいつが山県昌景だからだ」
何の理由にもなっていないし、犬子も、粉雪も、男達も理解できていない。
だがしかし、九十郎にとっては山県昌景とはそれなりに重い名前であり、神道無念流を振るい、命を張るだけの理由になるのだ。
「犬子、お前はどっかその辺で待ってろ。 こいつは俺の自己満足以外の何物でもないぞ」
「嫌だよ、犬子と九十郎は一蓮托生でしょ。
九十郎に剣を振るう理由があるのなら、犬子も隣で戦うよ」
「ひーふーみーっと、全部で7人か。 俺が4人、犬子が3人だな」
「さっき九十郎が殴った人、まだ息があるみたいだよ」
「なら1人4殺だな」
「そうだね」
そして次の瞬間、九十郎の必殺技『斎藤卍キック』が炸裂した。
……
…………
………………
「ほい、これでラストと……」
ぐしゃりと、九十郎の必殺技『斎藤二段返し』を喰らって悶絶する男の顔面を踏み抜く。
結局この男は、最初から最後まで神道無念流の技を使わなかった。
舐めプであろうか。
8人の惨殺死体が転がる中で、上半身裸のマッチョマンと、下半身マッパの少女が向き合う……世が世なら通報案件だが、今は戦国時代である。
九十郎の殺人への忌避感は、まだ完全には消えていない。
だからといって女の子にトドメを刺す役をやらせるなよと言いたい所だが……まあ、人殺しに慣れきってしまうのに比べれば、まだマシかもしれない。
「ぶかぶかだが、今は我慢してくれ。
こっちは着のみ着のまま、予備の服は持ち歩いていないんでな」
「その……すまないんだぜ……」
力任せに引き裂かれ、鎧も下着もとても着れる状態ではなかったために、九十郎は粉雪に服を貸す。
その後ろで、犬子が蹴り倒されて悶絶する落ち武者狩りの男達の喉笛を切り裂いていく。
非情で冷酷な行いだが、戦国時代では良くある光景だ。
「女の子に服貸して半裸とか、どこのイナズマンだって話だよなぁ」
「いなず……?」
「ははは、戦国時代の人間にイナズマンは分からんか、まあ細かい事は気にするな。
それよりお前、本当に山県昌景なのか?」
「ああ、そうだぜ」
「何で山県昌景がこんな所で1人強姦されかかってんだよ」
「負け戦だよ。 御屋形様から殿を任されて……逃げ切れなかったんだぜ」
「ここは俺に任せて先に行けってか? ははは、典型的な死亡フラグだな」
「九十郎、そんな事を言ったら駄目だよ。 この人達が持ってた首って、たぶん……」
「ああ、あたいの家臣達だぜ……あたいだけ、生き残って……」
九十郎は心の中で案外だらしねえな赤備えと、非常に失礼な事を考えていた。
そして同時に、こいつをこのまま放置したら甲斐に戻る前に野垂れ死ぬんじゃあるまいかと……
「……長篠で死ぬって事は知っているが、こんな所で死なれたら後の歴史がどうなるか」
犬子にも粉雪にも聞こえないように、小さく呟く。
この男は放置しても図太く生き延びそうな人間は決して助けないが、放置したら死にそうな者が相手では案外有情だ。
歴史がどうこうというのは、自分を納得させるための言い訳なのだ。
「犬子、少しばかり寄り道をしても構わないか?」
「何言ってるのさ、犬子と九十郎は一蓮托生でしょ」
犬子はそう言って微笑む。
なんやかんやで長い付き合いだ、九十郎の性格は把握している。
九十郎が次に何を言うのかも、ちゃんと理解している。
「……ありがとな」
九十郎が犬子にそっと囁き、頭をわしわしと撫でまわす。
なんやかんやで長い付き合いだ、こうすると犬子の機嫌が良くなる事を九十郎は知っている。
「山県昌景……確か通称は粉雪だったな、俺と犬子を護衛に雇う気は無いか?
甲斐に戻るまで1人だと危ないだろ」
「ご、護衛……?」
思わぬ提案に粉雪が驚き戸惑う。
強姦され、殺されそうになっていた所を助けて貰っただけでも有難いのに、その上で護衛の提案である。
何か裏でもあるんじゃないかと勘ぐってしまう。
だが……何か裏があるとしても、縋らざるを得ない程、今の粉雪は進退窮まっている。
鎧は無く、刀はボロボロ、服は九十郎から借りた物が1枚あるだけで下着すら無い、何もかも打ち捨てて逃げ出したため、路銀も兵糧も底をつき、気力も体力も限界寸前。
粉雪の武術の腕前は武田でも随一であるが、今の粉雪はその辺の農民にすら負けかねない。
そしてこれまで毎日のように襲ってきた落ち武者狩り達が、今日を最後にパッタリと遭遇しなくなるなんて考える程、粉雪は楽観的にはなれなかった。
「今は金持ってねぇけど、甲斐に戻れたら必ず報酬は支払うんだぜ。
借金してでも、家財道具を売り払ってでも、だから……」
粉雪は言葉にこそ表さなかったが、最悪体を売ってでも金を作るつもりであった。
ついさっきまで敵に犯されて殺されそうになっていたのだ、少しでも生き延びる可能性を高めるためならば、犯されようが孕まされようが構わないとすら思っていた。
「いや、報酬は先払いで頂く」
だがそんな粉雪の計算を、九十郎は早々と打ち砕いた。
「え? いや、今のあたい素寒貧だぜ、払えって言われても……」
「何言ってるんだ、あるだろ支払えるものがよ」
そして粉雪はある可能性に思い至った。
ついさっき落ち武者狩りの男達に何をされそうになったか、今自分が何を考えていたか……こういう可能性は頭から抜け落ちていたなと、粉雪は思った。
「払える……ああ、払えるぜ……」
思わず両肩が強張った。
生きて戻る為ならば、見知らぬ男に体を売ってでもと決心した矢先にこれだ。
粉雪は自分の意志の弱さに嫌気が差した。
金のために体を売る事に比べれば、曲がりなりにも自分を助けてくれた男に抱かれる方がまだマシだ……粉雪は自分にそう言い聞かせた。
少なからず落胆し、失望もしたが、粉雪は諦めた。
世の中こんなものだよな……と。
「これで……良いか……?」
そして粉雪は九十郎から借り受けたばかりの袴をそっと脱ぎ捨てた……