第105話URL『https://syosetu.org/novel/105831/78.html』
第106話はエロ回ではありません。
第106話URL『https://syosetu.org/novel/105831/79.html』
「……へっ、手柄首が向こうから来てくれたか、運が良いぜ」
最悪の体調の中で、小夜叉がほくそ笑む。
謎の体調不良で第七騎兵団との戦いでは1人も殺せなかったのを取り返せると思い、両脚に活を入れ、人間無骨を杖代わりにして無理矢理立ち上がる。
あるいは倒れたまま死んだふりでもしていればやり過ごせたかもしれないが、小夜叉にとって二回連続の敵前逃亡は死と同義である。
「ギシャルルルゥ……ッ」
鬼と小夜叉の目が合った。
胃液を吐き戻しそうになるのを必死に堪えながら闘志を振り絞り、愛槍人間無骨を握り直す。
鬼も両腕の鋭い爪を光らせながら、小夜叉に飛び掛からんと身構える。
そして……
「うおおぉっ!!」
「グァルルゥッ!!」
小夜叉と鬼が同時に跳躍し、小夜叉は鬼を、鬼は小夜叉を狙い、得物を振るう。
ギャリィンッ!! という金属同士がぶつかり合うのに似た音が響き……鬼の肩と、小夜叉の胸当てに小さな引っ掻き傷ができた。
柘榴や粉雪を襲った鬼と違い、小夜叉の前に立つ鬼は何の変哲も無い普通の鬼だ。
普段の小夜叉であれば容易かつ即座にあの世に送る事ができた。
小夜叉はいつも通りに鬼の喉笛を引き裂こうとした。
しかし、切り結ぶ直前に眩暈がして狙いが外れ、肩の傷も皮一枚と言って良い程薄い。
当然、その程度では鬼を絶命させる事はおろか、行動を阻害させる事にも至らない。
「く……そ……」
小夜叉が小さく悪態をつく。
小夜叉は自身が本調子でない事を理解せざるを得なかった。
そして同時に、九十郎から貰った鎧自分を救ってくれた事も。
いつものマッパ同然の装備だった即死していた。
『ほぅ……あの森可成の娘か。
あるいは蘭丸のような特別な鬼子が生まれるやもしれんなぁ』
そんな中で、吉野の念波が鬼に届く。
吉野はその超能力によって支配下の鬼の見たもの、聞いたものを感知でき、しかも遠く離れていても命令を出す事もできるのだ。
『面白い、そいつも犯せ、犯して鬼子を孕ませろ』
吉野の非常な命令が下る。
同時に鬼が小夜叉を犯すため、ゆっくりと近づいていく。
『……て、こら化外!! 朕が考え事をしている時に齧るな!』
『う、美味い……美味すぎますぅっ!!
まるでミルフィーユのように何重にも重なる旨味のハーモニーッ!!
まるで口の中で解けて蕩けるような素晴らしい食感っ!!
ああ、こんな円熟した旨味は今まで食べた事がありませんっ!!
指一本でこれだなんて、頭から齧ったらどれだけ美味しいんですか貴方ぁっ!!』
『ええい離れんか! 朕を誰だと思うておるか!?』
『カロリーが回復するぅっ! 細胞が進化するぅっ!!』
『離れろ化外いいいぃぃぃーーーっ!!』
若干ピンチっぽい雰囲気の念も飛んできて、鬼が心配そうに虚空を見つめるが、気を取り直して小夜叉に向き直る。
その視線の動きから、急に勃起した肉棒から、小夜叉は直感的に理解した……こいつは自分を犯すつもりだと。
「ちっ……」
背筋が凍りそうになる。
嫌でも思い出してしまう、母である森桐琴可成が鬼に犯され、孕まされ、腹を破裂させて死にかけた瞬間を。
嫌でも思い出してしまう、蘭丸に犯され、快楽で精神を崩壊させていく自分の姿を、新戸や綾那を見捨ててサキュバスから逃げ出してしまった過去を。
吐き気を、怖気を、恐怖を押し殺し、小夜叉がもう一度人間骨無を握りしめる。
しかし……
「ぐぅ……あぁ……!!」
身体全体を使ったぶちかましを避けられず分厚い鎧ごと小夜叉が吹っ飛んだ。
口一杯に血の味がした。
衝撃で口の中を切ってしまったのだ。
普段の小夜叉なら簡単に避けられたし、逆に鬼の心臓に槍を突き立てる事も容易に出来た。
鎧が重かったのもある、鎧の調整が不十分だったのもある、熱中症で意識が朦朧としていたのもある、しかし何よりも、急に勃起した鬼のちOこを直視した瞬間、小夜叉は恐怖の余り身を竦めてしまっていた。
だから避けられなかった。
そして小夜叉が立ち上ろうとした瞬間、鬼がさらに距離を詰め……押し倒された。
「ぐ……うぅ……は、離せ……」
普段の小夜叉なら、鬼の股間を蹴っ飛ばして脱出できた。
しかし、今の小夜叉の体調は最悪。
それこそ綾那にボコられた柘榴と粉雪同じか、それ以上に疲弊していた。
そして小夜叉にとってさらにさらに不幸な事に……
「グルアァアッ!!」
鬼が小夜叉の鎧の一部……股間の部分を覆っていた個所を力任せに引き裂いた。
「あ……やめろ! 見るなぁっ!!」
小夜叉の声を無視して、鬼が刀剣並みに鋭い爪で下着を切り裂く。
小夜叉にとって一番隠したい部分が、女が男と交わり、子をなすための部分が、女の性器が露になった。
小夜叉にとってはさらにさらに不幸な事に、股関節の周りは可動性を確保するために他の部分よりも継ぎ目が多く、他の部分よりも強度に劣っていた。
それ故に鬼の腕力があれば無理矢理引っぺがす事ができたのだ。
「くっ! このぉっ!!」
全身を分厚い鋼鉄の鎧で覆いながらワレメの周りだけは無防備という、普段の小夜叉以上に痴女っぽい恰好にされ、小夜叉が半狂乱になって暴れ出す。
あるいは金ヶ崎の以前、サキュバスの夢の以前の彼女であれば、平然としながら鬼の首を切り裂いたかもしれないが、今の彼女は男に犯される事への恐怖で身体が強張り、とても平静ではいられない。
「やめろっ! 離れろぉっ!!」
小夜叉は必死に力を籠める……だがしかし、比較的脆い部分だったとはいえ、鋼鉄製のフルプレートアーマーを引き裂く程の巨力を持つ相手なのだ。
熱中症でヘロヘロの小夜叉では押し返す事ができなかった。
「ひっ」
暴れている内に、鬼のちOこが目に入る。
思わず背筋が凍る。
脳裏に小夜叉のトラウマが蘇る。
「グルルルルゥ……」
硬直した一瞬で、鬼は股間の逸物を片手で持ちながら両足の間に割って入り、膣口に亀頭を押し当てた。
「や、やめ……ろぉ……」
小夜叉が挿入だけは防がなければと、渾身の力を籠めて引きはがしにかかる。
しかし、やはり鬼の巨力は小夜叉を大きく上回っていた。
「あんっ……あぐっ……」
ずぷり、ずぷりと、肉棒が小夜叉のナカをかきわけ、奥へ奥へと進んでいく。
じたばたと手足を動かすも、虚しく空を切るばかりだ。
「あ、やめ……うぁ……」
ずぷり、ずぷりと、さらに肉棒が奥へ奥へと挿入されていく。
異物が膣内に侵入してくる感覚に、小夜叉は寒気がして、怖気がした。
そしてついに……みちりと、亀頭の先端が小夜叉の処女膜にまで触れた。
「離れろっ!! 放せえええぇぇぇーーーっ!!」
小夜叉が半狂乱になり、両手両足に渾身の力を籠める。
熱中症でふらふらになりながらではあるが、小夜叉は最後の力を振り絞って抵抗をした。
しかし……
「あ……」
ぶちりっと、膜が引き裂かれる感覚がした。
そしてその直後、亀頭が小夜叉の最奥部まで割って入り、子宮口にまで達してしまう。
「け、剣丞……」
小夜叉は思わず、密かに憧れていた織田の天人……新田剣丞の名を呟いた。
ハジメテの証を破られる痛みは、大したことが無かった。
出血もしたが、大したことが無かった。
戦場で矢が刺さった時や、槍が刺さった時の方が何倍も、何十倍も痛かったし、流血した。
その代わり、心が張り裂けそうな程に痛かった。
『良いぞ、そのまま続けよ、そのまま最後まで……
って貴様に言った訳では無いわ化外!! 脛を齧るなぁっ!!』
『噛めば噛むほどジューシィな味が口一杯に広がってぇ!
噛んだ時の弾力も心地よい……ああっ! なんて素晴らしく口当たりの良い食感っ!』
若干……を通り越して生命の危機レベルのピンチっぽい念を無視して、鬼は小夜叉への凌辱行為を続行する。
「グルルゥァア……」
鬼が一旦腰を引き、膣口近くまで肉棒を引き抜くと、まるで鐘撞のように勢いをつけてちOこを膣内に突き入れる。
何度も何度も突き入れる。
「ぐぁ……ううぅ……」
激痛がした。
気持ち良さはまるでなかった。
事前準備もまるで無く、愛液による潤滑がまるで無い状態で、力任せの抽送がされていた。
膣肉がカリ首に巻き込まれ、それこそ内側に擦り傷ができたかのような激痛を生じさせた。
「グラァウゥ!! グアアァッ!!」
しかし、鬼の皮膚が強靭だ。
肉棒すらも常人のモノよりも遥かに硬く、太く、長い。
潤滑がまるでない女の膣内に無理矢理突き入れたとしても痛みは無いし、むしろ刺激が強まって気持ちが良いとすら感じていた。
「がっ! ぐぅあ! うあぁっ!」
鬼が貪欲に快楽を求め、野獣のような激しさで抽送を繰り替える。
膜を破られた時と同じ……いや、それ以上の苦痛が小夜叉を襲っていた。
「(ち、ちくしょう……ぬ、濡れ始めてやがる……お、鬼に犯されてるってのに……)」
しかし、身体の痛み以上に小夜叉の心を苛むのは、膣内の痛みが少しずつ和らいでいた事だ。
痛みに慣れていったのもあった。
だがそれ以上に、膜を破られた事による出血と、鬼の鈴口から漏れ出る先走り汁、そして小夜叉の女の部分が僅かだが確実に愛液を分泌し始めていたからだ。
「グオオオォォォッ!!」
鬼が雄叫びをあげ、さらに深く、激しく、抉るように肉の槍を小夜叉に突き立てる。
「ぁ……ぁん……」
その時、ほんの一瞬だけ、小夜叉は喘ぎ声を漏らしてしまった。
ほんの少しではあるが、気持ち良いと感じてしまった。
女の快楽を感じてしまった。
その瞬間……小夜叉の心は折れてしまった。
「(あ~あ、オレもここまでか……遺書を用意してりゃ良かったな……)」
鬼のちOこが挿入され、抽送される光景を、小夜叉はどこか冷めた目で見つめていた。
全身から力が抜けきっていた。
自分はここで死ぬのだと……全てを諦めてしまっていた……
「(オレも母みてぇに、孕まされて、ハラが破裂して死ぬのか……
たくっ、もう少しマシな死に方が良かったぜ……)」
小夜叉は勘違いをしている。
確かに鬼の生死は女を確実に孕ませ、鬼子を産ませるが、ハラが破裂して死ぬような事には滅多にならない。
蘭丸という途轍もなく強力な鬼子を孕んだ桐琴が特殊な事例だっただけだ。
しかし、自分の母が鬼に犯され、鬼に孕まされ、腹を破裂させて死にかけた光景があまりにも強烈に印象に残り、鬼に犯される事と腹を破裂して死ぬ事はイコールで結ばれている。
「……ふっ……うううっ! あうっ!」
快楽を押し殺そうという気持ちを、喘ぎ声を抑えようという気持ちも萎えてしまった。
好きに犯せば良い、好きなだけ孕ませれば良いとすら思ってしまっていた。
鬼のカウパーがさらに漏れ出す。
鬼の抽送がさらに激しくなる。
鬼は既に絶頂寸前にまでなっていた。
「ガアアァァッ!!」
そして鬼が一際大きな叫び声を出した。
鬼のちOこがぶくっと膨らみ、玉袋がうねった。
鈴口が一際強く小夜叉のおOんこに押し付けられた。
そして次の瞬間、膣内射精すれば必ず女を孕ませる鬼の精液が精巣を出て、射精管を通過し、尿道を迸り、ついに鈴口から……
「……ジガイシロ」
その声が聞こえた瞬間、ぞくりと背筋が凍った。
鬼のちOこが膣内を分け入り、処女膜に触れた時以上の強烈な寒気だ。
その声が聞こえた瞬間、鬼がまるで弾き飛ばされるかように小夜叉から離れる。
膣口からちOこが引き抜かれ、空中でびくんっ、びくんっ、と脈打ちながら、精液を放射する。
そして一通り射精が終わると動きがぴたりと止まり……鋭い爪を自ら喉笛に突き立てた。
凄まじい量の鮮血がまるで噴水のようにまき散らされ、そのまま鬼は絶命した。
「助けてほしそうな顔をしていたから助けたけれど……余計だったかな? 姉さん」
気がつけば1人の鬼……いや、鬼子が小夜叉の隣に立っていた。
会うのは初めてであったが、小夜叉はそれが森蘭丸と呼ばれる鬼子であると分かった。
新戸が見せた記憶の中で、小夜叉をイキ狂わせた鬼子がそいつだったからだ。
「ぅ……あ……」
脱水症状により、あるいは虎口を脱して気が抜けたのか、小夜叉は声を出す事すらできなかった。
目の前にいるのが蘭丸だと分かっても、小夜叉にはどうする事も出来なかった。
小夜叉の心に恐怖が蘇り、絶望が覆い始める。
そんな小夜叉の心を、優れた読心能力を持つ蘭丸には分かった。
蘭丸はふぅっとため息をつくと、小波の御家流が暴走した時に落命した、第七騎兵団の死体や八咫烏隊の死体から、水筒を5~6本程取り上げた。
「死人に水は必要無いからね。 まぁ、姉さんが困っているんだ、悪く思わないでほしいな」
蘭丸はにこりと笑って、小夜叉の顔を覆っていたバイザーを引っ張り上げて、口元に水筒をくっつけた。
「んぐっ……ううん……」
全身が蘇るような感じがした。
喉を通り、胃を満たす水の感覚が心地良かった。
その辺に転がっていた死人から奪った水で無ければ……だが。
「お前、何で……いや、お前、敵なのか?」
水を飲み、少しだけ気力と体力を回復させた小夜叉が、蘭丸にそう尋ねる。
まず最初に尋ねる事が敵か味方かという所が、基本ヒャッハーな森一家の彼女らしいかもしれない。
「私は敵対したくないんだけどね、本当は。
だけど姉さんの友達の同類……確か、新戸だっけ?
あの娘が私の顔を見る度に殺しに来るんだよ。
私はただ、本当の愛を探しているだけなのにね」
「本当の愛……? 何だよ、本当の愛って?」
「それは私が知りたい。 だけどある筈なんだ、どこかには必ずある。
桐琴は早々に探すのを諦めたけれど、私は決して諦めない。 決してだ」
「母が諦めた……?」
逃げるとか、諦めるとか、そういう後ろ向きの言葉とは無縁の母だ。
小夜叉は蘭丸の言葉を俄かには信じられなかった。
「諦めたんだよ、姉さんが生まれた日を境にね」
「お、オレが……生まれたから……?」
小夜叉がさらに動揺する。
蘭丸はその読心能力で小夜叉の心の動きを感知すると……
「……桐琴は、姉さんが思っているような立派な人じゃないよ」
蘭丸が少し悲しそうに呟いた。
桐琴の心の闇……心の奥底にヘドロのようにへばりついたドロドロとした暗い感情を糧に生まれた鬼子が、小夜叉の姿を憐れんでいた。
「ねえ、姉さん。 桐琴は何を言っていた?
代々住み続けてきた美濃から離れ、織田信長に仕える事にした理由をさ」
「そ、それは……より多くを殺すために、
尾張の織田信長は敵が多いから、槍が乾く事が無いって……」
その言葉を聞いた瞬間、蘭丸はもっと悲しそうな眼をして、ため息をついた。
「それは姉さんに説明するために、後から捻り出した言葉に過ぎないよ」
「何だって!?」
小夜叉が驚愕する。
良く言えばヒャッハー、悪く言えばヒャッハーである森一家の頭領として、桐琴の説明は理にかなっているものだった。
それ以外の理由があるなんて考えた事も無ければ、想像した事も無かった。
「松波庄五郎……ああ、姉さんには斉藤道三って呼ばないと分からないかな?
言っていたんだよ、織田は伸びると。
特に嫡子の吉法師……要は久遠の目の輝きが素晴らしいとね。
だから道三は自分の娘を久遠に差し出し、
将来的には美濃を譲るなんて手紙を書いてまで、久遠と手を結ぼうとしたのさ」
「それが母と何の関係があるんだよ!?」
「斉藤道三だって、姉さんが思ってるような立派な人物じゃないよ。
あの人は誰に土下座をすれば効率良く上に行けるかを直感的に理解できた。
後はそうだね、槍を振るう才能と、美味い儲け話を探し出す才能もあった。
でもあの人の才能はそれだけさ」
「だから、それが母と何の関係が!?」
「土岐頼芸を追放し、美濃で一番偉い立場になった瞬間、あの人の長所の8割が死んだ。
だってそうだろう、自分より偉い誰かに土下座することができなくなったんだから。
槍を振るう才能だって、国主にとって必要な才能ではないからね。
いや、美濃の国主になってからの道三のグダグダっぷり、迷走っぷりは笑えるよ。
道三本人も駄目だこりゃと頭を抱えた。 そして恥も外聞も捨てて、
己の全知全能を振るい、探し出した土下座の先が……織田久遠信長だったという事だよ」
「………………」
小夜叉がついに黙りこくる。
嘘だと、出鱈目だと言い返したかったが、基本的にヒャッハーしかない小夜叉では、何を言えば良いのか分からなかった。
「桐琴がかつて土岐頼芸に仕えていた事は知っているね?」
小夜叉が頷く。
猛烈な嫌な予感がした、聞きたくない事を聞かされる予感がした。
だがしかし、小夜叉は話を遮る事ができなくなっていた。
「道三が土岐頼芸を追い出した時、桐琴がその手伝いをしていた事は知っていたかい?」
小夜叉が首を横に振る。
良く言えばヒャッハー、悪く言えばヒャッハーな森一家の頭領が、主君追放という陰謀の片棒を担いでいたなど、俄かに信じられる事ではない。
しかし、小夜叉には蘭丸の言葉を嘘だと断じる事ができなかった。
「そして今度は、道三が織田久遠信長に土下座をする手伝いをするために、
美濃を離れ、久遠に仕える事にした……そう言ったら、信じるかな?」
小夜叉は……首を縦にも、横にも振らなかった、振れなかった。
「全ては、姉さんを守るためにやった事なんだよ。
土岐にも斎藤にも後がない、全てを投げ打って、
織田久遠信長に土下座してでも生き延びたい。
生き延びて、姉さんを守りたい、姉さんの成長を見続けたい。
くだらないっ!! 本当に本当にくだらないっ!!
かつてはあれほど強く強く本当の愛を渇望していたというのにねぇっ!!」
一瞬、蘭丸の顔が狂気に歪み、狂喜に歪んだ。
喜ばしいが、腹立たしい。
憎らしいが、愛おしい。
そんな相反する2つの感情が全く同比率で混在するかのような、奇妙は表情であった。
「ま、良いんだよ今となってはどうでも。
桐琴が諦めてようが何だろうが関係無い、私は私で探すだけさ、本当の愛をね」
小夜叉と蘭丸が沈黙する。
何とも微妙な空気であった。
少なくとも、小夜叉には蘭丸から敵意を感じなかったし、
新戸が言うようなサーチアンドデストロイ必須な危険な鬼子とは思えなかった。
むしろ新戸のような、話が通じる理性的な鬼のように感じた。
「で、私としては降りかかる火の粉を先にキッチリ払っておこうと思う訳だけど。
姉さんは何か知ってない、あの新戸って娘が私に襲い掛かってくる理由をさ」
「そ、それは……それは、だな……」
蘭丸の問いに対し、小夜叉が思考を巡らせ、慎重に慎重に言うべきことを吟味して……
「ああ、良いよ別に答えなくても。 今、姉さんの頭の中を読んだからね。
そうかそうか、別の世界の私が色々とヤンチャしてたって事か。
別の世界ってのは良く分からないけれど……
まあ、良いや、とにかくあいつは私の敵だって分かった」
蘭丸が小夜叉の考えた事を全て読み取った。
薄気味の悪さが小夜叉を襲う。
「でも、そうだとすると関係の改善は難しいねえ。
私は本当の愛を探さないといけない、手段を選ぶつもりはない。
しかし新戸の能力は底が知れない。
姉さんが知っている限りの事は全て分かったけれど、
姉さんが知らない奥の手を隠していても全く不思議ではない。
だとすると……やっぱり、今姉さんを洗脳するのは博打になるかな」
恐ろしい目をしていた。
自分以外の人間すべてをゴミか虫けらのように見下している目であった。
小夜叉は思わず息を呑んだ。
こいつは、蘭丸は……必要だと思ったら自分でも即座に洗脳し、手駒にするのだと理解した。
人間とは別種の生物だと理解した。
理解させられてしまった。
「お前……何をする気だ……?」
「姉さんには教えられないかな、今はまだ……ね」
「ちょっと前に、犬子が急に剣丞に抱かれててんやわんやの騒ぎになったの、
お前の仕業なのか!?」
小夜叉がヘロヘロの身体を無理矢理動かし、蘭丸に詰め寄る。
蘭丸はその気になれば一瞬で自分を洗脳できると知っていたが、それでも小夜叉は詰め寄った。
もしも犬子を泣かせ、剣丞や九十郎を苦しめた原因がお前だったらタダじゃおかないと、刺し違えてでも殺してやるという気持ちで詰め寄った。
蘭丸は再び小夜叉の思考を読み取り……
「私じゃない」
……そう告げた。
「な……に……!?」
「あの日、私は確かに越後にいた。 だけど違う、私は関与していない。
下手人は別にいる」
小夜叉が絶句する。
ずっと蘭丸の仕業だと思っていた。
犬子は心から九十郎を愛していた。
それが急に剣丞に抱かれたと聞いた時、きっと誰かに何かをされたのだと思った。
蘭丸が洗脳と催眠の能力を持っていると知り、さらにあの事件が起きた時も越後に来ていたと聞いた時、間違いなく蘭丸の仕業だと思った。
だがしかし、その蘭丸が『私じゃない』と告げたのだ。
元より考えるのは得意な方じゃない事もあり、小夜叉の頭は混乱の極みに達していた。
「じゃあ一体誰がやったんだ!? 何が起きたんだよ!?」
「それは私も興味がある。
私以外にそんな真似ができる奴がいるだなんて、ちょっと信じられない。
まあ、現在進行形で降りかかっている火花を払ったら、ゆっくりと調べるとするよ」
そう告げた瞬間……蘭丸は突如、煙のように姿を消した。
「え、あ……? な、に……?」
小夜叉が目を白黒させながら周囲を見渡すが、蘭丸の姿はどこにも無い。
蘭丸の姿は、小夜叉の網膜にしっかりと映っている。
しかし、催眠術の応用で、小夜叉は網膜に映る美しき鬼子の姿を、森蘭丸と認識できなくなっているのだ。
「しばらくお別れだ、姉さん。 少し心苦しいけど、たぶん次は敵と敵だろうね」
そんな声が聞こえたのを最後に、周囲に静寂に戻った。
鳥の声も、虫の声も、人の声も、鬼の声も全く聞こえなくなった。
あるのは剣丞隊と、森一家と、八咫烏隊と、風魔忍軍と、第七騎兵団の死体だけであった。