その日の夜遅くの事……
「んぅ……はぁ、うぅ……んんぅ……」
ずぷっ、ずぷんっ、と女の肉ヒダが掻き分けられ、
九十郎の逸物がナカへナカへと進んでいく。
入念な前戯によってほぐされた秘所は、容易く九十郎ちOぽを受け入れていた。
「あん、んんぅ……ふあぁ……」
じきに、亀頭が最奥部、子宮口を叩いた。
その衝撃はほんの小さな衝撃であったが、
男と女の秘部がキスでもするかのように密着する感触は、
2人の人生の中でも特に衝撃的なものであった。
そう……
「……詳しい経緯は省略するが、現在俺は竹中半兵衛のナマまOこに挿入している」
九十郎が虚ろな目でどこか遠くを見つめながらそう呟いた。
この男のちOこは、剣丞の嫁の1人で、剣丞が最も信頼し、愛する少女である竹中半兵衛・通称詩乃のワレメに見事に挿入されていた。
それはもうずっぷりと、ぬっぷりと、言い訳のしようがない位に奥の奥まで挿入されていた。
「じゃねーよっ!! どういう事だよっ!! 何がどうしてこうなったぁっ!?
一二三か!? テメェの仕業か一二三ぃっ! 出て来い一二三ぃっ!!
出てきてくださいお願いします! 300円あげるからあああぁぁぁーーーっ!!」
そんな九十郎の女々しい叫び声が、オンボロの掘っ建て小屋に木霊した。
「いかがしましたか?」
詩乃が潤んだ瞳で自らを組み伏せる九十郎を見上げてそう尋ねる。
普段の信念のある瞳ではない、軍師竹中半兵衛としての顔ではない、剣丞以外の男には決して見せない女の顔……明らかに異常な顔であった。
「いかがしましたかじゃねぇよっ! どうなってるんだって俺が聞きてぇよっ!!」
そう叫んだ直後、九十郎はハッと我に返る。
自分のちOこが竹中半兵衛の膣内にずっぷしぬっぷし挿れられている事を再認識する。
「(や、やばい、このまま勢いで膣内射精が最悪のパターンだ。
逆に言えば膣内射精だけ避ければ後はどうにでもなる……
微妙にならないような気もするけどとにかく膣内射精だけは避けよう、そうしよう。
と、とりあえず引き抜こう、そしてダッシュで逃げよう)」
九十郎は僅か5ミリ秒で保身感満載の結論を出し、
すぐさま詩乃の子宮口と濃厚に密着中の肉竿を引き抜こうとした……が……
「いけませんっ!!」
閨の中でも彼女は天才軍師・竹中半兵衛である。
僅か1ミリ秒で九十郎の保身的思考を察知し、逃げ道を塞ぐように両手両脚で絡めとる。
「ちょ、ちょっと待って! お願いだから待って!
せめて状況把握だけはさせてくれっ!!」
九十郎もほぼ唯一の長所である腕力にモノを言わせ、無理矢理引っぺがせば良いものを、華奢で弱々しく、その上歴史上の有名人でもある詩乃を相手には本気を出せず、どうしても脱出に苦慮してしまう。
詩乃も脱出させまいと全身に力を籠め……自然と、膣内がぎゅーっと締まる。
「はうっ!?」
思いがけず襲い来る快楽の波に、九十郎が目を白黒させた。
脱出に気を向けていたせいで不意を衝かれ、早くもそのナカに精子を漏らし……
「……あっぶねぇっ!?」
……気合と根性で自らの愚息と生殖本能をねじ伏せ、数滴の先走り液が詩乃のヒダヒダを僅かに湿らせる程度で留まった。
「や、やべぇ……この体勢は流石にやばいぞ。
このままじゃ膣内射精も時間の問題なんじゃ……」
ぜぇはぁと大きく息を見出し、滝のような脂汗を流しながら、九十郎は戦々恐々とした様子で呟いた。
さっきは気合と根性でこみ上げる射精感をねじ伏せるのに成功したが、そう何度も今のような無茶が通じる訳ではない。
しかも九十郎にとって最悪な事に、詩乃のナカは魔性とすら思える名器であった。
「(やべぇ、この締まり具合、ヒダヒダの感触、動いてねぇのに普通に気持ち良い……
しかも今まで前髪で隠れて良く見えなかったけど、顔は普通に美人じゃねぇか。
ま、マジで膣内射精して妊娠させちまうかも……)」
九十郎の頭の中で焦りの色がどんどん強まる。
そんな九十郎を追い立てるかの如く、詩乃の膣内はぐにゅりぐにゅりと胎動し、いやらしく、いやらしく男根を責め立てていた。
「んぅ……あんっ……ふあぁっ……」
両足で九十郎の胴体を拘束し、膣内を締め上げ、絞ると同時に半強制的にピストンに似た上下運動をさせていく。
傍から見ると九十郎が詩乃を組み伏せ、犯しているかのように見えるが、実質は詩乃が九十郎を制圧し、犯していた。
「やばっ、うおぉ……ふっ、くぅっ……ま、拙い普通に気持ち良いぞ。
天才軍師様はアッチの方も天才でしたってか? 洒落にならんぞ……ぐうっ!!」
九十郎は必死に歯を食い縛って、鈴口に渾身の力を籠めて、どうにかこうにか射精だけは堪えて、防いでいる。
しかし、詩乃が腰を揺さぶり、カリ首が女のヒダヒダの中を前後に往復する度に、九十郎の射精感は2倍に、4倍に、8倍に、そして16倍にと、際限無く加速していく気すらした。
「あぅああんっ! ふぅあぁっ! あん、あふあぁあぅん!」
演技なのか、マジなのかは九十郎には分からなかったが、詩乃の喘ぎ声が徐々に大きくなり、全身が紅潮し、白熱していく。
全身が密着し、汗まみれの肌の感触が九十郎を襲い……それすらも竹中半兵衛とセックスしている自覚をより強くさせ、九十郎を絶頂に導いていく。
「や……べ……で、出る……出ちまう! 膣内(ナカ)に、で、出るぅ……」
視界が真っ白になっていく。
左右の睾丸が別々の意思をもったかのようにぎゅうぅっと蠢く。
そして射精管がポンプのように脈打って、詩乃の子宮へと精液を……
「く、うぅ……と……止まれってのぉっ!!」
あわや暴発、あわや膣内射精かと思われたその瞬間、九十郎は詩乃の胸と腰を鷲掴みにして、無理矢理腰の上下運動を制止した。
「あ、やべ……」
九十郎の額に冷や汗が流れ落ちる。
制止のタイミングはギリギリアウトであった。
九十郎は軽くイッてしまっていた。
びゅるるるるっ!! と勢い良く……とまでは言わないが、ぴゅるっと小さく肉棒が震え、僅かに精液を詩乃のナカへと漏らしてしまっていた。
第2第3の射精の波だけはギリッギリで止めた点だけは褒めても良いかもしれない
「(こ、これ以上は流石に拙い、あと一回でも暴発したら剣丞と美空に殺される……
ていうか、今この時点でも殺されかねんっ!! 何とか脱出しねぇと……)」
どうにか詩乃おまOこから抜け出そうと身体を揺するが、詩乃の両脚が蟹鋏の如く九十郎の胴体を捉えて離れない。
それどころか、肉棒を引き抜こうと動けば動く程、亀頭と膣壁が擦れ合い、膣圧できゅうぅっと締め上げられ、またもや睾丸から抑えきれぬ程の射精感が込み上げてくる。
「くっ……せ、正攻法じゃ無理か……」
ここにきて九十郎は悟る。
普通にちOこを抜こうとしたら、抜ける前にヌいてしまうと。
しかし、ここで珍しく九十郎が知恵を働かせる。
「なあ半兵衛、何でそこまで必死なんだ?」
基本空気を読まず、他人の感情や表情を見ようとしない九十郎ですら気づいた。
何かおかしいと。
瞬間、詩乃の心臓が跳ねた。
軍師としての矜持からか、女の意地なのか、表情の変化はごく僅かに留まった。
「私の事も、『半兵衛』なのですね」
少し落胆した様子で、詩乃が呟く。
それは閨の中での演技なのか、本心からの言葉なのか判断がつかなかった。
九十郎にも、詩乃自身にも分からなかった。
「ああ、悪い、詩乃って呼んだ方が良かったか?」
「いえ、今宵だけ、この一晩だけはお好きにお呼びください。
今宵だけ、私は貴方様の女なのですから」
「そうかそうか、ところで俺、詩乃に俺の女になれって言った覚えねぇんだけど」
「私達は流浪の身の上です、他にお支払いできるものがありませんから」
「支払いって何だよ、俺はお前に何か貸した覚えもねぇし、売った覚えも……
おい待て、まさか一二三の奴、勝手に俺の持ち物売ったりしてねぇよな!?」
よもや四斤山砲の試作品とか、ドライゼ銃の設計図とか、ハーバー。ボッシュ法の説明書とか、この時代の技術を二歩も三歩も進歩させる秘密道具を勝手に持ち出し、勝手に竹中半兵衛に売ったのではと蒼褪める。
普通にやりかねない所が一二三の怖い所である。
「違います。 私達は2度も貴方に命を救われています。
大きな恩義があります。 ありがとうの言葉だけでは済ませられません」
九十郎は思った、むしろありがとうの一言だけで終わらせてくれた方が嬉しかったと。
サインの一枚でも書いてくれたら小躍りして喜ぶと。
「……て、あれ? すまん、冷静になって考えたら助けた覚えもねぇんだけど」
「美空様に土下座をした日に一度、犬子さんに襲われた時に一度です。
まさかとは思いますがお忘れですか?」
「あ……んん……あーっ! あぁーっ! アレかぁ!?」
そう言われて、素で忘れていた2つの出来事を思い出す。
美空に土下座して(第75話)、犬子とチャンバラして(第102話)、九十郎は確かに剣丞を助けに行った。
その2つの出来事があった時、いずれも詩乃が剣丞の傍にいた事も思い出した。
あの時も、あの時も、九十郎はこのままじゃ剣丞が死ぬと思い、必死になって美空に土下座して、犬子をボコって剣丞を助けたのだと。
「まあ、考えようによっちゃ、俺は剣丞の命の恩人と言えなくもないな……」
「はい、ですのでどうかご存分にお使いください」
詩乃がもう一度九十郎のデカい身体に抱きつくように身を寄せて、膣のヒダヒダを剣丞のモノより微妙に短く、細い残念ちOこにこすり付ける。
「ひぎぃっ……!?」
不意打ちに近いタイミングで生まOこの愛撫を喰らい、九十郎がまたもや込み上げる射精感に襲われる。
体位としては九十郎が詩乃を押し倒しているように見えて、実態は詩乃が九十郎の弱点を握り、翻弄している。
「(や、やべ、また出そうになっちまった……
い、一刻も早く逃げねぇと、剣丞を助けたのが原因で剣丞に殺される!)」
九十郎にはお似合いの末路である。
「ま、待て! 落ち着け! ヤレばデキるって言葉はこの時代でもあるだろ!
今日のコレが原因で妊娠したらどうするつもりだっ!?」
「……ぅ」
一瞬、詩乃の動きが止まる。
一瞬、詩乃が動揺する。
しかしその後、詩乃は顔を真っ赤にして、肩を強張らせ、勢いをつけて九十郎の両肩を押して体勢を逆転させた。
火事場の馬鹿力か、九十郎が動揺していたせいか、およそ3倍近い体格差、体重差がひっくり返った。
「忘れてください! 私も忘れますからっ!!」
「おいちょっと、何か意固地になってな……あうっ」
詩乃が騎乗位の体位で腰を振り始める。
まるで頭の片隅にある剣丞への後ろめたさを振り払うかのように、滅茶苦茶に腰を揺すり、胸を上下させ、膣内の九十郎ちOぽを扱き、磨く。
「は、話せばわかる……なんてギャグ言ってる場合じゃねぇ。
ほ、本気でヤバ……ちょっと待って! 待ってくださいお願いします!
お願いだから待ってくれええぇぇーーっ!!」
九十郎が目を白黒させながら、詩乃と同じ位に必死こいて射精を堪える。
ケツの穴に力を籠め、亀頭と鈴口に力を籠め、全神経をちOこ以外の所に集中させ、快楽という名の拷問に耐え続ける。
「ふぁう! あんぅっ! んんぅあんっ! ふああぁうぅっ!!」
徐々に徐々に詩乃のナカが潤滑に満ちていく。
徐々に徐々に詩乃の声が艶めかしいものになっていく。
何かに追い立てられているかのように。
何かから逃げ出すように、セックスに没頭していった。
頭の中が男と女の交わりに染まっていった。
挿入直前にちOこに塗った滑り汁ではなく、九十郎が漏らした先走り汁でもない液体が詩乃の膣奥から分泌されていた。
詩乃が単純に、純粋に、セックスによって気持ち良くなりつつあった。
「宇宙天地與我力量降伏群魔迎来曙光……」
九十郎はそんな詩乃の変化に気づかず……と言うより全力で目を逸らしながら、念仏っぽい何かを唱えながら必死にセックス以外の事を考えていた。
ただし、それは無駄な努力である。
「あんっ! ふぁあぁんぅっ! んんぁんぅっ!!」
腰を上下左右に揺さぶる詩乃の動きが、艶めかしさが加速する。
頭が真っ白になっていくのが分かった。
軍師としての自分が消えていき、全神経がセックスに向いていき、脳髄の全てが目の前の男性とのセックス一色に染め上げられていくのが分かった。
「(剣丞様……)」
詩乃の頭の中から、新田剣丞が消えていく。
詩乃の胸の内から、新田剣丞への愛が喪われていく。
心が自由になっていく。
それが詩乃に今まで感じた事もないような快楽をもたらしていた。
「あぁんんっ! んっ、んふぁあんっ! ああっ!」
心地良かった。
煩わしい事が消えていき、心が解放されていくような気がした。
今この一瞬、この瞬間だけは、詩乃は夫である新田剣丞の事を忘れていた。
「(やばいやばいやばいやばいぃっ!! 限界ぃっ! でりゅう! もうでりゅう!!
どうする俺ぇっ!? いっそ殴るか!? ブン殴って気絶させるかっ!?)」
一方、一昨日犬子の顔面に蹴りを入れた九十郎はついに最終手段を検討し始めていた。
しかし、自分の嫁には躊躇無く斎藤キックを叩き込める九十郎であるが、他人の嫁をブン殴る決意は中々できない。
そして……
「んんっ!! ふうぁああぁうぅ!!」
……詩乃が絶頂に達した。
詩乃の膣肉が思い切り締まり、九十郎の逸物をぎゅうぅっと絞る。
「……あ」
それは限界ギリギリの所で耐え忍んでいた九十郎ちOこを屈服させるには、十分すぎる刺激であった。
直後、間の抜けた顔と声の九十郎の尿道をドロドロの熱く濃い精液が上り、びゅるるるるっ!! びゅるるるるっ!! と何度も何度も跳ねまわりながら放出した。
言い訳のしようのない、九十郎の玉袋を空っぽにする程の勢いの膣内射精である。
「もう良いや、どうにでもな~れ」
九十郎は全てを諦め、投げ出すかのように思考を停止させる。
そして詩乃を押し倒し、その唇に吸い付きながら未だ興奮冷めやまぬ勃起ちOこをズンズンと抽送させる……
……
…………
………………
「……はぅっ!?」
1人の少女ががばっと布団を跳ね上げ、飛び起きる。
息は荒く、全身が寝汗でびっしょりと濡れ、心臓がバクバクと高鳴っていた。
少女は今、夢の中でセックスをしていたのだ。
それも夫がある身でありながら、他の男のおちOぽに跨り、獣のような喘ぎ声を上げながら、一心不乱に腰を振る夢を見たのだ。
少女は……
「ゆ……夢……ですか……?」
竹中半兵衛・通称詩乃は恐る恐る着衣を確認し、布団を確認し、扉を確認し、自分が男と交わった痕跡が無いかを調べた。
そして全ての確認が終わり、今さっき見た夢がただの夢だと分かると、詩乃は大きくため息をつく。
安堵と同時に、自分に対する恥の気持ちが湧いてきた。
自分の3倍近い体格の九十郎を簡単に押し倒し、体勢をひっくり返せた事や、ちょっと膣を締めただけで九十郎が目を白黒させた事……考えてみればおかしい点は何個もあった。
そんな分かり易い違和感に気づけなかった自分を恥じた。
「ちらりと考えた事も無いと言えば、嘘になりますが……」
九十郎とああなる事を想像した事があった。
先程の夢は、そんな詩乃の想像をそのまま具現化したかのような夢であった。
2度も命を救われた御礼にと……そんな馬鹿馬鹿しい妄想を、詩乃は確かにしていたのだ。
無論、それは不倫であり、愛する夫である新田剣丞への裏切りである事は理解しているし、それを実行に移そうとは全く考えていない。
「嘘に……なりますが……」
自分の下着がぐっしょりと濡れていた。
剣丞と閨を共にした時と同じ……いや、それ以上に身体が発情しているように思えた。
まるで強姦でもするかのように大男を押し倒し、おちOぽの上で腰を揺さぶるのも、吹っ切れた九十郎に組み伏せられ、まさしく野獣の如く犯されるのも、剣丞との夜では体験した事が無いものであった。
剣丞を裏切っている事への罪悪感すら、性交の昂りを助長していた。
「欲求不満なのでしょうか……?」
詩乃がふぅっとため息をつく。
金ヶ崎の戦いからずっと、剣丞とはご無沙汰だった。
ずっと戦の事ばかりを考えていて、自慰すらしていなかった。
その反動だろうかと詩乃は思う……いや、そう思い込もうとした。
「お礼、考えないといけないですね」
二度も助けられた。
もう駄目だと絶望しかけた瞬間に、颯爽と現れてくれた。
そして助ける義理もないのに、身体を張って助けてくれた。
それに関しては感謝をしている。
身体を差し出すつもりは流石に無いが、何かしらのお礼はしたいと思っている。
かつて斎藤飛騨に殺されかけ、絶望しかけた瞬間に颯爽と現れ、身体を張って自分を助けてくれた新田剣丞の姿を思い出した。
あの時と同じような胸の高鳴りを感じた。
もしも出会う順番が違ったならば……
「出会う順番が違ったなら、私は九十郎さんの妻になっていたかもしれない、ねぇ……」
瞬間、詩乃の心臓が跳ねる。
軍師としての矜持からか、女の意地なのか、表情の変化はごく僅かに留まった。
そして気づく、誰もいないと思っていた場所に人が……いや、鬼がいた事に。
かつて金ヶ崎で自分を犯し、精神崩壊一歩手前にまで追い込んだ鬼子、森蘭丸がニヤニヤと笑いながら立っている事に気がついた。
「く、曲者っ!!」
詩乃が咄嗟に護身用に枕元に置いてある短刀を手にする。
「おっと待った! 人を呼ばれるのは困る!」
……短刀が抜けない。
まるで溶接でもされているかのように、どんなに力を入れても刀身と鞘が離れなかった。
ならばと叫び声を出して人を呼ぼうとするも……
「こ、声が……」
大きな声を出そうとすると口が強張り、何も喋れなくなってしまう。
「悪いけど、人を呼ぶのは思い留まってもらったよ。
理由は納得できないけど、新戸っていう同類に命を狙われてるみたいだからさ。
私はあくまで本当の愛を探したいだけ、無駄に争う気は無いんだ」
「何をぬけぬけと……」
詩乃がぎりぃっと奥歯を噛みしめる。
金ヶ崎の時も、今のように奇妙な能力で行動を封じられ、成す術も無く鬼や蘭丸に犯されそうになった。
そして自分のナカに蘭丸の凶器のような肉棒がずぷずぷと沈んでいく時の絶望感は、詩乃にとって絶対に忘れられない記憶の一つだ。
「私を傀儡のように操るために来たのですか?」
会話で時間を稼ぎながら脳をフル回転させ、この状況でどうにか他の者に危機を知らせる方法を考える。
しかし、時間は無い。
今この瞬間にも蘭丸の能力によって洗脳されかねない危険な状況だ。
「そんなに警戒心丸出しにしないでほしいなぁ。
懐紙を爪で凹ませて文字なんて書かなくても、襲わないし洗脳もしないよ、今日は」
「……お見通しですか」
「心読めるからね」
蘭丸がへらへらと笑いながら、詩乃にとって絶望的な事実を突きつける。
当然、詩乃は超高速で心を読める相手への対応策を考え始めるも、その全ては蘭丸に筒抜けだ。
「何故ここに?」
「姉さんの様子を見に来ただけだよ、全く傷つくなぁ……
姉さん、私が見てない所で泣いてたみたいだから心配になってさ」
「姉さん……小夜叉さんの事ですか?」
「そうだよ、桐琴は正直散々苦しみ抜いてから惨たらしく死ねって思うけど。
姉さんは……まあ、幸せになってほしいかな。
何にせよ、九十郎が上手くその辺りは助けてくれたみたいで、
良かった良かったという感じかな」
「九十郎さんが……」
九十郎の名前が出てきた瞬間、詩乃は思わず先程見た夢を思い出してしまう。
また身体を張って助けてくれたのかと、胸がざわつく思いがする。
「その想い……叶えさせてあげようか?」
そんな詩乃の感情の動きを、蘭丸は読み取っていた。
そして詩乃に対し、荒野の誘惑における悪魔ような囁きをしたのだ。
「悪いとは思ったけど、さっきの夢は覗かせてもらったよ。
九十郎と随分お楽しみだったじゃあないか。
助けてくれたお礼だなんて、分かり易い嘘をついてさ」
「あの夢……まさか貴女がっ!?」
「ち・が・う・よっ!! そりゃやろうと思えばできるけどね、本当に傷つくなぁ……
私は覗いただけ、夢の中身は全く手を加えていないよ」
詩乃が蘭丸の顔をじぃ~っと睨みつける。
夢を覗いたとか、想いを叶えさせるだとか、蘭丸の言動の真意はどこかと、全神経をもって観察する。
「私にはできる。 キミを一夜だけ九十郎君の妻にする事も、
もっと進んで、キミが新田剣丞の妻だった事を無かった事にしても良い。
簡単にできるよ、集団催眠でキミの周りにいる人達の認識を操ってしまえばね」
「そんな……」
詩乃が絶句した。
剣丞の嫁という周知の事実さえひっくり返すだけの催眠術が使えるとすれば、最早何でもアリだ。
それどころか、自分が今認識している事実さえ、蘭丸が催眠術で捻じ曲げた思い込みなのではと疑ってしまう。
そして同時に考えてしまう、一瞬だけ。
九十郎と一夜を共にする自分の姿を想像してしまう。
それは愛する新田剣丞への裏切りだと、すぐさま思考から振り払う。
「キミも興味があるみたいだしさ……忘れさせてあげるよ。
比喩表現じゃない、本当に忘れさせてあげよう。
皆の記憶から、キミが剣丞の嫁だったという記憶を消してあげよう。
そうすればキミは自由に恋愛できる。
何なら、九十郎君が気にしているらしい、竹中半兵衛っていうヤツも記憶から消そう。
私の能力ならそれができる、簡単にできるんだよ」
詩乃は数秒の間、思索に入り……
「そんな事をして、貴女に何の得があるのですか?」
キッと睨み返しながらそう質問する。
当然、ふざけるなと席を立つ事も考えたが、今はそれよりも情報を出させる事を選択した。
「私はね、本当の愛を探しているんだよ」
「それが私に何の関係があるんです?」
「組み合わせが悪いのかなって思うんだ」
「く、組み合わせ……」
「本当の愛があるならば、きっと私の下らない催眠術なんて簡単に跳ねのけるさ。
でもキミの場合、割と簡単に精神を掌握できた」
「金ヶ崎の……」
「そうそう、さっきキミの夢を覗きながら考えたんだけど、
もしかしたらキミと剣丞君との組み合わせが良くないのかもって思ったんだよ。
キミと九十郎君をくっつければ、今度は私の催眠術を跳ねのけるかもしれない。
今度は本当の愛を見せてくれるかもしれない」
そこまで聞いた所で、詩乃は平手で蘭丸の頬を思い切り引っぱたいた。
短刀が抜ける状態であれば、迷わず眼球に刃先を突き立てていただろう。
「それは……愛に対する冒涜です」
詩乃はそう断言した。
剣丞に対する愛はもちろん、自分が九十郎に対して抱きつつある想いも同時に侮辱する言葉と思った。
「冒涜、ね……桐琴に比べれば、愛と向き合ってると思うけど」
「桐琴どのが……?」
「やめやめ、この話は不快になるだけだよ。
気が変わったら教えてほしいな、いつでも待ってるから」
蘭丸はそれだけ伝えると、まるで煙のように消えてしまった。
催眠術の応用で、詩乃の視界に入っていても、それが森蘭丸だと認識できなくさせた……蘭丸はこの方法で、誰にも気づかれずに詩乃の部屋まで入ってきたのだ。
「……どうやって連絡をとれと」
詩乃のそんな呟きが、誰もいない部屋に吸い込まれる。
………
……………
…………………
「るんたった~、たらりったら~」
一方その頃、現実の九十郎は小躍りしながら自分の寝所へと向かっていた。
犬子が剣丞とXXXしたあの日から色々と小難しい事が大量に起きて、単純明快に気持ち良くなるだけのセックスから遠ざかっていた。
今日は全てを忘れて快楽に溺れてやるぜ、げっへっへっへっへっとか考えながら歩いている。
「犬子、柘榴、一二三、待たせて悪かったな」
寝所の襖をがらっと開ける。
綺麗に掃除と整頓がされた部屋に、選択したばかりの布団が目に入る。
「布団に膨らみ……さてはこの中かな? 誰かな~っと」
バッファローマンのような体格の大男が鼻の下を伸ばしながら布団をめくる。
布団の膨らみ方から、3人入っている可能性は無い。
「本命犬子、対抗柘榴、大穴で一二三ってトコかな、さ~て」
でれでれと顔を赤らめながら掛け布団をガバっと開き……
「こ、こんばんは~」
……そっと閉じた。
「……詳しい経緯は省略するが、自宅の寝室にマッパの黒田官兵衛がいた」
さっきまでのウキウキとした表情は一瞬で消え失せ、げんなりとした表情でそう呟いた。
九十郎が憧れる歴史上の人物である黒田官兵衛の鎖骨も、慎ましやかな胸も、おへそも、ワレメも全て見えてしまった。
頼むから夢であってくれと祈りながら、もう一度掛け布団をガバっと開き……
「こんばんは~」
……そっと閉じた。
九十郎は自分の頬をつねるという古典的な方法で夢かどうかを確かめる。
「夢じゃねぇのかよコンチキショウ……」
九十郎は泣きそうな目でそう呟いた。
掛け布団を開けた時に見えた光景は、ついさっき見た光景とまるで同じ、一糸纏わぬ姿の黒田官兵衛が横たわる姿である。
やむなく九十郎は戸棚から頑丈な麻縄を取り出し、掛け布団に包まれている雫をそのまま風呂敷の要領で密封し……
( ・∀・)ノ ---===≡≡≡(雫袋)
……窓から投げ捨てた。
すぐさま九十郎は窓を閉め、ツッパリ棒を噛ませ、混乱する雫の声にならぬ叫びをシャットアウトする。
「ふぅ、これで安心……」
九十郎は一仕事やり遂げた顔で額の汗を拭い……
「じゃねーよっ!! どういう事だよっ!! 何がどうしてこうなったぁっ!?
一二三か!? テメェの仕業か一二三ぃっ! 出て来い一二三ぃっ!!
出てきてくださいお願いします! 300円あげるからあああぁぁぁーーーっ!!」
そんな九十郎の女々しい叫び声が、真夜中の練兵館に木霊した。