次話、おまけ2にはR-18描写がありませんので、通常版に投稿しています。
おまけ2URL「https://syosetu.org/novel/105831/123.html」
時は少し遡る。
これは蘭丸との戦いが終わり、九十郎達がオーディンとの戦いの準備に奔走していた頃の事……テンポが悪くなるため省略された出来事である。
「ふふ……おっきぃ……素敵です、九十郎さん。
では失礼して……ん、ちゅ、じゅぅ……」
詩乃が九十郎に跪き、勃起ち〇こを口で咥え、舌で丁寧に愛撫をしている、
丁寧に丁寧に、まるで下僕のように、まるで娼婦のように愛撫をしている。
ニホン史に名を残す天才軍師にして、新田剣丞の嫁の1人でもある竹中半兵衛が九十郎に跪いて愛撫をしている。
「うぅ……し、詩乃……九十郎……こんな、こんな事……」
その近くで新田剣丞が麻縄で縛られ、文字通り手も足も出ない状態で転がされていた。
自分の妻が、自分以外の男にひれ伏し、跪き、媚びるかのようにフェラチオをする姿を見せられていた。
「駄目ですよ剣丞様、貴方はそこで見ていてください。
目を逸らす事も、目をつぶる事も許されません。
これは貴方への罰であり、貴方の助命する条件でもあります。 これから……」
詩乃が剣丞の方に向いて大きく股を開く。
淫靡な裸体、一糸まとわぬ生まれたままの姿……かつては愛を囁きながら見たその姿は、今は新田剣丞を苦しめる。
「……これから、私のお〇んこは九十郎さんのモノです。
いついかなる時も、抱きたい時に抱ける肉便器になります。
子を孕めと言われれば孕み、子を産めと言われれば産みましょう。
この誓いは生涯変わりません。 我が夫、新田剣丞であっても違えさせません」
剣丞にも、九十郎にも聞こえるようにハッキリと宣言し、詩乃は自ら腰を落とし、挿入部分が剣丞に良く見えるように九十郎のモノを下の口で咥え込んだ。
背面座位の姿勢で、九十郎のち〇こを自身の膣内に導いたのだ。
「あっ、あぁ……おっきい、それに熱い……」
九十郎の肉棒が膣肉を大きく押し広げ、ずっぷりと、ねっとりと挿入された。
その様子を剣丞は、何と言い難い表情で見つめている。
夫と呼んだ……いや、今も夫と呼ぶ男が顔を歪める姿に、詩乃は熱い吐息と共に肢体を震わせた。
「はい、動いて頂いて結構です。 んんぅ! あ、あぁあっ! うあぁっ!」
九十郎が詩乃を下から突き上げる。
詩乃も乳房がぷるぷると震わせながら、腰を上下に揺さぶった。
「は、あぁぁっ! ん、んあぁあっ! ああっ!」
ぐっちゅ、ぐっちゅ、ぐっちゅと、淫靡な水音が響き渡る。
その光景を、その音を、その息遣いを、詩乃と九十郎のセックスを、剣丞は瞬きをするのも忘れて見入っている。
「どうですか剣丞様、どんな気分ですか。 自分の妻が他の男に抱かれる様は。
これは貴方の罪です。
犬子さんや柘榴さんが他の男に抱かれる光景を九十郎さんに見せてしまった、
貴方の罪なのですよ」
詩乃が自身の淫靡な姿を剣丞に見せつける。
自身の夫に、夫以外の男に貫かれる姿を見せつける。
「あぁっ! す、凄い……凄いぃっ! ああぁぅ、ふあ、ふあぁあっ!
こ、こんなの初めて……あぁあっ!」
そして喘ぐ。
夫にしか聞かせない筈の喘ぎ声を出し、夫にしか見せない筈の恍惚表情を見せる。
「ふ、ふぅっ! んあぁぁつ! あぁあっ! い、イキそう……あぁっ! ああぁっ!!」
詩乃は感じていた、昂っていた。
九十郎のち〇こで突かれ、快楽に揉まれていた。
詩乃の身体が上下に揺れる度に、男と女の額から汗が飛び、床板がギシギシと軋んだ。
「………………」
九十郎が詩乃の耳元で何かを囁いた。
「は、はい、気持ち良いです! 凄く……んあぁあっ! あ、ああぁっ!
ふああぁっ! け、剣丞様のモノよりも大きくて、熱い……んあぁっ!
気持ち良くて、良すぎて……も、もう戻れなくなりそうですっ!!」
詩乃がそう叫ぶ。
剣丞の目の前で、剣丞にハッキリと聞こえるように、九十郎とのセックスが気持ち良いと宣言する。
「う……く、九十郎……詩乃……」
剣丞が九十郎を睨みながら、歯噛みをする。
「………………」
九十郎が再び何かを囁いた。
「はい、膣内で射精してください! ふ、うぅっ! い、いつでも好きな時に射精して!
孕ませてくださいっ!」
詩乃が剣丞の目の前で膣内射精をせがんだ。
九十郎はそれを聞くと、一気にピストン運動を加速させた。
「ふ、あぁあっ! ふぁ、ふあぁぁっ! あ、ああんんぅ! んぁあああぁっ!」
詩乃の喘ぎも一際大きく、激しくなる。
膣肉に包まれ、肉ヒダで扱かれ、九十郎のモノが昂っていく。
そして……
「い……いっぐううぅっ! いくううぅっ!!」
びゅるるっ!! びゅるるる!!
詩乃の膣内で九十郎の肉棒が爆ぜた。
……
…………
………………
「……とんでもない夢を見てしまいました」
目覚めて早々に詩乃はそう呟いた。
蘭丸の死から数日が過ぎていた。
敵も味方も常識が改変され、戦闘=セックスだと思い込んだまま大乱戦ならぬ大乱交を繰り広げた地獄のような戦いから数日……混乱はまだ収まってはいない。
蘭丸が死に、洗脳は解けたと言っても、洗脳されていた間の記憶が綺麗に無くなる訳ではない。
訳も分からずに見知らぬ他人に股を広げ、犯され、イカされ、服従を誓わされた記憶は、心の傷となって越軍全体を苦しめている。
一方、加害者である織田軍は越軍よりも数が少ない上、ここ何ヶ月か戦闘訓練を一切せずにエロ特訓ばかり繰り返してきたため、普通の戦闘になったらあっと言う間にボコボコにされるのが目に見えている。
越軍による織田軍大虐殺が始まらなかったのは、美空や九十郎が方々を走り回って、怒り狂う越軍の諸将をなだめ、織田も蘭丸に洗脳された被害者だと説き伏せ、久遠に対しても必死に根回しを進め、同盟関係の構築に努めたからである。
織田と長尾の全面戦争回避のため、美空と九十郎は殆ど不眠不休で駆け回っていた。
そして詩乃もまた両軍の混乱と動揺を少しでも収めるべく、ここ数日は殆ど不眠不休で駆け回っていた。
ようやく戦争回避の見込みが立った時、詩乃は野営用の簡易寝具に倒れ込み、気絶するかのように眠り……今に至る。
「一体どのくらい眠っていたのでしょうか……うぅ、あんなに日が高い。
そろそろ起きないと」
身体を起こすと、あちこちが痛んだ。
元々、詩乃は身体が丈夫な方ではない。
限界まで頭をフル回転させ、気絶一歩手前まで駆けずり回った疲労は、たった数時間眠った程度では回復しない。
万全とは言い難い体調を押して、どうにか立ち上がると……自身の下着が艶めかしいぬめり気を帯びている事に気がついた。
まず間違いなく、先ほど見ていた淫夢が原因だろう。
「はぁ……剣丞様の助命を引き換えに、身体を差し出すなんて……
全くもってあり得ない妄想ですね」
あり得ない妄想だと断言できた。
斎藤九十郎は自分がどうこうするまでも無く、剣丞の助命を決めていたし、仮に交換条件を出すとしても、自分を抱く事を望む訳が無い。
だから詩乃は、先ほど見た淫夢をあり得ない妄想と断言した。
ただし……
「あり得ない、あり得ない事ですが……もし本当に九十郎殿が、
剣丞様の身の安全と引き換えに私の身体を求めてきたら……
私はどうするんでしょうかね……私はどうなってしまうんでしょうね……」
濡れて透ける下着に視線を落とす。
詩乃は九十郎に抱かれる自分を妄想して、確かに発情していた。
発情してしまっていた。
「考えてみれば、これで二度目ですか」
詩乃はかつて、今と同じように九十郎に抱かれる淫夢を見た事がある(第114話)。
森蘭丸と会い、新田剣丞の妻だった事を無かった事にしようと囁かれた日の事を思い出していた。
あの時は剣丞に対する裏切りを、愛に対する冒涜を拒んだ。
しかし、もしも同じ問いかけをされたら、自分はどう答えるのだろうか……
もう一度剣丞に対する裏切りを否定できるだろうか……
淫夢により発情した身体が、その答えのような気がしてならなかった。
「……さて、織田と長尾の戦争はどうにかできました。
そうすると次にやるべき事は、
バラバラになろうとする剣丞隊の心を引き留める事でしょうね」
詩乃は頭をブンブンと振ると、今日これからやるべき事に思考のリソースを振り分けた。
詩乃は竹中半兵衛で、新田剣丞の軍師で、妻だ。
それは変わらない、変えられない、変えるつもりもない。
……
…………
………………
「お許しくださいっ! ご主人様っ!」
小波があ〇ゅら男爵の如く土下座をしている。
蘭丸戦が終わってから、小波は剣丞の顔を見る度に土下座をするようになった。
「いや、何度も言ってるけど気にしていないから。
ちょっと視線が集まってるから頭を上げてくれないか」
毎回毎回、剣丞が許して土下座は終わるのだが、小波の思い出し謝罪(思い出し笑いの謝罪バージョン)は当分の間収まる気配が無い。
蘭丸との戦いは、小波の活躍が無ければ勝利はできなかった。
剣丞隊全滅の報を越後にもたらし、突発的な遭遇戦を回避(第151話)した。
これにより無関係な周辺住民を大量に巻き込み蘭丸を疲弊させる策や、孔明袋の準備といった蘭丸対策が可能になった。
開戦後もオーディンの模造グングニルを防ぎ、一二三の死亡を回避(158話)。
不甲斐なく囚われの身になった美空が逃げるのを助け(169話)、九十郎の逆襲時には防御に回ろうとした剣丞を妨害(第171話)、結果として蘭丸殺しを成功に導いている。
蘭丸との戦いでMVPを決めるとするなら小波が選ばれる、それ程の大活躍をしていた。
蘭丸に捕らえられ、洗脳され、無理矢理協力させられているであろう新田剣丞を救うため、小波は本当に頑張ったのだ。
……なお、剣丞は洗脳されず自発的に蘭丸に協力していたため、これらの功績は一つ残らず盛大な利敵行為、オウンゴールである。
「お許しくださいっ! ご主人様っ!」
そして小波は蘭丸戦での大活躍……ではなく、大失態を思い出す度に剣丞の前で跪き、許しを乞うようになったのだ。
「本当にやめてくれ。 色々と思い出してしまうから」
小波がこうやって剣丞の前で土下座して許しを乞う度に、剣丞は思い出したくない事を思い出し、表情を曇らせるのだ。
「俺は……正しかったのかな? 間違っていたのかな?
他にもっと良い方法は無かったのかな?」
剣丞は俯き、顔を曇らせながら小波にそう問いかける。
「う……そ、それは……」
小波には政治的な事は分からない。
剣丞が人の死を誰よりも悲しみ、乱世の終結を誰よりも願っているのは知っている。
自分では思いもよらないような深慮があるのだろうとも思う。
だがそれはそれとして、小波は今回の蘭丸の所業を許せない悪事だと思っていた。
新田剣丞が……自分の愛する男性が、蘭丸に自ら手を貸すなんてあり得ないと確信していた。
つまりそれは……
「違います! 絶対に違います! ご主人様が悪人の筈がありません!
悪であろう筈がありませんっ!! そんな事は考えていません!
決して……け、決してそんな……そんな事は……」
自分の頭によぎった言葉を必死になって否定する。
新田剣丞を信じる事、愛する事、何があっても味方でいる事……それは彼女にとって絶対の価値である。
絶対の価値だからこそ、剣丞を大切に想っているからこそ、悩み、苦しんでいた。
「褒められた方法じゃないのは、理解している。
もっとマシなやり方が思いついていれば、あんな方法は絶対にやらない。
だけど……だけど俺は……」
剣丞の脳裏に浮かぶのは、越軍のドライゼ銃によって射殺された武田の将兵達の姿だ(第128話)。
血や脳漿が飛び散り、ミンチのような死体となる人間の姿。
誰も彼も、あんな惨めな死に方をして良い理由なんてある筈もないのに……
だから剣丞は……
「誰も……誰も死なせたくなかった。 誰にも人殺しをさせたくなかった。
そう願っただけなんだよ」
剣丞が呟く。
小さく小さく、今にも掻き消えそうな声で呟く。
「……その願いはきっと、正しかったのでしょう。
願いが正しかったからこそ、正しかったが故に手段を間違えた。
願いの正しさに目が眩んで、手段の醜さと悍ましさから目を逸らした。
今回の事は、きっとそういう事だったのでしょう」
その呟きに、少女が答えた。
越軍との戦いが始まる少し前に喧嘩別れをした竹中半兵衛がそこにいた(第144話)。
「お久しぶりです、剣丞様」
「詩乃か……」
「小波さん、少しだけ剣丞様と2人で話をさせてください」
「は、はい……」
……
…………
………………
「別に死人が出ても良いじゃないですか」
小波から人払いを済ませたとの連絡があると、詩乃はいきなり剣丞の正しい願いを全否定した。
「そんな簡単に言うんじゃない。
人が死んでるんだ。人が死んでしまうんだ、それがどれだけ大きくて、重いのか」
「そこがそもそも見誤っています。 人の命など小さく、軽いものです」
詩乃はあえてそう断言した。
詩乃とて、人の命を無価値なものと断じるつもりはない。
人が死ぬ策と人が死なない策を天秤にかける時は、比較的人が死なない、死ににくい策を選ぶ程度の分別はある。
「違う! 人の命は大切なものなんだ!
死んでも構わないなんて、絶対に言っちゃいけない事なんだ!」
「では、私達が見知らぬ男に股を開き、犯されるのはどうでも良い事だとでも?」
「それは……それは、どうでも良い何て思っていない……けど……」
「けど、人が死ぬのに比べればマシと?」
……ぞくりと、剣丞は一瞬背筋が凍った。
詩乃の言葉には、大きく強い怒気が混じっていた。
「俺は……お、俺は……俺だって本当はあんな事したくなかった!
あんなやり方をしたくなかった!」
「……剣丞様、貴方は正しい。 貴方の願いは正しい。
大きく、重いものを守るために、小さく、軽くものを踏みにじるのは正しい事です」
「踏みにじるなんて……」
「そこを誤魔化すな新田剣丞、これ以上私を苛立たせるな」
一瞬、詩乃の言葉から敬語が消えた。
ぞわりと、剣丞はさっきよりも酷く背筋が凍った。
いっそ殺意を感じる程に、詩乃が怒っているのが分かった。
「……人の命は大切なものだよ。 そこは間違っていないと思う」
「違う、間違っています。 人の命は小さく、軽い。
そして私の貞操は、貴方に誓った愛は、私の誇りは、
剣丞様、貴方が思っているよりもずっと大きい、ずっと重い、
貴方に惚れて、貴方に恋して、貴方の妻となった女達を軽く見るな」
「そんな事は……」
詩乃の言葉は本心からのものではない。
彼女もまた人の命は尊いものだと思っている。
一度でも喪われれば取り返しのつかないものだと知っている。
だけど悔しいのだ、悲しいのだ、悔しいのだ、自分たちの心が、愛が、誇りが、魂が、見知らぬ他人の命と同じ価値だと……いや、見知らぬ他人の命よりもずっと小さく、ずっと軽く思われているのが悲しくてならなかったのだ。
「……織田と長尾の戦争は、どうにか回避できそうです」
「そうみたいだな」
元々、剣丞は美空達が現代ニホンの兵器を手に入れるのを阻止するため、織田家の兵を借りて越軍と戦うつもりだった。
織田と長尾の和睦は、ある意味剣丞の当初の目的からは相反する出来事である。
……とはいえ、ここ数ヶ月ほど軍事訓練を放り投げてエロ特訓を繰り返し、弱卒を超えた超弱卒状態のため、今の織田軍と越軍が戦ったらほぼ間違いなく織田軍が負ける、
現代ニホンの兵器を入手されるのは止めたいが、無用の死人を許容する訳にもいかず、剣丞は複雑な心境である。
「戦を止めるのは中々に大変でしたよ。
織田にも、長尾にも、好きでも無い男に犯され……
いいえ、自ら股を開いた女達が大勢います。
犯され、絶頂させされ、子種を注がれ、全裸で土下座までさせられた者が大勢です」
私もその1人……と、言いかけたが、それはやめた。
「蘭丸は……後で記憶を消すから大丈夫だと言っていた」
「記憶は消せても、事実は残ります」
「分かっている、分かっているよその位は。
分かっていた、だけど……あの時の俺には、そんな誤魔化しに縋る以外に無かったんだ」
「人が大勢死ぬよりはマシだと?」
「ああ……そうだよ……誰も死なないやり方だったから……だから俺は……」
剣丞が俯く。
「今、他人のせいにしようとしませんでしたか?
蘭丸が悪い、自分は悪くないと言おうとしませんでしたか?」
「そんな事は……いや、そうかもしれない……」
剣丞の顔がさらに暗く沈む。
「男性だって、罪の意識を抱えている方も多かったのですよ。
孕む危険は無くとも、性病の危険は同等にあります」
「そうだな、本当に……本当にそうだ……」
性病や妊娠も蘭丸の超能力でどうにかする予定だった。
現に織田軍が戦闘訓練の代わりにエロ技術の訓練を繰り返していた期間、織田軍の中で孕んだ者も、性病を患った者もいなかった。
織田、長尾の大乱交からまだ数日、性病も妊娠もまだ兆候すら現れない時期だ……まさしく『これからがほんとうの地獄だ 』とでも言いたくなるような状況だ。
「………………」
「………………」
2人が黙る。
沈黙が辺りを包む。
聞こえるのは風の音、虫の声、鳥の声……剣丞の重苦しい心を嘲笑うかのように、自然の音はいつも通りだ。
長い長い沈黙……その沈黙を破ったのは、詩乃だった。
「……私が、竹中半兵衛だという事は知っていますね?」
詩乃がそう尋ねる。
「……ああ、知っている」
剣丞にはその質問の意図が分からなかったが、答える。
「九十郎さんのいた別の世界の歴史によれば、
竹中半兵衛は、斎藤龍興を頼りにならぬ主君と見限り、
豊臣秀吉に鞍替えをしたみたいです。 それも知っていましたか?」
「……ああ、知っている」
剣丞はまた答える。
「では……あの日、あの時、助けたのは私が竹中半兵衛だったからですか?」
「それは違う、関係ないよ。 君が竹中半兵衛である事は関係無い。
君が何者であっても、俺は助けに行ったと思う。 信じてくれないかも知れないけれど」
「いいえ信じます、信じますよ。 貴方はそういう人です。
新田剣丞という人物はそういう人です。
目の前にいる人が誰であっても、どれだけ無名の人であっても、見知らぬ人であっても、
等しく尊いと想い、救われてほしいと願い、助け出すためにその身を投げ出す……
貴方を想う女達の事など気にも留めずに」
そうして詩乃は、はぁ……と大きくため息をついた。
「だから貴方は歪なんです」
「貴方を愛し、貴方の妻となった女達と、見知らぬ他人を等しく尊いと想い、
等しく価値があると想い、等しく救おうと手を伸ばす、どこまでもどこまでも。
それはきっと正しい事です。
人の価値に上も下も無い、それはきっと正しい思想で、正しい価値観です。
だけど歪です、正し過ぎて、真っすぐ過ぎて歪です。
別に良いじゃないですか、見知らぬ他人が血反吐を吐いて死んでも。
ご存じでしたか? 貴方の両腕は、ゴムのように伸びたりはしないんですよ」
詩乃が早口でまくし立てる。
剣丞は何も言い返せずに黙って俯くだけだ。
「(ああ、違う、違うんです……
私が言いたい事はこれじゃない、私が伝えたい事はこうじゃない……
貴方を責めたい訳じゃないのです。 人殺しを当然とする者がこうも多い世の中で、
人がただ生きているだけで尊いと感じられる貴方がどれだけ輝かしいか、
貴方という存在がどれほど誇らしいか……ですが、ですがそれでも……)」
そして内心、剣丞を曇らせてしまう自身の口下手さに詩乃は心苦しさを感じていた。
本当にこれが正しいのかと思ってしまう。
だけど、それでも……それでも最後までやり遂げなければならないと決意を新たにする。
このまま新田剣丞がただの悪者だったと、ただの狂人であったという結論で終わってしまうのは余りにも悲しすぎると思うからだ。
新田剣丞にとっても、新田剣丞に輝かしい何かを見出し、新田剣丞を愛した女達にとっても余りにも辛すぎる結末だからと、詩乃は自身を奮い立たせる。
「剣丞様、貴方にこれを差し上げます」
詩乃はあらかじめ用意していた2枚の木片を剣丞に握らせた。
「これ……は……?」
2枚の木片にはそれぞれ文字が書かれていた。
片方には『天下』と、もう片方には『烏』と書かれていた。
「……その2枚のうち、1枚は捨ててください。 残った方を持っていてください。
何なら、一生持ち続けても構いませんよ」
光璃が戦国時代に持ち込んだ漫画のデータ。
その中にあった『逆〇ナイン』から着想を得た策……否、剣丞への問いかけである。
「聞きましたよ、烏さんが貴方に大嫌いだと告げたとか」
「ああ、そうだ……あの娘には悪い事を、嫌われて当然の事をしたから……」
「私には鳥さんが何を思っているのかが分かります。
たぶん……いえ、きっとあの人も私と同じ想いを抱いていいます」
「同じ想いを……?」
「天下なんてどうでも良い、国家も、乱世の終結も、
見知らぬ人達の幸せもどうでも良い。
ただ貴方に愛してほしい……ただ、貴方に愛されたい、ちゃんと愛されたい。
それが烏さんの想いです、それがあの人が貴方に『大嫌い』と告げた理由です」
それを聞いた瞬間、剣丞は頭をがぁんっ! と殴られたかのような衝撃を覚えた。
詩乃の告白は、詩乃が言う烏の内心は、俄かには信じられない……いや、信じたくないものだったからだ。
「そんな……そんなの嘘だ! 出鱈目だ!
烏はいつだって俺と……俺達と一緒に戦ってきただろう!
命がけの戦いに何度も参加してくれた!
本当に死ぬかもしれないって事も何度もあった!
天下が……いいや! 戦争で苦しむ人達を、
何も持たない人達をどうでも良いだなんて思っている筈が無いじゃないかっ!!」
「では、烏さんが一言でも言ったのですか? 乱世を終わらせたいと、
戦争を無くしたいと、苦しむ人々を救いたいと一言でも言いましたか?」
「そ、それは……」
剣丞は言い淀む。
烏とはなんやかんやで長い付き合いだ、思い出と呼べるものも沢山ある。
楽しかった事もあった、苦しかった事もあった、戦場で助け合い、支え合った事もあった。
だがしかし、世の中をどうしたいか、何のために戦うのか、何のために命を賭けるのか……それを語り合った事は一度も無かった。
「あ、あの娘は……無口だから……」
……やっと出た言葉がこれだ。
信じられないという思いはあるが、それと同時に心のどこかで、詩乃の言った事が正しいのかもしれないと思ってしまった。
「でも君は違うだろう!?
君は天下を良くするために、乱れてしまった国を良く納めるために、
戦争を終わらせるために今まで頑張ってきたんじゃないのか!?」
「私がそんな高尚な人間に見えましたか?」
「………え?」
「知らなかったのでしたら、教えて差し上げます。
私は……竹中半兵衛は、嘘つきなのですよ」
現代ニホンの歴史書では、織田信長が黒田官兵衛の子を殺せと命じた際、竹中半兵衛は見た目が似ている別の子供の首を信長に見せ、命令通りに殺しました嘘をついたと伝えられている。
このエピソードだけではない、竹中半兵衛は何度も何度も嘘をつく。
自身の目的の為なら……正しいと思った事を成し遂げるためなら、何度だって嘘をつくのが竹中半兵衛だ。
そして今もまた、詩乃は嘘をついていた。
「(天下がどうでも良いだなんて、無辜の民草がどうでも良いだなんて思える訳が無い。
ですが……ですが、今だけは……)」
詩乃は必死に嘘をついていた。
詩乃は必死に演技をしていた。
今この瞬間だけは、イケメンの男に愛されたいという私利私欲だけで動く浅ましい女に見えるように、必死に演技を続けていた。
「その上で問います。
天下か、烏さんか、どちらか一つを捨ててください。 残った方を持ち続けてください。
どちらを捨てますか? どちらを持ち続けますか? どうか私に教えてください」
「天下か、烏か……」
剣丞が手元にある2枚の木片に視線を落とす。
冷静に考えれば、今この場で木片一つ捨てた程度で、今後の行動に影響は出ない。
そもそも、天下の事を……乱世の終結を考えながら、同時に烏の事を考える事だってできる。
かつて剣丞は九十郎に『嫁と知らない奴が同時にトロッコに轢かれそうになったらどうする』と問われた事がある(第169話)。
その時、剣丞は少しも考えずに、少しも躊躇する事無く『両方助ける』と宣言した。
自分の嫁も、見知らぬ他人も、同じ人間で同じ価値だ。
同じ価値なのだから、同じように助けるべきだと思っている。
だが……
「両方……両方持っていく事はできないんだな?」
「そんな腑抜けた事を言うのでしたら、私は本気で貴方を見限ります」
だがしかし、今の詩乃はどうみても『両方』という答えを認めてくれそうな雰囲気ではない。
そして剣丞はもう一度、2枚の木片に視線を落として考え始めた。
「(ずっと沈黙し続ける……駄目だな、それは『両方』と答えるのと変わらない。
たぶん、詩乃が期待している正解は天下を捨てて烏を取る事なんだろう。
今、目の前にいる詩乃の機嫌を取るだけなら、それでも良いけれど……)」
今度は詩乃の顔を見る。
長い前髪で顔が隠れて、表情を伺う事はできなかったが……真剣に、本当に真剣に自分の答えを待っている事だけは理解できた。
「(……やめよう、この場だけを取り繕うための回答はしちゃいけない)」
剣丞は2枚の木片に……『天下』と『烏』と書かれた木片を握りながら、自身と向き合う。
自分はどうしたいか、どうするべきか、何が正しいか、何が間違っているのかを何度も何度も問いかける。
何度も何度も……何度も何度も何度も何度も問い直す。
そして……
「(駄目だ、何度考え直しても見知らぬ誰かの命をどうでも良いだなんて思えない。
人の命は尊いものだ、人の命は価値のあるものだ、人の命は守るべきものだ。
何度考え直しても、それが間違っているとは思えない)」
……剣丞は『天下』と書かれた木片を強く強く握り締めた。
今ここで『烏』と書かれた木片を捨て、『天下』と書かれた木片を残したら、詩乃や烏に失望されるかもしれない……剣丞はそう思った
失望されて、見限られて、二度と自分も前に姿を現さないかもしれない……剣丞はそう思った。
だけど同時に、本心を隠して、その場限りの取り繕いをして、無理矢理引き留めて何になるんだとも思った。
「(捨てるな、捨てるな、捨てるな、捨てるな、
捨てるな、捨てるな、捨てるな、捨てるな)」
……一方、詩乃は無言のまま、表面上は静かに答えを待つフリをしながら全力で祈っていた。
「(捨てるな、捨てるな、捨てるな、捨てるな、捨てるな、捨てるな、
捨てるな、捨てるな、捨てるな、捨てるな、捨てるな、捨てるな、
捨てるな、捨てるな、捨てるな、捨てるな、捨てるな、捨てるな)」
詩乃は全力で祈っていた。
詩乃は全力で願っていた。
天下のために、国家のために、民草のために、見知らぬ人々のために……そんなもののために自分や烏を捨ててくれるなと全力で祈り、全力で願っていた。
愛し合った時間は無駄なもので無かったと、あの時感じた胸のときめきは無意味なもので無かったと信じさせてほしいと祈っていた。
「(そうだ、それで良いじゃないか。 これが正しい選択なんだ。
俺は……俺は烏を捨て……)」
しかし……そんな詩乃の祈りも、願いも虚しく、剣丞は『烏』と書かれた木片を地面に落とし……
「え……あれ……?」
……地面に落とせなかった。
まるで手に吸い付いているかのように、まるで手が固まってしまったかのように、剣丞は『烏』と書かれた木片を……いや、烏を捨てられなかった。
「何で……え……?」
木片に接着剤でも仕込まれていたのか、それとも新手のス〇ンド使いの仕業かと考えていると、剣丞は自身の目から涙がぽろぽろと零れているのに気がついた。
『天下』を取るのが正しい、『烏』を捨てるのが正しい、そう結論づけた筈なのに、剣丞にはどうしても『烏』を……烏の名が書かれただけの木片一枚を捨てる事ができなかった。
「捨てたくない……のか……?」
そう呟いた瞬間、頭の中は思い出で一杯になった。
まるで走馬灯にでも遭っているかのように、烏の、詩乃の、そして剣丞隊の仲間達との思い出が次から次へと溢れ出た。
楽しかった記憶、苦しかった記憶、喧嘩をした記憶、愛し合った記憶、その全てが剣丞の胸中を貫いていった。
そして思った……
「(愛されたい……そう思ったから捨てるのか? 愛されたいと願っただけで捨てるのか?
好きな人から愛されたいなんて、普通の願いじゃないか。
そんな普通の願いを持っている普通の女の子を、
こんな板っきれを捨てるように捨てて良いのか?)」
『烏』と書かれた木片を握る手が、強い力が入っていくのが分かった。
「捨てたく……捨てたくない! 捨てたくない! 捨てられない!
正しく無いのは分かっている! 見知らぬ誰かをどうでも良いだなんて思えない!
だけど俺は……捨てたくない! 正しくなくても! 間違っていても!」
剣丞がそう叫んだ瞬間、ぽろりと一枚の木片が地面に落ちた。
木片には『天下』と、確かに書かれていた。
「……正しくなくとも、間違っていても、
それが貴方のやりたい事であるなら、やればよろしいのです」
詩乃は安堵した様子で、そっと剣丞に歩み寄り、地面に落ちた『天下』と書かれた木片を拾った。
「良いじゃないですか、少しくらい正しくない事をしても。
良いじゃないですか、自分一人で何もかもを背負わなくても。
貴方が間違った事をしても間違い過ぎないように私が道を示します。
貴方が間違った事をして、正しい事を取りこぼしてしまっても……」
詩乃は剣丞が落して『天下』と書かれた木片を愛おしそうに抱きしめて、ニカッと笑った。
「……貴方が取りこぼした正しさは、貴方の軍師である私が拾います。
いつだって、何度だって」
「詩乃……」
そして詩乃は、未だぼろぼろと泣き続ける剣丞の手をぎゅっと力強く握り締めた。
「……そうであるなら、急ぎましょう。
2人で正しくない事をしましょう、2人で間違った事をしましょう。
散り散りになりかけている剣丞隊を再び一つにするために……
剣丞隊をもう一度やり直しましょう」
……
…………
………………
「んごぉ~、んがぁ~」
一方その頃、斎藤九十郎は大きないびきをかきながら眠りこけていた。
詩乃と同じように、九十郎もまた織田と長尾の全面戦争を回避すべく、不眠不休で駆け回っていた。
戦争回避の目途がついたら簡易寝具に飛び込んで、気絶するかのように眠ったのも詩乃と一緒だった。
ただし、私生活がだらしない九十郎の方が詩乃よりもほんの少しだけ長く眠っていた。
「……んがっ?」
無茶な働き方をした疲弊、疲労は順当に回復し、九十郎がようやく目覚める。
気がつけば時刻は昼過ぎ、太陽が殆ど真上に見えるような状況だった。
「ああくそ……頭痛ぇな……寝過ぎたか……」
ゆっくりと上半身を起こすと、全身から筋肉痛がして、腹がぐうぅっと鳴った。
まだまだ体調は万全ではないが、これ以上は寝ていられないと、起き上がろうとして……
「……ん? 誰だ?」
……自分の寝具の中に誰か人がいる事に気がついた。
「犬子か? お前、良い歳して寝る場所間違えるなよ」
寝具をめくって、自分の隣で寝ている誰かを確かめる。
「くぅ……すや……すや……」
……九十郎の寝具に潜り込んでいたのは烏だった。
まるで炬燵で丸くなる猫のように、九十郎の体温で暖を取りながら、すやすやと小さな寝息をたてていた。
「……え~っと、なんでこいつがここに居るのかな?」
九十郎が困惑するが、それに答える者は居なかった。