前話、おまけ7にはR-18描写がありませんので、通常版に投稿しています。
おまけ7URL「https://syosetu.org/novel/105831/126.html」
時は少し遡る。
これは蘭丸との戦いが終わり、オーディンとの戦いも終わり、九十郎達が平和な日常に回帰しつつある頃の事……テンポが悪くなるため省略された出来事である。
厚さ0.01mmの心の壁がそこにはあった。
「犬子、挿れるぞ」
「うん、来て……」
犬子はどくんっ、どくんっ、と胸が高鳴るのを感じていた。
九十郎と身体を重ねるのは何回目か、何十回目かも分からないが、いつでもいつまでもハジメテの時と遜色無い胸の高鳴りがあった。
くちゅ……と、犬子の秘所に男のモノが触れる。
今にも犬子の膣奥に侵入しようと雄々しく勃起する硬く熱い肉棒が触れる。
ただそれだけで、たったそれだけで犬子の心は歓喜に震える。
だがしかし……
「それ、今日も着けるの?」
「まぁな、流石に学生の身分で女を孕ませる訳にもいかねぇし。 下手すりゃ退学だ」
毎日のようにどこかでチャンバラが始まり、『まるで不良生徒のバーゲンセールだな』とすら言われる大江戸学園で退学になるのはそう容易い事ではないが、それでも一応は教育機関のため、在学中に女性を懐妊させるのはご法度だ。
え? もっと他に気にするポイントがあるって?
そういう細かい事を気にしてはいけないのが大江戸学園である。
さておき、九十郎のフル勃起ち〇こには厚さ0.01mmのゴム膜が……いわゆるコンドームと呼ばれる避妊具が装着されていた。
「(犬子、九十郎のお嫁さんなんだけどなぁ……)」
内心では不満に思っている。
本当は避妊具なんて使わず、確実に孕ませるつもりでシてほしいと思っている。
「(お嫁さん……なんだけどなぁ……)」
胸の奥で一抹の寂しさを、物足りなさを感じてしまう。
九十郎の事は好きだ、心の底か好きだと思う。
心の底から好きな男性に身を捧げるのを、求められるのを、抱かれるのを、心の底から幸せな事だと思う。
だけどほんの少し、ほんの少しだけ寂しく、物足りなく感じてしまう。
厚さ0.01mmの心の壁がそこにはあった。
「ん……うぅっ……」
じゅにゅりと九十郎のモノが犬子の膣内に入ってくる。
膣肉を掻き分けて、肉ヒダをぐにゅぐにゅと押しのけながら、愛しい夫の肉棒が犬子のナカを満たしていく。
「あ、いい……ん、あぁ、気持ち良いよ、九十郎ぉ……」
犬子から喘ぎ声が漏れる。
九十郎がし~っと声を出さないようにジェスチャーをすると、犬子はこくこくと頷いて自身の口に手を当てる。
時間は深夜、場所は九十郎が寝泊まりしている長屋。
犬子は女子寮暮らしであって、門限過ぎの時間帯に男子生徒の長屋に居ること自体、本来は校則違反だ。
だからご近所に喘ぎ声が聞こえないように注意する必要がある。
もっとも、校則を決めるのも取り締まるのも学生であるが故に、校則の抜け穴も賄賂等で誤魔化しがきく役人も頻出するのが大江戸学園である。
ひでぇ学園だなと思ったそこの貴方は正常だ。
この学園は生徒の個性や自主性を磨き上げるという目的のため、意図的に常識外れの制度を採用している学園なのである。
だからヴァルハラ宮殿に忍び込んで神に不意打ちをカマそうとする頭のイカレた生徒がゴロゴロいるのである。
……閑話休題。
「あ、あぁっ……んんっ、んんぅ、あ……」
犬子は喘ぎ声を押し殺す。
セックスの気持ち良さと背徳的なムードが犬子の気分を盛り上げる。
斎藤九十郎に……最愛の夫に、最愛の男に抱かれているのだと考えるだけで、犬子の脳は麻薬のような多幸感に包まれる。
だがしかし……九十郎のモノとは0.01mmのゴム膜によって隔てられていた。
厚さ0.01mmの心の壁がそこにあった。
「ごめ、声が出ちゃ……んんっ! あ、あぁあっ! ふぁぁ!
き、気持ち良くて、幸せで……ひゃぁぁっ! んん、んあぁぁっ!」
多幸感で腰が震える。
膣奥が愛液で濡れる。
子宮は九十郎の精を求めて口を広げているかのようだ。
しかし、膣内で暴れる九十郎のモノは、あくまでゴム膜越しのものでしかない。
厚さ0.01mmの心の壁は依然として存在する。
「あっ、あぁっ、ふぁぁっ! んんっ、あぁぁっ!」
ぐちゅぐちゅと淫靡な音と共に膣奥が掻き混ぜられる。
子宮を衝かれる度に、犬子は背中をピンと伸ばして歓喜に震える。
厚さ0.01mmの心の壁がそこにあった。
だけど、それでも、犬子は自分の胸の奥から湧き上がる好きの気持ちを歌い上げるかのように腰を振り、セックスを堪能している。
そして……
「九十郎ぉ! 九十郎ぉ! ふぁぁあっ!!」
「犬子……く、あぁ!」
そして九十郎がイッた。
膣内で男根がビクンと跳ねて、犬子の子宮に……ではなく、無機質なゴム膜にありったけの精液を吐き出した。
大好物を目の前で捨てられたかのような、一抹の寂しさのようなものを感じてしまう。
「ふぅ……ふぅ……はぁ……九十郎、イッちゃったんだ……」
犬子はまだ達してはいない。
犬子は九十郎とのセックスでイけなかった。
あの蘭丸戦で犬子を抱いた男達は、あの蘭丸戦で犬子に惨殺された男達は、全員が全員九十郎よりもセックスが上手かった。
女に快楽を与え、女をイカせる手腕という意味では、九十郎の何倍も、何十倍も凄かった。
ち〇この硬さ、長さ、太さの全てが九十郎を上回っていた。
九十郎とのセックスをする時、嫌でも頭の中で比べてしまう。
どうしてもどうしても、何度も何度も忘れたいと念じても、あの時の暴力的快楽が、魔性とすら思えるセックスの享楽が、犬子の心から消えてくれないのだ。
「(ああ、やだなぁ……あんな酷い目に遭った時の事なんて思い出したくないのに……
九十郎と比べちゃうのも嫌なのになぁ……)」
犬子は強烈な自己嫌悪に襲われる。
あの時のセックスの事を思い出しているなんて、九十郎とのセックスと比べてしまうなんて、絶対に絶対に言い出せない。
犬子のナカから、熱く濃厚な精液入りのゴム袋が引っ張り出される。
頭の中で愛する夫と間男を比べてしまった自分への罰なのだろうかと、犬子は思った。
厚さ0.01mmの心の壁がそこにあった。
だけど、それでも……と、犬子は強く強く九十郎を想う。
「九十郎、大好き」
犬子は九十郎に抱きついた。
頭に残る邪念を振り払うように、胸の中を包む愛が少しでも九十郎に伝わるようにと願いながら抱き着いた。
犬子の柔らかく張りもある乳房がぎゅうぅっと九十郎に押し当てられる。
最近は貧乳の良さも理解しつつあるが、九十郎は基本的に巨乳好きだ。
惚れた女の、色も艶も感触も良いおっぱいを堪能し、九十郎は顔を綻ばせる。
こういうちょっとしたやり取りが、深く傷ついた犬子の心を癒してくれる。
「今日は甘えん坊なんだな、犬子」
九十郎もまた犬子を抱きしめ返す。
九十郎の筋肉質な腕の感触が、触れ合う身体から感じる熱気が、犬子の心を甘く熱く満たしていく。
厚さ0.01mmの心の壁がまだあった。
だけど、それでも……と、犬子は強く強く九十郎を想う。
「九十郎、今のエッチ気持ち良かったけどさ、上手くイケなかったから……
ねぇ、もう一回エッチしない?」
犬子が濡れるワレメをくぱぁと開き、悪~い笑顔で九十郎を誘惑する。
さっき射精したばかりだというのに、九十郎のモノがピクリと反応したのを犬子は見逃さない。
九十郎が、愛する夫が、自分の身体を見て興奮したのだ……ただそれだけで、たったそれだけで、犬子の心は温かくなる。
「犬子、胸で挟んでくれ」
九十郎が真顔でそんな事を犬子に頼む。
「今日はパイズリの気分なの? うん、良いよ」
犬子が九十郎の前に跪いて、まるで娼婦のような妖艶さで男根に傅き、双丘で包んで上下する。
「は~い九十郎ぉ~、大好きなおっぱいですよ~」
犬子の胸の中で、九十郎の男根がムクムクと膨らんでいく。
もう一度膣内に挿入できる硬さになったのを確かめる。
「どうする? このまま胸に出しちゃう? それとも……」
「そいつは迷う、迷うな。 んん~……」
九十郎がちょっと迷いながら犬子の身体に欲望にまみれた視線を向ける。
手コキ、足コキ、フェラチオ、パイズリ、アナルセックス……過去に犬子に頼んだエロ行為が次々と九十郎の頭に浮かんでいく。
犬子との行為を想像するだけでち〇こがさらに大きく、硬くなっていくのが分かった。
「もっかい挿れても良いか?」
「勿論、犬子は九十郎のお嫁さんなんだからさ」
犬子は九十郎の目の前でM字開脚をする。
ここが九十郎専用のお〇んこですよとアピールする。
そして九十郎は薄さ0.01mmのゴム膜を自らの肉棒に再装着する。
「それさ……やっぱ着けなきゃ駄目? 犬子はナマでシたいな~って」
「駄目だ、卒業まで待ってろ」
「……留年とかしない?」
「しねぇよっ!!」
なお、後日共産主義革命軍の蜂起、九十郎は美空や柘榴を守るために大江戸学園を飛び出し……出席日数不足により留年する羽目になる。
そして卒業証書を受け取る吉音達を在校生席で見る九十郎の苦虫を嚙み潰したような顔は、後々まで一二三や美空にネタにされる。
「はい着けた、じゃあ……良いな、犬子」
「うん、良いよ……来て、九十郎」
犬子の秘所に再び勃起ち〇こが宛がわれる。
コンドームのツルツルした感触が再び犬子にもたらされる。
厚さ0.01mmの心の壁はまだあった。
厚さ0.01mmの心の壁は確かに存在した。
だがしかし、だがそれでも……
「好き、好きだよ九十郎。 大好きだよ、愛してる」
それでも犬子は、何度でも何度でも九十郎へ愛を捧げるのだ。
……
…………
………………
それから暫しの時が流れる。
美空や柘榴達がいる世界で共産主義革命軍が蜂起し、孔明と九十郎が異世界を繋ぐポータルに半ば無理矢理飛び込んだ日(最終回)から約半月後のこと。
柳宮十兵衛が大江戸学園の美女剣士達を集め、対天草四郎のための協力を募り……九十郎以外の男、もといふたなり魔人に抱かれるのを嫌がった犬子が逃げた時(おまけ6)から約1時間後のことである。
「え~っと……喫茶八雲堂、喫茶八雲堂は……
う~ん、どうもこのスマホというのは成れませんね、どっちが北でどっちが南なのか」
「どれどれ……ありゃ、今向いてる方向に合わせて地図が回転してるね。
ほら、ここを押せば北が上に固定されるよ」
「ああ、成程……って私達、さっきからずっと同じところをグルグル回ってませんか」
「右も左も似たような見た目の建物ばっかりだからねぇ、
戦国生まれ戦国育ちには歩きにくいったら無いよ」
「ええっと……今いる場所がこっちで、さっき通った道があっちで……
喫茶八雲堂はあの道ですね」
「あれ、そっち? あっちじゃないかな?」
「いや絶対あっちですって、今度という今度こそ確実にあっちです」
「そ~かな~」
雫と一二三がスマホを片手に大江戸学園の街中を右往左往していた。
スマホの地図アプリにも、大江戸学園の街並みにもまだ慣れておらず、目的地に辿りつくまで難儀している。
とはいえ、元々地頭は良い2人である。
八雲堂が割と良い立地の場所にあるのも手伝って、ほどなく目的地に辿り着いた。
「いらっしゃいませ、お好きなお席にどうぞ」
八雲堂の店主、秋月八雲が愛想良く2人を出迎える。
大江戸学園に事件が発生する度に開店休業状態になるためか、それとも美人店員である徳河吉音が生徒大将軍就任と共に不在になることが多いせいか、今日の八雲堂に人は少なかった。
「犬子はいるかい? ここで待ち合わせてるんだけど」
「ええ、あちらの席でお待ちです」
2人の視線の先で、犬子がちょっと遠慮がちに手を振っていた。
雫と一二三は犬子が待つ席に座り、店主に煎茶と羊羹を注文する。
「ごめんね、急に呼び出しちゃって」
「気にしない気にしない、同郷なんだから助け合わないとね」
一二三は笑ってそう返すが、真田昌幸は信濃(長野県)生まれ、黒田官兵衛は姫路(兵庫県)生まれ、前田利家は尾張(愛知県)生まれなので、生まれも育ちも見事にバラバラである。
「それより犬子さん、何かあったのですか?
重要な話し合いがあると粉雪さんから聞いているのですけれど、
それはもう終わったのでしょうか?」
「ん? ああ、それなら先に一抜けして帰って来ちゃった」
「おやおや、それは思い切った事をしたねぇ」
「へ? か、帰った!? 何か重要な話だったのでは!?」
「賤ヶ岳の戦いは知ってるでしょ?
犬子はね、気に入らない事があると先に帰っちゃう薄情者なんだよ」
犬子が自嘲気味に空を見上げる。
その陰鬱な気分とは裏腹に、空は雲一つない晴天であった。
大江戸城内、学園生徒会執行部では今も天草四郎対策の協議がされているだろうかと思う。
勝手に帰っていった自分を、酷い奴だと、薄情者だと言われてるのだろうなと思う。
蘭丸戦という地獄を共に戦ってくれた吉音や、友人であり、同じ男性に惚れた女でもある粉雪を置いて帰ってしまった事には、正直に言って良心が痛む。
だがしかし、だがそれでも、九十郎以外の男(正確には、魔人化の副作用でち〇こが生えた女性であるが)に抱かれる事を前提にした作戦に参加する気は起きなかった。
全力で戦い、死力を尽くし、最後の最後まで抵抗した上で敗北し、犯されるのであればまだ納得がいくが、作戦の都合で自ら他の男に抱かれに行くのは、九十郎に対する裏切りであるように思えてならなかった。
「吉音とか、粉雪とかがね、もうすぐ戦わなきゃいけないんだって」
「戦う……? この学園でまた戦いが……?」
なお、学生同士のチャンバラは学園島のどこかで毎日起きているのが大江戸学園の笑えるところである。
何か事件が起きる度に八雲堂の店主と美人店員こと秋月八雲と徳河吉音が解決に乗り出すので、八雲堂は頻繁に休業状態になり、良質な味とサービスの割に客が少ないのだ。
要するに、戦いの予感に身を強張らせている雫は良い意味でも悪い意味でも大江戸学園に染まっていないという事だ。
「察するに、敵は天草四郎だね?」
犬子は小さく頷いた。
「あの森蘭丸の腕を持ち去り、綾那さんを魔人に変えて連れ去ったというあの……」
「どうだろ? オーディンとのアレの前に会ったけど、
綾那は割と自主的に協力してたような気がする……」
「きっと遅めの反抗期だろうさ。 何にせよ天草四郎が大江戸学園に戻って来ると。
前に柳宮十兵衛アヘアヘさせるんだ~って叫んでたし、
生徒会として学園の平穏を守るために未然に制圧したいって所かな?」
「それもあるけど、魔人になった人を元に戻す方法が見つかったから、
協力してほしいって言ってたよ」
「なら、綾那さんは元に戻れるのですか!?」
雫が思わず身を乗り出す。
犬子はしばらく陰鬱そうな表情で目を伏せ……もう一度こくんと頷いた。
「どうも、あまり好ましいやり方じゃないみたいだね。
先に帰ってきたのはその辺が理由かい?」
「……まぁね」
犬子は深々とため息をついた。
魔人になった人間を元に戻す方法とは、経文が細かくびっしりと書き込まれたコンドームを魔人ち〇こに被せて、そのままセックスをするというものだ。
犬子にとっては受け入れがたいものであったが、吉音も、粉雪も、このエロゲーのような方法を聞いた上で残っている。
犬子は……
「でも……吉音や粉雪が戦うって時に、何もしないのも嫌だ。
それにこの大江戸学園は九十郎の故郷みたいなものだから。
九十郎の帰って来る場所なんだから、天草だかジェロニモだか知らないけど、
何もかも滅茶苦茶にされるのも嫌だ」
犬子は逃げた……それは純然たる事実だ。
しかし、友人達が残って戦おうとする気持ちも理解していた。
友人達をできる範囲で手助けをしたいという気持ちもあった。
そんな複雑な心境を、犬子は一二三達に告げるのだ。
「ふぅん、それはそれは我儘だねぇ」
「そうかな? いや、そうかも。 犬子って結構我儘だったみたい」
「でも良いじゃないですか、我儘上等ですよ。
あれも嫌、これも嫌と言いながら閉じこもるより、
あれがしたい、これがしたいと言いながら行動する方がずっと良いです」
雫と一二三がくすくすと笑い合う。
「……で、何をします?」
「……で、何をしようか?」
そして2人が全く同時に、瞳を輝かせながら犬子に迫った。
事情を完全に把握した訳では無いが、犬子が自分達を呼び出したのはきっと悪巧みの相談なのだろうと察し、軍師の血が騒ぎだしたのかもしれない。
「思うんだけどさ、戦争ってどうやって勝つかも大事だけど、
負けた時にどうするかも同じ位大事じゃない?」
「こっちの歴史書じゃ、織田信長って頻繁に負けてるらしいねぇ。
どっかで負け方をしくじってたら勝頼コースまっしぐらだったかも」
「漢の高祖は項羽に何度も何度も敗北を喫しながら滅ぼされず、
項羽はたった一度の敗戦で滅びたという話もあります。
良く負けるというのは、ある意味で勝つよりも難しいのかもしれません」
「勝つより難しいから、勝頼君には難しかった訳だね」
一二三があっはっはっはっと笑い飛ばす。
真田昌幸が言うと冗談に聞こえない。
「横道に逸れてるから話を戻すよ。
要するに魔界転生って、普通の人を後天的に超能力者に変える忍法なんだよ。
犬子や美空様も超能力は使えるけど、そういう普通の超能力者じゃなくて、
鬼子みたいに複数の能力を使い分けたり、一個一個が物凄く強力だったりする、
そういう……うん、超人だよ。 文字通り人間を超越した人間に作り変えるんだ」
「今、魔人になってるのが天草四郎と綾那で、
森蘭丸の指の数だけ魔人を増やせるから……
最悪の場合、魔人7人が同時に襲撃してくる訳だ。
これは中々厳しい戦いになるかもだね」
「その上、誰がどんな能力を使えるか全然分からない。
蘭丸の時みたいに、初見殺しっていうの?
事前情報が無いと戦いようがない何かを持ってるのが敵に回らないか、
正直に言って心配なんだよ」
「そうですね……いくら剣魂に超能力を防ぎ、断ち切る機能があるととはいっても。
森蘭丸1人であれだけ苦戦したというですから、それが7人同時では……」
「雫は蘭丸との戦いに参加してないけどね」
犬子が凄まじく恨みがましい視線を雫に向ける。
あの地獄のような蘭丸戦に参加せず、しかも戦闘直後で気が立っている時に『失言のおかげで助かった』という大失言をカマした雫への恨み辛みは割と根深い(第172話)。
「あの……本当に……あの時の事は謝りますから、
あまり蒸し返さないでいただけますか……」
「まあ雫虐めはこの位にして」
「そうだね、ギャグはこの位にして本題に戻ろうか」
「プルプル、ボクは悪い黒田官兵衛じゃないよぉ……」
「はいはい泣かないへこまない。 頼りにしてるよ、雫」
「いよっ、天下の名軍師黒田官兵衛! 強いぞ、凄いぞ、カッコ良い~」
「もう、そんな事を言っても何も出ませんよ~。
八雲さ~ん、お2人に桜餅をお願いしま~す」
「はい、どうぞ」
客が少なくて暇そうにしていた八雲が手際よく桜餅を準備し、犬子と一二三の前に差し出した。
そして……
「じゃあ、要するに籠城戦をできるようにしたいと」
「オーディンとの戦いで学園中に設置した対魔法防御バリアーってさ、
今は倉庫の奥で沢山保管されてるみたいなんだ。
アレを使えれば超能力者が相手でも効果的な砦を作れるんじゃないかな」
「候補地は……やっぱり大江戸城でしょうか、それか体育館辺りが良いでしょうね」
「抗魔コーティング弾とバルカン砲も余ってるだろうから、
こっそりかっぱらっちゃおうか」
「そうなると例の泥棒三姉妹も巻き込んだ方が良いかな?」
「それはやめとこう、あの娘達は北町奉行所の監視付きだから。
やっぱり悪事はバレないに限る」
「こっそり持ち出せる範囲で防御を固めるなら……第二体育館、北側に2つ、
南側に1つバルカン砲を配置すれば、効率的に射線を通せそうですね」
「バリアもバルカン砲も何個持ち出せるかなぁ……
一二三って、忍者を連れて来てるんだっけ?」
「まーね、こっちは戦国時代と色々勝手が違うから、どこまでやれるか分からないけど」
「良いね、頼りになりそう」
犬子と一二三と雫が……前田利家と真田昌幸と黒田官兵衛が額を突き合わせて悪巧みをしている。
時代は違えど、世界は違えど、彼女達3人は歴史に名を残す名将達だ。
3人寄れば文殊の知恵という言葉があるが、元から文殊の如き知恵と機転を持った3人が集い、知恵を絞ればどうだろうか。
特に真田昌幸は籠城戦を得意し、黒田官兵衛は築城を得意とする知将として歴史に名が残っている。
そんな彼女達が本気で考え抜いて構築した防御陣地であれば、例え不可思議な超能力を駆使する魔人であろうとも突破困難であることは明白である。
「いけるねぇ」
「うん、いける」
「なんだかちょっと楽しくなってきました」
犬子が、一二三が、そして雫がニヤリと笑う。
戦国時代から離れ、平穏な時代に生きる彼女達であったが、それでも心のどこかで戦国乱世を駆け抜ける武将の本能のようなものを……知恵の限り、力の限りを尽くして戦う場所を求める武人の本能を感じているのかもしれない。
「粉雪達が勝ったらそれで良し、負けた時は砦に逃げ込んで体勢を立て直して再戦だね」
「なら情報分析と傷の治療ができる程度に持ちこたえられれば良い訳だ、
それなら魔人が相手だろうとどうにでもなる」
「対策の立てようもない能力だった場合が少々心配ですが……」
「その時はどれだけ強固な防御をしても無意味だから考えないようにしよう。
エヴァ・ヨーステンの時も、オーディンの時も、
本土の警察や軍隊は何も助けちゃくれなかったんだから」
大江戸学園で起きる事件がトンチキすぎてニホン政府も対応に困っているだけである。
何にせよ前田利家、黒田官兵衛、真田昌幸の夢の競演(ただし悪夢)によって、強力な防衛線、悪辣な罠、物資の収納場所、怪我人の手当てや避難者の押し込み先が具体化されていく。
「う~ん、地図アプリの情報ではこれ以上は積めきれませんね」
「2人共、午後は時間ある? 今のうちに現地も見ておこうよ」
「バリアーマシンやバルカン砲をくすねる算段も要るね。
そっちは私が担当するから、雫と犬子は現地の下見で分担していこうか」
一二三は通信ログが残らない特殊なアプリを使い、学園内に不法滞在している忍者数名に召集をかける。
戦国時代からこんな場所にまで連れてこられた上に泥棒の手伝いを命じられる忍者達も良い迷惑だろう。
「八雲さ~ん、お会計を……」
雫が財布を出して店主を呼ぼうとしたその時、犬子がちょっと待ったとジェスチャーを送る。
「八雲さん、八雲さん、ちょっと耳を貸してくれないかな?」
そして犬子は財布を出さずに、滝川一益に似た悪戯好きの顔を覗かせて秋月八雲を呼んだ。
「え、俺の? まあ、良いですけど……」
八雲が若干困惑しつつも、犬子に顔を近づける。
犬子は漫画かアニメの悪役のような邪悪な笑みを浮かべながら、ひそひそ声で八雲に何かを伝え始めた。
「実はですねぇ、犬子達さっき生徒会に呼ばれまして、そこで……
ひそひそひそひそ……こしょこしょこしょこしょ……」
八雲の顔の困惑色が何十倍にも何百倍にも跳ね上がる。
怒るべきか、泣くべきか、いっそ笑うべきか、どんな表情になれば良いのかまるで分からないと言いたげな表情である。
生徒大将軍であり、目安箱なる方法で生徒の困りごとを収集している徳河吉音、南町奉行の大岡想、北町奉行の遠山朱金、火付盗賊改方の長官である長谷河平良……大江戸学園の治安維持を司る美女達は揃いも揃ってこの秋月八雲の恋人である。
それ故に、呆れる程に騒乱が多い大江戸学園の中でも特に特に頻繁に荒事や揉め事に巻き込まれる男である。
そんな八雲であっても、自分の恋人達が学園の平和を守るため、忍法・魔界転生によって魔人に変じてしまった人々を元に戻すため、魔人ち〇こに経文コンドームを被せて逆レイプを行おうとしていると聞けば流石に混乱を避けられない。
「ごめん、ちょっと急な用事ができたから……しばらく店を開けますっ!」
そして一通り困惑して混乱したら、八雲は青い顔をしながら学園島の中心たる大江戸城へと駆け出していた。
店の戸締りも座席や看板の回収すら忘れる辺り、相当に焦っているのが分かる。
「八雲さ~ん、お代は~?」
「サービスしますっ!!」
そして基本的に商売気が少ない八雲は、あっさりと代金回収も捨てて去っていった。
最初から最後まで財布を取り出そうともしなかった犬子は、悪~い顔で雫と一二三に向き直り……
「……良し、これでお茶代が浮いた」
そう言って笑って、席を立つのだった。
「ぶっ……くくく……あ~っはっはっはっはっ!
そう来たかっ! そう来るのかっ! そのためにこのお店を選んだのかっ!
いやぁ、笑った笑った、じゃあ行こうか」
「いや良いんですか!? このまま帰って良いんですか!?」
「現金を野ざらしにする訳にもいかないでしょ。
せっかくサービスしてもらったんだから、お言葉に甘えちゃおう」
「うぅ……良心の呵責が……」
お忘れの方もいるかもしれないが、犬子は前田利家である。
ドケチで有名な前田利家である。
その後、犬子達3人は柳宮十兵衛達とは別の方向性で魔人・天草四郎の襲撃に備える事になる。
柳宮十兵衛は全力で勝つために、犬子達は負けた時の被害を減らすために、それぞれのやり方で戦いに備えた。
犬子達の準備が単なる徒労で終わるのか、学園の窮地を救う一計となるか……今はまだ誰にも分からない。