薄暗い森をエルフの少女が走っていた。人間なら12、3歳くらいの身長のエルフの少女は呼吸が乱れるほどの全力で走っている。森はエルフにとって自分の庭のようなものである。その森の中で余裕の無い様子を見せるのには、それ相応の理由があった。
「ハア、ハァ、もう少しで」
エルフの少女は時折走る速度を落とすことなく背後を振り返る。背後には何も見えないが、ガサガサという草木を掻き分ける音が追って来ているものの存在を少女へ教えた。少女の胸中は恐怖で染まる。足を、腕を懸命に動かす。心臓が張り裂けんばかりに鼓動を打つ。もっと速く、もっと速く、もっと速く逃げないと追いつかれてしまう────ゴブリンに。
これまで森の中にある村で暮らす少女にとって、自身の住む森は何処よりも安全な場所だった。好奇心旺盛な少女は村の周囲なら大人のエルフ以上に詳しくなる位、木の実や薬草の採集に出歩いていた。最近では小さいながらも自分専用の弓矢を持つようになり、狩りもするようになった。そこで生まれたのが驕りだった。
この森にいる獣なら自分の矢で仕留められないものはいない。仮にオオカミの集団や外から紛れ込んだ魔物のような手に負えない相手がいたとしても、この慣れ親しんだ森ならば相手が自分を見つけるより先に、自分が相手を見つけられる。先に見つけてしまえば、自分の庭の様な森で逃げ切れないはずがない。そんな考えをエルフの少女は持っていた。そして、その考えは浅はかだった。
少女は森で見かけた一匹のゴブリンを、たかだかゴブリンと侮り弓を射かけた。ゴブリンがエルフの住む森に入るなど許さない。はぐれゴブリン一匹くらい、獣を狩るより簡単だ。矢は少女の狙い通りゴブリンに当たる。そこまでは良かった。誤算だったのはゴブリンが即死せずに大きな叫び声を上げたことと、その叫びを聞いて仲間のゴブリンが集まって来たことだ。一匹しかいないと思っていたのに数匹のゴブリンが現れ、少女は冷静さを失ってしまう。慌てて持っていた矢を全て放つも障害物が多く、そのうえ複数の敵が迫って来るプレッシャーに負け命中率は低い。死に至ったゴブリンは皆無だった。
しかも厄介なのは、仲間のゴブリン達の位置だった。少女が逃げようにもゴブリン達のいる方向に彼女の村はある。正面突破は論外、迂回しようにも数に勝る相手が横に広がるように追って来る。安全だと過信していた森の中で絶体絶命の窮地に陥った少女は恐怖のあまり、普段なら絶対しない選択をした。
森を抜けて街道へ出て助けを求める。大人のエルフから聞いた話では、近くの街道は冒険者が良く通るらしい。行商人でも良い。数匹程度のゴブリンならこちらが一人でなければ警戒して引くかもしれない。森からほとんど出たこと少女にとって大きな賭けだが、細かいことを考える余裕も無い。
頬や手足に木の枝で引っ掻き傷を作りながら少女は走る。あと少しで街道に出る。背後からゴブリンの声が聞こえる。もう少し、もう少しで森を抜ける。視界が一気に広がる。そして、絶望が待っていた。
街道には誰もいない。
冒険者が良く通ると言っても王都の大通りでもあるまいし、人がひっきりなしに通っているわけではない。運の悪いエルフの少女は、目の前の現実に膝をついてしまう。
「そ、そんな……」
街道に出さえすれば何とかなる。その一心で限界まで力を振り絞って走って来た少女には、精神的にも肉体的にももう余力は無い。
少女から少し遅れてゴブリン達が森から出て来た。ゴブリンの数は五匹。矢を使い果たした少女に出来る抵抗は無いに等しい。少女は手足を抑えられ身動きを封じられ服を引き剥がされそうになる。
「いやあああああ!!!!!」
少女の悲鳴が響き渡る。と、その時、目を開けられない程の光が辺りを包んだ。
「「GUAUFUUNNッ!?」」
「な、何? 何なの?」
ゴブリン達は不意の閃光によって視界を奪われ、少女を抑える手を放してしまう。
ゴブリン達が壁になって直接光を見ることの無かった少女の方は影響が少なかった。少女は戸惑いながらもゴブリン達から離れようと這う。
少女が十m程離れたあたりでゴブリン達の視力が戻り始める。目を擦りながら光の源を確認しようとする。光は徐々に弱まっている。もう直接見ても目が開けられないほどではない。ゴブリン達は戸惑いや警戒心より、良いところを邪魔された怒りが強かった。
「GAWWOOONN!!!!」
一匹のゴブリンが短剣を片手に光の源へ襲い掛かる。光の源から巨大な獣の唸り声のようなものが聞こえる。
ドゴオン!
鈍い音とともに短剣を持ったゴブリンが弾き返された。残されたゴブリン達と少女の視線が光の源へ集まる。光が弱まり完全に収まると、そこには巨大な黒い箱のような物が存在した。
黒い箱は低く唸ったかと思うと土煙を上げながら走り出す。初めて見る物体に誰も何の反応も見せられない。黒い箱は弾き返され地面にひっくり返っていたゴブリンを
生き残った一匹は状況を飲み込めないまま逃げ始める。ハイエー●に
ハイエー●がとどめを刺そうと逃げるゴブリンの背後に迫る。だが、そこでハイエー●の前に立ちはだかるものがいた。木である。ゴブリンは森へと逃げ込んだのだ。流石のハ●エースも道の無い森の中には追っていけない。悔しさからかエンジンを吹かすハイエー●。しかし、この場には他にもゴブリンを狙う者がいた。
エルフの少女が街道脇に落ちていた握りこぶし位の石を掴んでゴブリンを背後から襲う。
「逃がさない。このっ、このっ、死ねええ!!!」
ゴブリンの後頭部に少女が痛烈な一撃を喰らわすと、ゴブリンは前のめりに倒れる。少女は倒れたゴブリンの頭部に何度も何度も石を叩きつける。先程まで感じていた絶望と恐怖がそのまま憎悪に変わっていた。少女はゴブリンの頭部がその中身をブチ撒けるまで手を止めなかった。
少し落ち着きを取り戻した少女は、助けてくれた謎の箱が気になり街道へと戻る。そこには未だハイエー●が残っていた。
「ぼくと一緒に来る?」
ハイ●ースから幼い声が聞こえてきて、少女は驚きのあまり声も出せない。しかし、なんとか小さく首を横に振った。森の中の村には家族や友達がいる。少女は帰りたい、そう思った。
「そっか……」
ハイ●ースは寂しそうな、残念そうな声でそれだけ言うと街道を走り去ってしまった。
☆☆☆☆☆☆
ハイエー●は転生と同時に目の前で襲われる少女を目にした。少女を押し倒す醜いゴブリン達。それは自分の元持ち主達の様な悪い奴だとすぐに分かった。怒りにエンジンが震える。衝動のままにゴブリン共を撥ね飛ばす。が、しかし一匹逃がしてしまう。森の中に逃げ込まれると、木が邪魔で追いかけられない。転生直後に直面した自分の欠点にハイエー●はどうする事も出来ない。だが、先程襲われていた少女が、逃げたゴブリンに襲い掛かり、見事打倒した。
ハイエー●は思った。やはり自分はあくまで自動車である。自分だけでは出来ることは限られている。乗る者、使う者がいて初めて自分は良く働けるのだと。
ハイエー●は手始めに少女を誘ってみたが、断られてしまった。しかし、ハイエー●は思い直す。そもそも少女は幼過ぎる。車の運転は十八歳からだ。ハイエー●は先ず自分に相応しい運転手や同乗者を求め、旅へ出ることにした。
おまけ
ゴブリン「GAUGAU(今度こそエルフを犯す)」
??? 「いつまでも、いつまでも、走れ走れ。いすゞのトラッ●」
ドゴオオン、バキバキ、グチャー
EL● 「どこまでも、どこまでも、走れ走れ。いすゞの●ラック」
E●F 「誰を犯すって? カマ掘れるもんなら掘ってみろや!」