今日は亜希菜が新しい装備を見せてくれる予定だ。
彼女を夢の世界に呼び出した後、準備を始める彼女をアトリエに残し、僕は少しでかけていた。
僕には気にかかる事があった。
以前、入院していた頃に感じたこの世界の違和感を、最近また感じている。
それも以前よりも強くだ。
その違和感がなんなのか気になり、何か原因がつかめないかと島々を飛び回っていた。
違和感にはごく僅かだが方向性がある様に感じられる。僕はその違和感の強くなる方向に向かって飛び続けた。
違和感の原因となるような『何か』がないかと辺りを探したが、いつもの島々があるだけで、結局は何も見つけれなかった。
仕方なく亜希菜の待っているアトリエに引き返す。
彼女にはまだこの事は話していなかった。
自分でも説明できない違和感の事を彼女に話しても、単に不安にさせるだけだと思ったからだ。
アトリエに戻りドアを開けると、部屋には亜希菜が二人いた。一方は彼女が作業時にいつも着ているオーバーオール姿で、もう一方は恐竜ハントの時のエロい鎧を着ていた。
僕が驚いていると
「圭太くん、おかえり」
とオーバーオール姿の亜希菜が言った。
よく見ると鎧姿の亜希菜は人形だった。
「亜希菜、いつの間に人形まで…」
「えっ?結構前から造れるよ」
最近はそれぞれ自分の作業に没頭し、別行動も多かったため僕は知らなかった。
僕は人形の前に立った。
亜希菜の繊細な顔立ちがしっかりと再現され、とても綺麗だった。鎧の金属製ブラに寄せられた胸の谷間がエロい。
手を出して胸を揉んでみる。
柔らかい。
パァーン!
いきなり、頭を思いっきりはたかれた。
「私の人形にエッチな事しないでよ!」
亜希菜が分厚いファイルを持って、顔を赤くして怒ってた。
マジで後頭部イタイ…。
「ゴメン…。柔らかそうだったんでつい…」
「本当に圭太くん、エッチなんだから」
彼女の怒り顏が可愛い。
しかし、こうやって二人?が並ぶと、全く同じ姿形でも、別人の様に見える。人格のある亜希菜は光り輝くオーラに包まれているかの様に、生き生きとしていた。彼女の魅力はその魂に宿っているのだと改めて認識た。
僕は聞いた。
「なんで人形に鎧着せてるの?」
「新しい装備が他の装備に干渉しないかチェックしてたの」
改めて人形の亜希菜を見るとフル装備だ。
鎧や剣、背負った弓は以前と変わらないが、盾が前よりゴツくなっている。あと腰の辺りに以前は無かった、鏡面仕上げの金属の円盤の様な物が付いていた。
それが気になり聞いてみた。
「ねえ、その円盤はなに?」
「これは与太郎2号よ」
「えっ?与太郎って偵察用の生き物じゃ無かったっけ?」
「これも生き物よ。カブトガニをヒントに造ったの」
そう言って彼女は人形から円盤を外してテーブルの上に置いた。確かにカブトガニくらいの大きさだが、表面が鏡面仕上げの為、機械にしか見えない。
下側には何箇所か穴が開いていた。
しばらくするとその物体の下の方がパカリと割れ、カニの脚の様に広がって歩き出した。
「与太郎、おいで!」
彼女がそう言うと、パシュッと噴射音がして、亜希菜の肩に飛び乗った。
「与太郎1号の失敗を教訓にして造ったの。今度の与太郎は硬くて、速いのよ」
彼女は不敵に微笑み、与太郎の鏡の様な表皮を撫でながら言った。
与太郎1号は彼女が最初に造りだした、偵察用の生き物だった。
恐竜島で自分の達の先を進み、もし恐竜がいれば、それを教えてくれる斥候の役割だ。
「圭太くん、偵察用の生き物ができたよ!」
彼女が嬉しそうにその生き物を連れてきた。
見た目は仔犬で背中に羽が付いており、パタパタと飛んでいた。
「ワンッ、ワンッ」
「キャー、カワイイ!」
彼女に抱かれ、顏をぺろぺろ舐めている。
まるっきりただの仔犬だった…。
僕は愕然としながら言った。
「亜希菜…、こいつをあの島に連れて行くのか?」
「そうよ。名前は与太郎!
これから偵察犬として頑張るもんねー」
彼女は仔犬に話しかけている。
与太郎はワンと無邪気に返事していた。
「止めておいた方がいい…。餌になるだけだ」
「圭太くん、ひどい!
恐竜の手が届かない、高いところを飛ばすから平気よ!」
彼女は僕を睨みながら言った。
僕にはどう考えても、この仔犬が偵察に使えるとは思えなかった。亜希菜は賢い筈だが、時々こんな風に激しい思い込みで現実が見え無くなる時がある。
翌日、恐竜島で斥候として使えるか実験をしてみることになった。
亜希菜は与太郎を抱えながら飛んでいた。
「怖い恐竜がいっぱいいるから、高い所を飛んで逃げ回るのよ。それから空を飛ぶ奴もいるから・・・」
与太郎に色々注意事項を言い聞かせている。
彼女が悲しむ結果にならないといいが…。
恐竜島に着いて事前準備をした後、早速与太郎を斥候として使ってみる。
「与太郎、恐竜達を見つけたら高いところを飛ぶのよ!危なくなったら逃げるのよ!」
彼女が心配そうに声をかける。
与太郎は僕たちの100メートルほど先をパタパタと飛んで行く。
木々に囲まれた中を飛んでいるとアウカサウルスが与太郎を見つけた。体長4メートル程度の2本脚で立つトカゲの様な肉食獣だ。
与太郎は地上10メートル程度上空を飛んでおり、その下でアウカサウルスの群れが与太郎を捕まえようと飛び上がっていたが届かない。
「与太郎!上手い、上手い!」
亜希菜が与太郎を褒める。
斥候と言うよりは囮と言った感じか。うまく群れの注目を集め、与太郎の下に恐竜が集まっていた。
今なら一網打尽にできる。
だが、群れの奥から大型の恐竜が現れた。アロサウルスだった。
体長が10メートル近くある肉食獣だ。
まずいっ!
与太郎は下の恐竜達に気をとられアロサウルスに気づいて無かった。アロサウルスの目の前にパタパタと飛んで行く。
アロサウルスは近づいてきた与太郎を見ていたが、大きく口を開けるとパクリとそのまま食べてしまった。
「あっ…」
亜希菜が声を上げる。
「食われた…」
僕が見たままを言う。
「与太郎ーーーっ!」
彼女が飛び出し、恐竜達をなぎ払った。
与太郎の名を叫びながら恐竜達を必要以上に粉砕していた。
僕は恐竜達が気の毒になった。
帰り道で僕は泣きじゃくる亜希菜を慰めていた。
「うっ…うっ…、圭太くんの言う通りだった。与太郎は餌になっちゃった」
「可哀想だけど仕方ないよ。次はもっと強い生き物を造ろうよ」
僕は諦観して言った。
与太郎1号は短い生涯を終えた。
その後、彼女が色々試行錯誤をしていたことは知っていたが、完成した斥候生物2号を見たのはこれが初めてだ。
あまりの変わり様に驚いていた。
以前の与太郎とは名前以外、共通点が一切無かった。
彼女の肩で、銀色に輝く新しい与太郎を見て、僕は直感的に思った。
こいつは使える。