僕には予感があった。
夢の世界での違和感を感じた時から、それは確信に近いものに変わっていた。
僕の見るような特殊な夢を、他に見る人がいてもおかしくないはずだ。
地球上に人間が70億人以上いることを考えると、『僕だけ』と考える方がむしろ不自然だ。
時々感じている夢の世界の違和感は、僕と同じような夢をみる人がこちらに干渉しようと働きかけているのではないかと考えていた。
仮にそれが正しかったとして、僕はその人に会いたかった。
そしていろいろ聞きたかった。
なぜ、他の人と違った夢を見るのか?
なぜ、そのような能力があるのか?
それは何を意味するのか?
他にもたくさん、そのような人はいるのか?
今まで、なぜ出会わなかったのか?
聞きたいことは尽きなかった。
しかし、悪い事態も考えておかなければならなかった。
コンタクトした人が悪人だった場合どうするか?
その際、どんな対応を取るべきか?
言葉は通じるのか?
そもそも、人間がくるのか?
いずれにしても、その時は近いように思えた。
あの夢の中の違和感が、時折、前にもまして強くなるようになっていた。
僕は亜希菜には内緒で、密かにその準備をすすめていた。
どちらかというと恐竜島攻略より、こちらの対策の方に時間を割いていたくらいだ。
いかんせん治癒に関しては亜希菜が怪我をしないと実際に試せない。
幸いそんな事もなく、あいた時間は最悪の事態を想定して対人戦闘になった際の防御法や、攻撃方法を考えていた。
もし、事態が悪くなりそうな場合は、亜希菜を夢の世界には呼ばないつもりだ。
そして、コンタクトした際の最優先事項は『可能な限り情報を得る』ことに絞った。
二人は恐竜島の攻略を開始していた。
今日もこれから向かう予定で、これで三回目のチャレンジだった。
一回目のチャレンジは新しい装備がどれだけ有効かの確認も兼ねていた。
狩りは予想以上に順調に進んだ。
与太郎での偵察がとても効果的だった。
恐竜達が群れでいるポイントでは、事前に怪獣の有無が分かれば、それを踏まえて戦術も組めるので与太郎の情報は大いに役立った。
その情報を元に僕が恐竜を狩る優先順位と武器を決め、それに従って亜希菜が動く。
僕は後方で援護の攻撃魔法を撃ちながら、状況を見極め、彼女に無線で指示を出した。
僕たちは最初の日に、僕が大怪我をしたあの雷撃を使う怪獣がいるポイントまで攻略してしまった。
とてもあっけなかった。
先に僕が遠距離レーザーの魔法で雷撃を放つ怪獣二体を倒す。
その間、亜希菜は上空の翼竜を麻痺機能のある電撃の弓矢で撃ち落とし、とどめを刺した。
後は亜希菜が、雑魚の恐竜達を狩りきった。
10分もかからず戦闘は終わってしまった。
その日は区切りとして、そこまで攻略して帰ったが、課題も見つかった。
彼女の盾のバッシュ機能だが、威力が強すぎて目立ってしまい、他の恐竜を引き寄せてしまうのだ。
彼女は威力を調節する機能をつけるといっていた。
その地点で恐竜島の行程の半分程まで来ており、後の半分はより怪獣が多くなり、強い恐竜も出てくるだろうが、その日の感触からはかなりな所まで行けそうな手応えがあった。
二回目はさらに先まで進んだ。
恐竜島は最初のスタート地点で設定した能力以外は使えなくなる様な仕組みになっている為、そのまま降り立つと飛行能力以外使えなくなり、素手で戦う事になる。
どうしてもスタート地点から始める事になるが、僕たちはとても手際よく狩り進めた。
雷撃獣のいる島の中ほどまでは、ほとんど作業的な状況で何の苦もなく来る事が出来た。
そこから先は未知の領域だったが、それでも事前の偵察をしっかり行い、無理のない戦術を組む事によって、時間はかかったが、たいした危機もなく狩り進める事が出来た。
戦闘を繰り返すうちに、僕たちの練度が上がっていたこともあった。
特に亜希菜の動きは軽快で、怪獣も一人で苦もなく狩っていた。
怪獣の数が多くなると、僕の遠距離魔法で不意打ちをしても、近づいて来るまでに仕留めれる数には限度がある。
倒し切れなかった怪獣は亜希菜が相手をするが、複数の怪獣が彼女に向かってもまず雷撃弓で足止めし、その後二人で個々に倒していった。
火炎を吐く怪獣が居たが、彼女は盾を構え火炎を防ぎながら近づき、威力を弱めてバッシュする。
怪獣が火炎を吐きながらも吹き飛ばされ、怯んだ所でとどめを刺した。
こうやって僕たちは恐竜島の攻略ポイントの八割方まで進んだ。
しかし、僕たちはそこでいったん撤退した。
そこにはボス的な、大型の怪獣がいたからだ。
その怪獣は、ティラノサウルスを大型化した様な姿で、偵察だけではどんな特殊能力を持っているのか判別できなかった。
ただ、与太郎から送られてきた情報では、体長は20m以上あり、その体を覆うように水色に光る膜のようなものが確認できた。
相手の手の打ちが読めない以上、うかつな攻撃は危険だ。
僕は亜希菜にいったん撤退することを伝えた。
「ええっー、ここまで来て引き上げるの?もう少しなのに…」
亜希菜は不満たらたらだった。
「だが、あいつがどんな攻撃をしてくるのか分からない。
あと、あのバリアのようなものがどんな効果があるのか見極める必要がある。
ここはいったん引き揚げて作戦をねろう。」
与太郎を使ってどんな攻撃をしてくるのか探ることもできたが、いかんせん今日は長く戦いすぎている。
恐竜島にはいってから8時間近くが経過していた。その内6時間は雷撃獣以降にかかった時間だ。
新たな領域の為、常に緊張感を保ちつつ狩り進めてきた。
自分では気づかなくても、疲れもたまっているはずだ。
ここまでの道は攻略法がわかったので、次に来るときはもっと短縮できるだろう。
ぼくはそう考えて、一端の撤退をきめた。
亜希菜は渋々ながら了解してくれた。
その撤退時に重要な問題が発覚した。
僕は今後の為の訓練の一環として、亜希菜を強制排出してみることにした。
「亜希菜、今日は強制排出してみるね。次回、あいつを倒す時に状況によっては必要になるかもしれない」
「ここで?圭太くんは一人で大丈夫?」
「ああ、大丈夫。あとは飛んで逃げるだけだしね」
「空にも翼竜がいるかもしれないよ」
「前は油断したけど、今度は大丈夫。もし、いたとしてもちゃんと振り切れるよ」
この島の攻略を始めてからずっとそうだったが、亜希菜は僕の事を必要以上に心配していた。
前回の事故の責任を感じているのと、自分の願いでまたこの島を攻略している今の状況から、僕には絶対に怪我をさせたくないという思いがあったのだろう。
ただ僕も今後の事を考え、強制排出がこの島でしっかり機能するか確かめておきたかった。
強制排出は魔法や創造能力とは違うので、この島でも機能するはずだ。
前回の時も問題なかったが、一応確かめておきたかった。
「じゃ、亜希菜。おやすみ」
「…おやすみなさい」
彼女は心配そうに僕を見ながらいった。
僕は亜希菜と夢の世界とのリンクをカットするように念じた。
…あれ?
彼女はまだ僕をみていた。
「亜希菜?」
「なに?」
「まだいるね?」
「うん」
「なんでいるの?」
「わからない…。
一瞬意識が消えそうになったけど我慢した」
えっ? 我慢できるの?! それじゃ強制排出の意味がないよ。
「我慢しちゃダメだよ」
「あなたをここに残す事が心配なの」
僕は内心すごく困惑していた。
亜希菜の意志次第で排出できなくなるのか?
僕は考えた末、彼女の心配を取り除いてみることにした。
「わかった。それなら一緒に上空にいこう。安全を確かめたあと強制排出してみるね。今度は我慢しちゃだめだよ」
「うん、わかった」
彼女の曇った表情が消え、僕たちは上空に舞い上がった。
その途中で彼女がいった。
「いつも思ってるんだけど、私があなたを強制排出できたらいいのに。
私よりもあなたが怪我をすることの方がとても怖いの」
「……」
僕は彼女がそう思っていることを知って、じんわりと胸が熱くなった。
彼女の為にも絶対に怪我をしてはならない。
100メートルほど上昇し、周りに翼竜がいない事を確かめた。
「それじゃ、もう一度だ。亜希菜、おやすみ」
「おやすみ、圭太くん」
彼女がにっこりしながら、小さく手を振っている。
かわいい。
不意に彼女が落下しだした。
僕は慌てて彼女を受け止め、そのまま恐竜島を離れる。亜希菜の体は途中で透明になって消えてしまった。
僕は考え込んでいた。
強制排出が彼女の意思次第で無効にされてしまうなんて。
今後、問題が発生してそれを発動した時、彼女は素直に受け入れてくれるだろうか?
僕の心配事がまた増えてしまった。
そして今日の三回目の攻略だ。
先ずはこの間のバリアを持つ怪獣の所まで二時間以内に到達しよう。
その後は与太郎を使ってどんな特殊能力があるかの見極めだ。
だがその前にやる事があった。
今までになく強くなっている違和感の調査だ。
最近はいつもそうだが、調査の為に僕は早くから夢の世界に入っていた。
亜希菜を呼び出すまで、まだ十分時間があった。
僕は違和感の強くなる方向に向かって飛んでいた。
一番違和感が強いと思われる島に降り立つ。なんども来ているがいまだに何も発見できていない。
この島は大きく、草原や大きな岩が転がっている、見た目は何もない荒れた島だ。
だが地下には亜希菜を監禁した時に使った部屋や、それ以外の僕が夢の中で一時的に必要になった様々な施設がある、亜希菜にはあまり知られたくない島だった。
しばらく荒地を歩くと、不意に目の前の岩の上に人影があらわれた。
いたっ! とうとう見つけた!
走り寄ると、そこにはもの凄い美人の女の人がいた。
黒を基調としたパンク系の濃い化粧をしていたが、元の顔だちの良さを化粧がさらに強調していた。
彼女は露出度の高い、革で出来たボンテージファションに身を包んでいた。
首から上半身にかけて革の帯が巻きついていたが、大きな胸の下半分が露出していて卑猥さを醸し出していた。
下半身も同じ素材の革帯が腹部を跨いでつながったまま巻きつくようにビキニの形になっていた。
黒いフリルのついた分厚いスカートを履いているが、前が大きく開いたフィシュテールとかいう形状のもので革のビキニが丸見えだった。
豊かなカールのかかった髪が頭の後ろで緩く纏められ、余った部分は右肩から垂らされていた。頭にはゴーグルの様な凝った飾りが載っていた。
亜希菜も凄い美人だが、全く違った次元の美しさが彼女にはあった。
彼女は大きな岩の上に立ち、無表情で僕をジッと見ていた。
「あ…、あのっ!」
僕は彼女に声を掛けたが、彼女はそれを無視して後ろを振り向きいった。
「マスター、見つけたわよ。恐らくメイカー」
彼女がそう言うと、岩の影から一人の男が現れた。
長身で彼女と同じく黒革一色のパンクファッションに身を包んでいる。腰から鎖がジャラジャラとぶら下がっていた。
細い一重の目が印象的で、整ってはいるが、爬虫類を思わせる顔だちだ。
髪は焦げ茶に染められていて、前髪は短いが襟元まで伸びる後ろ髪は整髪料であちこちに跳ね上がっている。
耳には多数のピアスが付いていた。
彼は僕の前に立つといった。
「よう、あんたがこの世界のメイカーか?」
"メイカー"ってなんだ?
僕は思った。
正直、彼らの第一印象は良くない。
ただ僕と同じく、相手は日本人で言葉も通じる。
今日の恐竜島攻略は中止だ。
今から僕は、彼らを相手に可能な限り情報を引き出さなければならない。