僕は彼らを見極める必要があった。
敵対的なのか友好的なのか?
まずはその確認をしなければならなかった。
以前から考えていた、もし同じ能力をもった人が夢の世界に現れた時の応対パターンを頭に浮かべる。
僕は人見知りだが、最大限のコミュニケーション能力を発揮して応対した。
困惑した表情で言う。
「メイカーってなんですか? 初めて聞く言葉です」
「なんだ? 今まで他のメイカーを見たことがないのか?」
彼は僕を見ながらいう。
僕は彼の目をみながら答えた。
「はい、あなた達がここに訪れた初めての人です。今までこの世界に他の人が来た事はありません」
彼の目がキラリと光る。
この返答をした時、どんな反応をするかが一つのチェックポイントになっていた。
いま彼らは僕より情報をもっており、圧倒的に優位な立場のはずだ。
僕に対してどう対応するかを決めるのは、この言葉を発した時になると考えていた。
彼の目には確かに反応があった。
嫌な光り方だと感じた。
「そうか。それなら驚くのも無理はねえな。俺はリョウってんだ。メイカーだ。
あっちはレイカだ。俺のリンカーだ」
彼は彼女を親指で指示しながらいう。
”リンカー”?
これも初めて聞く言葉だ。
「すいません。僕はそのメイカーやリンカーって言葉すら初めてで、よく分からないんです」
あくまでも謙虚な姿勢で、できる限り情報を聞き出せる雰囲気をつくる。
「そうか。お前、最近リンカーを造ったんだな…。だから今まで誰もここにきてねーのか…」
彼は僕にとって意味不明の独り言を言って、一人で納得していた。
その内容は不明だが、しっかり記憶する。
彼は僕を値踏みするような視線で見つめている。トカゲが獲物を狙うような視線だった。僕は相手のそういう視線には敏感だ。
彼は何か良からぬことを企んでいる。
僕はファーストコンタクトの方向性を決めた。
「僕はサトウ アキラと いいます。リョウさん、メイカーとかリンカーって何か教えてもらえませんか?」
僕は予め考えていた偽名をつかう。相手の名前を呼んで親近感を醸し出す。
これは僕の判断が間違っていて相手が善人だった場合、正直に本名を打ち明けて謝るつもりだった。
善人であれば僕が自衛のためにやったことを説明すれば納得し、許してくれるだろう。
彼が本当の悪人だった場合、本名を語るのは危険だ。
僕は彼の今までの様子から危険な匂いを感じていた。
「そうか、アキラか。それじゃ先輩メイカーの俺が教えてやるよ。
メイカーってのは俺やお前のような、この世界でいろんな物を作り出せる人間のことだ。
英語の”MAKE”って単語があるだろ? 化粧の方じゃねーぞ。『造る』のメイクだ。それを人にあてて『メイカー』って呼ばれてる。
リンカーは現実の世界からこの世界につながっている奴らの事だ。これも英語のつながるって意味の”LINK”って単語がからきてる。それで『リンカー』だ。」
彼は一息に説明してくれた。
僕にとっては亜希菜がリンカーに当たるのか。
英語だが人間の言語だ。
この奇妙な世界も人間の管理する範疇にある事が分かった。
僕は愛想よく相槌をうつ。
「そんな言い方をするのか! 僕は”メイカー”って奴なんですね。ちなみにメイカーって沢山いるんですか?」
とても重要な質問だ。
「ああ、何人もいる。そりゃあ現実世界の人間の数に比べりゃ微々たるもんだけどな。正確な数は俺もしらねえ。だが今まで何人ものメイカーにあってる。」
そうだったのか。
僕だけじゃなく、この能力を持った人はほかにも沢山いたんだ。
しかも彼は他のメイカーにもあっている。
色々聞きたいことが一気に増えた。
リョウはその場に胡坐をかいて座り込んだ。僕もつられて隣に座る。
レイカと呼ばれた女性は最初にいた岩の上に立ったままだった。
僕は質問を進めた。
「メイカーってそんなに沢山いたんですね、知らなかった。今まで僕だけなのかと思ってました。
ちなみにこの夢の世界のこと、皆さんはなんて呼んでいるんですか?」
「この世界か…。前に会ったメイカーはたしか『リンボ界』とか言ってたな。
お前も分かってると思うが、この世界は普通でいう夢の中でもなんでもねえ。
現実の世界とは全く違う別の世界らしい。俺たちメイカーはその世界に出入りできる貴重な人間なんだとよ」
『リンボ界』?! 聞いたことがある。たしか宗教用語か何かだ。あとで調べてみよう。
やはりここは単なる夢の中ではなかったんだ。
亜希菜が言っていた通り、まったく別の世界なんだ。
「ちなみにリョウさんは、どうやって僕のいるこの場所を見つけたんですか?」
「そんなことより、お前のリンカーはどこにいるんだ?」
彼は僕の質問には答えず、違うことを聞いてきた。
リンカーの事を気にしている。
それとも話を逸らしたかったのだろうか?
理由はわからないが、いやな感じだ。
僕は嘘をつくことにした。
僕にはまだリンカーがいないと言おうとして、ふと彼のさっきの独り言を思い出す。
そういえば彼は『お前、最近リンカーを作ったんだな…。』と言っていた。
彼は僕に既にリンカーがいることを何らかの方法で知っているのだ。
「今日は来れないんです。体調を崩したらしくて寝込んでいます」
とっさに返答を変えた。
「リンカーに体調なんか関係ないだろ。この世界に来れば治るだろうが。まっ、現実世界に戻ればまた元に戻るがな」
僕はその事実を初めて知った。
今まで亜希菜が体調を崩していたことはなかった。
メイカーの場合はそのままこの世界に反映されるのに、リンカーは別なのか?
「えっ? そうだったんですか? 僕は知りませんでした。
でも僕たちの場合って、怪我したり体調崩してもそのままですよね?」
「ああ、メイカーはな。でもリンカーはこっちの世界の物質で作られるから関係ねえ。
お前そんなことも知らなかったのか? まー、最近リンカー造ったみたいだからしゃーねーか」
そうゆう事だったのか。
なんとなくそうだろうとは思っていたが、この世界の亜希菜はこの世界の物質で造られた人形に魂が宿ったものなのだ。
これで確信が持てた。
その点でメイカーとリンカーは明確に異なるのだろう。
だとすればメイカーってなんだ? どうゆう存在なんだ?
新たな疑問が沸き起こる。
そしてリョウは『最近リンカーを造った』といっているが、なぜそんなことがわかるのか?
亜希菜が頻繁に来るようになって半年以上たつ。
それが最近といえるのかはわからないが、なぜそう判断しているのか理由を聞く必要があった。
今まで得た情報から考えると、この場所を見つけた事と、リンカーの存在が関連している様に思われる。
「ほれ、呼んでみろよ。風邪だかなんだか知らねえが、体調不良なんてこっちの世界なら関係ねえ」
まずいな…、とっさの返答が裏目にでた。
今の状況では、まだ彼が敵か味方かの判断がついていない。
この状態で亜希菜を呼ぶのは危険だ。
僕は彼女を呼ばない為の苦しい言い訳を取り繕う。
「いや、やめときます。今日はゆっくり静養するって言ってたんで、しっかり休ませてあげようと思います。」
これで向こうが納得してくれればいいが…。
「ああ? お前、リンカーにそんな気をつかってるのか? 甘っちょろいなぁ」
なんだ、こいつ…。
僕は彼の言い草に腹が立ったが、顔には出さないようにした。
「まー、今日は初対面だから無茶は言わねえが、リンカーは逆らわない様にしっかり教育しないとダメだぞ」
僕はその言葉を聞いて、嫌な胸騒ぎがした。
思わずレイカを見る。
そういえば彼女は僕たちの会話に一切参加してこない。
彼女は最初からずっと同じ岩の上にいて、ほとんど身動きしてなかった。
どこを見ているのか、ずっと同じ方向を向いている。
彼女も亜希菜と同じく、現実世界から呼び出されているはずだが、まるで人間味が感じられなかった。
その、たたずんでいる姿はパンクファッションの乱れた淫靡さと相まって非常に美しかったが、薄ら寒い何かを覚えずにはいられなかった。
僕がレイカを見ているとリョウがいう。
「いい女だろう。あいつをリンカーにするのには結構苦労したんだ。
気に入ったなら抱かせてやるぞ。
ただし、お前のリンカーを俺が気に入った時にはちゃんと抱かせろよ」
彼はなんでもない様子でいった。
僕は一瞬、血の気が引いた。
コイツ…、なにいってやがるんだ…。
僕は彼の言葉に平静を装うのに苦労した。
こいつはレイカを人として見ていなかった。目の前に彼女が居るにも関わらず、それを無視してあくまでも人形であるかの様に扱っている。
それとも彼女は人形なのだろうか?
しかし、彼は彼女の事をリンカーだと言っていた。
人格は呼び出されているはずだ。
そしてレイカはその言葉を聞いても、何一つ反応を示さない。
普段からそう言う扱いを受けているらしい。
こんな奴に絶対に亜希菜を会わせるわけにはいかない。
僕はレイカに同情しつつ思った。
僕はその場で決めた。
取れるだけの情報をとって、彼とは縁を切る事にしよう。彼の今の一言で、物事の見方に根本的な違いがあり、相容れる事はできないと感じた。
そう考えつつ、僕は妙に胸に引っかかるものも感じていた。
僕は息をすこし整えていう。
「いえいえ、僕のリンカーは不細工ですから。レイカさんを見たらリョウさんに会わせるのが恥ずかしくなってきました」
とても弱いが、彼に亜希菜を会わせないための前振りをしておく。
「まーそうだろうな、レイカ以上の玉はなかなかいねぇ」
彼は上機嫌でのたまう。
ふと気づくと岩の上にいるレイカが僕をジッと見つめていた。
前に亜希菜からも同じ目で見られた記憶がある。
彼女は全く反応を示さないが、しっかり話を聞いていて何かを思っているのだ。
僕は思わず目をそらしてしまった。
まだまだ聞きたいことは山ほどあったが、僕はこれ以上会話を続けると平静でいられる自信がなかったため、今日は切り上げることにした。
「リョウさん、ごめんなさい。今日はもう現実世界にもどります。今までに無いことが起こったんで、すごい緊張して疲れちゃいました」
軽くこめかみを押さえながら言う。
「そうか。初めて別のメイカーにあったんなら、そりゃ仕方ねーな。ほんじゃ俺たちも帰るか」
この辺りは見かけによらず、人当たりの良い返事だ。
彼らも自分の世界に戻ることとなった。
僕は正直ほっとしていた。
確かに短い時間にも関わらずものすごく疲れている。普段とは全く違うキャラを演じているせいだ。
結局レイカは最初のリョウに呼びかけた言葉以外、一言も発しなかった。
どうやってこの世界に出入りするのか見届けるため、僕は彼らを送っていく。
彼らが最初に現れた岩の後ろに、一部空間が歪んだように揺らいで見える場所があった。
すぐそばまで近づかないと、肉眼での判別は難しい。
いつの間にこんなものが…。
空を飛んでいては見つけれないはずだ。
「じゃあな、アキラ。また来るわ」
僕は彼のレイカに対する発言で胸糞悪かったが、もっと彼から情報を得なければならない。
自分の感情を押し殺していう。
「ええ、待ってます」
リョウはそう言って、その歪んだ空間に足を踏み入れるとかき消すようにいなくなった。
今度、亜希菜を呼んだ時に与太郎に探らせてみよう。
人為的に作られたのなら、消すことも可能なはずだ。
彼から情報を引き出したあとは、これを塞ぐ手立ても考えないといけない。
そんなことができるのだろうか?
結局、今日のところは彼が敵なのか味方なのか判別はつかなかった。
一つ明確なことは、リンカーに対する彼の考え方には全く同意できない。
亜希菜がこの話を聞いたらその場で逆上していただろう。
僕には考え、対処しなければならないことが山ほどできてしまった。
まずは、亜希菜にしばらくは夢の世界に呼べないことを伝えよう。
そう考えながら、僕はレイカの事がとても気になっていた。