※この作品はR-18です。

ワールドメイカー   作:エガイ

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二四話 夢の世界の空

 その日、リョウは以前に僕と亜希菜が撤退を決めたバリアを張る怪獣まで到達し、しかもそれを倒してしまった。

 あの巨大な怪獣を、彼は一撃で始末した。

 黒い棘は怪獣のバリアを貫通したのだ。

 

「おい、もう飽きた。他に行こーぜ」

 

 リョウは怪獣を倒すと、そう言ってそこで引き上げようとする。

 その間、僕は手を出す事はなく、殆ど彼一人で恐竜を倒してしまった。

 おそらく最後まで行く事も出来ただろう。

 レイカに渡した僕のオートガーターが役立つ機会は無かった。

 

 その後、僕は塔のある島やお菓子の島、廃墟の島など他の島々も案内して回った。

 ただ、僕の住む町を再現した島は身元がバレる恐れがある為、そこは避けておく。

 リョウは驚いていた。

 全体的にガキ臭いが、こんなにさまざまな種類のネタを詰め込んだ夢の世界は初めて見たと言っていた。

 なかなかいい世界じゃねーかとコメントすると、もっと色気のある場所は無いのかとも聞いてきたが僕は無い事にしておく。

 その日はそれで彼らと別れた。

 

 僕は必死に考えていた。

 彼の黒いバリアはとてつも無く強力だ。

 その防御力は空気バリアの比ではなかった。

 電撃も火も水も、そして物理的な打撃も、彼のバリアは全てを防ぐ。

 攻撃がバリアに当たるとその箇所を中心に一瞬にして黒い膜が張られ、攻撃の威力が強いほどその分硬度が増しているようだ。

 しかも、その硬いバリアの形状を一瞬で棘のように変化させ、周りにいる敵を串刺しにした。

 まさに攻守一体となった、優れた盾であり鉾だ。

 どんな思考を行えば、あんなにも強力なバリアが張れるのだろうか?

 あれを攻略しない限り、彼は倒せない。

 ただ、あのバリアを維持するには相当な集中力が必要なはずだった。

 それを裏付けるように、あのバリアを張っている間は、空を飛んだり他の攻撃と組み合わせたりといった、他の能力は一切使っていない。おそらくバリアを張りながら他の事はできないのだ。

 あのバリアの弱点はそこしか思い当たらなかった。

 

 僕は彼らが来ると亜希菜に簡単に状況を報告している。

 前回の訪問時も翌日には電話で彼女に状況を伝えていたが、リョウが"メイカー殺し"だといった下りは彼女には隠してしまった。

 彼女を心配させるし、もし言うとレイカの救出を止められる恐れもあった。

 僕はいまさら後に引く気はない。

 自分の為にレイカを救う必要があった。

 亜希菜には彼らと恐竜島に行きレイカに何とか救うと宣言した事、あとリョウの武器がとても高性能なバリアである事も伝えた。

 亜希菜は言う。

 

「私はまだ居ない方がいいのかな? 本当に圭太くん一人で大丈夫?」

 

「まだ大丈夫だよ。表面上は仲良くやってるから。レイカさんの本心も聞けたし、後はどうやってリョウをレイカさんから引き剥がすかの問題だ。」

 

「そこが一番難しそうだね。聞いている限り言ってわかる人じゃなさそうだし…。」

 

「僕も彼の説得は諦めてる。リンカーを呼ばせなくさせる事もできないし、彼を懲らしめてって考えてたけど、下手すればこっちがやられそうだ。

 かなり状況は厳しいけど、まずはレイカさんを味方につける事からやってみるよ。その内彼の弱点も分かるかもしれない」

 

「圭太くん、無理しないでね。もし彼と喧嘩になるような事になったら、必ず私も呼んでね」

 

 彼女は僕を心配していた。

 リョウと仲違いした場合、喧嘩では無く殺し合いになるのだろうか?

 レイカから彼がメイカー殺しだと聞いても、僕には実感がなかった。

 もし本当にその様な事態になったとしたも、亜希菜は呼べないと考えている。

 彼女をそんな危険にさらす気は毛頭なかった。

 

「ああ、時間は掛かりそうだけど、何とかしてみるよ。なるべく喧嘩にならない様にもするよ」

 

 二人はおやすみを言って電話を切った。

 彼女も夢の世界へ来たいだろうに我慢させている。早めに解決できるといいんだが…。

 

 二日後、僕が夢の世界に入ると彼らはすでにいた。

 大分慣れはしたが、この世界に他の誰かがいる違和感があった。

 今日はいつもより早めの22時にはベッドに向かい、しばらくして夢の世界に入ったが、彼らはもっと早く寝ている事になる。

 一体何時に寝ているのだろうか。

 

 彼らの元に向かう。

 赤い建物の前に行くとレイカが一人でそばの大岩の上で佇んでいた。

 その姿はハッとする程美しく、カールのかかった長い髪とフィッシュテールスカートが風になびいている。

 僕は見とれながら挨拶した。

 

「レイカさん、こんにちは」

 

「……」

 

 声を掛けたが彼女は何も言わず、僕を一瞥するとまた視線を空に戻した。

 

 気まずい…。

 

 だが、あれが彼女なりの挨拶なのだと思う事にした。

 

 僕も岩の上に乗り、彼女のそばに立つ。

 レイカが何を見ているのか気になり、同じ方向を見る。

 

 ……。

 

 空しか見えない。

 

 なんとなく声をかけづらいが、勇気を出して聞いてみる。

 

「レイカさん、何見てるんですか?」

 

「……、空よ」

 

 なるほど、空を見てるのか。

 空しか見えないわけだ。

 

 ……。

 なんか不思議な人だな。

 

 その感想は飲み込んで、僕は気になっていることを聞いた。

 

「リョウさんは建物の中ですか?」

 

 レイカは淡々と答える。

 

「今は居ないわ。空飛ぶクジラを見つけて、それを追っかけていったわ」

 

 あれを見られたのか。

 あそこにはアトリエがあるから、なるべくなら見せたく無かったんだが。

 見つかってしまったのなら仕方がない。

 

「レイカさんは一緒に行かなかったんですか?」

 

「私は追いつけないから、ここに残ったの。あと君が来たら接待するように言われてる」

 

 接待? なんだそれ?

 彼女は続けた。

 

「本当は建物の中で待ってなきゃいけなかったんだけど、暗いのが嫌で出てきてしまったのよ。

 ここで君と話してたのがバレると酷い目に合わされるから、私は中に戻るわ。

 しばらくしてから入って来てちょうだい」

 

「はい、それはいいですけど、接待って何ですか?」

 

 彼女は恥じらいも無く言った。

 

「君を誘惑して、私の体で骨抜きにしろってことよ」

 

 レイカの言葉を聞いて、僕はすごく狼狽した。

 

「えっ! それは困ります!

 レイカさんには言いましたが、僕には大切なリンカーがいて、彼女を裏切る訳には…」

 

「あら、あなた裏切るつもりなの?」

 

「いや、でも結果的にそう言うことになるんじゃないかと…」

 

 レイカの目が細められた。

 彼女が微笑んだのだと後から気づいた。

 

「この世界でもそんな事を気にするなんて…、君はカワイイわね。

 それなら誘惑されたフリだけでもお願い。でないと私、またマスターに酷い目にあわされるの」

 

 そう言うと彼女は建物に戻っていった。

 扉を開け中に入る間際に彼女は言う。

 

「中は監視されてるから不用意な事は言わない方がいいわ。

 あと、君の世界の"空"はとてもきれいで、素敵よ…」

 

 僕はそれを聞いて空を見上げる。

 淡い青からから群青色にグラデーションのかかった、透明で澄み切った青空が広がっていた。

 彼女に言われて初めて気づいたが、確かにきれいだった。

 

 彼女は部屋の中は監視されていると言っていた。

 あの薄暗い部屋の中で監視されながら過ごすレイカを思うと、とても不憫に思える。

 何よりも、さっきレイカが微笑んだ時、そのぎこちなさに驚いてしまった。

 彼女は笑い方を忘れてしまったんだと思う。

 僕は彼女をもっと笑わせてあげたかった。

 もっと自然に笑わせたかった。

 彼女を救ってあげたかった。

 

 そんな事を考えている内に時間が過ぎていた。

 彼女から言われたように、扉の前で今来たかのように振る舞う。

 

「リョウさん、レイカさんいますか?」

 

 しばらくしてレイカが扉を開けてくれた。

 彼女は可笑しそうに言う。

 

「監視されているのはベッドのある部屋の中だけよ。そのまま入って来ても大丈夫」

 

「えっ、そうなんですか? なんか損した気分だ」

 

 レイカが口に手を当て、クスリと笑う。

 とても可愛いかった。

 この彼女の笑顔をもっと増やしていこうと僕は思った。

 

 部屋の中に入るとレイカはベッドの上に座った。

 ここはもう、監視されているのだろう。

 レイカの雰囲気がさっきとは変わった気がする。

 彼女がいう。

 

「アキラ君、ここに座って。今はマスターは居ないわ」

 

 僕は言われるままにベッドの端に座る。

 気づかれないようにさりげなく辺りを見回すと、部屋の片隅に"目玉"が浮かんでいるのが一瞬見えた。

 

 あれか…。

 

 光の届かない薄暗い天上の隅にそれは浮かんでいる。

 意識していなければ気づかなかっただろう。

 レイカは僕のそばにきて、横に並んで座った。

 彼女独特のオレンジの淡い香りが鼻腔をくすぐる。

 さっき外で話を聞いていたとはいえ、僕はドギマギしてしまう。

 

「マスターの居ない今なら私を好きにしていいのよ。

 君は私の事をどうしたい?」

 

 そう言いつつも彼女はカメラのある方向に視線だけを向け、僕に忠告してくれた。レイカの口調から音声も拾われてると思って間違いない。

 その方向を見ないようにしつつ、僕は彼女の魅力に圧倒されていた。

 横座りする彼女の大きな胸は下の部分が露出していてことさらエロかった。

 どうしてもそこに目がいってしまう。

 

「えっと…、どうしたいと言われても…」

 

「私と、エッチなことしてみたい?」

 

 僕は亜希菜以外の女性には全く興味が無かったが、レイカは別だった。

 亜希菜には申し訳ないが、正直"やりたい"と思ってしまっていた。

 というか、僕は時々彼女を亜希菜のように思ってしまっている節がある。

 ゴクリと唾を飲む。

 

「…してみたいです」

 

 赤くなりながらも思わず言ってしまっていた。

 

「ならしましょう。マスターはしばらく戻ってこないわ」

 

 そう言って僕に顔を近づけてきた。

 彼女のアーモンド型の美しい瞳が僕を見つめる。

 キスされるのかと思ったが、彼女は僕の耳元で囁いた。

 

『セックスしてるフリだけでいいわ。バレない様にしてね』

 

 僕は外で『それは困る』と言ってしまったことを心から後悔しそうになったが、亜希菜の怒る顔が頭をかすめ、フリで我慢しようと思った。

 

 彼女は僕のメガネを外して、そばにあるテーブルの上に置く。

 

「前で縛る? それとも後ろ?」

 

 振り返って唐突に彼女が言った。

 

「えっ? 縛るってどうゆうことですか?」

 

「君は私の手を縛らないの?」

 

 何を言ってるんだろう。

 

「なんで縛るんですか?」

 

「ああ…、そうね。君はこんな経験は初めてだものね。

 マスターもそうだし、他のメイカーもほとんどがそうだったけど、私とセックスする人は無防備なセックス中に私に復讐されるのを恐れて、自由の効かないように手を縛るの」

 

 僕は息をのんだ。

 

「そんな…、それだとセックスじゃ無くて、レイプじゃ無いですか」

 

「そうよ。…君は怖く無いの?

 メイカーに何十回も殺されてる私は、全てのメイカーを恨んでるかも知れないのよ」

 

 彼女は当たり前の様に言った。

 そんな異常な行為が彼女の日常になっているのか…。

 

「僕にはあなたを縛らなきゃならない理由がありません。そのままでいいです」

 

 レイカは僕をジッと見つめる。

 少し悲しそうな顔をしている。

 なんで悲しそうなんだろう。

 

「そう…、ありがとう」

 

 そう言うと彼女は僕に抱きつき、ベッドの上に押し倒した。

 大きな乳房が僕の胸に押し付けられ、シルクの様な髪が顔をくすぐる。

 首に腕を回しキスしてきた。

 貪るように激しく唇を吸われ、僕はそれだけで陶酔しそうになった。

 

 彼女が耳元で囁く。

 

『私に…、私に優しくしないで…。普段が辛くなちゃうから…』

 

 その言葉を聞き、彼女の両腕を掴んで跳ね上がるように上半身を起こす。

 彼女は驚いて僕を見る。

 少し涙ぐんでいた。

 彼女の腕はとても細く、豊満な肉体とはうらはらに、か弱く思えた。

 

「僕が…、必ず!……」

 

 "あなたを救います!"

 

 今は言えない、続きの言葉を飲み込んだ。

 でもその言葉は伝わったようだ。

 彼女は悲しい顔のまま、顔を小刻みに横に振る。

 "そんな事は止めて"と目で言っている。

 

 絶対に止めるもんか!

 必ずあなたをこの地獄から救い出してみせる!

 

 僕は強い意志を眼差しに込め、彼女を見返していた。

 

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