−亜希菜視点−
その日、彼らはなかなか夢の世界には現れなかった。
私は圭太くんの赤くなった両頬を濡れタオルで冷やしてあげながら、今か今かと待ち構えていた。
夢の世界は時間のたつのが現実世界の約1/10だ。
じっくり待つしかなかった。
圭太くんはリョウと戦闘になった際の作戦をいろいろ考えていた。
ぼんやりしているようにしか見えないのだが、時々独り言を言ったりしていた。
頭の中は忙しいらしい。
私はその待っている間に、彼から壊滅したと聞いた恐竜島に行くことにした。
「リョウのすごい威力の爆弾のせいで、島に大きな穴が開いちゃてるんだ。
修復には相当時間がかかりそうだよ」
彼はそう言っていた。
私はどんな状態になっているのか気になっていた。
もうちょっとで攻略できそうだったのに…。
圭太くんには私一人でも大丈夫だと言ったのだが、万が一を考えてか彼は一緒に行くと言い張った。
彼の考え事の邪魔にならないようにと思ったのだが、かえって裏目に出てしまった。
私たちは恐竜島に向かって空を飛んでいた。
今日は少し雲があった。
ところどころに、まるで綿菓子のような雲が浮かんでいた。
上を見上げると、さらに上空に薄くうろこ雲があった。
久しぶりの夢の世界の空だ。
空気バリアは最小限にしている。
風を切って高速で飛翔するスピード感が最高に気持ち良かった。
私はクルクルと体をロールさせたり、宙返りしたりしながら、雲の間を縫うよにアクロバティックな飛行を楽しんだ。
複雑な今の状況を忘れ、全てを置き去りにして身一つでの飛行を楽しんだ。
圭太くんはいつも通り、私の後ろから付いて来ていた。
私がはしゃぐのを少し離れて見ていた。
この世界で常に私を見守ってくれている、いつもの優しい表情だった。
こうやって二人で飛ぶのは久しぶりだ。
彼も気分転換になって良かったかもしれない。
恐竜島まではまだ少しかかる。
私は久しぶりの飛行で高揚していて、ちょっとしたイタズラを思いついた。
私はいつも アトリエで着ているオーバーオール姿だったが、雲の中に入っている間にブラウスとミニスカートに着替えた。
圭太くんをビックリさせ、赤くなってどぎまぎする顔が見たかった。
雲から飛び出て、しばらくして振り返ると、案の定、目のやり場に困っているらしい、彼の不自然な落ち着きのない動きが見られた。
その様子は見てて可愛かった。
私は彼のオロオロした様子が可笑しくて、クスクスと笑いを堪えていた。
ふと気づくと彼の姿が見えなくなり、すぐ背後から声が聞こえた。
「亜希菜、ワザとだな」
「え!?」
彼は赤い顔を少し怒り顏にして私に抱きついた。
「そんな奴にはこうだ!」
彼は私をくすぐり出した。
「キャッ、いや〜、くすぐったい!」
彼は右手で私を抱きかかえ、左手で脇腹をこちょこちょとくすぐり続ける。
私は身をよじらせて彼から逃れようとした。
「圭太くん、ごめん! 許して!」
彼が少し腕を緩めた時、私はスルリと彼の背後に回り込み、仕返しに彼をくすぐった。
「うひゃ!」
彼が声を上げる。
私は笑い声をあげながら、彼から逃れる。
「べーだっ! 圭太くんいじると面白いから、絶対またやるもんね」
「あっ、待て!」
圭太くんが私を追いかける。
私は捕まらないように、一気に上昇して振り切ったり、雲の中に隠れたりした。
大空を舞台にした鬼ごっこだ。
二人は声を上げ、鳥達が遊ぶように空を駆け回った。
私は素早く動き、彼に捕まりそうになる直前でスルリと躱す。
「圭太くん、そんなんじゃ私は捕まえられないよ!」
「君は本当に素早いよ。僕より空飛ぶの上手いな」
「少し手加減してあげよっか?」
「必要ないさ!」
彼はそういうと一瞬にして消えた。
あれ?どこに?
不意に抱きすくめられる。
目の前に彼の顔があった。
「あっ、ずるい! 瞬間移動つかったんでしょ?」
「そう、ズルした。でも捕まえたからご褒美ね」
彼はそういうと私にキスしてきた。
「えっ…、んっ…」
彼に強く抱きしめられ、キスをされると一気に体の力が抜ける。
そう…、ずっとこうしたかったの…。
彼の唇を求め、背中と頭に腕を回す。
二人は横になって空を飛びながらキスし抱き合った。
彼の舌先が私の口の中に潜り込んでくる。
私はそれを受け入れ、私も舌先を絡めた。
頭が痺れるように白くなり、快感を求め、むさぼるようにキスした。
不意に唇が離れ、彼の手からも抜け落ちそうになる。
いつの間にか私は落下しだしていた。
「あっ、亜希菜っ!」
少しずつ落ちていく私を彼があわてて抱き留めてくれる。
私は彼に抱き着いた。
彼を見つめて言う。
「だめだよ…。頭の中が真っ白になって、空を飛んでられなくなる…」
私はトロンとした表情で彼にいった。
ひさぶりのキスは、すごく私を興奮させていた。
彼は優しく私に微笑む。
「亜希菜、本当に可愛いな君は…。大好きだよ…。」
「私もよ…。だから、リョウと道連れに死ぬなんてもう絶対に言わないで…。私が悲しくて死んじゃう…」
そう言ってまた彼にキスした。
彼は飛べなくなってしまう私をその体の上にのせ、抱きしめてキスを受け入れてくれた。
そのまま二人でお互いの体を抱き、目の前の存在を確かめあう。
彼の体は固く、筋肉質で逞しかった。ずっと触れていたかった。
彼の手が私の胸を優しく揉む。
「あっ…」
湧き上がる快感に思わず声が漏れる。
顔を上げ、彼に聞く。
「あなたは、空を飛びながらこんなことしても大丈夫なの?」
「うん、僕は思考の分割に慣れてるから大丈夫。さすがに本当にエッチしちゃったら落ちちゃうかもね」
彼も少し興奮した表情で、私の乳房を揉みながら答えてくれた。
もう一方の骨折した手は私のお尻を弄っている。
私は体が熱くなり、じんわりと股間が濡れてくるのが分かった。
体がもっと快感を求めている。
「落ちちゃうか、試してみようか?」
「えっ?」
「だって…、レイカさんだけずるい…。私もあなたと…」
彼は優しく私を見つめていう。
「亜希菜、僕は君の事を本当に大切にしたいと思ってる。
だから、現実世界でそうゆう関係になってからって決めた二人の約束は守りたいんだ。
君もそういってたじゃないか」
「そうだけど…。もうあんまり我慢できない…。
そうだ、圭太くん。この件がうまく片付いたら、現実世界でセックスしましょう。
だって、もうしない理由がないもの…。
私、本当にあなたの事が好きよ。
今もそうだけど、ずっとあなたに触れていたいし、あなたに触れてほしい…。」
私は彼に問いかける。
彼は私を抱きしめていった。
「亜希菜…、僕はまだ君にふさわしい男になれた気が、ちっともしてないんだけど…。
こんな僕が君の初めての男になってもいいのかな…」
私は彼を見つめていう。
「あなた以外、考えられないの…」
私は彼に私の気持ちを伝えた。
それを聞いて彼は、私をギュッと痛いくらいに抱きしめてくれた。
とても…、とてつもなく幸せな気持ちに私は包まれていた。
その後、彼は高まった私を満足させる為にいろいろしてくれた。
パンティーの間から彼の指が入り込み、私の大事なところを刺激した。
首筋や耳を舐められ、私は彼の上で喘ぎ声を上げていた。
久しぶりのその感触は、私をあっという間に快感の高みに引き上げ、激しく悶えさせた。
彼の股間が膨らんでいることもわかっていたが、この状況では何もしてあげられず、私は彼から与えられる快感をただただ味わい続けた。
私は高まりとともにすぐにイってしまい、ぐったりと彼の上に横たわった。
彼の服を私の愛液で汚してしまったことが気にかかる。
彼は私の満足そうな顔を見届けると、不意にくるりと体をロールさせた。
当然、私は彼から落ちた。
「えっ、キャー!」
私は突然の落下に驚いていた。
まだ混乱していて空を飛べるか自信がない。
でもすぐに落下は止まった。
彼が私を横抱きに抱えてくれていた。
いわゆるお姫様だっこだ。
「亜希菜、驚かせてごめん」
私は彼の首に腕を回し抱きついた。
「もうっ、びっくりしたじゃない! ばかぁ」
「そろそろ着くからね。こうしないと前が見えない」
そっか…、恐竜島に向かってる途中だった。
快感に翻弄され、本来の目的を忘れかけていた。
空の上を飛びながら欲情してしまっていたことが少し恥ずかしかった。
でも彼の胸に抱かれて飛ぶ、この状況も悪くないなと思った。
「気持ちよかった?」
彼が涼しげな顔で聞いてくる。
「う~、そんなこと聞かないでよ…」
私は恥ずかしくて、顔を赤くして困り顔で答えた。
今回は一方的に私だけが奉仕してもらった形だ。彼に喘いでる顔をずっと見られていたような気がする。
下着がまだ愛液で濡れていることを意識してしまい、恥ずかしくて彼の服に顔を埋めた。
「でも、圭太くんに何もしてあげれなくてごめんね」
「いや、気にしなくていいよ。さすがにあの状況じゃ無理だよ。それに今もこうできるしさ!」
彼はそう言ってブラウス越しに私の胸に顔を埋め、ぶるぶると顔で胸を
「あははっ、くすぐったいよ!」
思わず声がでる。
私たちはそうやってふざけ合いながら、恐竜島に向かった。
実はもう空を飛べるくらい頭がはっきりしていたが、彼のお姫様だっこが心地よくそれに甘んじていた。
やがて恐竜島が見えてきた。
私はかなり遠くからでも島の地形が変わっていることに気づいてた。
少しずつ詳細が見えてくるにつれ、今までの幸せな感覚がしぼんで、逆に緊張感が高まってきた。
私はもう大丈夫と言って彼の腕から離れ、島の惨状を眺めた。
私はその変わりように戦慄した。
7キロ程しかない島の中央に1キロ近くもある巨大なクレーターがぽっかり口を開けていた。
そのクレーターの周囲はすべての木々が無くなり、延々と荒地が広がっていた。
外側に行くにつれ、少しずつ生き残った木々が増えていったが、それらもすべて海側に放射状に倒れており、ただ枯れるのを待つだけだった。
ここから見る限り、動いている恐竜もいなかった。
まさに彼の言葉通りの壊滅 だった。
「ひどい…」
思わず言葉が漏れた。
「ああ…」
彼も当時を思い出しているのか、厳しい表情になっていた。
私は彼がこんな凄まじい破壊をもたらす存在と戦っていたことを知り、彼が今生きている事が奇跡のように思えてきた。
圭太くんはレイカさんが何度も彼を助けてくれたと言っていた。
最後は命を落としてまで、彼を守ってくれた。
そこまでしないと、彼は生き残れなかったのだ。
それ程、強大な力を持った相手なのだ。
私は彼を生き残らせてくれたレイカさんに、心から深く感謝した。
私は改めて覚悟を決めた。
レイカさん、彼を守ってくれて本当にありがとう。
今度は私の番だ。
私の命に替えてでも、圭太くんを守る。
「絶対に守ってみせるから…」
思わず呟いていた。
その言葉は風に乗って、島へのレクイエムに変わった。
その日、結局リョウ達は夢の世界には現れなかった。