戦闘が始まった。
今から、大きな岩がごろごろ転がるこの荒れた島が戦場になる。
「レイカさん、安全な場所まで離れて!」
僕はレイカさんに退避するように大声で言う。
彼女は拘束されたままだったが、心配そうに僕たちを見やりながらも少し離れた岩陰に退避した。
亜希菜と僕は恐竜島の攻略の際、いつも使っていたフォーメーションに移った。
亜希菜はリョウに接近し近接攻撃のできる距離で、僕は距離をとり遠距離攻撃に専念できるように配置を整える。
リョウは目をつむり精神を集中させていた。
薄黒い膜が彼を覆い、例の強力なバリアが張られる。
リョウがバリアを張ると彼のオートガーターは弾き飛ばされ消える。
僕はそれをみて少しホッとしていた。
ヘッドセットで亜希菜に指示をだす。
『亜希菜、あいつのバリアもそうだが、一番危険なのは拘束蛇だ。
あれに捕らわれると何もできなくなる。
君は作戦通り蛇を警戒しつつ、ひたすら剣を彼に打ち込むんだ。
あと黒い棘が出たとき、盾のテストも頼む!』
『わかった!』
彼女はリョウから約20メートルの距離をとり、彼と対峙した。
リョウが口を開く。
「圭太とかいったな…。
お前の名前はアキラのままでいい。
どうせ今から死ぬんだから、お前はアキラのまま死ね」
僕はその言葉を無視して、自分のオートガーター(改)を呼び出す。
リョウの黒いバリアの為に改良したものだ。
以前よりも大きな円盤で直径は80センチ近くあるが、その分素早い反応はできなくなっている。
ただ、広範囲を守ることができるため、奴の黒いバリアには有効なはずだ。
指の痛みは動かさない限りほとんどない。
戦闘に支障はなかった。
僕は手始めにレーザーをリョウに3点射する。
リョウのバリアには僕のレーザーなど全く通用せず、すべてきれいにはじかれた。
撃たれたことなど意に介さず、バリアの中から薄笑いを浮かべ亜希菜に声をかける。
「おい、ねーちゃんよ。
亜希菜、だったよな。
メチャメチャいい女じゃねーか。
しかもそんなエロいかっこして、そんなに俺に犯されたいのか?」
亜希菜はその言葉を無視し、鋭い目で見据えた瞬間、斬りかかった。
20メートルはあった間合いを一瞬にしてつめ、体をバネの様に反らせた後、両手でもった剣で渾身の一撃を振り下ろす。
ガコォンッと腹に響く金属的な音がして剣が盛大な火花を散らし、バリアが瞬間真っ黒になる。
ワンステップで飛びずさり、そのまま元の間合いに戻った。
リョウはバリアの中で目を見開き驚いていた。
奴のバリアは与える衝撃が強いほどその箇所が黒くなるが、今の一撃は相当強かったらしい。
バリアの全体が真っ黒になっていた。
彼女の人間離れした俊敏性は自己強化魔法によるものだが、それを使いこなせるのは亜希菜の高い身体能力があればこそだ。
恐竜島での経験が、確実に彼女の戦闘能力を高めていた。
リョウは薄笑いを消し、険しい表情になる。
「単なるコスプレ趣味の、お飾りリンカーとは違うらしいな…」
リョウは亜希菜に向かってダッシュする。
「あんたには、俺の"ガンガゼ"をくれてやるぜ!」
亜希菜に迫った瞬間、黒いバリアから一斉に鋭い棘が伸びた。
一瞬にして黒い針の山が現れる。
彼女はリョウから離れる様に後ろに下がっていたが、突然伸びた棘に飲み込まれる。
バキンッ!
硬いものがぶつかる音とともに、亜希菜は構えた盾ごと弾き飛ばされていた。
だが、体勢は崩しておらず、体を低く落とし盾を構えた状態のまま、両足で砂利を弾き飛ばし地面の上を滑る。
よし、弾いた!
亜希菜に通信を送る。
『盾の状態は?』
『大丈夫。なんともないわ』
彼女の盾は特別頑丈だ。
空間を圧縮するパーツが貼り付けられていて、そのパーツがとてつもなく硬いのだ。
亜希菜の盾はリョウの攻撃を弾ける。
とても重要な事だった。
リョウは自分のバリアのことを"ガンガゼ"と言っていた。
海に住むウニの仲間だ。
確かに奴のバリアの攻撃時の形状は、まさにガンガゼそっくりだ。
リョウは棘を引っ込めると、真面目な顔で亜希菜を見据えて言う。
「フン、なかなかいい防具を持ってるな。
俺の"ガンガゼ"で貫けない物はそうそう無いはずだが…、あんたは闘えるリンカーらしいな。
アキラのリンカーにして置くのはもったいねえ。
俺のリンカーにならないか?」
亜希菜は戦闘中にもかかわらず、にっこり笑うと言う。
「アキラって誰?
私のメイカーは"圭太くん" って言うのよ。
レイカさんは本当に不幸ね。
あなたみたいに頭の弱い人が、自分のメイカーだったなんて」
リョウはその言葉を聞いて、一瞬にして険しい顔になる。
亜希菜、あんまり煽りすぎないでくれよ…。
「なら、お前を犯して殺すだけだ。
だが、リンカーと遊んでても仕方ねえ。
お前らは死なねえからな。
まずはメイカーだ。
お前の大事な"圭太くん"とやらを痛めつけてやる」
「させないわ!」
亜希菜は顔を厳しくし、リョウに切りかかった。
一瞬にして奴の目の前に跳躍し、両手持ちの剣を叩き付ける。
ガコンッ!
またリョウのバリアが真っ黒になる程の強い一撃を放つ。
「邪魔だ!」
リョウは棘を展開した。
咄嗟に盾を構えた彼女を弾き飛ばす。
ただ、いつもと違う伸び方だ。
全体にまんべんなく伸びるのではなく、亜希菜のいる一方にだけ全ての棘が集中して伸びている。
僕は危険な匂いを感じ、亜希菜に通信する。
『亜希菜、大丈夫か?』
『ええ、でも…、この棘ずっと伸びつづけてるわ!』
彼女は盾ごとリョウの棘の束に、すごい勢いで押しやられていた。
そのまま約100メートル近く棘はのび、彼女はその勢いでさらに数十メートル後ろに飛ばされようやく着地する。
不意にリョウのバリアが消える。
奴を見るとバリアを解除し、僕の方を見ている。
亜希菜を引き剥がすのがさっきの攻撃の目的か…?
僕を凝視している。
距離は約150メートル。
さっきの棘の束でも届かない距離だが、何か仕掛けてくると予感した。
リョウに向けレーザーを放つ。
その姿が消え、レーザーが素通りした。
来るっ!
突然、すぐ目の前にリョウが現れる。
瞬間移動!?
「死ねっ!」
奴がバリアの実体化を念じる。
オートガーター(改)が反応する。
バリアが張られると同時に棘が展開された。
ガキンッという衝撃音と共に、ガーターごと体がすごい加速度で弾き飛ばされる。
亜希菜はこんなのを受けてたのか!?
20メートルほど弾き飛ばされ地面を転がる。
亜希菜の僕を呼ぶ叫び声が聞こえる。
よく見るとガーターの金属板に穴が何個か空いて、ひび割れが走っていた。
バリアの棘の方が固く、単なる鋼鉄の盾だと突き抜けてしまうことが分かった。
僕の盾は、そう長くは持たない。
奴の"ガンガゼ" を防げない。
「おい、だらしねーな。お前のリンカーの方がしっかりしてるじゃねーか!」
リョウは残忍な笑みを浮かべ僕を見る。
立ち上がり、奴を見返しながら服についた泥を払った。
こんな瞬間移動を組み合わせた攻撃パターンは初めてだ。
ただ、この攻撃パターンは僕の"想定内"だ…。
あと、どれだけ攻撃の"引き出し" はある?
亜希菜が駆け付け、リョウを睨みながら僕に声をかける。
「作戦に変更は?」
「ない、続行だ」
「わかった!」
彼女はそう言った瞬間、リョウに向かって突き進み、再び凄まじい一撃をバリアの上から見舞った。
腕の力ではなく全身をバネの様に使う強力な打撃だ。
ガコォォンと腹に響く打撃音があたりにこだまする。
あの打撃音は背筋が寒くなる…。
リョウも同じように感じているに違いない。
僕はまた彼から距離をとり、最初のフォーメーションに戻る。
リョウは僕たちの立ち直りの速さに驚いているようだ。
僕は弾かれるとわかっていても、威嚇のための遠距離射撃をリョウに放った。
絶え間なく続く僕達の攻撃を、リョウはバリアで防ぎ続けた。
奴は僕に近づこうとするが、亜希菜が常に間に入りリョウの行く手を阻止する。
そしてあの強力な打撃をバリア越しに見舞う。
僕はとにかくレーザーを打ち続け、奴にバリアを解除する暇を与えなかった。
単調な攻撃が繰り返される。
双方に決定的な打撃はない。
何回か亜希菜のバリア越しの打撃が続きいたとき、リョウがまた彼女にあの射程の長い"ガンガゼ"を仕掛けた。
亜希菜が盾ごと遠方に吹き飛ばされる。
リョウは彼女を僕の位置とは反対の方向に弾き飛ばして引き剥がすと、バリアを解除し僕を見据える。
瞬間移動の座標の位置決めをしているのだ。
また来る!
僕は背後に飛行し、位置決めを攪乱しようとした。
リョウの姿が消える。
どこだ?!
ガーターが素早く背後に回る。
突然、背中から突き上げられ高く空中を舞った。
体勢を変え見下ろすと、ガンガゼが巨大な黒い花の様に棘を広げていた。
薄黒いバリアを通してリョウのニヤリとした不敵な顔が見える。
オートガーターは今の攻撃でとうとうバラバラに割れてしまった。
クソッ、2度の打撃で粉砕か。
僕の防御は貧弱すぎる!
ガンガゼから自分自身を守る手段は失われてしまった。
リョウが声をかける。
「とうとう盾がなくなったな。オメーは次で終いだ」
僕は何も答えず、奴を見返す。
戦闘中は意識して会話を交わさない。
前回の戦闘の反省からだった。
突然、ガンガゼの棘の間に雷撃が走り、バチバチと衝撃音が走る。
亜希菜が電撃弓でリョウを攻撃していた。
まったく効果はないのだが、リョウがうるさそうに亜希菜を見やる。
こんな攻撃もあることをリョウは認識した。
亜希菜はまたリョウに距離をおいて張り付き、僕は彼女の背後に回りフォーメーションを維持する。
フォーメーションを組み直す間も、常にレーザーで攻撃し続ける。
その後、また単調な攻撃を繰り返す。
すでに戦闘開始から30分近くたっていた。
リョウがしびれを切らしまた仕掛けてくる。
亜希菜が踏み込んだ瞬間、あの長射程のガンガゼを彼女に見舞った。
3回目の瞬間移動での接近攻撃だ。
前回との間隔が短くなっている。
盾のなくなった僕を仕留めるつもりだ。
奴との距離は約200メートル、座標を見極めている。
僕は、あえて待ち構えるように動きを止めた。
来いっ!
リョウは僕の真正面に姿を現す。
「今度こそ、死ねっ!」
奴は叫びつつ、バリアを呼び出し棘を展開した。
黒い棘が僕に向かってすごい勢いで伸びてくる。
頼むぞ…、亜希菜…。
瞬間、すぐ目の前に黒髪が現れ、よい香りが鼻をつく。
バキンッ!
亜希菜の盾と棘のぶつかる金属音が響く。
彼女の体が僕にぶつかり、そのまますごい加速度で後ろに飛ばされた。
二人は重なり合ったまま、地面に弾き飛ばされ転がる。
さすがに僕がいると彼女もうまく着地できなかったようだ。
「亜希菜、無事か!?」
「ええ、大丈夫。あなたは?」
体を起こし、リョウに顔を向けながらいう。
「無事だ。ドンピシャなタイミングだったよ」
「当然よ」
二人は起き上がり、油断なくリョウを見据える。
リョウはバリアの中で驚愕していた。
「なっ…、なんだこいつは…!?
瞬間移動か?
てめえ、リンカーにそんな能力まで与えてたのか!?」
突然現れた亜希菜に驚き、僕に問いかけてくる。
奴が驚くのも無理はない。
彼女はまさに驚異的なタイミングで現れ、僕を守ってくれたのだ。
その言葉を無視し、亜希菜に声をかける。
「亜希菜、だいたい状況は整ってきた。そろそろ反撃にうつる」
「ええ、わかったわ」
「与太郎は?」
「いつでも行けるわ」
「よし、あいつを倒そう」
「ええ」
亜希菜が僕をみて頷く。
彼女がいるだけで、とても心強かった。
奴のオートガーターのコピーには正直驚いたが、リョウの今までの攻撃パターンは、今のところ僕の想定した範囲内のものだ。
頭の中で想定したものと形は違えど、棘の射程の長さの変化もある程度は予測していた。
そして僕の盾が奴の黒いバリアに敵わないことも…。
そろそろリョウも僕たちの作戦に気づいているだろう。
黒いバリア"ガンガゼ"はそれを維持するのに、非常に高い集中力が必要だ。
人間は意識を集中した状態を、そんなに長くは保ってはいられない。
仮に僕が黒いバリアを張れたとして、それを維持しようとしても15分も持てばいいところだ。
リョウはすでに40分近く、あれを張り続けている。
そろそろ、限界が近づいているはずだ。
その証拠に勝負を焦りだし、余裕がなくなってきている。
この状況を僕は待っていた。
奴の攻撃の"引き出し"も、これ以上は無いようだ。
亜希菜も僕も可能な限り力を温存し、バリアを張らせ続けた。
これから反撃に移る。
彼のこれからの行動が僕の予測した範囲内であれば、……僕たちは勝てるはずだ。