妹が僕に声をかける。
「おにーちゃん、新聞持ってきたよ~」
「ああ、サンキュー!」
まだ朝の7時30分で学校に行くまでに一時間以上余裕がある。
僕は妹から新聞を受け取ると、ダイニングテーブルにそれを広げた。
看護師の母は夜勤で、これから帰ってくるだろう。
父は単身赴任で2か月に一回帰ってくる程度だ。
父がいない今、朝の新聞は僕しか見ない。
リョウが死んで5日が過ぎていた。
毎朝僕は新聞を読んでいたが、それ以来、最終ページ手前の三面記事に特に念入りに目を通していた。
その日の新聞でようやく探していたものを見つけた。
-Y市で不審死 胸を刺され男性が死亡-
S県警Y署は18日、Y市にあるマンションの一室で、デザイン事務所勤務の
僕はその小さな記事をみてリョウだと直感する。
レイカさんはリョウがデザイナーだといっていた。
『深川 亮太』の名前には"リョウ" の文字も含まれている。
胸を刃物で刺された点も一致している。
その新聞のページを切り取りって保管した。
僕はその後もネットを使っていろいろ調べてみた。
ネット上にリョウの情報が見つかった。
マイナーなインディーズブランドのファッションデザイナーとしての姿がそこにはあった。
彼はデザイン事務所に勤務し、そのブランドの担当をしていたらしい。
パンクファッションのブランドだ。
ネットには自分のデザインした服を着たデザイナー『深川 亮太』の写真もあった。
夢の世界でのリョウの姿より大分おとなしいが、それは紛れもなくあの『リョウ』だった。
僕はそれが分かった時点でリョウの勤めていた会社に電話をしてみた。
学生時代の友人の振りをしてリョウの葬儀の状況を聞く。
僕はそこでリョウの身の上を知った。
リョウは孤児で近しい親類や身寄りがなかったらしく、警察の司法解剖がすんですぐに火葬され、葬儀も行われずに無縁仏として埋葬されるとのことだった。誰も引き取り手のなかったリョウの遺骨は役所が決めた共同墓地に埋葬されるらしい。
電話に出たデザイン事務所の人は、まるで自分が悪いことでもしたかの様にその状況を説明してくれた。
「コツコツ頑張っていたあの深川君が、こんなことになるとはねぇ…。」
最後にそういった電話口の人の言葉が心に残った。
数日後、僕はY市の市役所に電話をかけ、リョウがどこの墓地に埋葬されたかも確認した。
リョウの死が発見されてからたった一週間で、彼はもう骨になって埋められていた。
僕は夢の世界で死んだ人間がどうなるのか気になって、リョウの事を調べていた。
僕もそうなる可能性があるからだ。
それと単純に現実世界のリョウが、どんな生活をしてたのかも気になっていた。
どちらかと言うと僕の興味は後者にあった。
『リョウ』はどう考えても許される人間ではなかったが、その存在は僕にとって衝撃的だった。
そして僕が絶対にそうなってはならない、反面教師としての存在でもあった。
僕はリョウがとても不幸な人間に思えた。
リョウの人間性を否定しつつも、せめて僕だけでもリョウに
僕はリョウの墓参りに行くことにした。
その日の晩、亜希菜と夢の世界で出会い、僕はそのことを彼女に相談した。
夢の世界で亜希菜に会うと、開口一番に彼女はいう。
「圭太君、クリスマスは本当にごめんね!」
彼女はクリスマスイブに現実世界で会えなくなってしまったことを言っていた。
当初、彼女はクリスマス・イブの24日は現実世界で一緒にデートしようと提案していたのだ。
僕もそれに了解していた。
ところが、彼女のファンクラブの監視の目が厳しいのと、家族からもいっしょに祝おうと話があがり、まだ恋人ができたことを公にできない関係から家族のイベントを断り切れなかったのだ。
「いや、気にしなくていいよ。いつでもこうやって会えるんだし」
僕は本当に気にしていなかった。
リョウの件が片付いた今、彼女とはこうやって何時でも夢の世界で会えるし、それに僕自身そうゆうイベントにはあまり感慨を持たない性格だ。
それでも彼女はそうゆう特別な日こそ、現実世界で会うことが重要と考えているようだった。
「それはいいとして、僕から相談があるんだ」
僕は亜希菜にリョウのお墓参りに行きたいことを伝える。
二県離れており、ちょっとした小旅行になるが、もしよかったら亜希菜も一緒に行かないかと誘った。
彼女は最初驚いていたが、即座に『私も行く!』と言ってくれた。
僕は冬休みに入った二日目にそこに行くことと、電車とバスでの移動になることを伝える。
地図で見る限り、そこは海辺の街で目指す墓地は海のそばにあるはずだ。
S県のY市なんだよね?と彼女は念を押すようにいった。
当日の朝、僕と亜希菜は駅で待ち合わせた。
少し風があったが、太陽の陽が降り注ぐよく晴れた日だった。
僕の方が先に駅につき、亜希菜をまつ。
やがて彼女が現れた。
ベージュ色のダッフルコートに膝丈のチェツク柄のスカートと、厚手のタイツにブーツを履いている。
頭には綿毛のついた毛糸の帽子を被っていてとても可愛い。
同じような格好をした女性は沢山いたが、道を行く男性の多くが亜希菜に視線を向けていた。
やっぱり亜希菜は普通のかっこをしていてもすごく目立つんだな…。
普通は逆だが、彼女自身が服を引き立てていた。
僕は改めて彼女の魅力を認識する。
僕は全く気負っておらず、普段着のナイロン製のジャンパーとジーンズ姿で、とてもおしゃれとは言えない格好だ。
そういえばデートみたいなもんなんだから、我ながらもう少しマシなカッコをしれくればよかったと後悔した。
「圭太君、お待たせ!」
亜希菜が僕のそばに立つ。
にっこり笑うその笑顔は天使のように可愛い。
思わずこちらも笑顔になってしまう。
僕は周りの視線を感じつつ、行こうかといって彼女と歩き出す。
ふと気づくと彼女は大きなキャリーバックを持っていた。
ガラガラとそれを引っ張り彼女は歩く。
「なに? なんでそんなに大きなバックもってるの?」
「いいから気にしないで。女の子は荷物が多いものなのよ」
不思議に思い聞いた僕に、へへっと笑い彼女はそう答えた。
二人は電車を乗り継いで目的地にむかった。
東京駅で乗り換えて、人の多さに目を白黒させながら目的の路線を探す。
僕がどのホームか迷っていると亜希菜が「圭太君、こっちだよー」と言って教えてくれた。
彼女の方が詳しいらしい。
電車に乗ると思った以上に空いていて、僕たちはボックス席に二人で座っていた。
やがて電車が走り出し、二人は車中の人となる。
目的地までは2時間近く揺られることになる。
電車の揺れる音だけが響くゆるやかな時間が流れる。
不意に亜希菜が声をかけてきた。
「圭太君、なぜリョウのお墓参りに行こうと思ったの?」
「うーん、なんでだろう?
僕もよくわからない…。
ただ、彼が全くの他人に思えなくて…。」
「なぜ? あなたと彼は全然違うわ」
窓の外は街並みが途切れ、田んぼが多くなってきていた。それをみながら僕は言う。
「そうなのかな? 前にも言ったけど僕も彼の様になってても、全然おかしくなかったんだ。
僕は君がいてくれたからこそ今の僕でいられるけど、もしそうじゃなかったら彼と同じようになってたかもしれない」
「いいえ、あなたはリョウの様にはならないわ。だって、あなたは優しいもの」
「それは君だからだよ。君じゃなかったらどうなっていたのか…」
「いいえ、あなたはレイカさんにも優しかったわ。たぶん、ほかの誰かでも…同じよ」
そう言って亜希菜は僕の手を握ってくれる。
「…そういってくれて、ありがとう。ただ僕は弱い人間だから、君のように強い人がそばにいてくれないとダメなんだと思う。
こうしてリョウの事が他人のように思えないのも、きっと僕が弱いからなんだ」
亜希菜が優しく僕を見つめながら言う。
「圭太くん、そうゆうことを平気で言えるところが、彼とは違うあなたの強いところよ…」
僕たちは手をつないだまま、電車に揺られ続けた。
やがて電車は目的の駅に着いた。
僕たちはさらにバスを乗りつぐ予定だ。
目的の路線のバスが来るまで、まだ30分近くある。
バスを待つ間にコンビニで買ったサンドイッチをベンチで食べた。
亜希菜は"なんかこういうのもいいね"と言ってニコニコしながら食べている。
ただのサンドイッチが彼女と食べるととても美味しく感じられた。
やがてバスが来て乗り込む。
まるでタイムスリップしたかのような、懐かしく感じる古い町並みの間をバスはゆっくりと走る。
そのうち建物も少なくなり、海が見えてきた。
冬の海とは思えないほどその色は明るく、太陽の光を受けて宝石の様にキラキラと輝いていた。
その光はバスの中にまで入り込み、窓際に座る亜希菜の髪を輝かせ、ことさら美しく見せた。
髪の毛一本一本が光を放っているように見える。
「きれいね…」
亜希菜が光り輝く海を背景にポツリと言う。
「ああ、本当に…」
僕は亜希菜を見ながら同意した。
やがて目的のバス停につき、僕たちはバスを降りた。
狭い国道沿いで、近くにひなびた商店を見つけるとそこで花と線香を買う。
少し歩くと墓地のはずだ。
僕たちは海のそばの高台にある、墓地に向かう階段を上っていた。
亜希菜のバックを僕が持ち階段を上っていく。
階段を登り切るとそこには広大な海が広がり、その手前に何百もの墓石が立っていた。
とても大きな墓地なのに、僕たち以外に人はいなかった。
目的の無縁仏の共同墓地はすぐに見つかった。
何十という墓石が積み重なり塚の様になっていた。
ここには何人もの身寄りの無い人が眠っている。
「ここにリョウが眠ってる」
僕と亜希菜はその前に立つと花を供え線香を焚く。
数珠なんて持ってこなかったが二人でその前にしゃがみ手を合わせた。
リョウさん、あなたがどんな人生を歩んできたのか僕は知らない。
孤児だったという事は、辛く寂しく厳しいものだったのだろうと想像はつく。
それでも、あなたのやった事は間違っている。
たとえ夢の世界でも、人が人を苦しめてはいけない。
僕の隣にいる彼女がそれを気づかせてくれた。
あなたの最大の不幸は、彼女の様な存在に出会えなかった事だと思う。
僕はあなたを反面教師として、あなたの様にはならない事を肝に銘じるよ。
せめて、死後の世界では心安らかにいてくれる事を願ってる。
さよなら…。
僕は目を閉じ、それだけの事を思い、彼を追悼した。
目を開けると亜希菜は既に立ち上がり僕を見下ろしていた。
「圭太君、リョウとのお別れは済んだ?」
「うん。とにかく…、踏ん切りはついた」
僕も立ち上がり彼女と肩を並べる。
彼女の髪が風に吹かれ、そよいでいた。
「あなたがリョウの墓参りに行くと言った時、私は驚いたの。
自分を殺そうとした人を追悼するなんて、私には理解できない事よ。
今でも理解できてないわ…。
でも、私はあなたのそういうところに凄く惹かれている。
あなたの事をもっと知りたくなるの」
「僕が変わり者なだけだよ。
自分でも思うけど、面倒くさい性格なんだと思う」
彼女はクスリと笑う。
「ホント、圭太君は面倒くさい人よね。
他の人とは違うわ。
自分の価値観を大切にしていて、それを守ろうとしている。
ちょっと頑なだけど…。
だからこそ、私はあなたの事が好きなのかも…」
亜希菜が僕にそっと抱きついた。
「今日、私はお母さんに友達と泊まりがけで旅行に行くと言って出てきたの。
この近くに叔父さんの別荘があって、そこに一緒に泊まる事になってるの」
「えっ!」
僕は突然の亜希菜の告白に驚く。
「圭太君、一緒に泊まろう?」
彼女はすがる様な目で僕を見上げていた。
僕に抱きつきながら、断られるのでは無いかと不安な表情をしている。
だから彼女はあんな荷物を持ってたのか…。
僕が断るはずがなかった。
「僕はなんにも用意してこなかったけど大丈夫かな?」
そう言うと、彼女はパッと表情を輝かせ意気込んでいう。
「大丈夫! 圭太君の分も私が用意してきたから! 何も問題は無いよ!」
季節外れのヒマワリの様に満面の笑みで彼女は答えた。
「じゃあ決まりだ。一緒に泊まろう。よろしく、亜希菜!」
「よろしく、圭太君!」
彼女はニコニコしながら僕に腕を組んでくる。
僕たちは互いに肩を寄せ合い微笑みながら、海を見下ろすリョウの墓を後にした。
僕たちはまたバスに乗り込むと、元来た道を戻り駅前についた。
時刻は午後3時でまだ外は明るい。
亜希菜の話では、叔父がこの近くにリゾートマンションを別荘として持っており、それを一日借りたとのことだった。
事前に連絡を入れると業者が布団等を運んで、宿泊できる状態にしてくれる。
彼女は過去に家族と泊まった事があり、駅から歩いて行ける距離らしい。
ただし食事などは当然なく自前で用意する必要がある。
「晩御飯は私が作ってあげるね。カレーでいいかな?」
僕が『もちろん』と答える前に彼女は言った。
「実はカレーしか作れないの」
彼女は可愛い笑顔でそう言い切った。
彼女のこめかみに一雫の汗が流れる。
ちょっと不安げだ。
「もちろん。亜希菜が作ってくれるならなんでもいいよ」
僕は笑顔で答える。
彼女はホッとした表情をしていた。
亜希菜は料理は苦手なのかな?
漠然とそう思った。
二人は途中にあるスーパーに立ち寄り材料を買った。
彼女はメモを片手に材料を買い物カゴに入れていった。市販のカレー粉ではなく、ちゃんとスパイスから作るらしく本格的だ。
僕の期待が膨らむ。
お菓子やジュースも買い込み清算を終える。
亜希菜は拒否したが宿代だと言って僕が支払った。
二人分しか無いので大した金額ではなかった。
少し高台にあるリゾートマンションに向かうと、7階建ての白を基調とした小綺麗な建物だった。
分譲マンションをそのまま別荘として売り出したのだろう。
亜希菜が管理人から鍵を受け取り、5階の目的の部屋に向かう。
二人が部屋に入ると黄昏た海が僕たちを迎えてくれた。
部屋に大きな窓があり、そこから海が見渡せて素晴らしい眺望だった。
大きなダイニングキッチンと寝室の2つに分かれていて、4人ぐらいいても楽にくつろげるスペースがある。
大きな部屋の中央にはラグの上にローテーブルがあり、テレビやエアコンなど必要なものは一通りそろっていた。
「凄くいいね。亜希菜のアトリエに似てるかも」
「うん、この部屋を参考にあのアトリエを造ったんだよ」
彼女が答える。
もう夕方で、彼女は早速カレーを作りはじめると言い出した。
「僕も手伝うよ」
「圭太君は待ってて。私がちゃんと作るから!」
「それならお米ぐらいはやるよ」
普段から親が留守がちな僕は、一通り料理の心得があった。
お米を研いで炊くくらいは日常茶飯事だ。
彼女は考えた後、じゃあそれはお願いと答える。
僕はお米を研いで炊飯器にセットすると、リビングのソファーに座った。
家に電話をかけ、今日は友達の家にとまると妹につたえる。
あっけなく『わかったよー』の一言でおわった。
亜希菜はコートを脱いだセーター姿でカレーを作っていた。
髪を後ろに一本に束ね、邪魔にならない様にしている。
彼女のその姿はすごく新鮮だ。
料理をしていると、時折『あっ』とか『うーん』という唸り声が聞こえたが、僕は気にしないようにした。
傍目から見ても彼女があまり料理をした事がないのはありありとわかった。
彼女の悪戦苦闘する様は、見ていて微笑ましい。
僕の為に慣れない事を頑張ってくれているんだなと思うと、胸がジーンと熱くなる。
しかも、今日ここに二人で泊まるという事は、もう必然的に彼女と初夜を迎えるという事だ。
彼女と現実世界でとうとう結ばれる!
僕は一人でそれを妄想し、思わず股間を膨らませていた。
妄想に耽っていると、彼女がキッチンスペースから顔を出しもうすぐ出来るよという。
なんか新婚夫婦みたいですごくいい!
「盛り付け手伝うよ」
僕は慌てて体を起こし、キッチンに向かった。
二人で盛り付けを行う。
と言っても単にカレーをご飯によそうだけだ。
コップと水も用意する。
「圭太君、お腹すいたでしょ? 待たせてごめんね〜」
彼女は申し訳なさそうに僕にいう。
もう夜の7時を回っており、かれこれ2時間近く彼女はキッチンに篭っていた事になる。
僕は彼女の様子を面白おかしく眺めていたので、全く苦ではなかったが確かにお腹は空いていた。
二人でリビングのローテーブルを挟んで向き合う。
カレーは湯気をたて美味しそうだった。
スパイシーな匂いが漂ってくる。
彼女はカレーを作り上げた達成感なのか、これ以上ないくらいニコニコしていた。
とてつもなく可愛い。
「さあ、頂きましょう!」
「「いただきまーす!」」
二人で手を合わせ、カレーにパクつく。
『うん、うまい!! すごいうまいよ! 亜希菜!』
…と言うはずだった。
甘い!
なぜか、すごく甘い!
口に残るしつこい甘さだ!
しかも、なぜかすごくハンバーグの味がする!
カレーなのになぜだ!?
その後ジワジワと唐辛子の強烈な辛みが襲ってきた。
辛い!
すごく辛い!
いや、とんでもなく辛い!
なんだこのカレー…???
彼女は僕の反応を見るため、最初の一口をまだ口にしていない。
すごく期待に満ちた目で僕を見ている。
僕は口の中をヒリヒリさせながらトロトロと甘いカレーを何とか飲み下し、無理やり笑顔を作ってコメントする。
「すごい…斬新なカレーだ! 僕の常識を覆す新しい味だ!」
二口目、食えるかな…。
亜希菜は僕の反応が気に入らなかったらしく、若干不服そうな顔で僕を見ている。
いや…、でも…。
そして彼女もスプーンを口に運ぶ。
彼女は食べた瞬間、おかしな顔をした。
やがて見る見る顔を赤くし叫ぶ。
「辛~い!!! なに、この変な味!!!」
彼女は自分でその味に驚愕していた。
僕はホッとする。
もし『おいしー!』とか言われたらどうしようかと思っていたところだ。
彼女はすかさずコップに手を伸ばし水をごくごくと飲んでいた。
水をすべて飲み干すと、うろたえて僕に言う。
「圭太君! このカレー変だよね?! すごく変な味だよね?」
僕は一瞬どう答えるべきか迷う。
が、表現を抑えつつ正直にいう。
「うん、ちょっと変な感じだね。甘くて辛いカレーは初めてだ」
彼女はショックを受けたようにのけ反った。
僕は慌てて取り繕う。
「あ、でも無理すれば食べれるかも!」
言った後に『しまった!』と思った。
亜希菜は泣き出しそうな顔になっていた。
僕はなんて馬鹿なんだ!
「あ…あの…」
なんて声をかけていいのか分からなくなっていた。
彼女はその場でものすごくしょげかえっている。
少しの沈黙の後、彼女はいう。
「圭太君、ごめんね…。わたし実は料理が苦手なの。でもカレーくらいなら作れると思ってたんだけど、こんなに酷いことになるなんて…」
彼女はとても悲しそうにつぶやく。
「でも、圭太君に何か作ってあげたかったの。初めての手料理だったんだけど…、材料無駄にしちゃってごめんね」
いまだかつて、ここまで落ち込んでいる亜希菜を見たことはなかった。
思った以上に彼女は精神的ダメージを受けている。
緊急事態だ!
何とかしないと…!
僕は亜希菜のそばに寄り添い、彼女の肩を抱いていう。
「亜希菜、君の気持だけで僕はすごくうれしいよ。料理はこれから練習すればうまくなるよ。気にしないで」
彼女は僕を見て、申し訳なさそうに答える。
「でも、晩御飯がないよ…。圭太君、お腹空いているでしょ?」
僕は少し考え、打開策を閃めく。
指を立てて彼女に言う。
「よし、宅配ピザを頼もう!」
我ながらナイスアイディアだ。