今晩、亜希菜が夢の中に来ることになった。
僕が長年願っていた、本当の『夢』がようやく叶う。
今迄僕は、自分が勝手に思い描いた世界を一人で楽しんでいるだけだった。
ごく稀に他の人を呼んだ事はあっても、僕の夢の能力を理解して夢の中に来た人はいなかった。
今回は初めてのケースだ。
勝手に夢に呼び出すのではなく、招待するのだ。
彼女が来てくれることは嬉しくもあったが、すごく悩んでもいた。
どのように彼女を迎えていいのかわからなかった。
どんな世界を用意すればいいのだろうか?
僕は真剣に悩んでいた。
自分の部屋に初めて女の子を招き入れる心境だ。
夢の世界での創造は、基本的に僕の知識の範囲内にあるものでつくられる。
言い換えれば、自分が知らない物は夢の世界であっても造り出す事は出来ない。
ただしSF映画でもアニメでも一度見てしまえば、どんなに非現実的な物でも再現できる。
宇宙船でも巨大ロボット見た目だけであれば、いくらでも再現できた。
夢の世界での創造は、感覚的にはコンピューターのプログミングに似ている。
知識さえあればどんなソフトウェアでも作り出せるが、知らない物は作れない。
そしてコンピューターと同様に『人格』も造りだすことはできない。
改めて思い返すと最近僕が創り上げた世界は、殆どが性欲絡みのいかがわしいものばかりだった。
それも現実世界にあるものをそのまま夢の中で再現するだけで、何の創造性も無い物ばかりだ。
そんな傾向になったのは最近で、その方がゼロから物を考え出すよりもはるかに楽だからだった。
昔は違っていたように思う。
子供の頃は何の苦もなく、色んな世界を創り上げていた。
お菓子だけで出来た街や、恐竜が闊歩する草原、巨大なクジラが浮かぶ世界など、まさに『夢』でしか実現出来ない世界を、自分の夢の中で創り上げていた。
成長し、学年が進むにつれて、だんだん創り上げる世界は現実世界とあまり変わらない物になっていった。
自分を取り巻く現実の世界がかなり困難で、思い通りにならない物だと気付いてから、僕は現実で思い通りにいかなかった事を夢の世界で補完し、それで自己満足する様になってしまったのだと思う。
その事に改めて気づいて、僕は亜希菜を迎える世界の方向性が見えた気がした。
子供の頃に遊んでいた、ただひたすら楽しかった世界を亜希菜に見せてあげよう。
現実世界に即したものではなく、夢が夢であった頃の世界を見せてあげよう。
僕はそう心に決めて、亜希菜を迎える為の準備をすることにした。