※この作品はR-18です。

ワールドメイカー   作:エガイ

8 / 35
八話 夢の世界への招待 2

 亜希菜が猛スピードで僕の前を飛翔している。

 目の前に巨大な積乱雲があるが、それがみるみる目の前に広がり視界を覆う。

 彼女は雲の中に突っ込む直前で急激に向きを変え、雲の表面に沿ってぐんぐん上昇していった。

 僕は必死に後を追いながら、彼女が気持ち良さそうに飛ぶ姿を眺めていた。

 僕の前ではあまり表情を崩さない彼女も、この時だけは瞳を輝かせ本当に楽しそうだった。

 

 雲の一番高い頂きまで登り切ると、今度はきれいな放物線を描いてボールが落ちるように落下していった。

 そのまま海に向かって一直線に落ちていく。高度一万メートルからのスカイダイビングだ。

 手足を広げ落下のコントロールを楽しんだ後、頭を下げてぐんぐんスピードを上げていった。

 

 空気バリアの方は大丈夫かな?

 

 僕は彼女の落下速度が速すぎる事が気になったが、様子を見る限り問題なさそうだった。

 

 高速で空を飛ぶときに空気のバリアを作る事を僕は彼女に教えた。

 夢の世界は何でもできるが、創り上げた世界なりの物理法則がある。

 空を高速で飛べは当然空気抵抗があり、スピードを上げると風圧で、そのうち目も開けられなくなる。

 そこで自分の周りに空気のバリアをイメージして囲い込むようにすれば、空気抵抗の影響をなくす事ができる。

 そのバリアの硬さによっては、全く無風の状態でマッハの速度で飛ぶことも可能だ。

 最初はドタバタしたが、彼女は飲み込みが早く、すぐにそれをマスターした。

 ただ、飛翔感を楽しむ為か空気バリアは最小限の硬さにしているようだった。

 

 猛スピードで海に落ちる直前に水平飛行に移った彼女は、海面に盛大な衝撃波の水しぶきを残しながら大海原の上を飛ぶことを楽しんでいた。

 その水しぶきは白いラインとなって、青い海の上に水平線に向かってまっすぐに線を引いていた。

 ラインのそばに虹が架かりとても幻想的だった。

 不意にそのラインが途切れた。

 彼女が水面から離れ上昇したからだ。

 そのまま僕に向かって飛んでくる。

 高速で一旦すれ違った後、綺麗な旋回を描いて僕に並ぶ。

 

「人見君、クジラの方向はこっちでよかったのかな?」

 

 彼女は今普段着だ。

 白いブラウスにハーフパンツの姿は彼女を可愛く健康的に見せていた。

 はためく髪を片手でおさえながら僕に問いかけてくる。

 彼女は隠しきれない興奮に瞳を輝かせていた。

 

「ああ、あってるよ。このまま真っ直ぐ飛べばそのうち見えてくるはずだ」

 

 僕は答えた。

 彼女はうなづくと、また急加速した。

 一瞬で小さな点になったかと思うと、大きな雷のような轟音が辺りに鳴り響いた。彼女が音速を超えた音だ。

 僕らは今、全長10キロメートルの空飛ぶクジラに向かっていた。

 その背中には街があり、街には人の言葉を話すウサギが住んでいる。

 僕が小学生の時に創った夢の世界の一部だ。

 僕は彼女に追いつくために加速した。

 

 

 初めてこの世界を訪れた時、彼女は警戒心の塊だった。

 約束した日の夜、僕は亜希菜をあまり驚かせないように、今住んでいる街を再現し、自分たちが通う学校の屋上に呼び出した。

 いつも着ているセーラー服姿だ。

 彼女は呼び出されてすぐに言い放った。

 

「人見君、何度も言うけど私はあなたを信用してないわ。私に何かしたら現実世界に戻った時にあなたに報復するから」

 

 険しい目で僕を見ている。

 

「わかってる。絶対に手出しはしない」

 

 僕は彼女の信頼を得る為に危険な賭けに出た。

 拳銃を実体化させ、彼女に手渡した。

 

「その拳銃を空に向けて撃ってごらん」

 

 ズシリとした重みが彼女に伝わり、暫く拳銃を眺め回したあと銃口を空に向けた。

 彼女が恐る恐る引き金を引くと、轟音と共に閃光が走った。

 彼女は小さな悲鳴をあげ、反動で尻もちをついてしまった。

 銃口から立ち昇る煙と火薬の臭いが鼻をつく。

 

「本物みたい…」

 

 彼女は銃口を見つめながら呟いた。

 

「夢の世界であっても拳銃は拳銃で、ちゃんとその威力を発揮する。もし僕が君に何かしたらその拳銃で僕を撃てばいい」

 

 彼女の顔が少し青ざめている。

 

「前に言ったように、夢の世界での出来事は僕にとっては現実と同じだ。その拳銃で撃たれれば僕は本当に死ぬ。僕が今思いつく誠意の見せ方はこれが限界だ」

 

 僕は真剣な表情で彼女の目を見つめながらいった。

 

「わかったわ」

 

 彼女も真剣な様子で言った。

 

 その後はまた夢の世界の仕組みを実演を交えながら説明した。

 僕は彼女に僕とぼぼ同等の能力を与えた。

 あくまでも僕がいないと無理だが、この世界を改変する能力だ。

 

 まずは簡単な事からと考え、自分の服装を好きなように変えてもらう事にした。

 夢の世界を操るには、明確にイメージすることが必要だ。

 あいまいな事は反映されない。

 亜希菜に自分の着たい服を頭の中で念じるように伝えた。

 素材や形状、大きさなど詳細に思い浮かべてもらう。

 それを自分が着ていると強く想いこむ。

 セーラー服に一瞬靄がかかり、それが白いワンピースに変わった。

 

「わあ、すごい!」

 

 彼女は歓声をあげる。

 僕が姿見を呼び出して彼女の前に置いてあげると、その前で先ほどの要領で次々と着替えをはじめた。

 飲み込みが早い。

 パンツスタイルやロングスカート、パーティーで着るようなドレスなんかもあった。

 かれこれ一時間近くファッションショーは続いた。

 僕はその様子を眺めていたが、どれも彼女に似合っていて、良い目の保養になった。

 彼女は気づいて無いかもしれないが、時々次に呼び出す服に思い悩む時があり、その時は身体にまとわりついている靄が薄くなって、体のラインがくっきりと見えてしまっていた。

 彼女の体の感触を思い出し、思わず抱きつきたくなるが、撃たれて死ぬのは嫌だったので、顔を反らし何事もないフリをした。

 自分の姿を自由に変えれるこの世界で、服装がどうあろうとあまり意味が無い気がしたが、彼女が満足ならそれで十分だった。

 いろんな服を試した後、彼女は自分の気にいった一着を選んだ。

 

「私、この服前から欲しかったんだ」

 

 彼女は少しはにかみながら言った。

 その姿がとても可愛かった。

 最初の方に着ていた、シンプルな白いワンピースだった。

 

「よく似合ってる」

 

 僕はブランドとかはよく分からないが、ちょっと高級そうな感じのその服は可愛く、彼女に良く似合っていた。

 いや、亜希菜が着ればなんでも似合ってしまうだろう。

 

 僕は彼女の着替えが見れなくなってしまう事を少し残念に思いながら、次のステップに進む事にした。

 このいつもの町並みから抜け出す為の移動の手段だ。

 

「いま、君はこの世界で自分が思った通りの事ができる。次は空を飛んでみよう。強く飛びたいと思うだけでいい。その通りになるから」

 

 彼女は半信半疑で僕を見ていたが、やがて目をつむり何か念じる様子を見せた。

 

 数秒後、彼女はものすごいスピードで、まるで打ち上げ花火のように遥か上空に吹き飛ばされていた。

 彼女の悲鳴が尾を引きながら小さくなっていく。

 

「うわっ、なんで…!」

 

 僕は面食らって慌てて彼女を追って、屋上から舞い上がった。

 

 彼女を必死に追いかけていると、やがて上昇が緩くなり、ついに追いつく事が出来た。

 何百メートル登っただろう?かなり上空だ。

 彼女は丸く身を抱え、目を固く閉じながら悲鳴をあげ続けていた。

 上昇が止まり、一瞬停止した後、当然だが次は落下しだした。

 この世界の重力に引かれ、ボールが落ちるように落下していく。

 

 まずい!

 

 僕は焦っていた。

 彼女がそのまま地面に激突すればこの世界での彼女はぺシャンコになって死ぬ。

 現実世界に戻れるだろうが、死ぬ瞬間の痛みや苦しさは現実と同じだ。

 回避する方法はいくらでもあるが、彼女がそれを願わないと駄目だ。

 いまの彼女はパニックになっていて、恐怖が心を支配している。

 

 僕はどんどん落下速度を上げる亜希菜に寄り添い大声で呼びかける。

 

「真野さん! 聞くんだ! ふんわり浮かぶことを思い浮かべるんだ!」

 

 彼女は固く目を閉じ、悲鳴を上げ続けるだけで僕の声は全く聞こえていないようだった。

 落下速度がますます早くなり、地面が近づいてくる。

 

 やばい!

 

 僕は手を伸ばし彼女の腕を強引に掴んだ。

 

「僕に掴まるんだ! さあ、早く!」

 

 彼女は激しく揺さぶられてようやく僕に気づき、僕の首に必死にしがみついてきた。

 僕は彼女を抱きかかえながら、急激に落下スピードを殺した。

 彼女の重みが首に掛かる。

 なんとか間に合い、最後はゆっくりと学校のグランドに舞い降りた。

 もう少し判断が遅かったら二人とも地面に叩きつけられ、少なくとも骨折は免れなかっただろう。

 そのまま仰向けになってへたり込んだ。

 僕は無事に彼女を確保出来た事に、心底安堵していた。

 

 彼女は僕の胸の上で首にしがみついたまま、全身を震わせていた。

 彼女の震えが僕にも伝わってくる。

 そして大きな胸の感触も…。

 あまりの恐怖の為かそのまま暫く離れなかった。

 すぐ目の前に彼女の頭があり、良い香りが鼻腔をくすぐった。

 ああ、このシチュエーションは今まで無かったな…。

 彼女の身体の重みが心地よくいつまでもこのままでいたかった。

 しばらくその状況を楽しんでいたが、あまりの密着度にだんだん興奮してきてしまった。

 いや、この状況ではまずいだろ…。

 ただ僕の股間が自分の意思とはうらはらにムクムクと膨れ上がるのは、どうしようもなかった。

 ああ、マズイなもう…。

 

 僕はそろそろと体をずらし、彼女から離れようとした。

 しかし、その前に彼女が気付いてしまった。

 バッと上体を起こし、僕から飛び退いた。

 猫のように素早い動きだ。

 そのままさっき渡した拳銃を僕に向け、さらに後ずさる。

 震えてしがみついていたのが嘘のようで、目をつりあげて睨む姿は女豹のようだった。

 拳銃を僕に向けながら、震える声で言い放つ。

 

「あなた、私を殺そうとしたでしょ!」

 

 僕は銃口を見つめた。

 

「そんなはずない! ちょっと落ち着いて!」

 

 僕は両手を上げて弁解する。

 

「しかも、また私を辱めようとした!」

 

 彼女は顔を赤らめながら言った。

 引き金に力がこもるのがわかった。

 

「いやっ、これは生理現象だ! 君みたいな女の子に抱きつかれたら誰だってそうなる!」

 

 僕は必死で答えた。撃たれたら死ぬ!

 

「もし僕が君の事を邪魔に思い、消そうとしても君は死なない。

 目が覚めれば現実の世界に戻れる! ただし僕はその銃で撃たれたら本当に死ぬんだ!」

 

 僕はまくし立てた。

 まだ死にたくなかった。

 しかもこんな理不尽な理由で。

 

「君がどうしても僕を信用できないなら、撃てばいい!

 ある意味本望だ!

 君になら撃たれてもいい!

 僕は君の事が好きだから!」

 

 思わず本音が出た。

 彼女の動きが止まった。

 そのままお互いにらみ合ったまま、暫く時が流れる。

 僕には永遠に感じられた。

 やがて彼女は言った。

 

「わかったわ。今はあなたを信用するわ。

 私も確かに気が動転してた。

 ごめんなさい」

 

 銃口を下ろし、素直に謝ってくれた。

 僕は安堵のあまり、そのまま大の字に倒れこんだ。

 

 彼女を招待した初日はこんな風に、ほぼ最悪に近い状況だった。

 もう亜希菜はきてくれないだろうなと思っていた。

 だが、不思議な事にそれでも彼女はまた僕の夢に呼んでほしいと言った。

 僕には理解できなかったが、明日も呼ぶことになった。

 あんな怖い目にあったのに、フアッションショーがそんなに楽しかったのだろうか?

 やっぱり理解できない。

 

 次の日、僕は昨日の教え方を反省し、少しづつやれることを積み重ねるようにした。

 いきなり空を飛ぶのではなく、先ずは10センチだけ体を浮かすことから始め、徐々にその高さを上げていった。

 彼女は飲み込みが早く、高度に慣れてしまうと、あっという間に飛行をマスターした。

 教えはじめて2日目には空を自由に飛び回ることができるようになり、僕らは街を脱出して、僕が最初に招待したかった夢の世界をようやく探索できるようになった。

 

 僕はこの世界を創る時、まず広大な海を用意した。

 そこに、その時に気に入った事柄をテーマにして一つの島を創った。

 現実世界で興味深い物があると、その度にテーマを決めて島を追加していった。

 殆んどが幼稚園や学校で読んだ絵本の影響を受けたものだが、お菓子の街が広がる島や、果てなく天に伸びる巨大な塔が立つ島、凶暴な恐竜が住む島など、数々の島があった。

 自分が当時興味を持ったものや、感動した物をまるで積み木細工のようにコツコツと創りあげ拡張していった世界だ。

 今では無数の島があり、自分ですら把握しきれないくらいだった。

 いろんな絵本の要素がすべて一つになったワンダーランドだった。

 僕らはその世界の島々を飛び回った。

 

 彼女はほぼ毎晩、僕の夢の世界に遊び来るようになった。

 色んな島を巡り、恐竜ハントや深海の探検、怪物の住む塔の攻略など、彼女はどれも楽しんでくれているようだった。

 中でも一番気に入ってくれたのは、巨大な空飛ぶクジラとそこに住むウサギたちだった。

 

 そのクジラは体長10キロメールで空を飛びながら島々を巡っていた。

 その上には街が広がり、人語を話すウサギが住んでいて、彼らなりの生活をしていた。

 亜希菜が初めてその場所を訪れた時、彼らは彼女を無視した。

 彼女は彼らの徹底した無視が気に入ったらしく、しきりにウサギ達に話しかけ、なんとか彼らに取り入ろうとしていた。

 最近ではウサギ達も彼女の名を覚え、その姿を見かけると話しかけるようになっていて、彼女の服を褒めたりしていた。

 

 ウサギ達を創った僕から言えば、複雑な思考は持たず簡単な会話しか出来ない下級な種族のはずで、彼女がそこまで気にいる理由がわからなかった。

 それでも彼女が楽しそうにウサギと会話している姿は、見ていて楽しかった。

 

 今日もこれからクジラの背に住むウサギたちに会いに行く。

 空を飛んでいくのだが、彼女は繊細そうな見た目からは想像も付かないスビード狂で、見ているこっちがハラハラするくらいだった。

 ある程度行き慣れた場所なら瞬間移動もできるのだが、彼女はそうはせず、毎回時間をかけて飛んでいく。

 自由に空を飛び回ることが彼女にとって楽しい事なのだ。

 

 遥か先を行く点にしか見えない彼女の先に、やがてクジラが見えてきた。

 クジラは彼女の来訪を歓迎するかのように、潮を吹き上げた。

 僕は彼女とウサギのたわいもない会話を想像し、ほくそ笑みながら彼女に追いつくために加速した。

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。