※この作品はR-18です。

特務エスパー司書シリーズ   作:駒由李

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まずやらなきゃねっていうネタらしいので


【文アル腐】ひとまず着させろっていわれた気がした【鴎花】

 その日の助手は花袋だった。そしてこの日は特別に忙しかった。なんということはない。ただ仕事が重なっただけのことだ。普段はアルケミストの力ですべて行う本の整理も今日はその司書が報告書の製作に首っ引きだ。他にも雑用で当番に当たった花袋はこの日の夜には何度も寝そうになるほど疲れることになる。荷物を持って無闇に広い館内を走る。年度末だ。図書館の運営は実質司書の一手に担われている。決算報告だの予算の見積もりだのといろいろと面倒なことが多いらしい。それを思えば雑用くらいならばいくらでも――前生はそれなりに長生きしたゆえの司書への労りを想っていた道中。花袋はそれを見かけた。通りすがりの食堂。昼過ぎゆえに人影はない。厨房で職員の中年女性たちが黙々と働いているだけだった。

 目に止まったのは椅子の背もたれにかかった白いそれだった。花袋は少しばかり沈黙したのちに食堂に入る。そしてテーブルに荷物を一旦置いた。そしてそれに迷わず袖を通した。

 

 今の外傷に対する消毒は随分変わった。軽い擦り傷ならば水道水をかける程度で済む。今の体に転生してからよく転ぶこの2人はその知識を身につけて久しい。医務室にやって来たのは絆創膏を貼ってもらいにだ。中庭にある水道でそれぞれ肘と膝を洗ってきたという彼らに自身と森は苦言を呈する。

「ったく。まだ3月だぞー。転ぶと冷たくて痛いだろ」

「だってもうだいぶ温かいよ。岩手なんて今頃まだ雪が積もってるじゃない。石川さんだって知ってるでしょ」

「温かくて気持ちいいよね今は」

「それでも潜書以外での怪我はすぐには治せん。ほら肘を出したまえ。この絆創膏はしばらく剥がすんじゃないぞ」

「今の絆創膏ってすごいよね。人工のかさぶたみたいなものなんでしょ。僕らが死んでる間にすごいのができたよね」

「あまり突くんじゃない。剥がれる」

 宮沢と新美がそれぞれ膝と肘に張られた皮膚色の絆創膏をしげしげと眺める。それを啄木はやや微笑ましそうに森は苦言を呈するようにいう。絆創膏の入っていた箱の蓋を閉じた。前生衛生学を学んだ身としては100年単位ですっかり変わってしまった医学にこの世の有為転変を噛み締めているところだ。もっとも破傷風はまだ懸念されているし注射などでは消毒薬は必要とされているとは知識として知っているが。そんなことを思いながら腕を捲る。軍服の上着を脱いでいた。袖が邪魔だからだ。ワイシャツ姿をまじまじと眺められている自覚はあったが今のところ白衣をどこに置いてきたか思い出せなかったし今日は妙に忙しいから探す暇もない。司書が年度末なのもあって様々な報告書を仕上げるのに忙しいからあちこちで不備が生じているのだろう。司書も着任して1年か……感慨に耽ればふとノックの音が響く。啄木が勝手に応じる。扉が開いた。子どもたちもそちらを見たので遅れてそちらを見遣った。

 箱を取り落としそうになる。

「石川ー。先生いるかー」

「いるぞー。なんだその荷物……と。それって森先生の白衣じゃねーの」

「せいかーい。森先生ー食堂に忘れ物ですよー。これ脱がしてください」

「ぬが」

 舌を噛む。昼間からしかも子どもたちと啄木の前でなにをいいだす。しかし彼らは気にした様子もない。子どもたちは「田山さんおもそー」「大丈夫ですか」と気遣うばかりだ。啄木はといえば手が空いたので自らの腹を押さえて笑っている。

「なんでお前森先生の白衣着てるんだよ。森先生の真似かよ」

 それに対する花袋は笑いながら平然たるもの。荷物を左手にまとめて抱え右手を森に差し出す。袖を捲ってはいるがやはりやや丈が余っていた。それに内心で喉を鳴らす森の前で花袋はいう。

「わりーかよ。先生格好いいじゃん。そこに白衣があったら着るだろーこんな格好いい人の白衣!」

「……」

「それにほら。荷物あったから届け物ついでに着ていった方が早かったからさ。そういう訳で先生脱がしてください」

「あ。あぁ……」

 褒められたのか啄木に自分たちのことを惚気られたのか。訳がわからないまま催眠術にかかったように袖まくりを解く。そして花袋が自ら右腕を抜き反対側の腕も荷物を持ち替え同様に脱がせた。するといつもの明るい色のジャケットが出て来る。背丈にあまり差がないからそのうなじに僅かに汗が浮かんでいるのが見えた。今日の助手は花袋だとは知っていたがどうやらこの荷物といい相当忙しいらしい。振り返った花袋は自身を上から下まで見ると笑った。

「先生が上着脱いでるなんて珍しいですね。改めて見ると」

「君がわざわざ着て来てくれるまで見当たらなかったのでね。予備を出すのも億劫だった」

「俺様も今日は一緒に忙しかったしなー。今日は司書本当に忙しいんだなー」

「だよな。そういう訳で俺はもう行きます。2人とも怪我は大事にしろよ」

「はーい」

「気を付けまーす」

 先に出ていった子どもたちを見送り花袋が頭を下げる。啄木が扉を閉める前で森が手早く白衣を羽織るのを見た。軍服を着る様子はない。たしかにこの東京はもう春だが暑かったのだろうか。比較的通年涼しい格好をしている啄木が眺めているとふと視線に気付いたらしい。森は絆創膏の箱をしまいながら目を逸らす。

「花袋くんも忙しそうだ。我々もできるだけ早く仕事が来たら早く済ませないとな」

「はぁ」

 啄木は肯くことしかできない。目の錯覚だっただろうか。森が白衣を羽織る際。襟を掴んだとき。口元に寄せてふと笑みを見せたように見えたのは。

 機嫌が良ければ森は給金をはずんでくれるかも知れない。啄木にとってはその程度のことだった。

 

 

 夜にもなる頃。手に持っていた荷物は1/4ほどにもなっていた。花袋は袖のにおいを嗅いでしょぼくれる。人気のない場所で溜息を吐いた。

「折角羽織ったのに。薄くなっちまった。今日はこれで頑張れると思ったのに」

 やっぱり今日は森の部屋を訪ねないと割に合わない。今頃できあがった報告書を封筒に入れている司書を想像しながら花袋は決心した。彼に頼んで白衣を持ってきてもらおうかと考えながら。

 

 

彼が白衣を着たならば

 

 

 

 

了




pixivからの転載
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