※この作品はR-18です。

特務エスパー司書シリーズ   作:駒由李

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・所謂ぱんすとやぶくよ女装ネタです。
・ところどころ花/鴎を企む花袋先生がいますが鴎花です
・森先生が変態じみて切羽詰まっています
・いつもの受らしくない攻っぽい受の花袋先生は今回はおやすみ気味です
・むしろいつもの男らしい花袋先生をりょうじょくしてる感じです
・パンストとストッキングの違いに地味にショックを受けた回です
・花袋先生に1番似合う色はやっぱり暖色系統だよねって思い込んでます
・今回は司書とぼっくり先生が被害者です
・お題は晩霞(http://www11.plala.or.jp/harutake/banka/banka_top.html)より
・これ書いてたらお化けが逃げていったようです鴎花の神様を拝んでおきます


【腐R-18】苦痛よりもなおこの身を蝕むのは【鴎花】

 今回の事件。被害者は少なくとも3名にのぼる。

 まずは司書。その次に石川啄木。そして最大の被害者――現在森の目の前。ベッドの上という瀬戸・伊万里より最上の皿。目尻に涙を浮かべながら怒りを見せている田山花袋。腰から下はシーツで覆われていた。しかしその下は既に知っている。何せこの手で脱がせて履かせたのだから。あとは食らいつくだけだがこの獲物。獅子の子どものようにただではいかない。

 ことは今朝方。自身に宛てられた品が届いたと司書に知らされたときのことだ。

 

 

「珍しいですね。森先生が何かをネットで注文なさるなんて。いつもなら俺に頼んで医学書を買い取ったりするでしょう」

「そうだな。今回は少し特別な用事があってな」

 司書が今日のおやつだと出してくれたのはりんごの汁粉とやらだ。通常の餡の代わりにリンゴを甘く煮たものに餅を入れたらしい。随分と変わり種だが自他共に認める甘党の自身にはこの上なく旨そうだ。そう思いながらも今は興味の対象は箱の中身だ。ガムテープを剥がし――即座に屑篭を出してくれる辺りに司書の育ちが見える――そっと窺って閉じる。

「……うむ。中身に間違いはない。では汁粉を頂くか」

「面白そうだから作ってみたんですけど多分余裕派の人や紅葉先生ぐらいしか食べられなさそうだなって思いまして。お代わりは自由ですよ。ところで何かご用件があったのでは」

「あぁ。これを食べ終わったら話す」

 とはいいつつもその後ほとんど一口で食べてしまった。砂糖の甘味とリンゴの程良い酸味が利いた旨い汁粉だった。また是非食べたいことと来年の冬にでも出してくれといえば司書ははにかんで微笑む。良い嫁になるだろう。男だが。このところ司書には苦労をかけ通しで親の気分になっている。せめて将来良い伴侶を見つけてくれればいいがと思うと同時に自身が息子のように思いはじめていた相手に何を渡そうとしているのかも思い出して少しばかり胸が痛む。

 だがやはり。恥ずかしいし彼が適任なのは間違いないのだ。これまでの実例でそれはわかりきっている。コーヒーを飲みながら机に向かう司書は穏やかな顔をしている。花も散り緑萌ゆる桜の木が爽やかさを彩る中。自身は立ち上がった。ポケットに入れていたメモを片手に。気付いたらしい司書がこちらを向く。瞬間怯えられた。余程自身は深刻な顔をしていたらしい。なにか不躾なことをしましたかと青い目で見上げてくる彼に歩み寄ると肩を掴んだ。メモを差し出す。

「司書。礼はする。すまないがこの書き付けのサイズのパンストを買ってきてくれ」

 司書の目が死んだ。ゆるゆると右手がメモを取り目を通す。そして深々と溜息を吐いた。

「……男嫁(およめ)さんの花袋先生とのプレイ用ですか」

「そのようなものだ」

「今あなたネットで注文した品物をお迎えしたばかりでしょう。ネットで一緒に注文するという頭はなかったんですか!」

 死んだ目のままごねる司書の発言は尤もだ。たしかにそれも考えた。横でノートパソコンを開いた司書が素早く「ストッキング メンズ」と検索窓に入力すると次々とそれに該当する画像が出て来る。たしかにそれも見た。見たが。中々のお値段だ。ストッキング代の料金を財布から取り出す。

「夜の営み用だとわかるなら承知してくれ」

 そして無理矢理金を渡した。

「どうせ破くし破けるし破きたい。最安値のものを買ってきてくれ」

「ですよねこのむっつりが!!」

 机を叩く音と叫び声。小鳥たちが飛んでいった。

 

 

 司書の雄叫びが聞こえたが今度は何が起きたのか。アルバイトで医務室の掃除に勤しんでいた啄木は塵払いと共に一旦医務室を出る。この区画は帝國図書館の主要機能が集中している。ゆえに出入り口も近い。マスク越しに廊下を歩けば丁度司書室から誰かが歩いてくるのが見えた。書生服だが堂々とした歩き方は萩原ではなく司書だろう。そう思って塵払いで挨拶をしようとする。すんでで目を瞠った。

 服装は司書だ。しかし燃ゆるような紅唇の白百合を思わせるあんな美女はいただろうか。しかもあんな怒った顔の。

 思わずぽかんと見送ってしまったあとに最近自身が本来の医務室の主がいない隙に仕事を済ませていた「理由」が司書室から出て来る。自身を見て声を掛けてきた。

「あぁ石川くん。騒がせたな。最近は仕事に早く入ってくれて助かる」

「……今の。誰ッスか」

 塵払いで出て行った先の扉を閉める。乱暴に押し開いていったからまだドアが揺れていた。段ボール箱を抱えた「理由」――森はしれっと語る。

「君はまだ見たことがなかったか。司書だ」

「は?!」

 思わずマスクがずれるいきおいで叫んだ。あんな胸部の豊かで異国情緒のある美女があの男だと。がに股になる啄木に森は肯いた。

「美事に騙されたようだな。ヒュプノという彼のアルケミストとしての能力の一種だ。ある買いものを頼んだのだが女性に化けるのは得意でないらしい。あれしかパターンがないそうだ。それでも電子機器も欺くほどの化け具合を見せられるのは司書だけだからな。彼に特別な買いものを頼む者は多いらしい」

「あんな派手な美人にしかなれないってのもすごい話ッスね。少なくとも隠密向きじゃな……」

 司書の文字通りの化け具合に唖然となったがはたと気付く。森と2人きり。それはいつもの日常だ。医務室の医師と助手だ。しかし今はそれを忘れたかった。金だけもらってなるべく医務室にはいたくない。

「あっそれじゃあ俺様はそろそろ朝の掃除も終わったので」

「待ちたまえ。君にも礼をと思ってな」

「礼はお駄賃上げてくれれば充分ですってば」

 抵抗虚しく啄木は回り込むように一緒に医務室へ向かう最中に彼が持っていた段ボール箱の中身をちらりと見せられる。

 SAN値チェック。そんな声が脳内を機械的なアナウンスが響く。深淵を見せられたら向こう側からも見られていた。

 キーパーは穏やかに微笑みすら浮かべている。わかりづらいが。

「君の協力もあっていいものが選べた。本当に有難い。駄賃を増やすだけで本当にいいのか」

「できれば今日はこれから明日まで有給取っていいですかね」

「あぁ」

「それでは」

 医務室に入ると自分でも最高記録を更新し掃除を終える。そして医務室を飛び出た。掃除道具を片付けるために。

 今日はこのあとは有碍書に潜書の予定だ。そのあとはどうやら自身と同様に何事かに巻き込まれたらしい司書を誘って酒でも飲もうか。司書は酒が飲めないからジュースや菓子でも用意しておこう。共通の苦労を経験した司書とは今こそ心から労いあえる気がした。

 実のところ精神的苦痛は彼の方が深かっただろう。司書はのちに労う。なにせ医務室の机の抽斗。その中には女性の服飾の型録が入っている。当初はよく見間違えられた花袋と啄木。なにより色彩が似ていたために型録を片手に見比べられるのがこのところは苦痛だった。本人にセクハラの意識は欠片もなく啄木が髪型を変えようかと思い悩むほどでのちにこれを酒の席で聞いた司書が森の元に怒鳴り込んだのはまた別件だ。

 

 

 

 そう。今日の仕事を終えていつも通りに風呂から上がりどちらからともなく森の部屋に2人で赴き。今こうして下着まで脱がせてさり気なく用意しておいた「それ」を一気に穿かせかけた時点で仰天され怒鳴られたのだ。

「ちょっ先生?! なんでそっ……ぱ。ぱんすととそれに……女物の下着。ぱんてぃっていうんですか!? そんなものなんで俺に一緒に穿かせようとしてるんです!? っていうか俺のサイズいつ知りました?!」

「花袋くん。同じ男だろう。考えてみてくれ」

 常にない必死さだ。森の前髪を掻き乱す勢いで頭を押しやる花袋の疑問は尤もだ――花袋の露わになった下半身。それにレモンイエローがベースの控え目なレースとリボンがついたショーツ。それにプラスしてパンティストッキングを穿かせようとしているのだから。医師の手際の良さは恐ろしい。メスで開腹するように既に太股にまで腕は差し掛かっている。練度が上がるにつれ強弓を振るえるようになった花袋はこの図書館でも実力者だった。しかし常にサーベルを携え潜書したときは槍を振り回す上に「軍人」という印象からか体格が根本から異なる森が相手では劣勢必至。爪先から既に上書きされた女性性。それが堪らなく恥ずかしい。辱められる。恥辱だ。陵辱だ。怒りすら湧いてくるのは抱かれる側に回ったとはいっても自身は森と同じ男性なのだという意識が強すぎたからだろう。根底に尊敬があったから自分を「違うもの」へ貶めようとしてくるようにしか思えない森の行動が理解できない。

 けれど。手が汗でずれる。既に互いに汗が滲んでいていた。仰向けで暴れていて汗が視界を滲ませた。それを片手で拭う隙に一気に押し上げられる。そして墨色の眼光が花袋の延髄から縛る。

 ああ。だめだ。囚われる。だめだ。戦え。無理だ。もう。

「……服を贈るのは自分がその服を脱がせたいから。昔からいうだろう」

「やめ。やだ……やめろってば!」

 常の自分ならば決して彼にはしない荒い口調。そこまでして抵抗したけれどふりほどかれ。

 森が身を起こしたときにはぽかんと口を開ける自身と――半身までを「女性性」に犯された花袋がいた。少年体型の脚にはやや武骨にねっとりと絡む肌色。争っている最中にだろう。既に伝線している。更にパンスト越しに花袋自身を包み込むにはやや用が足りないショーツ。……改めてそれを見て。それから腕を組んで満足げに肯く森はいう。

「ふむ。司書と石川くんに頼んだ甲斐があった。絶景だ」

「なにをさらっと巻き込んでんですか!! この馬鹿医者ー!!」

 シーツを抱き込む。折角の極上の獲物だ。視界でも楽しみたいのに勿体ない。この頃の森鴎外。自身の箍が緩んでいることは自覚していた。そろそろ閉め時だとはわかっているがいかんせん前世はいろいろと閉めっぱなしだったから加減がわからない。ひとまず今の行為はやり過ぎらしいから「次」は反省してやり方を変えよう。そう決めて自身はじっくりと腰を据えた。シーツを剥がすために。

 

 司書と啄木がそれぞれかなしげな笑顔で見送ったのはそういう訳か――シーツを押さえながらも森が真向かいに腰を据えているのを睨む。目を逸らせば負けだ。森相手ならば勝ち負けなどどうでもいいはずだったがいざ相対すると従来の負けん気が鎌首を擡げる。そんな自身を森は審美するように眺めてくる。自身の頭の上から顔。森のワイシャツ。それに――シーツの下。こんな性的嗜好を持っているとは思わなかった。プレイとしては嫌いではないがそれは自分が抱く側に回った場合の話だ。たとえば今の自分たちの立場が逆転していたらそれならそれで自身もやはり今の森のように必死で喰らいにかかっただろう。飴色の目で睨め付けると森はふと笑う。

「ふむ。藪医者や雀医者といわれないだけましかな」

「藪医者だったら俺はここに来ることもなかったですよ。……前生の命の恩人にこんな真似をされるとは思いませんでしたけど! それよりなんですか。藪医者はともかく雀医者って」

「なに。司書にパンストを買ってきてくれといったら『雀医者』『土手医者』『ひも医者』と連呼されてな。落語が元らしいが」

「それより前半! なんでみんな女の人じゃないと買いにくいもんを司書に押しつけるんだよ!! 司書いい加減かわいそうだろ太宰と佐藤を見習えよ!!」

 言葉の意味はわからなかったが成る程。司書の表情の意味はわかった。男の自身では買いづらいものを脳内物質レベルで女装できる司書に任せる文豪は多いがその点佐藤と太宰は堂々としている。どちらかといえば活き活きとした太宰が死んだ目の佐藤を引きずり回して際疾いオモチャを買ってくるのだが。その点でいえば彼らは立派だと考える。森も肯いた。肯いて何気なく花袋の足首を持ち上げる。気を抜いていたから右足を持ち上げられて体勢が崩れた。下らない話で緊張が解けてしまっていた。

 そして足の裏を走った湿った感触に度肝を抜かれる。見ればもっと信じられない。肉厚な森の舌。彼のそれがストッキング越しの花袋の足の裏をなぞった。

「ひぇっ……?!」

「ふむ。繊維の味だな」

「なななあんた何して」

「……っ!!」

 上半身をじたばたさせる間も右足は蹂躙されていく。その舌の感触は既に幾度もこの体を舐め尽くしている。だから体が勝手にそのときの行為を思い出しては足の裏の感触を繋げていき自身を煽り立てる。じわじわと森の唾液が少し破けたストッキングの繊維を伝っていく感触が僅かに伝わり熱が生温いものから冷めていくのもサーモグラフィーのように感じ取る。意識はしていなかったが自身の軸足は右足のようだ。それは自分が左利きの弓使いだからかも知れないしそのために体が作られているのかも知れない。その辺りは司書に聞くにしても今はとうとうまともに枕に転がってしまったことにはたと気付く。慌てて肘を突こうとした刹那――森の顔が見えた。

 先程も見てしまった目。これは己を喰らう雄の目だ。改めて自分がこんな大層な男と褥を共にしていたことに気付かされる。そしてこれから自分はとうとう喰われるのだ。残されていた矜持まで。

「っ――」

「……女性の下着というのは本当に繊細だな。些細な傷から簡単に伝線が拡がってしまう」

 勢いをつけ両脚を持ち上げられた。開いた股から森の顔が間近に見える。自分の上書きされた女性性もすぐそこに。ストッキング越しに厚い掌で何度も拭うように舐られ撫でられる。耐えきれず顔を背けて口に手を当てる。喘いでしまう。「森鴎外」に慣らされた体は上書きされた上からさらにそれが当たり前の快感なのだと頭を充満させていく。視覚も触覚も聴覚も何かもかもが混乱させた。パニック。俗説で語源は牧神パーンがちょっかいを出して騒動を起こすからパニックというのだという話も司書から聞いた気がする。本来はパーンとパニックはまったく関係ないらしいが――羞恥心陵辱怒り恥辱そして恋情愛情愉楽快楽。鬩ぎ合う感情の渦の中で走馬燈すらかいま見えた。なんで今パーンの話を思い出したのだろう。ギリシア神話か。そうだ。たしか芥川が森をギリシア人のようだとか。

 不意にその日本人の顔をしたギリシア人が膝裏で指を留めた。一瞬。舌なめずりが見えたのは目に入り込んだ汗のせいか。

 膝裏から伝線した穴に指が入る。

「我ながら品がないことをいうが」

 今更じゃないか。そんな憎まれ口も相手を忘れて投げかけそうだ。しかし息乱れて視界も頭も回っているから舌も回らない。なにやらろれつの回らないことを返事と受け取ったか。前髪が乱れきった森がつぶやく。

 押し入れた指を開いた。伝線が拡がる。

「君の中にはじめて入れたときもこんな風だった」

 ――伝線。伝染。「男」が奪われた。なにかが壊れる音がした。

「――っ!!」

「おっと」

 自分でも驚くほどの暴れぶりだ。あれほど堅く押し込まれていた脚から拘束を振り払う。

 そしてシーツを被り蹲る。薄明かり越しに森の困ったような様子が見えた気がしたがそれどころではない。

 壊れた。壊された。陵辱された奪われた。背骨を遡る悦楽。脳天を突き抜ける空気。シーツを噛みこんだのは真っ赤な顔と緩みきった表情筋を引き締めるため。そしてなにより情けない声を上げてしまう自覚があった。背中を丸める。

 花袋自身は甘くきつくこすられるばかりで先走りで濡れそぼれど精を出せるほどではない。しかし間違いなく今の自分は「あれ」に近い事態に陥っている。シーツの中で改めて見える自分の脚を覆うぼろぼろの女性の下着。花袋の夢の中では清楚な少女が身にまとってくれれば素敵だと思っていた。それが。夢の中の自分と置換された。なんて冗談。なんて悪趣味。あの夢のようなふわふわとした菓子の世界に男の自分は要らないのだ。なのにこの自分を愛しいと抱く人にとっては自分の立場は。

 「晒された」。背徳的なこの行為が頭の中身を白一色に蝕んだ。

「……あっ……あっあ。あっ!」

 背中を撓める。いつもこの行為ではとっくに解されて緩みきった後腔が反射で筋肉が緩んでいるようだった。事前の用意次第ではまずいことになりそうな体質になったが今はそれどころではない。感じたことのないしびれが全身を纏う。そして――果てた。はずだった。

「……うあ……」

 気が付けば森が平時の彼を取り戻しているようだった。それに少し安心しながら無造作にシーツを退ける。まだ下腹部に蟠りは漂っていたが先程までの激しい衝動は消えていた。にも関わらず先走りで濡れそぼった女物の下着。それをストッキングごと剥がしてみても白濁がない。これはどういうことか。ぼんやりと見上げていると森は肩を掴んだ。前髪こそ乱れているがいつもの森だった。

「……すまない花袋くん。やりすぎた。大丈夫か」

 途端涙腺が壊れた。

「……大丈夫じゃないですよ。このあほ医者……!!」

 

 仕切り直し。シーツを被ったままの自身に森が水を渡してくる。それを温和しく両手で受け取った花袋はこれまた静かに水を飲む。それは隣の森も同様だったが目尻を腫らした花袋を見遣って罪悪感がいや増すようだった。サイドボードにグラスを置く。花袋に目を遣らないのは単に座ってる場所の問題だ。花袋の下半身は「そのまま」でシーツに覆われているだけでつまり落ち着いて話ができないからだ。自身の性的嗜好とやらに辟易する。あそこまで泣かせてどうする。否。あそこまで泣くとは思わなかったのだ。

 ただ単純に。女のように抱いてやりたかった。いつも堂々としている彼に。自分は親のように誰かに優しくされるのになれていないのに花袋は時折そんな父性を見せるものだから。あるいは危機感。

 こうしてみると成長過程の少年の体躯だ。文豪を宿らせる素体はすべて同一だと聞いている。だが有魂書から連れ帰った彼らは自らが宿る体を豊かに肉付けをする。自身は見目こそ整ったものの若々しさには欠けた「らしい」姿で笑ってしまったものだし最初はわからなかったがいわれてみればこれ程相応しい器はないと思えたのは花袋だった。明るく常に自分自身をぶつけていく少年のような。自分が知っている自身はそんな彼だった。

「……普段。君は凛々しい」

「へ」

 間の抜けた声が上がる。こちらを向く気配がしたから顔を合わせる。途端。薄明かりに照らされる飴色の目と合って吸い寄せられそうになった。それを堪えて森は語る。

「司書も語っていたが今の俺は性的倒錯の塊のような状態らしい」

「……」

「いっておくが特殊性癖とは違う。……簡単にいうとだな。前生の俺が保有していた女々しさと男性の部分が綯い交ぜになった。結果として『余所』の俺は性的なことに自発的には興味を示さない傾向にあるらしい。ただどうしても特務司書の個性が影響されるらしく……ここの『俺』は君の凛々しさと男らしさに惹かれた。俺が持っていない確固たるものを持っている君に」

「……それで」

「俺はそれが欲しかった。だが今。間違いだと気付いた」

「間違いですか」

 一息。グラスを呷る音がする。グラスを持った手が伸びてきたから受け取ってサイドボードに置く。

 置いた刹那に手を取られる。巨躯の文豪のためにキングサイズのベッドだから頭をぶつけることはなかった。しかし代わりに金色の目が薄明かりににらにらと輝いているのがまともに目に入った。

 降ってきたのは口づけ。予想に反して浅い。それは顔を近づけるための遠近を図るための行為だったようだ。いつの間にか静かに復活していたようだ。この男は。ただし怒りで。絡んだシーツを邪魔っ気に放った。森にも触れたストッキングの感触で先程の花袋の痴態が浮かぶ。しかし花袋の手は堅牢に森の両手を縫いつける。繰り返すが彼は弓の名手だ。この図書館でもトップに名を連ねている。それはつまり腕力が強いということで。

「つまり俺がはじめてカライキさせられたのもこーんな格好させられてセクハラ発言受けたのも間違いだったと?! えぇ!?」

「すまない。正直なところ君を飽きさせていないか不安になった言い訳だ」

 白状する。花袋の目を真っ直ぐ見ることができなかった。怒号ののちに彼は身を起こした。熱気が離れて少しさみしい。

「飽きる訳ないでしょ! 毎回毎回あんたをひっくり返そうと画策してるのに!」

「えっ」

 なにそれ初耳。森が目を瞬く前で花袋は唇を尖らせる。

「なんですか。悪いですか」

「いやその」

「だいたい俺たちみたいなのの夜の営みに今更旧来の性別の形を当て嵌める方がおかしいんですよ。だからあなたの精神的性別問題はこれからおいおい俺と話し合っていきましょう。だから今は」

 右手の拘束が外れる。花袋が左手を外したからだ。彼の手はストッキングの破けた部分を手の中に包める程度に集めると――森自身と花袋自身を重ねた。もちろん花袋自身はあの女物の下着からこぼしてだ。そしてもう片方の手も添えた。こすりだした。

「!? ま。待ってくれ花袋くん」

「さっき散々待ってくれなかったのは先生の方でしょう。怒ってるんですからね。俺は。さっきのカライキ悔しいながら気持ちよかったですけどやっぱ1回は出さないとすっきりしないんです。よ」

「待て。俺は今日まだイってないから」

 森の言葉に花袋は微笑む。ヒマワリのような――黒バラのこぼれる笑顔。

「がまん。できますよね。1発抜いたらいつものように『後ろ』お願いしますから」

 いいながらこすりあげられる自身と花袋自身。独特の触感と熱を持ち先走りを溢し合う。薄明かりに灯された花袋はいつにない――否。いつも通りの彼に戻りつつあった。だから森は肯くしかできなかったのだ。決して自身に淫猥に跨る花袋への欲情が先立った訳ではない。

 

 互いに白い蜜を溢したのち。すかさず腰を掴む。気怠さがあったが倒錯的な状況で森の熱も燻っている。だから終の目標だった体位に持ち込めて密かに笑う。

「……先生は元気ですね」

「君程ではない。……後ろも破くぞ」

「もう脱いじゃってもいいんじゃないですか。汗が絡んでて」

 それには答えない。無作為に破くのは無性に楽しい。背徳的な行いをしている気分になる。そしてなによりそれを花袋とできるのが嬉しいが今口に出せばさらにもめる気がした。

 あられもない姿とはこのこと。枕にしがみつく花袋はシャツを羽織っている。しかし腰から下は女物の下着にほとんど自身が破いたストッキング。臀部を引き起こすと下着越しに割れ目に指を走らせる。体が揺れた。感度良好のようだ。

 ローションを尻から垂れ流す。手にもしっかりと塗り込むと滑り込んだ潤滑油の生温い感触が届いたらしい。睨まれた。今度は焦らさずさっさとせねば。しかしここまでして用意したこの楽しみを半端に終わらせる気はなかった。臀部の割れ目に丁度伝染した穴。そこから手を滑り込ませ下着をずらす。滑り込んだ様々な液体で表面だけは濡れたそれを指でなぞる。柔らかく指の腹でなぞるとある程度受け入れ慣れてしまった花袋の後腔は容易く指を滑り込ませた。花袋はといえば実のところ元に戻ったかといわれれば完全にではなくいつもなら枕や自身にしがみついて我慢している声をなぞるだけで生娘のようにあげていた。それが愛おしいかわいらしいと同時に奇妙な優越感も覚えてしまうから罪深い。すかさず指を増やすと背中を撓めた花袋が嬌声を上げる。中をかき混ぜれば常に懐いてくれる彼を思わせるように指に吸い付いてくる内壁。愛おしくて指を何度も開けば聞いたこともない程高い声を上げた。思わず心配になる。また無茶をさせていないか。

「大丈夫か花袋くん」

「……あまり大丈夫じゃないです。本当。あの。早くお願いします」

 花袋は自分で自分の口を塞いだ。振り返ってくる余力はもうないらしい。2度目に背中を撓めたときに見れば律儀に収め直されていた花袋自身は下着の中で引っ掛かる程度にしか残っていないストッキングを更に音を立てて弾けさせながら怒張させている。そのときにかいま見えたのは目を瞑り必死で堪えている花袋の姿で。指で解ききった今はもう待たせる必要はない。避妊具をつける。これも随分と進化したものだと改めて眺めていれば射殺されそうな視線が突き刺さる。

 改めて花袋を見た。自身が仕掛けたとはいえどぼろぼろの姿。されど鋭い眼光も宵闇に浮かぶ金の髪も目も。それは獅子の子を思い浮かばせた。

 見た目は猫の子のような獅子の子に覆い被さり後腔に突き立てると花袋自身に手を触れた。

「――っ!!」

「花袋くん。ドライオーガズムはもういやなのだろう。ならこちらは手伝う」

「そういうことじゃなくてっちょっ……やめ。もう俺あなたので後ろだけで前も出せますから!」

「正直にいえば私が触りたい」

「……あとでまとめて反省してくださいね。あっ」

 なんだか心が酔っ払ってしまったようだ。深く突き入れた瞬間に花袋と唇を重ねる。お互いに笑い合ってしまったから終わりだった。

 静かになる。水音が激しい。花袋は自ら腰を振っていたし森もそんな花袋自身を握りしめた。熱が解け合った。

 

 ベッドに横たわる。もう動けない。そう思った花袋はふと服の残骸を脱がせにかかった森にその態度のままで尋ねた。最初の質問に答えてもらっていない。

「先生……あの。俺のウェストサイズって婦人用じゃでかいやつでしょ。どうやっていつの間に調べたんですか」

「なに。簡単だ」

 そういって森は花袋の腰を掴む。両手で。

 その手を引き抜くように見せた。

「毎晩このくらいのサイズの腰を抱いているからな。いやでも覚え」

「先生。1週間俺に接触禁止です」

 殴りつける代わりに言葉のハンマーをぶつけた。効果は絶大だった。

 恥ずかしかった。

 

 

 

 

 

苦痛よりなおこの身を蝕むのは

(恥!!!!)

 

 

 

 

 司書の私室。ただでさえ手狭なその部屋でささやかな宴会が催されている。とはいっても2人きり。座席はベッドかフローリングの上だ。少しだけ酒の入った司書は床に転がり冷たさを堪能している。啄木は酒をラッパ飲みしながら人のベッドで寝転がっている。そしてふと飲み干した瓶を胸の上に置くと彼はつぶやいた。

「なぁ司書よぉ」

「なんでしょう」

「ジュースうめぇか」

「美味しいです」

 両手でコップを挟んで飲む。彼の周りにはソフトドリンクという名のジュースがいっぱいだ。密かに啄木が酒を混ぜたので少しばかり酔いが回っており常より機嫌が良さそうだった。啄木は重ねて問う。

「つまみはうめぇか」

「俺が作ったので。はい」

「あとよ」

 俯せに転がる。料理上手の司書はベッドの横の床で寝ていたから目が合った。

「ここはあんまり防音性が高くないってことあいつらに教えないのか」

「多分違うところで余計な騒ぎを起こされる気がするので敢えて教えてません。苦情は明日申し立てましょう。今は啄木先生はお酒飲んでてください」

「おう……ご苦労さん」

「あー俺も酒が飲みたいですよぉ……酒の恥はかきすてでしたっけ」

「恥はやめとけ。たまに病魔の苦痛よりも体を蝕むからな」

 事実上3年だけ人生の先輩はそういって新たな瓶を床から取り上げた。廊下の外からは男性の低めの声と高めの声。2人分の声が漏れ聞こえてくる。

 

 

 

 

了




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