▼衛星組で観たのが昨夜だったので「文豪に●撃読ませて&見せて一緒にトラウマを植え付けてやる」と画策した結果です。まずはぼっくりからじゃー
要約 初っ端からぶっ放してきましたね……(´;ω;`)
酒を飲んで厠に出た牧水曰く。司書の私室は日を跨いで2時を回っても電灯が点いたままだったという。
その酒飲み相手だった啄木が起きてくると司書はなんでもないようだった。否。胸から上はいつもの穏やかな微笑みだ。周りをちょろちょろと童話組がうろついているさまも微笑ましかった。
一点。手がおかしい。正確には裁縫箱の前。手元で円い何かを縫っているらしいもの。先程から聞こえてくる音は脳内でスローで再生すれば「ちくちくちくちくちく」という針が布を通す音だ。高速すぎて「ちちちちちちちちち」とキツツキが巣を作る音に思えた。速い。速すぎる。一体なにを作っているんだ。そんな速さではミシンも追いつかない。かと思えば糸が切れた。
そこには千鳥格子のベレー帽があった。宮沢が歓声を上げる。
「わぁ! すっごいね。僕のイメージ通りだ!」
「ははははサイコメトリーってこういうとき本当に便利なんだよね。サイコキノで高速裁縫もできるし」
(またアルケミストの能力の無駄遣いしてる)
どういう経緯かは不明だが今朝は童話組と戯れて彼らにわざわざ裁縫箱を取り寄せて新しい帽子を作ってやっているらしい。たしかにそろそろ春だ。衣替えの季節だから体温の上下が激しい子どもの体に適した衣服がいいだろう……もっとも手作りである必要はないだろうが。そう考えながらぼんやり眺める啄木の前で南吉がその雑誌を手に取る。
「次。次。ぼくはこういうのがいいです」
「どれどれ。……ああ。これなら裁縫じゃないですね」
覗き込んだ司書はおもむろに手を上げる。その手に瞬時に現れたのは――その箱から取り出されたものから見ておそらく編み物箱。そういえば泉がウサギの編みぐるみをもらったと喜んでいたことがあったなとぼんやりと思い出す。そうだ。器用な男だった。料理も掃除もひとりでこなす。文豪の時代で女だったなら立派な嫁になれる男だった。啄木は改めて感慨に耽っていると司書の声に現実に引き戻された。
「動物の形の編み物のお帽子ですね。どうせならいつものキツネより他の動物にしてみませんか」
「んー……でもね。ぼく。気になるキツネさんがいるの」
「ほほう。どんなキツネです」
「チベットスナギツネ!」
「ち。チベスナ……渋いところをつきますね…………わかりました。ちょっと編んでるので向こうで宮沢先生と遊んでてください」
1回南吉の頭に手を乗せるとそのままくるりと半回転。その辺りを新しい帽子をかぶって遊んでいた宮沢の方へ走らせた。そして金色の毛糸とかぎ針を取り出す司書は近寄ってくる啄木に顔を向ける。
「お早うございます。昨夜はお酒を飲んでらしたようですけどよく起きられましたね」
「俺はそんなに飲まなかったからな。お前こそ昨夜は丑三つ時まで起きてたんだろ。こんなに早くて大丈夫か。手元の話じゃねーぞおいしかし毛糸焦げるぞ」
啄木はまだ見ぬチベットスナギツネなる生きものに想いを馳せながら帽子の命を心配したが刹那に司書の顔が引き攣ったのも気付いた。光の速さの如き指の動きも止まる。毛糸が千切れなかったのが幸いだ。ゆっくりゆっくりとそのまま帽子を再び編んでいくが明らかに速度が遅い。先程までの奇跡のような速さはどうしたのか。それでも次第に元の速度を取り戻しつつあった。顔色も戻っていく(思い返すと一瞬で毛糸より土気色になっていた)司書は手元に目を落としつぶやく。
「俺なりのSAN値回復です」
「は」
「この図書館には映画や絵画に音楽もあれば漫画コーナーもあるでしょう。文学の一環として。この間職員I氏のせいで帝國銀行に差し押さえられて転売されるところでしたけど!」
「イヤァダレダロウナァ――っていででででっ?!!」
背後から細かい粒が背中を撃つ。正体が掴めず落ちていった音を辿り床を振り向いた。
一瞬だけ目に入ったのはチェスの駒。それらはすぐに消えて後方の小さな棚。チェス盤の上にまるで最初からわたしらここにいましたよといわんばかりに並んでいた。しかし周辺にはこれぐらいしか武器がない。これを武器にできるのも目の前でいよいよチベットスナギツネの耳に取りかかりだしたらしい司書しかいない。
「おいてめぇ! 今のぜってー適当にチェス盤に戻したろ! あれオダサクと幸田さんの勝負してるやつだぞ!? 幸田先生はともかくオダサクはあれで勝負台無しにされたら笑って斬り掛かってくるぞ!!」
「大丈夫。盤をよく見てください」
いわれて見る。将棋や囲碁はともかくチェスは洋式の将棋といわれても慣れるのに時間がかかった。なにせ取った駒を盤上に戻せないのだ。その点でいえばリアルといえばリアルだ。兵にせず首を刎ねるのだから。そして盤を見て……それが昨日横合いで眺めていた試合の流れとほとんど変わらないことに気付く。多少盤の流れが織田に有利に働いているぐらいか。思わず勢いよく振り返ると光速編み物を続けていた司書は目を向けない。
「盤上からそのままぶつけてそのまま戻しましたから」
「無駄に器用な奴め……」
「あんたがすっとぼけるからですよ。――俺が昨夜観ていたアニメは原作の漫画もよく転売の対象に万引きの被害に遭うんです。大人気作品なんですよ」
「今は小説よりポンチ絵の方が人気なんだっけか」
いいながら歩いていくのは漫画コーナーだ。場所自体は把握しているらしい。恐らく先日の1日の事件のためだろうが。それより表現の古さに笑ってしまう。
「ポンチ絵て。古すぎて感動しましたよ。小説は今は御伽草子みたいなのが主流ですが俺みたいなのが文学をストーキングしていますから」
「そ。それはそれでひくな……それであにめってあれか。色ついたまんががテレビで声と音ついて動いてるの」
「あんたどんだけ現代に興味ないんですか。――原作は作者名は『いさやまはじめ』。タイトルは『進撃の巨人』。ジャンルはファンタジー………………ですかねぇ……」
「なんだーその長い沈黙はー」
「最近の展開だとその辺微妙で……あ。あともうすぐ22巻が出ます」
「21冊かよ! 先にいえ!!」
倒れた音がした。
一頻り遊び終えたようだ。中庭から戻ってきた宮沢と南吉が頬を赤くして戻ってくる。
「リンゴジュース飲みたい!」
「僕は牛乳! 司書さん冷蔵庫にどっちもありますか」
「ありますよ」
そういって司書はそれを手に立ち上がる。ゆっくりと編んでいたかと思えばそれを外して南吉の方へと歩いてきた。彼は最初はきょとんとしていたが宮沢と一緒にさらに顔を赤くした。
「わぁ! チベットスナギツネのぼうしだ!」
「いいなぁ南吉くん!」
「今度そっちのお帽子と交換しよ!」
「サイズは一緒だから大丈夫ですよー。それに防弾防刃衝撃吸収且つ通気性も抜群です」
「……お前。いつの間にそんな高性能搭載して編み込んでたんだよ……」
金色の毛並みに人間のような目つきの変わったキツネを模した毛糸の帽子。それをそれまでの帽子と交換して結んでやっていると背後からようやくのたうつようなツッコミが入る。岩手の同胞が司書の体を乗り越えていった。
「あれ。石川さん。いっぱいご本読んでたみたいだけどなんでそんなに落ち込んでるの。耗弱どころか喪失に陥ってない。司書さんも補修に行かせたら」
「それがもうすぐ21巻を読み終えるから手入れは待ってくれって。まさか原作一気読みを敢行するとは思いませんでしたよ。面白いでしょう」
「面白すぎてお前のいってたSAN値チェックっての。あれが理解できた。これに色と音と声がついたらと思うとぞっとする」
「それがアニメですよ」
「ひぇっ」
「あー『進撃の巨人』かぁ」
コミックスを山積みにした啄木は司書に脅され怯える。一方食堂から勝手にリンゴジュースの瓶と牛乳パックを持ってきた2人のうち宮沢が苦笑する。
「それ面白いけどここの人たちにはきついんじゃないかなぁ」
「おもしろい」
グラスを持ってきた南吉が首を傾げる。チベットスナギツネも不思議そうだ。
「特に南吉くんにはお勧めしない。そうだね。司書さんの『銀英伝テロ』で補修室行きになった人は特にアニメは発禁ものだと思う」
「文豪って繊細だよね」
ふぃと顔を背ける司書。啄木も南吉もじとりと睨め付ける。
『お勧めの本ですか。なら是非この本をどうぞ。ちょっと長いけど読み応えは充分です。日本のSF大作です』
新入りの通過儀礼。司書の正体を知らぬうちに速やかに読ませられる本がある。SF小説として当時一世を風靡した本編10巻番外編5冊の計15冊によるスペースオペラ戦記――銀河英雄伝説。
たしかに大作だ。ただしこの作品の特徴のひとつに魅力的な多数のキャラクターと彼らを容赦なく殺す作者の手腕にあった。人気があろうが必要があれば殺す。「あ。こいつ殺そう」となれば殺す。稀に「あいつ早くに殺しすぎたな」と最終回のあとで後悔をしてみせたりする。
後悔しているかはわからないが「進撃の巨人」はまさしく同じ現象が起きているのだ。啄木が21巻を片手に目元を押さえている。
「もう……誰も死なないでくれよ……なんでガキどもが戦って死んでんだよ…………ガキを使って戦わせる奴は総じてクズだよ敵も味方も誰を責めりゃいいんだよ……」
「おぉ……啄木さんが追い詰められすぎてまともなことを……」
「僕と同じ『やや安定』のはずなんだけどね。銀英伝でも地味にダメージ喰らってたし文学には本当に真摯なんじゃない」
「なんでこの人はそれでも普段はあんなに真性借金王なんでしょうね」
「それは神様に聞かないとわからないなぁ」
宮沢と感慨に耽っていると肩を叩かれる。振り向けば3つ目のグラスにリンゴジュースを注いだ南吉が立っていた。少しチベスナの帽子がずれている。
「あの……司書さんも牛乳飲みますか。牛乳なら好きなんですよね」
「あぁ有り難う御座います。はー癒される。昨夜の心の傷が……」
「……そういやお前が観たアニメってのはこの進撃の巨人のなんだよな」
顔を上げた啄木。どうやら話を聞いて思い出したらしい。それを聞いてふと牛乳を大事に飲み干すと白ひげをつけて笑う。
「えぇ。脚本に関しては原作者すべて公式です。これは珍しいことなんですよ」
「珍しいって」
「たいていアニメ側が勝手にオリジナルのキャラクターを投入したり展開を変えたりして視聴者から批判を喰らうものなんですよ。ところがどっこい。このアニメは最初から作者さんが『このアニメは原作の漫画で自分が描けなかった部分を補填して描いてくれる原作の延長線』ということをいっていました。……創作者として考えてみてください。そこまで信頼して自分の作品を預けられる相手と出逢えるものか」
「……」
「まぁ結果として視聴者が『これはアニメが悪いんだ』という風に言い訳ができず追い込まれることになりましたが……」
遠い目をするのを啄木が見咎める。なぜだろう。戦地を駆け抜けた歴戦の兵士のような目だ。こいつは現代の生まれのはずだろうに。そして司書は立ち上がると啄木の持っていた21巻をコミックスの塔に置いた。刹那塔が消える。向こうで物音がした。この司書のいつもの技・ものぐさ書庫整理である。そして呆然とする啄木の腕を掴むと口元を拭い微笑んだ。
「啄木さん。アニメは1期もそれは素晴らしいクォリティでした。原作出身者は比喩ではなく目が潰れたほどです」
「……原作者の信頼に足るスタッフだったんだな」
「えぇ。しかしあまりのクォリティと話数ごとにどんどん増えていくスタッフ……一桁の話数にしてツイッターで作画スタッフを募る異常事態……いつか誰かが彼らをこう呼びました。『作画兵団』と」
「うめぇこというなぁ」
「啄木さん。今から彼らの熱き戦いとそして再び幕を開けたそれを見届けに行こうじゃありませんか!」
「えっ」
肩を掴む。おかしい。身長差はさほどないはずなのになぜ動けない。がっちりと技を掛けられた上にサイコキノで捕縛されていた啄木は間近な司書のいっそ優しい囁きに戦く。
司書の右手にはいつの間にか手製と思しきDVDが数枚。1番手前に「進撃の巨人1期1話~」と記されたシールが貼られていた。
「私物で1期全話と昨夜録画した2期1話があります。今日は啄木さんはお休みでしたね。一緒に視聴大会といきましょう。俺も久し振りに見直したいですから」
「いやあああぁぁぁぁぁあああああああああ」
大の大人の男による悲痛な悲鳴。どんな惨事が起きたのだろう。江戸川が広間に入ると彼はチベットスナギツネに睨まれた。チベットスナギツネはリンゴジュースをグラスで飲んでいる。幼い声で挨拶をしてきたのは南吉だった。彼は笑顔だ。新しい帽子らしい。いやに出来が良いがどこで売っていたのだろうか。
「おはようございます。良い朝ですね」
「いい朝……そうですね。良い悲鳴があがっていましたね。ふふふ。あれは何事でしょう」
「お早う江戸川さん。あれは司書さんが1D10をロールした結果ですよ」
「クトゥルフでもしていたんですか。ワタクシも混ぜてほしかった」
江戸川は「銀英伝テロ」もすべて迎え撃ち漫画コーナーにあった進撃の巨人も読み尽くし今度発売される22巻も楽しみにしている口だ。精神「安定」は伊達ではない。宮沢は江戸川の言葉にふとすれた笑みを見せた。
「そうだね。あれは呼び声だね……2千年後からの」
『いやあああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ』
「おや。あれは石川さんの声でしたか。彼も良い声をあげますね」
某進●の巨人二期1話目を見た特務司書がSAN値チェックが必要となりました
(今作の被害者:啄木)
了
pixivからの転載