▼この図書館はときどき女性化した文豪も出て来る図書館です。多分樋口先生とか与謝野夫人もいる。
▼俺は有島先生をげtしたぞーっ安吾ーっ(訳:34枚目で藤村先生が連れてきてくれました。2枚余りました。でも安吾はいません)
お題は「晩霞」(http://www11.plala.or.jp/harutake/banka/banka_top.html)より。
作中で息子を落ち着かせるために森先生が考えてるのはこれ(https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%9B%E3%83%83%E3%82%B8%E4%BA%88%E6%83%B3)についてです。多分数学の本もあるんだと思います。
春。図書館は戦場だった。有島武郎を招魂する戦場だった。どれぐらいかといわれれば潜書要員の多喜二と中野が「あの人への一本道が見えない」と同時にソファに倒れた。この館ではレアを連れてくることに定評のある佐藤が「どうせ司書は俺たちに鍛えろ面倒をみろというんだろう」と前生の若い頃のように毒を吐き出しはじめ補修室に突っ込まれた。なお行動に移したのは1番被害を喰らっていた芥川と師匠の永井だ。他縁者たちが次第に疲労の色を濃くしていく。
さらに資材を稼ぐために日々の任務を武郎と縁のない文豪たちが戦闘を繰り返し補修室に入る。彼らはまだ良い方だった。魂脈を辿り当てもない旅をするよりは単純だからだ。
問題はどちらもサポートをする側の人間だ。司書と森だった。
「うああああ~~~~……お疲れ様。花袋先生」
「司書こそ大丈夫か……」
前者が報告書を出す花袋の前で激しく目を擦る。掌底でそれぞれの目を擦るあどけない仕種だ。代わって受け取るのは若山だ。常ならば彼の助手は啄木だが彼は有島を呼び出す潜書要員として外されている。たしかに啄木の潜書して誰かを連れてくるときの引き具合は佐藤と同等だ。なにせ2人とも太宰を連れてきた。啄木は2人目をである。「5時間は張り切りすぎだ!!」と志賀にツッコミを入れられていたのも懐かしい。頭を掻きながら報告書を見る司書は欠伸をする。うっすらと顎に黒いものが見えたのでこの司書も大人の男なのだなぁと変なところで感心してしまった。雰囲気でいえば萩原の色違いというところで儚げだから忘れてしまいそうになる。
彼女が――そう。この図書館では花袋は「彼女」だった――枕を共にするようになった男も稀に自身が先に起きれば生えているので自身はすっかり女になったのだなと述懐する。こうして目の前で「ほらしっかりしろ」と司書の肩を揺らす若山にもたわわな乳房が揺れていた。稀な現象ではあるが1部の文豪が転生してくる際に別の性別でやって来ることがあるらしい。その図書館の場合はもとから女性の文豪もやってくるというから要観察だとかどうとか聞いていたが自身にとっては「美少女が本当にただの観察対象になった」ということとそれにこの体だとかえって都合が良いという事実が生じたことだった。若山のさらしにつつまれた乳房に頭を挟まれている司書はそんな極楽ともいえる状態にも関わらず瞼を閉じている。余程眠いらしい。そんな2人にふと長い金髪を揺らしながら問う。
「唐突だけどさ。司書もだけど森先生も疲れてるじゃん。なにをしてあげれば癒されるかな。できれば手早くできる感じの」
「あ~戦闘してる面子にも絡まれてるからなぁ」
「今は酒はだめだしな。冗談が絶対通じない状態だ」
どうやら1度試したらしい。そしてあの若山が撤退したというのなら相当だ。花袋は巻き毛を揺らして頬を引き攣らせる。
このところ忙しくて会えていない。自身はこの図書館の3番手の弓使いとして前線に出ずっぱりだ。練度が高いお陰であまり怪我もしないが現在絶賛侵攻中の有碍書ではすぐ耗弱になる。そして寝台は3つしかないから調速機ですぐ交代だ。このときに名前を書いて補修が終わったことを告げるぐらいしか言葉を交わす時間はない。夜に逢瀬したいところだが互いの部屋に行く前に風呂に入って自室に入ってそのまま沈没するのがお互いの状況だ。今日のところの花袋はまだ大丈夫だ。彼女は風呂に入って寝れば回復する程度の疲労だ。しかし森の疲れは肉体の年齢に合わせて溜まりやすく抜けにくい。司書がそっと「お勧めです」と「ユ●ケル・ファンティ」と書かれた紙箱を渡していたがあれはなんだったのだろう。性別も変わったが年齢もだいぶ若く転生した花袋が首を傾げて腕を組む前でふと若山が彼女の胸元を見下ろす。独特の結び方――それは尾崎一門にも似ていた――をされた紐の下は早乙女らしい発育中の胸がある。それに魂にまだこびり付いた男性性が覗いたように笑う。司書の頭の上に顎を乗せた。司書が抗議をするが気にしない。
「なぁ田山先生よう。もう森先生とはいい仲なんだろ」
「おっ……おぉ」
指し示された指のサイン。それに頬を染める。司書は若山の乳のせいで見えない。にやにやチェシャ猫のように笑う若山は続けて自らの乳房を持ち上げるように手で触れた。
「なら元男同士だ。これがどれだけ効果があるか覚えているだろ」
「…………今からか」
「夜だと寝ちまうだろ。さくっとやってさくっと終わらせちまえ。すこしでも早く森先生癒してあげたいんだろ」
「おいさっきからなにを不穏なやりとりしてんだ!? っていうか首重い! 牧水先生おっぱい重い!!」
「や~だセクハラ~~」
「本気で恥じらってからいってください! 中身完全におっさんの若山牧水のまま転生してきたくせに!!」
頭上でのやりとりはすべて若山の胸部による目隠しで見えなかったようだ。司書が抗議する。それをあやす声を背後に「そんじゃ失礼しました」と花袋は勝手に辞す。
その顔は桜に染まっていた。
さて。疲れていた自覚はある。差し入れられたドリンク剤とやらをちょうど飲み干してゴミ箱に捨てたところだった。疲れていたから無性に逢いたいとは思っていた。
けれどノックもなしにいきなり扉が開きそこにくだんの人物が仁王立ちしていたら驚くだろう。ましてや動作の割には音もなく扉を閉め――矢の如く自身の座る椅子の上に跨られては。身動きを封じられて唖然とする自身の顔に花袋の手が触れた。弓を使っているから女性体にしては硬いとはいえ男のそれより格段に柔らかな手だ。包み込めてしまう。それでそっと目元をなぞられる。その動きに疲れと眠気がまだ昼間だというのに襲ってきそうになって現実を取り戻す。ひとまず降りてもらわないと。花袋の名を口にしようとしたところで彼女は長い髪を振り乱したまま意を決した様子で金色の目で覗き込んでくる。
「先生。お疲れですね」
「……こう連日詰めてるからな。君も疲れてるだろう。降りたまえ」
「おれは休めば治るから……先生のこと少しでも癒してあげたくてそれでアドバイス聞いて。その」
そういって花袋はジャケットを脱ぐ。寒がりなのか普段は中々見られない姿だ。白いシャツとサスペンダー。そして自身の位置だと丁度掌で包み込めるほどのふくらみの
それを花袋は自分の手で持ち上げて見せた。顔が赤い。
「……ささやかですがおっぱい揉みませんか」
吹き込んだのは誰だ。若山か。若山だな。偏見で答えに至ったがかといって彼は別に責めるつもりはなかった。ただ彼は周囲を気にしただけである。
たしかに疲れていた。癒しが必要だった。少しの沈黙ののち彼女の好意に答えることにしたからだ。若山には小突いたのちに酒を贈ってやってもいい気持ちだった。
ぷつりと音がしたのはホックが外れた音らしい。それに我に返った。ふと顔を上げればなにかを堪えるように赤い顔をした花袋が微笑みを見せる。
「あ。せんせい。大丈夫ですよ。続けても。あとで直しますから」
「あぁ。でも。……」
はたと我に返り自身がなにをしていたかを思い出す。そもそも自分がいかに余裕なく花袋の胸元に縋り付いていたか。
胸を揉めといわれ咄嗟に本当にそのまま片乳を掴んでしまった。かなり不格好な形だっただろうが花袋がそのまま笑っているからどこまで許されるか――試したくなった。腰に手を滑らせ首筋に顔を埋めそのまま胸元に顔を埋め――花袋のまだ発展途上の胸元に顔を押しつけていた。揉むには少しばかり体格が合わない。しかしささやかに柔らかい感触も今の森が大変好ましく思っているものだ。おまけに頭には手を回され優しく撫でられている感触がある。唾を飲む。
このままどこまで受け入れてくれるか。――このままサスペンダーを絡めて花袋の手を縛ってしまえば。彼女は身動きできない。もともと自分の元にこんなことをしにきてくれた彼女が抵抗するわけがないのにそんな発想に至る自分の理由に森はまだ気付けない。何気なく花袋の胸元に頭を乗せたままその手を背中から――尻へと下ろす。臀部を揉んだ。
「ひゃっ……!?」
花袋の体が跳ねた。髪がぶつかる。蹌踉けた花袋の体が森から離れて落ちそうになって慌てて抱きしめた。そうすると余計に花袋は暴れそうになる。最初以上に顔色が真っ赤だ。
「あ。あの。先生お元気になられたみたいですね。よかったです。そろそろ人が来ますし降りますね」
「あ。ああでも」
なんとか森の手をふりほどき椅子から森から降りようとする。しかし森はなんとなく放したくなくその手を握ったままだ。上着を掴もうとする花袋の元に椅子を寄せた。バランスを崩した彼女を後ろから椅子で抱きしめる。
触れたのはシャツの下でずれた外れてずれた下着の下。それに太股。繊細になぞった瞬間に花袋が細い悲鳴を上げた。
気が付けば花袋の体はとても熱かった。なぜ気付かなかったのだろう。彼女の体は今は生娘のそれだ。幾度抱いてもこの調子なのにあんな真似をして花袋自身が無事でいられるはずがない。それに気付いて腕の中でぐったりと凭れる花袋に囁いた。
「……癒されたよ。だから夜。戦闘で疲れた君を是非『癒させて』もらいたいんだ。今日は君の部屋を訪ねていいかね」
「…………そうじゃなきゃ夢に見るばかりで困るところでした」
どうやら熱のやり場に困っていた自覚はあるらしい。ずるずると床に座り込む彼女は振り向くと背中をやおらいじりながら金色の目でじとりと睨め付ける。しかし色の濃い熱を孕んでいた。若い熱だ。
正味の話。まだささやかな彼女の胸を貪ろうとする自分自身は「夜」を思い出してしまっていたのだ。精力ばかりは復活せざるを得なかった。花袋が蹌踉めきながら去り次の客ならぬ患者が来るまで森はひっそりと複素解析多様体のあるホモロジー類(ホッジ類)は代数的なド・ラームコホモロジー類であろうつまり部分多様体のホモロジー類のポアンカレ双対の和として表されるようなド・ラームコホモロジー類であろうという予想について考えていた。
有魂書の部屋から出て来ると赤い顔の花袋が見える。今生では異性となった友人はどうしたのだろうか。声を掛ける。
「かたいー。どうしたの。今どんな気持ち」
「今は聞くな! ……熱はねーから心配すんな」
「ふぅん……」
「それより有島ってのはどうだ」
「だめだね。司書さんもみんなもがんばってるけど2時間10分とか40分とか。明日は僕が入るけどそろそろ魂脈が途切れる時期が来るよ」
「そうなんだよなぁー」
顎に手を添えて肯く。直面している問題は将にそれで司書と森が疲れているのもそのせいだ。
最初に発見された魂脈。それを捕まえられる時間は天体観測と似ている。見ていられれば潜れるが見えなくなればこちらが迷子になる。日常ならばともかく狙って捕らえるとなればこれが難しい。おまけに任務で配給される以上の栞(これがないと魂脈に辿り着けない)は図書館の予算から取らねばならずこれが高くはないが安くはない。50枚使って魂脈を固定すれば必ず捕まえられるが……その際はお察しである。ドリンク剤を飲んで仕事に耽る司書を若山は一応己の豊かな乳房で癒そうとしているらしいがあまり効果は見られない。
それでも花袋はいう。
「でも司書はむりするなっていってたって。事故があっちゃ1番まずいし。今いる面子が欠けちゃ意味がないからっていってたよ」
「……花袋もそう思う」
「決まってるだろー。あーでも独歩をモデルに小説書いたっていう有島の面は拝んでみたいなーとは思うぜ。他のところの研究が進めばまたうちに来る機会はあるだろうし」
花袋が笑いながら2階へ向かうのを藤村は見送る。それが恐らくは司書の虚勢でそれを写し取ったものだと知っていた。
なにせ以前急遽発見されたものの保護された「幸田露伴」。彼の2番目の実装の機会がなかなかに厳しかった。坂口安吾も獲得し損ねていた弊館で次の機会は同様に厳しいだろうことは予想しうる。この機会に有島も獲得し損ねるのは損害だろう――司書がそう考えていてもおかしくはない。それでも部下となった文豪たちを第1に考えるのがここの司書だ。自身を犠牲にする節がある。それには藤村は少なからず怒っていた。
おかげで自分たちにもその思考が少しばかり影響してしまったではないか。特に花袋など優しい人間には。だから明日の当番は気合いを入れよう。入れ違いに男子風呂に向かいながら藤村はふんすっと鼻息を鳴らす。
扉を開くと鍵が開いている。それに急に昼間のことを思い出した。乾かしたばかりの髪が湯気を放っている。間接照明の中で昼間に訪問予告をしていた人物がそこで文庫本を読んでいた。顔を上げる。後ろ手に扉と鍵を閉めながら無理に笑った。
「……本当に来てくれたんですね」
「いつものことだろう」
「最近お互いに疲れてたじゃないですか」
「あぁ。君に触れたくて仕方なかった」
「……」
棚に洗面用具を置く。それ以外のことなどもうできない。ベッドの端に腰掛けこちらに手を差し招く彼に従った。ベッドに座り縋り付くと唇に甘い感触。昼間は我慢していた欲求がにわかに浮き立つ。
「……やっぱ昼間みたいのじゃだめです。だめな奴です俺は。先生に触れてもらうならこうやって素肌で触れて欲しい」
「……俺は昼間のも悪くないと思ったぞ」
脚を巻き取り押し倒す。枕が逆だが仕方ない。花袋がかわいいから仕方ないのだ。薄暗がりの中で寝間着を着込んだ花袋の体は風呂上がりで温かい。自身は大して長湯をしない上に冷めたから対比が余計に体の中心に熱を集める。胸元に顔を埋めると体が跳ねた。
「元気が出たおかげで午後の業務も頑張れた。夜も君に逢えると思ったらな」
「……がらにもないことをしたと後悔しましたけど」
「むしろがんがんやって欲しい。お陰で数学の問題をひとつ解きかけてしまったが」
「先生お酒が入ってませんか!? あっ」
口と顎で寝間着の胸元を開く。露わになった乳房。改めて晒されたそれに花袋は羞恥に顔を歪めそうになるがその暇も与えず森は舌で尖りを湿らせかぶりついた。森の手管で僅かな快感は下腹部に湿り気を帯びさせるも元より赤子に乳を与えるための部位だ。感覚は鈍い。それを前生は3人の子持ちだった上に医者だった森が知らないわけがあるか。実のところ花袋は森の思考パターンを察していた。だから疼痛のように与えられるむず痒さに耐えながら森に訴える。
「……せんせっなんでそんなに胸に固執するんですかっ……んんっ」
「なに。こうしてみると君の乳房は白桃のようだと思ってな」
脚を撫でさする。強弓を射る為の健脚。その筋をなぞるとさらにか細い声が上がった。
まるで嬲るよう。
昼間は前生。男性だった頃に求めた母性を思い出してそれで森を癒そうと思った。多少心許ない胸でもできると思った。しかし違った。森は思っていたよりも遙かに自立した大人として転生していた。彼が求めるのは母性ではない。パートナーだ。だからまさか元は男の自分の手を取ったとき。「たとえ男性のままでも君を選んだ」と真っ直ぐな目で断言されたとき。少しでも敵うものがあればと思った。対等の立場を望んでくれるのに自分はあまりにも彼に足りないと思った。だからせめて今与えられたもので少しでも穴を埋めようとした。
なのに覆い被さるこの男はあまりに愉しそうに笑っている。
「いっただろう。戦闘で疲れている君を癒したいと」
「おっぱい使いませんけど」
「全身ぐにゃぐにゃになればよく眠れるだろう」
「んんっ……あっ」
座った森に花袋の体が持ち上げられる。向き合う形で座った花袋の乱れた寝間着。乳房は森の胸筋に圧迫される。そのまま尻を揉み込みはじめる。秘部に間近な場所は花袋の熱を帯びたそこを刺激する。いつ森に知られるか。現代の「ショーツ」とやらは優秀だが湿ればすぐわかる。しかし身動きが取れない自身に森は喉の奥で笑った。今は自分の手を易々と包み込む手は今は臀部から太股を蹂躙していた。
「疲れている俺はどうにもこちらの気が出るようでな。今夜は少しばかり……『先生』としてもそう簡単にアドバンテージを譲る訳にいかないからな。まだ夢に見る程度にしておきたまえ」
なんの話だろう。早くも意識がとろけはじめたのはやはり疲れが出ていたのかもしれない。
「藤村先生様ぁ~~~~~~」
見事な五体投地。はじめて見た。そんな声が囁き聞こえる。朝風呂を終えた花袋が女子風呂から出て来ると偶々通りかかった芥川が喜色満面だった。
「やぁ田山さん。君のお陰だってね」
「は」
「あんな奴だけど田山さんが頑張ってるのを見て頑張って魂脈を探って有島さんを見つけてきたって」
「はぁ…………は!?」
なんの話だ。芥川が相好を崩して藤村の話をする日が来るとは。否。それよりも有島が来たとは――なにやら人垣ができている。それを避けて見れば白樺派の2人が銀髪の青年を囲んでいた。その横で見慣れたマントの青年がどうやら胸を張っている。その足元では……たしかに五体投地だ。司書が五体投地をしていた。そんなに嬉しかったか。たしかに自分もうれしい。啄木がそろそろ起きろと揺すっているが中々起きる様子はない。ひょっとして連日の疲れであの体勢のまま寝ているのではないか。若山が言い出してにわかに騒ぎはじめたのを余所に気が付くと隣に森が立っていた。目を合わせる。少し顔が赤くなった。昨晩散々「合意の上で嬲られた」ことを思い出すと顔を上げられなくなる。しかし森は肩を叩いて「よかったな」と口にした。顔を上げると綻んでいる。以前の穏やかな森の笑顔だった。
「これで俺たちも切羽詰まらずに済む。……昨夜はすまなかった。つい」
「いえいえ。あの。正直俺も欲求不満だったので……これからは定期的にしましょう。ね」
再び顔を下に向ける。怖くなかったかといわれれば嘘になるが受け入れることに特化した女性の体では昨夜のこともまた愉しかったと感じている。疲れていたのだろう。と自身でむりやり納得させたところで肩を叩かれた。振り向く。藤村だ。
「うぉっどうした。藤村」
「花袋。今どんな気持ち」
「どんなって」
「僕がんばったよ。がんばって有島さん見つけてきたよ。何度か面識があったし連れてきたら面白いだろうなって」
「おう。えらいな。褒めてやる」
なにやら幼くなってしまった友人の頭を撫でる。なぜかそれに頭上から痛い視線を浴びたが理由は後日までわからなかった。藤村はちらりと頭上を見てから花袋を見る。
「本当に? 褒めてくれる?」
「? そりゃそうだろ。34枚目の栞でやっと連れてきてくれたんだから」
「花袋もすっごい疲れてたみたいだから。顔真っ赤にして。病気かなにかと思ったけど。今は治ったみたいだね。よかった」
このまま言葉を続ければよかった。しかし一瞬黙ったのがかえって衆目を浴びた。奇しくも森と並んで立っていたのがまずかった。この2人が付き合っていることは既に皆が知っていることだ。
それでも花袋は言葉を紡いだ。
「……おう。一晩休んだらよくなったぜ。お前も休めよ藤村」
「うん」
「司書。……なんとか起きたか。俺らもこれから全員休みでいいよな。よし。じゃあこれから皆解散ってことで。……解散。解散だっての! こっちを見るな!!」
「花袋くん。花袋くん。落ち着きなさい。既に叫んでも無意味だ」
若山に摘まれ啄木の背中に背負われる司書。その他の文豪。それを花袋は真っ赤な泣き顔で怒鳴り散らした。森はすっきりしていたのもありただ花袋を宥める役に専念することができたのだった。
夢に見るぐらいなら
近頃司書は訝しげだ。
「武郎先生……なんだか花袋先生が最近任務を避けるんですよね。部屋に引き籠もりっぱなしで。なんかありました」
「……僕が来た日。司書さんいつから寝てましたか」
「正直あなたの顔を見た瞬間以降から覚えてません」
武郎は賢明だった。そのひと言で済ませたのだから。
「……夢にも見なかった人がいるって知ったら喜ぶんじゃないですか」
了
pixivからの転載