※この作品はR-18です。

特務エスパー司書シリーズ   作:駒由李

35 / 78
1:ちりつも
2:乗っ取られた花袋
3:風呂ってGO
お題は「リライト」(閉鎖されたようです)より。pixivより転載


【文アル腐】説教する 他【鴎花】

説教する

 

 花袋が赤い顔で怒鳴った。

「森先生。そこに正座!」

「……はい」

 やけに折り目正しく返事をする。森は花袋の前に座った。食堂での話である。

 谷崎が箸を片手にほくそ笑んだ。

「あらあらふふふ。なんのプレイですかお2人とも」

「プレイじゃねぇ!」

「プレイじゃないならもう少し邪魔にならない場所で正座させてくださいよ。森先生は大きいから場所を取るんです」

 司書に促されるままに森はもう少し隅に正座し直した。昼食の時間だ。谷崎と同じ席に着いた司書にはいやが上にも彼らの会話が聞こえてきた。

「先生。オレ、いいましたよね」

「ああ」

「セクハラはやめてくださいって。しかも公衆の面前で」

「……いわせてもらえばセクハラのつもりは」

「シャラップ!!」

「……森先生がセクハラしてたんですか」

 司書は小声で谷崎に囁く。司書はあとから来たので騒ぎの発端がわからなかったのだ。ろくなものではないだろうと当たりはつけていたが。上品な箸使いをしていた谷崎が微笑む。

「いつも通りでしたよ」

「というと」

「いつも通りに森先生が田山先生の腰に手を回して食堂に入ろうとしていたのです」

 司書は苦い顔で呟いた。

「ちりつも」

「なんです」

「塵も積もれば山となる」

「日本語は正しく使ってこそ美しいのですよ」

 谷崎にしては珍しい苦言を呈しながらも発言の主旨には反対しなかった。つまりそういうことである。いつもの行状が重なった結果の今の光景だった。

 

 

 

 

 

マウントポジション

 

「これは仮説だが、文豪の魂が文学書から派生している以上、浸蝕者が彼らを乗っ取ることもありえるのではないか。浸蝕が進めば耗弱し喪失するのだから」

 その説を呟いた司書自身が笑い飛ばしていたのを森は思い出す。マウントポジション。突き飛ばされ跨られた。銃口を突きつけるように矢を番えた手があった。それを発射されないように必死で弓を掴んで背けていた。

 花袋の目が青黒い光を放っていた。

「鴎外! 田山!」

「森先生!」

「2人とも――司書を呼んでくれ。花袋くんを拘束しないと」

 有碍書の潜書から出てきた矢先に起きた事件。自身の声に打たれたように高村が走り出す。司書のアルケミストとしての能力ならば花袋を絞め落とすことも可能だろう。逆に自分たち文士では花袋を無用に傷付けるおそれがあった。幸田もそれに気付いて鞭を引っ込める。高村の銃は論外だった。

 今回の有碍書への潜書の結果は花袋が喪失状態に陥った。以前の失敗から学んで――花袋は1度、自分のダメージを故意に隠蔽したことがある――彼のダメージはコントロールできていたはずだった。想定外だったのはそこに新手の浸蝕者が目撃されたことだった。

『強さは今までのと変わらないぐらいですかね』

 司書が語りかけてくるのに対し戦い終えた森が答えた。

『そのようだな。ただ花袋くんが喪失に陥った』

『じゃあ引き揚げましょう逃げましょう。……花袋先生どうしました』

『……おう。逃げるんだな!』

「今にして思えば、君が大人しく『逃げる』のを受け入れた時点で怪しむべきだったな」

 眼前に矢。露伴が花袋を引き剥がそうとするがびくともしない。森は僅かに笑って囁いた。

「君にマウントを取られるのは悪くない。しかしこういう場面は避けたかったな」

「――……」

「先生!」

 2人分の声が重なる。司書と高村だ。司書が手を振り上げる。花袋が弓矢を取り落とした。

 

 結局、司書の仮説通りの事態が発生したと直後に政府から通告があった。司書により面会謝絶だった花袋が森にやっと逢えたのは3日後のことだ。

「……先生。なんだかお久しぶりです」

 おずおずとした態度は、どうやら自分がなにをしたかを聞いたらしい。遠慮がちな彼に森は微笑んだ。

「俺もやっと逢えて嬉しい。気分はどうだね」

「オレ。先生に……」

「ああ。マウントを取られたことか」

 森はいった。

「今度は夜に頼もう。――その元気なら時期に快復だな」

 胸に拳を突かれた。結構痛かった。

 

 

 

 

 

一緒にお風呂

 

 文豪に風呂嫌いは珍しくない。21世紀前後になってようやく毎日入浴するという慣習がついたのだ。殊に風呂嫌いで知られた芥川は毎日夕方頃になると友人知人に大浴場へ連行されていく。ただ生前の学んだ知識のために風呂嫌いになった森とはまた別の事情だった。

 森は現代を生きる司書から説得を受け人並みに入浴はするようになった。しかし烏の行水なのを司書が重く事態を受け止めた結果、その処置が執られた。

「そういうわけで先生。今日から一緒に風呂に入りましょう」

 洗面器からヘチマがはみ出している。花袋が夕方医務室を訪ねてきて森は驚いた。医学書を置いて「それは君が背中を流してくれるということかね」と軽口を宣ってみる。しかし花袋は動じない。

「そうとってもらってもかまいません。さあとっとと準備してください。オレは長風呂派なんで早く風呂に入りたいんです」

「考えてみれば君と俺は真逆だったな。今行く」

 図書館に併設されている浴場は取り立てて特筆すべき点はない。強いていえば今時珍しい古き良き銭湯の風情を残しているというところか――タイルに富士が描かれている。今のところ女性がいないので更衣室はひとつしかない。もし異性の文豪が来たら浴場も工夫して利用せねばなるまいと、同様に浴場を利用している司書が頭を悩ませている。女性の文豪もいるのだ。

 そんな司書の悩みなどつゆ知らず花袋と森は更衣室で服を脱ぐ。上着を脱ぎながら花袋はご立腹だ。

「森先生は湯船で少しはじっとしていられないんですか。せめて100を数えるぐらいはしましょうよ」

「どうにも、さっと湯通ししたらそれで十分の気がしてな」

「おひたしだってもう少しお湯に浸かってますよ」

 ほうれん草以下といわれて森は黙然とシャツのボタンを外す。花袋はさっさとボトムを脱いで棚に突っ込んでいた。パンツも同様にした彼は洗面器を持って笑う。

「それじゃ中で待ってますから。とっとと脱いできてくださいね」

「あぁ」

「さー風呂だ風呂だ」

 転じて機嫌が良さそうに浴場へと向かう花袋の背中を見送った。そしてベルトに手を掛けた森は思った。夜だってこんなに積極的に脱ぐだろうか――と。

 

 

了

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