※この作品はR-18です。

特務エスパー司書シリーズ   作:駒由李

41 / 78
1:※文豪同士の暴力描写
2:咄嗟に助けようとした結果がこれだよ!
3:宵宮で1番怖いのは下駄で足を踏まれることですね 
お題は「リライト」(閉鎖されたようです)より。pixivより転載


【文アル腐】虐げる【鴎花】

虐げる

 

 息が詰まった。

「っ……森先生」

 花袋は地面に転がった体を起こす。無益と知りつつ、彼を投げ飛ばした者の名を呼んだ。正確には体を乗っ取られている者の名を。向こうから歩いてくる森は、常の顔色は失せ青黒い煙を纏っていた。いつか自分が乗っ取られたときもこんな様子だったのだろうか。

 潜書中、他の2人とはぐれた。司書の言葉は聞こえてこず、いつしか武器は本に戻っていた。てっきり現実に戻ったのかと思った。だが突然殴りかかってきた森の様子でそれは違うと察した――森が戦闘中に負った傷。そこから青黒い煙が立ち上るのを見たのだ。

(とはいっても先生はただでさえ元軍人……その上刃使いだから膂力が違うし)

「うぉっ?!」

 気が付けば距離を詰めてきた森が拳を繰り出してくる。辛うじて1発目、2発目は避けた。しかし幸運もそこまでだった。胸倉を掴まれ、腹に膝を埋められた。重い打撃。胃液を吐く。動きが鈍ったところで顔に3発、拳を入れられた。口の中が切れる。

 その咄嗟に、足払いを掛けた。

「――森先生! しっかりしてください!」

 重い拳でこちらが脳震盪を起こしそうだ。それでも縺れて倒れ込んだ先で必死で花袋は怒鳴った。このまま虐げられられるに任せていたら、森も花袋も破滅だ。今この状況に彷徨いこんだからには打破する方法が外側からでもあるはずだ。それまで持ちこたえなければ。尚も拳を振るおうとする森に花袋はとうとう、彼の胸倉を掴んだ。

「でいっ!」

「っ――!」

 秀でた額に頭突きをかました。

 額を押さえる。縺れ込んで倒れていた先で、森はゆらりと立ち上がった。

「……俺は……」

「森先生!」

「――やっと通った! おい2人とも大丈夫か?!」

「大丈夫ですか?!」

 刹那。ガラスが砕ける音と共に志賀たちの声が届いた。はぐれていた同じ会派の2人だ。それに花袋が声を上げようとした途端。

 森が倒れた。

「森先生!」

「おっ……おい2人とも! 何があった?!」

「司書さん! 今すぐ撤退お願いします!」

 

「森先生。あれは操られていたことなんですから、こっち向いてください」

 潜書からの帰投後。通常の補修よりやや手間がかかったものの、森と花袋の怪我は治った。問題は心にあった。森の額からは痣は消えていた。彼は沈痛な面持ちでいう。

「俺は恐ろしいんだ。容易く君を傷付けておきながら何も覚えていないということが」

「覚えてない方がよかったですよ。ああ、でも気を付けてほしくはありますね」

 そういって森の右手を手に取った。拳は固められることはない。

「先生の手は、素晴らしい作品を生み出す上に人を治療して救ってくれる手なんですから」

「……そうか」

 

 

 

 

 

タックルする

 

 あれは不幸な事故だった。志賀はそう証言した。

「この先、どっちに行けばいいんだろうな」

 潜書中。志賀と啄木は戦闘を終えて頭を悩ませていた。道は2つ見える。しかしどちらがボスルートでどちらが外れかは、ここからでは霧が濃くてわからなかった。なぜこの2人で揉めているかといわれれば、森と花袋はこの2人に比べれば我が弱かったからとしかいいようがない。果たして我の強い文士2人は「俺様はこっちだと思う」「いーや俺はこっちだ」と不毛な論争をはじめてしまった。そのうち司書が天から「いいから早く進め」と鶴の一声をかけてくるだろう。花袋はそう確信して弓を片手に持っていた。

 ――それに気付けたのは偶々に過ぎない。のちに、恐らくそれは討伐し損ねた浸蝕者の残りカスだろうと司書は判断した。「それ」が凶器を構えたとき、花袋は反射で動いていた。

「先生危ない!」

「え。――」

 その大声が劈いた瞬間。志賀たちが振り向くと――地面に槍が突き立っていた。青黒い煙を纏っており、その武器を投げた者の正体がわかる。咄嗟に啄木が銃弾を撃ち込んだ。見れば、茂みに浸蝕者らしき姿が1体いたのだ。それを追いかけて志賀がトドメを刺して振り返る。

「おい大丈夫か!? ……」

「こっちは始末した……ぞ……」

 啄木の言葉が尻切れになったのは志賀と同じ理由だった。彼らはその光景に呆気にとられたのだ。

「……すいません。先生。咄嗟だったもので」

「……助けてくれたのは有難う」

 地面に倒れる森と花袋――正確には、花袋に両脚を捕らえられ俯せに倒れた森の姿がそこにあった。武器を片手に森は唸った。

「ただ、そろそろ起きたいから放してくれ」

「ういっす」

「タックル以外に助ける方法はなかったのか」

「もう慌てたもんだから」

 啄木の指摘に花袋はやれやれと起き上がった。森も花袋も同じぐらい草塗れだった。

 

 

 

 

 

腕を組む

 

 図書館の近所の神社で宵宮が行われる。それに便乗したがる文豪は無論いる訳で。

「花袋くんは甚平か」

「先生はちゃんと浴衣なんですね。格好いいです」

 戯けたように笑う花袋は、明るい色の甚平羽織を身に纏い下駄を突っかけている。懐に本が垣間見えるのは持っていないと落ち着かないからだろう。森も懐に自らの本を忍ばせていた。紺の浴衣に革色の帯を締めた彼は花袋の賞賛を肩を竦めて受け止めた。

「それでは行くか」

「はい!」

 ――今夜は潜書も休みにしていたと司書はいっていた。

「そのせいかみんな来てますね」

「たまの楽しみだからな。……」

「どうしました」

 人混みの中。花袋が真っ先に買ったたこ焼きを頬張っていると、ふと森が黙り込む。彼の目の先を追うとその理由を察した。――綿飴にアイス。らくがきせんべいにいちごあめ。それにさつまいもスティック。買える甘味を一度木に買って至福の時を味わっている夏目の姿を。

「ひとりで楽しんでますね、夏目先生……」

「……夏目殿には帰ったら血糖値を測ってもらわんとな」

「ま、まあ今は先生も祭りを楽しみましょう。ほら、リンゴ飴も売ってますよ!」

 たこ焼きを食べ終えた花袋は屑篭にゴミを放るとリンゴ飴屋へと駆け寄る。思わず森が大人しく見送ると、花袋はさも当然のように1本だけ買ってきた。笑顔で森に渡してくる。

「はい先生。お好きですよね」

「……甘いものは好きだが。君はいいのか」

「オレは次は焼き蕎麦とか食べたい気分なんで! ――おっとっと」

 言って花袋が頭を掻こうとしたとき、人並みが押し寄せてきた。咄嗟に花袋の腕を取る。蹌踉けて転びそうになったがそれで何とか堪えた。森が引き寄せると花袋は蹈鞴を踏む。

「混んできましたね。お参りをとっとと済ませちゃいますか」

「そうだな。花袋くん」

「えっ」

 右手にはリンゴ飴。そして左腕を差し出され一瞬途惑う。森は直ぐにいった。

「混んでいるから捕まりたまえ」

「……じゃあ、お世話になります」

 いわれるがまま森の腕に腕を絡めた。

 

 

了

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