2:マスコミについて
3:投げ技1本
お題は「リライト」(閉鎖されたようです)より。pixivより転載
慰める
返し矢畏むべし。敵に奪われた矢は、射返されると必ず当たるという。
多喜二を庇った花袋の肩に刺さった矢も返し矢だった。
「外れたのが奪われたのを見て、咄嗟に体が動いてたんですよ
鏃を抜いて包帯を巻く。喪失に陥った中野を優先したため寝台は塞がっている。手当てされた花袋は肩に穴の空いたシャツに袖を通しながらいう。森は更に抜いた鏃を落として眺めていた。これが深々と刺さっていたのだ。補修しなければ明晩熱を出すだろう。ボタンを留める花袋に森はいった。
「痛かっただろう」
「……そうですね。敵はいつもこれが刺さってるんだなって思うと中々感慨深いものが」
「大変だったな」
「……慰めよりは褒めて欲しかったな」
苦笑する花袋の顔にはたしかに疲れが滲んでいた。
テレビを見る
生前はラジオが精々だった。
「オレらが死んでいる間にテレビジョンなんてものができたんですね」
「お互いあまり死んだ年は変わらんからな。進歩には本当に驚かされる」
談話室。人気がまばらな半端な時刻に森と花袋はテレビを見ていた。テレビではニュースを報じており、手入れのいい男性アナウンサーが愛想良く白い歯を見せていた。日焼けした肌が健康的だ。森が新聞を広げながらいう。
「昔は映画も無声だったからな。ここに収蔵されている映画が天然色ばかりで驚いた」
「そもそも各部屋にテレビが1台ずつ配置されているけど、最初はあの箱はなんだろって思ってましたもん。新しいもの好きの藤村に説明されてはじめて知りましたからね!」
この館外の者が聞けば話している者の見た目の若さと内容のジェネレーションギャップに目を剥いたことだろう。見た目は青年、中身は100年前の文豪たちは談笑する。森は新聞を畳んだ。テレビでは天気予報士の女性が明日の東京の天気について報じている。明日の帝國図書館近辺は曇りのち雨らしい。
「そういやオレらの死んだあと、戦時中は天気予報も禁じられてたんですって」
「なんでまた」
「晴れた日には爆撃されるかも知れないから、軍事機密扱いだったそうなんです」
「元軍人としては情けない話だな……今は当時に比べればましになったか」
「そうとは限りませんよ。独歩たちや司書曰く、日本の報道の自由は世界でも順位が低いそうですから――あ。温泉特集だ」
社会派めいたことを真面目な顔で語っていたかと思えば、「今回は■■温泉にやってきました」というテレビのひと言で顔を輝かせた。森は苦笑せざるを得なかった。
投げ飛ばす
それは美事な巴投げだった。居合わせた高村はそう証言した。
「……型通りの美事な投げ技だったね。でも田山さん。何で今、森先生を投げ飛ばしたんだい」
「はっ。つい――先生!? 先生無事ですか!」
返事はない。慌てて茂みを掻き分け投げ飛ばした森の方へ駆け寄る。その頬が赤味を帯びていたのを高村は看取した。昼下がりの中庭。少し暗い方へと足を踏み入れたのはスケッチのためだった。何か新しい題材はないかと宮沢と漫ろに歩いていたのだ。そこで見たのは。
宮沢は高村の背後で、大きなスケッチブックを片手に目を輝かせた。
「わー花袋先生すごいね! 高村さん、ひょっとして花袋先生に柔道を教えた?」
「うん。以前司書に頼まれて、素手での格闘技は希望者に教えたよ。まさかこんな形で昇華されるとは思わなかったけど。……」
悪いことをした。高村ははしゃぐ宮沢を宥めながら思う。しかし昼間から庭で盛らずともいいだろう。嘗ての恩師に心の中で毒づいた。打ち所が悪かったのか、花袋の呼びかけにも森は動かなかった。
了