2:青森市の迎え火どうだったっけ……?
3:S(すこし)F(ふしぎ)
お題は「リライト」(閉鎖されたようです)より。pixivより転載
贈り物をする
「あれ。この花どうしたんですか」
啄木がバイトの助手に来たとき。窓辺に飾られたそれに気付いた。医務室に置かれているものの中でグラスに入った花は可憐な存在感があった。ただその黄色い花は昨日はなかったはずだった。それを問うと、医学書を読んでいた森は振り返らずに「もらった」とだけいう。
「もらったんですか。随分かわいらしいものをもらいましたね」
「武者小路くんが……」
「はい」
意外な人物の名を出され啄木は首を傾げる。しかし森は続けた。
「武者小路くんが志賀くんにあげているのを見て、俺にもあげたくなったそうだ」
「あぁ……あの2人は仲が良いし花が似合いますね」
白樺の2人はきっと無邪気に野の花を摘んで渡したのだろう。その場面を想像してからふと気付いた。そういえば誰にもらったのかは聴いていない。しかしちらと見えた森の表情からして、あの花の贈り主はこの図書館でひとりしか思い浮かばなかった。花が綻ぶように和らいだ顔だった。
落ち葉で焼き芋
自分たちがこの図書館にやって来たのは冬だった。そしてそろそろ季節が一巡しようとしている。秋だ。
「先生ー。芋をもらってきましたよ」
「ああ。有難う花袋くん。では早速焼こうか」
「あれ。森先生たち、落ち葉焚きですか」
武者小路と志賀が見かけたのは、庭の彼はを集めた森と花袋の姿だ。竹箒を手にした森がやって来た2人に肯く。心なし残念そうに見えたのは武者小路の錯覚か。花袋が紙袋からさつまいもを取り出す。ひとつひとつにアルミホイルが巻かれており、彼はそれぞれに木の枝を刺しながら笑った。
「どっちかっていうと焼き芋のために落ち葉を集めたって方が近いな。先生、残念でしたね。芋の分け前が減りますね」
「誰もそんなことはいっていないだろう」
語尾に被せ気味に早口で森が否定する。それこそ図星を指されたようだ。志賀たちは苦笑しながら、花袋が持ってきたマッチを借りる。美味しいものが食べたいのは彼らとて同じだ。火種を落とすと、枝を刺した芋を武者小路が順に片端から突っ込んでいった。彼は落ち葉の山を見詰めていた。
「焚き火は夏のお盆以来ですね」
「そうだな。出身地によって盆の焚き火のやり方に違いがあって大変だったよな。俺んちは宮城だけど」
「太宰んちだと盆の間はずっと迎え火を焚くんじゃなかったか。いやあれは弘前市の習慣だったか」
「地域によって先祖の迎え方の違いが顕著だな」
「ところで僕たちのご先祖って、やっぱ前世のですかね」
武者小路が何気なくいった言葉に一同は沈黙する。そういえば今の体の先祖は前世の自分自身といった方が正しそうだ。自分たちが夏に祀ったのは果たして誰だったのだろうか。
火が音を立てはじめた。司書が慌てて庭に出てきた。
「ちょっと! バケツ用意しましたか!?」
海辺で散歩
靴だと歩きづらくて、ショートブーツも靴下も脱いだ。すると素足の下の砂の感触がくすぐったくて心地が良い。少し進むと、砂は波に攫われていった。
「花袋くん」
海のように深い声に名を呼ばれる。ロングブーツを履いたままの森が、波打ち際に立つ花袋の元へ歩いてきていた。誰かが作ったらしい砂の城が足元に見える。
「少し、歩かないか」
誘われた花袋に否やはなかった。
「広い砂浜だな」
花袋が波際、森が浜の方を歩いて波打ち際を歩いた。両手に靴をそれぞれ持つ花袋は、辺りを見渡してから同意する。人気がなく、ゴミも落ちていない静かな浜辺だ。そろそろ暑くなるのに、こんなきれいな浜辺が放って置かれているのも不思議だ。
「ええ。誰もいませんし」
「静かでいい」
言い切る声は変に力強い。訝しんで見上げた森はいつも通りに見えた。だからそこで違和感を覚えたのだ。靴を携えた手を下げて花袋は尋ねた。
「先生」
「なんだ」
「ここ。どこですか」
振り返った森の顔を見上げる。
彼の顔は、海になっていた。顔のあるべきところに青が満ちている。赤い熱帯魚が悠然と泳いでいた。
それから目を離せない。見詰めていると、不意にそれが決壊した。花袋はそれから逃げるように倒れる。仰向けに――波打ち際に。そこで尻餅を搗く。そして高波が頭から覆い被さってきた。
「花袋くん。起きたまえ」
「ううーん……あれ。先生。熱帯魚はどうしたんですか」
揺り起こされる。花袋が突っ伏していた机から体を起こすと、森が怪訝そうにしていた。彼の背後では司書が書類を抱えているのが見える。ここは司書室だった。森は花袋の言葉に首を傾げながらも、花袋の背後を示した。
「寝ぼけているのか。熱帯魚ならば君の背後にいるぞ」
「……ああ。司書。これがアクアリウムってやつか」
「ですよ。ところで花袋先生。待っていてもらって恐縮ですが潜書に行ってもらえますか」
謎の深い司書室の内装。夏向けの内装らしく、本来窓があったところに熱帯魚がすずしげに泳ぐ。ガラスの水槽がはめ込まれていた。まるで海を切り取ったように。
了