2:桜湯も品種を選ぶとか
3:某有名トト……
お題は「リライト」(閉鎖されたようです)より。pixivより転載
雪上を転げ回る
確かにネコは炬燵で丸くなった。ならば彼らは犬なのだろうか。
「うわー積もったな!」
中庭を一面銀世界に塗り替えたのは一夜の豪雪だ。真っ先に地面に降り立った花袋は、続いて降りた森の前でしゃがみ込んだ。見ると雪玉を作っている。
「何をしているんだ」
「雪といえば雪だるまでしょう」
「……ちょっと無謀ではないか」
いって森は周囲を見渡す。一面真っ白ではあるが、冬の間持ちこたえる根雪には程遠かった。どの程度の大きさで満足するかはわからないが、それなりの大きさを求められる雪だるまには少々原材料が少ないように見える。すると花袋は唇を尖らせて雪玉の形を変えた。
「それなら雪兎を作りますか」
「南天の実ならあったな。ユズリハもあった」
いって森もしゃがみ込み雪玉を手に取った。どちらも素手だが本人たちは冷たさを気にしていない。雪玉を細長く成形すると、その辺りに落ちていた木の枝で顔を彫っていく。花袋は比較的慣れた動作で成形し南天の実を嵌めていくのに対し森は少しまごついていた。それに花袋がいった。
「先生、雪遊びに慣れてませんね」
「俺の実家はさして雪が降るところではなかったからな。君の家は……」
「栃木ですよ。今は群馬になってますけど。太宰や石川みたいな東北じゃないけど雪遊びはしてましたね」
「成る程。……どうにも君のようにはいかないな」
2羽目の雪兎を作りはじめた花袋の前で、森はそれを花袋の1羽目の雪兎と見比べる。形が歪で、少し目の位置が縒れている。しかし花袋は微笑んだ。
「味があっていいですよ」
「有難う。……ああ、どうしたんだ司書」
無造作に雪兎を花袋の1羽目の隣に置くと、森は顔を出した司書の呼びかけに立ち上がった。花袋は2羽目の雪兎を作り終えると、しばし迷って、それから雪兎を置いた。森の雪兎を挟む形で。
森が声を掛けた。
「花袋くん。正面入り口の雪掻きを手伝ってくれとのことだ」
「あ。はーい――あてっ」
声を掛けられ慌てて立ち上がった花袋は、足を滑らせ派手に転げ回った。
花見に行く
花びらが幾重にも捲り上がっている。八重桜が咲き誇っていた。フゲンゾウにカンザンというサクラらしい。
「やっと咲きましたね」
「八重桜は遅く咲くからな」
花袋は湯飲み。森は団子をそれぞれ片手に見上げる。図書館の中庭。ささやかな花見だ。地面に落ちた八重桜の花々を新美たちが拾っている。それを尻目に花袋は眼を細めた。
「八重桜は豪華ですね」
「花袋くんは八重桜が好きなのか」
「だって歯ごたえがありそうで美味しそうじゃないですか」
「……団子を食べるか」
「腹が減っている訳じゃないです。でもしゃくしゃくしてそうだなって。司書も同意してくれましたよ」
「花より団子……いや、花すら食べる相談か」
いって団子の1番上を食いちぎる。ふとサクラがひとつ花袋の頭に落ちてきた。驚いて湯飲みを揺らす花袋に笑いながら手を伸ばした。
「ヤエザクラがひとつ落ちただけだ。俺が取ろう」
「有り難う御座います。食べる相談なんかしてたから桜が怒ったんですかね」
笑う花袋に、ふとある話を思い出した。桜の精霊は男神だという。
やや面白くない想像をして花弁を取った。豪奢な花弁を何気なく花袋の顔の横に当てる。
「……似合わないな。髪にボリュームがあるせいか」
「何の話ですか」
「君に似合うのは単弁のサクラの方だなと」
「それをいったら先生にはよくお似合いですよ。八重桜」
いって森が取った花弁に手を伸ばし、森の顔の横に添える。いってから今度は花袋の方が面白くなさそうに顔を顰めた。
「……華やかな人の方が先生にはお似合いかも」
「なら君がいるじゃないか」
団子を片手の台詞だったが、それでも花袋の目を瞬かせるのに充分だった。
このとき新美たちの拾った八重桜は塩漬けにされ桜湯として供され、後日このときの話を思い出した花袋に赤面させる事態になる。
映画を見る
談話室の照明を落とす。プロジェクターを展開した。司書による館内映画鑑賞会が開かれた。
『メ●~!』
『お姉ちゃーん!』
観賞する映画はアニメ映画だった。
発端は花袋の何気ないひと言だった。
「そういや映画は何本か観たけど、アニメーションの映画はまだ観てないな」
それは図書館の映画のDVDコーナーで、森と観る映画を物色している最中に通りすがりの司書に放った言葉だった。お勧めの映画はないかという意図を汲んだ司書は、手近の棚を物色する。
「そうですねぇ……ピンキリですが、クォリティが安定しているといえるのはこの辺ですかね」
「ジャンルは」
「うーん、現代……いや60年代の日本におけるファンタジーですかねぇ」
「花袋せんせいたち、アニメ観るの」
そこに顔を出したのは宮沢と新美だ。司書が花袋と森に話していた横からすり抜けてくる。そして司書が示していた映画のタイトルを見て目を輝かせた。
「あ! 『となりのトロール』だ!」
「僕も見たい!」
「うーん……じゃあ上映会でもしましょうか。花袋先生たちも皆で見るということでいいですか」
「子どもに喜ばれてしまってはな」
森が苦笑し花袋もそれに倣った。
そして現在に至る。アニメ映画の上映会と聞いて集まった文豪はそれなりの数だ。特に詩人組や作品にカッパや動物などを織り込んだ小説家が顔を出していた。武者小路などは劇中の長閑な田舎の風景に懐旧の念を抱いたようだった。物語は終末。ソファで隣同士で座っていた森は花袋にふと囁いた。
「あの妹の方」
「はい」
「少し君に似ている」
「……幼女に似てるんですか」
訝しむ花袋に森はいった。
「天真さがな」
「自然主義者としては褒め言葉として受け取っておきます」
プロジェクターでは主人公の姉妹が病院の母親にトウモロコシを届けていた。
了