2:>>>唐突な飯テロ<<<
3:多分河川敷が近くにあります
お題は「リライト」(閉鎖されたようです)より。pixivより転載
最高の愛情表現
「花袋くん」
名を呼ばれ、顔を上げる。本棚の前で本を物色していたときだ。何ですかと答えかけ、その言葉はのどの途中で止まる。真っ直ぐに見詰めてくる森に彼の意図を察したからだ。墨色の双眸で見下ろされ、持っていた本を閉じる。
「……森先生」
意図は察した。受け入れるとはいっていない。しかし、1度目が合うと逸らせなかった。彼に見詰められれば、自分が抵抗できるはずもない。精々が、同じぐらい強く見詰め返すことぐらいだ。徐々に歩を詰めてくる森の目はゆっくりと瞬いていた。瞬きの数を数えるように見詰めていると、顔が近付いてきた。這い登ってくる高揚に素直に身を任せるにはまだ明るい。迫ってくる体温に花袋はそれでも目を逸らせなかった。
真っ直ぐに注がれてくる愛情は目から感じる。それを取りこぼすのは躊躇われたのだ。
その視線が途切れたのは壁に押しつけられたとき。首筋に埋まる感覚に溢れる愛情を覚えながら、背中に手を回した。
――本棚の向こうから司書の姿を見つけたのは、このときだ。
雨に濡れる
山道に雨が降り出す。
「うわ。有碍書の中も降るんだな」
「芥川先生の羅生門だって雨の中の話だし、不思議じゃないんじゃない」
花袋と太宰が話す横で、森と幸田は黙って雨を払い落とした。森がいう。
「早いところ決着をつけてしまおう――それでどっちに向かう」
「俺としては右に向かいたいですね」
「そうだな」
「俺も特に異議はない。とっとと片付けてとっとと帰ろう」
幸田の言葉で進路は決定した。
「雨。冷たいですね」
道なき道を掻き分けながら花袋が呟く。早く帰りたい太宰が鎌で道を切り開き、幸田がそのあとを踏んで均して道を造ってくれた。また同じ有碍書に潜書するときにこれで多少難儀は減るだろう。なにせはじめて来たところだ。自分も道を広げながら森を見ると彼は肯いた。整髪料が雨で溶けたようで煩わしそうに前髪を上げている。
「そうだな。帰る頃には冷えていそうだ」
「終わったら温かい風呂に入りたいです」
「温かい茶も欲しいな」
「先生はココアの方がお勧めですよ。砂糖の代わりに蜂蜜を溶かしたのを」
「それならマシュマロも入れたいところだ」
「アンタら飯テロやめてくれる!?」
先頭から太宰の非難が飛んできた。花袋と森は顔を見せ合って笑う。幸田は背後の2人にやれやれと首を竦めた。暢気なものだった。
花火を見る
近所の川原で花火大会があるという。
「見事に皆出払いましたね」
「屋台が目当ての連中だろう。司書までいなくなっている」
図書館に残っている者は少数。人混みを厭う者とそれに付き合った者。それに花袋たちも含まれた――尤も、花火は見るつもりだったが。
「そもそもここでも花火は見られるって司書がいってましたからね」
「便利な立地だ」
中庭。薄暗がりの中、花袋たちは持ち込んだお菓子を食べていた。もうすぐ8時。そのうち他の文豪も来るだろう。ベンチに座った2人は夜空を見上げていた。快晴の夜だ。灯りが遠い。普段は見えない星も見えた。
花袋は感慨深げに息を吐いた。
「今でも花火の文化が続いているのに驚きました」
「花火は少なくとも戦国時代にはあったらしいからな。花火大会が主催されるということは今も人を惹きつけるものがあるんだろう」
「オレらもこうして見てますしね。あ、他の奴らも来た」
ベンチの背もたれ越しに振り返る。萩原と室生が中庭へ降りてくるのが見えた。丁度そのとき、高い音がして、1発目の花火が上がった。慌てて振り返る花袋の金色の目に、やや遠目の花火が映る。その横顔を森は眺めた。花火という想い出を共有するのはいい。しかし花火に照らされる花袋に森は目を奪われていた。
了