※この作品はR-18です。

特務エスパー司書シリーズ   作:駒由李

5 / 78
pixivからの転載。鴎花を目撃してしまう司書の一日。被害者:中也と太宰 アルケミスト≒エスパーの要領でお送りします。糸色チル原作のキャラ一切出て来ないので単純に超能力ものと思った方が話が早い
▼糸色チルに限りなく似た世界だけど超能力を運用しようという動きが一切ない世界 だったかも知れない。アルケミストの中でもだいたいなんでもできる複合能力者が特務司書の選考基準という感覚。最低限必要なのはサイコメトリー。いわゆる精神感応(ESP)が重要視されるけどおまけで念動力(PK)も強ければ尚良しってことでここの司書はどれも強いです。超度は特定してない(そもそも判定されてない)ですが読んで大体判断してやってください だってサイコキノ使えれば本の整理にぎっくり腰になる心配ないし


【文アル腐(×糸色チル)】証拠隠滅【鴎花前提司書視点】

 記憶があるのはいつもの酒の勢いのまま。司書の私室の扉を開け放った瞬間のこと。寝間着姿の司書が小さな冷蔵庫の前にしゃがみ込んでいた。その姿自体は別段特筆すべきものではない。せいぜいなぜか見覚えのないガーゼがその額に貼られていたことだろうか。それはどうでもよかった。問題なのはその手に握られていた高そうな酒のことだ。

 しかしあとは記憶が途絶えている。中也は気がつけば私室のベッドの上。襟元を緩められた状態で寝かしつけられていた。見渡せば朝日が眩しく小鳥がさえずる。どこからかバイクのエンジン音も聞こえた気がした。あれは馴染みの宅配便の音ではなかっただろうか。ソフト帽と上着は椅子にきちんと引っ掛けられている。常の自身よりも丁寧なほどだ。自身はそれらを鷲掴みにした。

「おいモモノハナ野郎!!」

「キャーーーー!!! なっなんですか!?」

 ボロ布を裂くような悲鳴を上げたのは寝癖頭の太宰だ。着替えている途中だったらしい。それはそうだ。まだ朝だ。生前の舎弟の部屋に乗り込んだ自身は鷲掴みにした帽子と上着を片手に自分の体を抱きしめている太宰(何を勘違いしているのか)に歩み寄ると小声で囁く。

「おいよく聴け。司書の野郎。下戸のふりしてひとりで高い酒隠してやがるぞ!!」

 

 司書室の前。裏口から戻ってきたらしい司書が爽やかな顔をしている。額には相変わらずガーゼだ。

「おやお早う御座います。お2人ともどうしたんですか。そんな恨めしそうな顔をして」

「とぼけんなテメー!! 昨日高い酒持ってたって中也が言ってたぞ!! 下戸だっていってたじゃねーか嘘吐き!!!!」

「嘘は吐いてませんよ。安酒が飲めないだけです。高い酒なら飲めるんですよっていうかなんであなたがそんなに怒ってるんですか」

「しらねーよ。つーかなんで俺の記憶が途切れてるのかって方が寧ろ聴きてーんだけど」

 隣で怒り狂う太宰に拳を振り下ろし鎮静化させた中也は不機嫌そうにいう。太宰はこの図書館で今のところ最も遅くやって来た文豪だが司書とは奇妙に似たところがある。太宰にとっては司書は家族のようなものでそれに嘘を吐かれたと感じる行為は嫌悪するところなのかもしれないがそんなものは中也の知ったところではない。それよりも大事なのは自身の記憶の在処である。それに対しあっさりと司書はいった。あるいは「てへぺろ」ともいっていたかもしれない。

「あぁ。あの酒は大事なお酒だったので。見られたときにとっさにあなたにヒュプノをかけちゃいました」

「おい」

 青ざめる。ヒュプノ――催眠。端的にいえば脳内物質を操る超能力だ。アルケミストが持つ能力の中でも「記憶」に関わるので特に特務司書としては制限されているものだ。中也の中にインプットされたその情報に慌てた様子で司書は手を振る。

「大丈夫です。単にあなたに眠るように仕向けただけです。記憶はいじっていません」

「なら酒はどこやった! 部屋か!?」

「無駄ですよぉ。さっきの朝の宅配便の音聴きませんでしたか」

 失神した太宰を置いて走り出しかけた自身に間延びした司書の声が届く。そういえば聞こえた。あのいつもの宅配便の音。日用品を届けたり送ったりするあのバイク便。館長と異なり実家から離れて暮らす司書にとっては欠かせない……

「あれでさっき実家に送っちゃいました。ちなみにクール便です」

「チクショー!! てめぇ表出ろー!!」

「さぁ太宰先生。さっさと起きて朝食にしましょうか。そんなところでのびてないで」

 シャドーボクシングを繰り返す背後に構わずしゃがみ込む司書。今は書生服に身を包んだ彼は頭にたんこぶを作ってぴくりともしない太宰を揺すり起こす。そしてふと遠い目をした。

 いえるわけがない。あの酒が口止め料だなんて。

 

証拠隠滅

 

 アルケミスト。一般には普段はその能力を知られない存在だ。

 ゆえにこの図書館という閉鎖的な環境は逆説的に自由をもたらす。衆目に晒されないそこでたとえ人間が空間に浮いていようと構わない。指摘するのはその能力の一環で生み出された文豪たちのみだ。彼らもまた束の間の自由を楽しんで休暇には図書館の外に出て行くことが多い。だからこの日この時間。司書としての自身が仕事をしていたときに人気がなかったのはたまたまだろう。

(しばらく忙しかったから今日は休み! とは決めたけど。美事にみんないなくなったなぁ)

 自身はひとり肯いていた。床よりも天井に近いそこで。心なしか室温も少しだけ寒い。ここから見える風景が少しだけ司書は好きだった。片側には本の山。もう片側にも本の山。前者は自身の前の棚に戻す本で後者は後ろの棚だ。すべてを本棚の1番上の位置にまで浮かせながら司書は空中であぐらをかく。品の良い姿勢とは思えなかったがかといって空中のマナーなど思いつかなかった。ひょっとしたらいつかもっとアルケミストが増えたらそのうちしたり顔で「アルケミストのマナー」とやらを唱えてくる輩が出て来るかも知れないがそのときはそのときだ。

 このときにやや荒んだ気持ちでそんなことを考えた罰でも当たったのだろうか。あとで自身はそう思う。

「――」

 不意に。

 何に引っ掛かったのだろう。人より無駄にセンサーの多い身の上だ。咄嗟に本ごと身を沈める。

(……うん。別に誰かいたっておかしくないじゃん)

 そして自身の杞憂を笑ってゆっくりと身を起こす。

 誰かいる。そう思った瞬間勝手に身を潜めていたのだ。しかしここは図書館だ。現にこんな1番上の棚にあるような本をごっそりと持っていくような文豪もいる。彼らの死後の現代の小説や文学はもちろん「文学に値する」として絵画や映画に音楽はもちろん漫画まで収蔵しているのだ。創造してきた彼らが味わうべき贅沢だろう。文芸や漫画雑誌なども購読しては評論を盛んに繰り返している様は往時の文学を想わせ文学部出身の身としては実に面白い。閑話休題。

 そういえばこの辺りのスペースは本の中でも彼らの領域ではなかっただろうか。自身は思い出す。恐る恐ると見渡した。日本の近代文学と一口にいっても詩や俳句に短歌。そして戯曲や小説といったようにジャンルが別れる。小説の中でも中国小説や推理小説とは分けられるのではないだろうか。そう。この辺りはちょうど「たやまかたい」の……。

 人がいる。私服でなければあのサルエルパンツはひとりしかいない。ついでにいえばあれに覆い被さっている白衣もひとりしかいない。涙で潤んでいるものの驚愕と焦りで大きく見張られた飴色の目がそこに。

 

 次の瞬間に司書室に本まみれで転がっていたのは比喩ではない。文字通りに「瞬」「間」だ。刹那に額に熱を覚えたがそれよりも安全を確保したくて慌てて起き上がる。

 テレポートは無意識に安心できるところへと行ってしまうらしい。それがどうやら1番近くの司書室だったようだ。ただし動揺のあまり自分が本の山を抱えていたことを忘れていた。足元に散らばってしまった本をひとまず机の上に片付けていると向こうから声が届く。

『……今。司書室から変な音がしなかったか』

(ひゃーーーー)

 静謐な図書館では森の低い声は容易く響く。常ならば心地よいそれも脳みそまで青ざめる司書に対してしかし花袋の声は柔らかい。そして気配りがあった。

『……人が来ますよ。先生。続きは部屋で……』

『……そうだな』

 ――やがて足音が去る。

(た……助かった。なんか知らんが助かった――)

 一気に脱力し床に座り込む。本の片付けをしなければ本が傷んでしまう。それはわかっていたが今はひとまずなにやら見てしまった昼下がりの逢い引きに中てられて青二才の自身にはなにやら熱気のようなものが感じられた。水が欲しい。花袋には助けられたが正直間男の気分だった。なにもしてない。なにもしていないのに。ひとまず本を浮かせて机にまとめていく。本には1番罪はない。

 思い出すと凄まじい。花袋も決して小柄ではないのに森の体は厚い。そうでなくとも今生では少年寄りに転生している花袋だ。骨はあっても肉がない。前生での体型の過程を考えると現在の年頃でいえば無難だとは思うがよもや「こういった関係」になることを最初から想定していた訳ではあるまい。多分。さながら中年期の入り口の成人男性と男子高校生が路地裏で口吻を交わしているようだ。すくなくとも司書の人生経験でいえば見た目の印象がそうだった。

 あまり身長差自体はないから密着していた。森は花袋の腰に手を回し花袋は森の首に手を回していたのを思わず目に焼き付けてしまった。花袋は本棚と森の体格に圧迫されて苦しそうにも見えた。頬が紅潮して飴色の目が潤んでいて普段は凛々しい印象の方が強い司書には意外な一面もあるものだなと感心すらしてしまった。その蕩けた目と合った瞬間に我を取り戻したのだ。

 本をすべて整える。そして振り返った。もう外に出ても大丈夫だろうか。そっと床に触れて静かに透視する。鴎外と花袋が付き合っていたのはわかった。あの時代に男同士が付き合っていたのはこの時代に結婚前の男女が付き合うぐらいに普通のことだ。おやつに食玩を入れてもいいか親が質問をさせるぐらい普通のことだ。否。白樺派を見れば性別など関係ないのだとよくわかる。思わずアルカイックスマイルが出るほどに。

「……仕事戻るか」

 扉を開いて本を運ぶ。ここのところ溜まっていた仕事が他にもあるのだ。そういえばこのところ忙しかった。だからこそ今日を休日にしたのだ。そして常に理性的且つ自身をそれで縛りがちの森が先程のような「プレイ」を好んでするとは思えない。だとすれば爆発したと見るべきだろう。となると。この時間のこんな半端な昼下がりから部屋に籠もったとなれば夕食の時間には……。

「……」

 

 

 夜中の訪問者は窓から訪れた。

 叩かれた上げ下げ窓を開けるとまだ寒い中。金色が白い息を吐きながら笑って酒瓶を差し出してくる。むき身の辺りが彼らしい。果実酒だった。

「司書。これ! 館長に聴いて買ってきたんだ」

「館長に聴いて酒って……おっこれ良い酒じゃん。高かったんじゃないの。なんでまた」

 思わず昼間のことよりも先に値段が気になってしまう。昼間の色香など嘘のように消え失せ健康的な少年そのもので。背が高くなければこれを買うときに年齢確認を要求されただろう。この街ではあまりされない「ことになっている」けれど。

 自分でも飲めそうな酒に機嫌が良くなってしまう自身に「忘れたのか」と花袋は照れたように頬を掻く。彼の頭は窓より少しだけ低い位置にある。

「昼間知らないふりをしてくれたじゃん。あと夜食。俺と先生の分まで取っておいてくれて」

「おぉっとそのことか」

 忘れていたかった。忘れさせていて欲しかった。危うく酒瓶を落とすところだった。大事に膝の上に抱え直してから窓の下を見遣る。夜の中で鼻は赤い。そして苦笑する。

「先生はその。今まで気付かないふりをしてくれていたのかって感動してたけど……ぶっちゃけ気付いてなかったよな。今日の昼間に目が合ったときだよな」

「Exactly(そのとおりでございます)」

 思わず顔の彫りも濃くなる。それを見て花袋は笑ったがすぐにそれを引っ込める。金色の頭を掻いた。

「あー……現代のお前には受け入れがたいk」

「文学部出身で且つ白樺派に直面している俺になにを」

「あっうんそっちの心配はなかったか。ただできれば……俺と森先生の関係ってあんまり吹聴しないで欲しいんだよな」

「そりゃ構いませんし言い散らかすもんでもないでしょう。でもあえて聴くならなんでですか」

 悪くいえば犬も食わない話は興味がない。しかし自身の――少しでも疎ましく思わなかったといえば嘘になる――アルケミストとしての能力が生み出した今の彼らが仲良くしてくれていればそれが1番いい。けれどそれを仲間にすら隠したい後ろめたいものだと考えているなら自身も考えがある。

 だが身を乗り出す。俯いていた花袋はそっぽを向いた。頑張って狭い窓から覗く。

「おい」

「……顔。真っ赤」

「つまり。そういうことだから」

「なるほど。森先生との仲を知られるのは仲間に囃し立てられそうだしなにより自分が恥ずかしいからですね。わかりました」

「ぜんっっぶ明文化しやがって!」

「ほら人が来ますよ。早く森先生のところにお戻りください。それでは俺もこのお酒を大事にしますから」

 夜の闇で叫ぶ花袋。キンモクセイ色の彼に笑う。さてどうも扉の向こうでも酔っ払いたちが帰ってきたようだ。彼らに混じって酒屋で買ってきたのだろうか。自身は私室の冷蔵庫へ向かいながらそんなことを思った。

 

 扉が蹴破られた。

 

 

 

 

 

*****

 

 

 

 

 

 バイク便を待って早朝。裏口で梱包材を詰めた木箱を抱えて突っ立っていたときだ。

「おや。その絆創膏はどうしたんだ」

「……お早うございます。森先生。ちょっと転びまして」

 嘘はいっていない。以前より顔色が良くなった気がする森は図書館の中では小柄な方の司書の額の怪我を覗き込む。怪我の原因については直接的な原因については嘘は吐いていなかった。

 原因は目の前のこの医者自身に片方はあったのだけれど。驚いて本の山ごと瞬間移動してしまったものだから痣と傷口が一緒になってひどいことになったのだ。そのうち放っておけば治るだろうと気休めに絆創膏だけ貼っておいたのだが医者としては気になるらしい。じっと見ていた彼は「よし」と手招きする。それに目を瞬くと

「医者が呼んでるんだ。ひとつしかないだろう。手当しなおそう。痣もひどいからな」

「……はぁ」

(なんだかなぁ)

 あなたが原因の傷なんですけど。口に出すのはやめておいた。

 

 かくして証拠隠滅は完全に。

 

 

 

 

 

了

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。