2P:主に子ども組が使います
3P:元ネタがわかんないけどよく使われるシチュ
お題は「リライト」(閉鎖されたようです)より。pixivより転載
服の裾を引っ張る(「跪く」の続き)
粥を食べ終えた。一旦盆を机に片付けた花袋は、水差しからグラスに水を注ぐ。水差しの中では、レモンの薄切りが浮いていた。
「それじゃ、薬を飲んだら寝ましょうね」
「……看護婦のようだな」
「今は男女双方看護師っていうらしいですね。はい薬」
森の掌に薬を出す。グラスを受け取った森は大人しく薬を飲んだ。それを満足そうに見届けると、花袋は立ち去ろうとする。皿を片付けなければならなかった。
「それじゃオレは行きますね」
「――」
「……なんでしょう」
首だけ振り返り小首を傾げる。グラスを片手、もう片方の手で、森は花袋の上着の裾を掴んでいた。森は慌てて手を放す。
「すまない。無意識だった」
そういってもう1度グラスを呷る。しかし花袋は、その姿に無性にこみ上げるものがあった。努めて優しく笑う。
「そうですね。これを片付けたらまた戻ってきます」
森は黙って肯いた。
ブランコに乗る
森が見たとき、花袋は木に登っていた。肩には何やら縄と木の板を担いでいる。
「花袋先生ー大丈夫ー?」
「おう。もう少し待ってろ」
「……何をしているんだ」
「あっ森先生」
木の下には宮沢と新美がいた。顔を輝かせて、花袋が一際太い枝に縄を縛るのを見ていた。森が尋ねたところで2本目の縄が縛られた。宮沢が言う。
「ブランコを作ってもらってるんだよ!」
「ブランコ……花袋くんが一から作ったのか」
「木の板に縄を通したのは司書さんだよ」
「また器用なことを」
司書がホームセンターで木の板と縄を購入している姿が想像できた。秋声同様裁縫もこなす男だがとにかく器用らしい。器用貧乏という言葉が頭に浮かんだ。その間に花袋は木の板の底面を落とす。
「ほら。できたぞ」
「わーい! 僕1番乗り」
「あっずるい賢ちゃん」
飛びかかる子どもたちに、枝の上で跨った花袋は笑いながら幹にしがみつく。森が歩み寄ると幹から滑り降りた花袋は、ブランコに乗る宮沢の背を押してやる。
「ほら」
「きゃー」
「僕も、僕も次押して!」
「はいはい順番なー」
子どもたちと戯れる。そんな花袋を森は眩しく見詰めた。
だから夜。庭でひとりブランコを漕ぐ花袋を見たときは、日中の様子との落差に驚いたものだ。
「花袋くん。君もブランコに乗りたかったのかね」
「……まぁ、そんなもんです」
振り返った花袋は、疲れた笑みを見せた。その理由を森は知っている。昼間、有碍書に潜書した際に、彼は他の仲間を引き摺って帰ってきた。自身も耗弱していたにも関わらずだ。詳しい状況は聞いていない。ただ、筆頭だった花袋は落ち込んでいた。
こういうときに無理に聞き出すことはしない。言いたければ彼からいう。言わないときは彼が心の中で葛藤することを選んだのだ。ブランコのように、漕ぎすぎれば悩みがあふれ出す。そうでないときは彼は心のバランスを保つ。それが花袋の誇りだった。
(彼の誇りを傷付けたくない)
「……背を押してやろう」
「はは。頼みます」
だから森は彼の傍にいてやるだけだ。彼が立ち直ることを知っているから。
夜空の下、手製のブランコが静かに漕がれた。
浜辺で追いかけっこ
人気のない砂浜の夕暮れ。男女が追いかけっこをする――元ネタはわからない。要は恋人同士の定番シチュエーションのように扱われている。この本にはそんなべたべたな場面があったらしい。潜書した有碍書で海が広がったのは驚いた。あるいは暑いこの季節、菊池なら喜んだかも知れない。
問題は、浸蝕者が戦うことを避けて逃げに徹していることだった。
「待てやゴルァァァァア!!」
「花袋くん、走りながら弓は射られるか」
「それより宮沢! アンタ銃打てるか!?」
「当たるかなぁ!?」
浸蝕者を討伐せねば浄化はできない――花袋が弓を片手に走る。森と太宰は得物を投げる訳にいかずひたすら追いかけた。唯一の銃使いは走りながら銃を両手で構えた。撃った。当たった。ただし体の端に。
「足! 足を狙って!」
「走りながらなんだから難しい注文をつけないでよね!」
「数打ちゃ当たる、頑張れ宮沢!」
矢を番えることも諦めた花袋が、弓を左手に檄を飛ばす。森は走りながらふと景色を見る。この本の作者は情景描写に卓抜していたらしい。誠に染み入る夕映えだ。その中を花袋を戯れに追いかけるのではなく、武器を携えて走っている――勿体ない。森は胸中で呟いた。
了