2:作ろうと思えば作れるみたいです
3:「なにこれ貴重」
お題は「リライト」(閉鎖されたようです)より。pixivより転載
楽器を演奏する
馥郁たる音色が響く。小さな体に不釣り合いの大きさの楽器だ。それを器用に弦を操り音を奏でた。染み入るような、男性の歌声にも似た音楽――それは唐突に終わった。
拍手が鳴った。賞賛の中、森がいう。
「よかったぞ宮沢くん」
「えへへ。昔よりもうまくなってて驚いた」
弾き手の宮沢は頭を掻きながらチェロを抱えた。花袋は椅子から立ち上がろうとする宮沢を手伝ってやる。昼下がりの中庭。即興のコンサートは拍手のうちに終わった。そのうちのひとりの司書は、宮沢から渡されたチェロのケースを受け取りながら感慨してみせる。
「やっぱり作品の影響を受けてるんでしょうね」
「自分でもそう思う――昔こんなにうまくなかった。今の僕たちは自分の作品から成り立っているようなものでしょ」
宮沢の言葉に花袋が肯く。
「それならオレも音楽をやってる話を書いておけばよかったなー。ここまで見事に弾かれると羨ましい。ねぇ先生」
「そうだな」
と森は相槌を打ったものの、生前の花袋が音楽に携わる話を書けたとはあまり思わなかった。音楽は音で現実を素晴らしく描写するものだ。現実をあるがままに写し取る自然主義とは毛色が違っただろう。いわば酔っ払いと冷徹だ。他の文豪たちが宮沢を讃える中、楽器に興味を示す花袋。それを見て司書は「楽器をはじめてみますか」と言い出す。
「えっ」
「とはいっても、俺が教えられるのはピアノぐらいですが」
「ほう。習っていたのか」
「一応。あとはサイコメトリー――アルケミストとしての能力で、古い楽器ほど弾きやすいんですが……それだと人に教えるのは難しいですね」
「えーピアノかぁ。いいなぁ。確かこの図書館は音楽室もあったよな」
目を輝かせる花袋を見て、森はふとこの青年がピアノを弾いている様を想像した。活き活きとした音色を奏でるだろう。しかし真正直に作曲者の心情を赤裸に暴き立てそうだ。尤も、それを聞いてみたいとも思った。何てことはない、身贔屓である。
シーソーに乗る
先日ブランコを作ったのを川霧に、どうやら遊具の設営ブームが司書の中ではじまったらしい。
「さすがにシーソーを作るとは思わなかったな」
「司書はどこまで手を広げるつもりなんでしょうね」
主な利用者の宮沢と新美は、現在潜書中だ。中庭で花袋は戯れにシーソーの片側に乗って見せた。勿論シーソーは最低2人の人間がそれぞれ片端に乗らないと成立しない。森もそれを承知して、シーソーの片端に手を掛ける。沈めた。
「うおっ……先生力持ちですね」
「シーソーだからな。押しやすい」
片端を沈めると花袋が持ち上がる。花袋は童心に返ったように明るく笑う。それを見ながら森も満足そうに笑った。
笑い転げる
人によって笑いのツボは違うものだ。
「……っ!」
「……花袋くん。大丈夫かね」
笑いすぎて息が詰まっている。あとからその場に来た森は少し慌てたが、間もなく花袋は息を吸い込んで再び大笑いしはじめた。成る程、「笑い転げて」いる。
CDプレーヤーからは絶えず落語が流れていた。CDケースを持つ太宰は、森に水を向けられ笑んだ。
「俺が津軽弁のお笑いCDを聞いてたら、田山先生が『そんなにおかしいか』っていうから落語をかけてみたんですよ」
「それでこれか」
「ひぃ……オレが悪かった……」
腹を押さえながら花袋が溢す。余程笑いのツボにはまったようだ。森はといえば花袋の様子が気に掛かり、今ひとつCDの内容に集中できない。それに他の人間がこんなに笑うと、なんとなく自分は落ち着いてしまった。腹が捩れるほど笑う花袋が少し羨ましかった。そうこうしているとCDが止まる。やがて落ち着いた花袋が息切れをしながら顔を上げた。そして森にいった。
「森先生も一緒に落語を聞きましょう」
「俺は……」
「あー森先生が笑うところ、俺も見てみたい! 今新しいの持ってくる!」
椅子に引きずり下ろされる。笑いのツボが合うかどうかはわからなかった。しかし花袋の様子を見るとどちらかといえば微笑ましいという気持ちが先行した。
その後太宰は、腹を抱えて笑う森という世にも珍しいものを目撃する。
了