食堂の窓際。ソフトドリンクを片手に佇む司書に、話しかけたのは若山だった。
「よぉ、あんた。飲まないのか」
「ジュースで充分ですよ。下戸は治せないんです」
予想された返答を封じて、司書はグラスを傾ける。若山は肩を竦めた。
食堂は喧噪に包まれていた。片隅には12月に入ってから飾られたクリスマスツリーが置かれている。オーナメントと電飾が光っていた。その中で飲めや歌えや、文豪たちが騒いでいた。今日はクリスマスイブである。本来はささやかに開かれるはずだったパーティーは、集まってきた文豪たちがそれぞれ酒を持ち寄ってどんちゃん騒ぎとなっていた。酒と熱気に中てられてか、普段は関わろうとしない文豪たちも一緒になって騒いでいる。司書はそれを見て、若山に呟いた。
「素面に戻ったら後悔しそうな面子ですね」
「酒は楽しく飲むべきだよなぁ」
そういいながら、若山は司書の近くの席に着く。瓶からグラスに酒を注ぐ様は遠慮がない。一瓶掻っ払ってきたらしい。それに嘆息していると、若山はにやにや笑いを浮かべて司書を見る。
「そういう司書は、素面じゃできないようなことをする相手はいないのか。今のクリスマスってのは、専ら恋人と過ごすもんだって聴いてるぜ」
「今日ここでジュースを飲んでいることが答えだと思いますよ」
「だよなぁ」
言って若山は酒を呷る。そして彼は、ふと思いついた様子で再び顔を上げた。
「なら家族はどうだ。お前さん、夏もシルバーウィークも帰省する様子もなかったが」
司書は落ち着き払って答えた。
「実家に帰っても、誰もいませんから」
「……そうかい」
「それに、ここでみんなで騒いでるのを見る方が楽しいです」
若山は司書の顔を盗み見た。司書の目は遠く、まるで冬空に篝火に当たっているようだと思う。彼の目は、啄木を見ていた。明星の面子と楽しそうに絡んでいる。それを、星に祈る乙女のように見ていた。
若山は思う。啄木は、大事な人間を大切にできないと常々言っている。一方、司書はそんな彼に遠慮している風情もあるようだった。それが、傍から見るともどかしくて――
「若山先生、どうしましたkげふっ!?」
「おっなんだなんだ司書。お前も混ざりに来たのkげふっ」
気が付くと、若山は銃使いの握力で司書の首根っこを掴み、文豪たちの騒ぎの中に放り込んだ――主に啄木目掛けて。ソフトドリンクが溢れている。啄木を下敷きにした司書は、慌ててグラスをその辺りのテーブルに置きながら振り向いた。
「若山先生! 何をするんですか」
「なに。司書。簡単な話だ」
「は」
「プレゼントだよ。クリスマスの。嬉しいだろ」
「――プレゼント、くれますかって言った覚えはないんですけどね」
「おいいいから早く退いてくれ司書! 重い!!」
「ああすいません、今退きます」
そうして騒ぎは司書と啄木を中心として展開していく。それを見届けた若山は、瓶とグラスを手に、食堂を出て行く。
裏口から、外に出た。冷えた外気が、酒気で火照った若山の頬を撫でる。空からは白い贈り物が穏やかに降り注いでいた。ひとり、瓶で酌をする。
「メリークリスマス、ってやつだな」
館の奥からは、喧噪が届いていた。
了