pixivからの転載
全く、煩わしい。煩わしいことこの上ない。秋、頭の上に散ってくる木の葉のようだ。風に吹かれるとどこへともなく去ってしまうところもそっくりだ。だから、鷲掴みにしてやることにした。
砕けようと構ったことか。
「……はっ、長谷川くん。君、なかなかやるじゃないか……」
「黙れ」
煽ってくる声は平素と同じもの。それでも体温は蕩けそうなほどに熱い。白い体が、窓から漏れる月明かりの中で眩しかった。その首筋に噛みつき、鎖骨に吸い付き、鬱血させる。鬱血した部分が血栓となって脳梗塞の原因になることがある、とは転生して聴いた話だ。誰から聴いた話かは憶えていない。少なくとも、この図書館に転生した自分には縁のない話だと思っていたからだ。
それが、このざまだ。
「んっ……」
はだけた着物。借り物だと嘯いていたが、こいつにそんな伝手があるのだろうかとふと疑問に思う。白銀色のそれは処女雪を思わせて汚したくなったが、万が一本当に借り手がいた場合は相手が気の毒だ、と思い止まる。代わりに、服を開いていく。薄い身体に、肋骨が浮いていた。俄に、そそられるものがある。「壊してしまいたい」と。それも思い止まったのは、あとでこの男から愚痴愚痴と煩く喚かれることが容易に想像ついたからだ。だから、この男が持ち込んだ潤滑液の瓶を手に取る。本来手の中で擦り合わせて温めてから使うものらしいが、この男にそういう気遣いをする気は起きなかった。
「濡らすぞ」
そう、声をかけただけでも温情だったと思って欲しい。開いた着物、開いた脚。その間に、どぼりと潤滑液を擦り付けた。そして、指を入れる。
「あっ、――」
「……」
この男の体は一声上げて跳ねたものの、そちらより気になったことがある。指がするすると入っていく。これは、潤滑液のおかげだけではあるまい。自身は、思わず尋ねた。仰向けのまま、枕を掴んで喘いでいる男に。
「……準備をしてきたのか」
それに、白皙に朱を乗せたまま、男は宣う。
「都合が良いでしょう。お互いに、その方が」
「そういうことではなく、……」
それ以上は、口にできなかった。
そもそも、この男は「文学を語りたいから」と部屋を勝手に訪ねてきた。そして勝手にベッドを占拠してぐだぐだと文学論を語り、黙らせてやろうと覆い被さったところで首に手を回してきた――「シないんですか」と。
つまり、最初からこのつもりで来たのだ。このときの自身の心情を、今も正確には口にできない。ただ、言えたのは。
「……馬鹿だな、お前は」
「それはお互い様でしょう、――あっ」
スラックスの前を寛げて、取り出した自身に避妊具をつける。そして、緩みきったそこへ、自身を突き入れた。
「あっ、ああっ……」
骨の浮きそうなほど細い腰を掴み、何度も突き入れる。その度に、枕を掴んでこの男は喘ぐ。意外に遠慮深い喘ぎ方だ。それに、さらに欲情を掻き立てられるなど、自身は、しない。
ただ。気まぐれを起こさせるには充分だった。
「え――」
突き入れたまま、体を倒す。そして、口付けた。
「んっ……」
驚いた様子だったこの男は、しかし直ぐ順応して、首に腕を回してくる。そして、舌を絡め、「もっと」とせがむように腰も唇も押しつけてきた。静かな夜の一室。それはまるで、恋人同士の逢瀬の夜のようだった。
自分たちの関係は、そんなものではないというのに。ただの、腐れ縁だというのに。
しかし、今の彼らを見て、その言い分を信じる者はいないだろうと思われた。
「……くっ……」
「ん、んんっ、んーっ……!」
自身が絶頂に達しかけたとき、この男が首に回した腕の力が強くなる。突き入れた自身を締めつける力も強くなった。そのままピストンを繰り返し――どちらともなく、果てた。
静かな室内に、荒い息が2人分。その中で、どちらともなく目線を合わせ――口付けた。
「それで長谷川くん、ヤる前に話してたことなんですけどね」
「お前には余韻とか賢者モードというか言葉はないのか
結局、その晩はこの男に寝かせてもらえなかった。
了