pixivより転載
今年のハロウィンも大盛況だ。毎年のことながら盛り上がる。司書の俺はと言えば、狼の耳のカチューシャをつけているだけだったが。主役は文豪たちなのだ。自分はこの程度でいい――パーティーのソフトドリンクを飲みながら眺める。そう言えば啄木はどこなのだろう。そんなことを思っていたときだった。
着物の裾を、くいくいと軽く引っ張られる感触。下を見る。そこには新美がいた。
「司書さん、はっぴーはろうぃん」
「ハッピーハロウィン。お菓子ですか?」
着物の袖に手を突っ込みながら尋ねると、新美はにこっと笑った。
「違うよ、逆トリックオアトリート。いつも頑張ってる司書さんにお菓子をあげるね」
そう言って、新美が差し出したのは飴玉ひとつだった。俺は苦笑しながら「有難うございます」と答えた。そこで新美が続けて言う。
「司書さん、そろそろ外の空気吸ってきたら? 眠そうだよ」
「ん? そうですかね。まぁそうさせてもらいます」
「疲れた時は甘いものがいいよ」
俺の背中を押して、裏口へ追い出しにかかる新美。どうやら早く飴を食べて欲しいらしい。この熱気だと溶けるからだろうか。そう思いながら、俺は素直に従って裏口から外へと出ることにした。
俺は気付かなかった。新美がにんまり笑っていたことに。
……外はもう暗い。季節は晩秋に入るところで、今夜は一際冷える。深呼吸したところで、不意に煙草の匂いが漂って来た。
「なんだ、司書か」
捜し求めていた人、啄木だった。彼は仮装姿のまま煙草を喫っていた。新美はこれがわかっていて俺を追い出したのだろうか。俺は思わず顔を綻ばせながら歩み寄った。
「また煙草ですか」
「いいだろ、別に。ちょっと人疲れしたから休憩だ。お前こそどうしたんだよ」
「似たようなものですね。さて、飴玉を失敬」
答えながら包装を剥ぐ。そして口に放り込むと、ガリガリと齧った。飴玉は齧る派である。それを見て啄木が笑う。
「相変わらず豪快だな」
「飴をちんたら舐めてるのは性に合わないので……――?」
――不意に、心臓が跳ねる。
体温が上がって来た。口中も渇いてきた。思わず胸に手を当てながら、これはなんだろうと考える。そんな俺を見て、啄木が「司書?」と尋ねてくる。
「どうした、具合が悪いのか」
「具合……具合なんですかね、これ……」
「森先生のところにでも――」
ふと、気付く。啄木との距離が近い。
そう思ったら、俺は彼の肩を引き寄せていた。
重なる唇。
――呆ける啄木に、俺は熱に浮されながら言った。
「……どうせなら、俺の部屋で休ませてもらえますか。2人で」
「あの2人、うまくいったかなぁ乱歩さん」
「媚薬入り飴玉、森さんにばれたらまずいでしょうがねぇ」
了