地味に前作(https://novel.syosetu.org/107656/7.html)(鴎花+高村)の続き。恐らく花袋クラスタの中で欠かせないあの腰のベルトについて触れてます。
単刀直入にいおう。今日は疲れた。乱れた黒髪をおさえ部屋に戻る足取りは重い。森はこの日1日かけて行われた片付け――嘗ての教え子との「喧嘩」のとばっちりは凄まじいものだった。この身に転生した際に書物などには害を与えないように「設定」されていたからそれだけはなんとかなったもののゆえにかえって被害は拡大した。割れた花瓶や罅の入った本棚。破けたカーペット。破損こそしなかったが散らばった書物――司書のアルケミストとしての力がなければ途方に暮れただろう。彼の力は甚大だ。それは館長やネコも認めるところらしい。それについては後日語るとしよう。森はひとり廊下で肯く。風呂への偏見は消えた今生の大浴場からの帰り。着替えを片手にその部屋の前にやって来ていた。森の部屋はもう少し先だ。ここら一体は自然主義派で固められている。その中で「田山」とプレートが記された部屋の小さな窓に明かりが点っているのを見た。それを淀んだ目で認める。
ノックもせずに開いたのは非礼も承知だった。ベッドの上に平服の花袋がそこにいた。慌てた様子でもがいている。
「せっ……先生!? どうしたんですか」
「君に会いに来た」
「そ……それは嬉しいですけど! っていうか風呂から直行ってせめて着替えを置いてきたらどうです?! 俺もまだ風呂に入ってないし!」
慌ててベッドに散らかした本をまとめサイドボードに置く花袋はなにを思ったか怪しげなことを口走る。森は後ろ手に鍵を閉めることを忘れず無心で部屋を縦断した。ドライヤーとやらは扱い慣れずまだ水気が残る髪からは水滴が滴る。入浴の時間がかぶれば荷風などが面倒を見てくれるが今日は彼も疲れていたようで姿を見なかった。あるいは自身がさっさと入浴を済ませたせいか。
「せ……先生」
ベッドから立ち上がろうとした花袋の前に寸で。立ちふさがる。長身の部類だった花袋は今生でも背が高く森は幸運にも彼より更にやや体が厚く高く生まれついた。だからこうして彼を逃がさずにおれたのは幸運だった。季節外れのヒマワリは疲れた森を癒す。立っているのにも疲れていつになくしゃがみこみ膝を突く。まるで花袋に許しを請うように。サルエルパンツにしがみつくと埃の匂いがした。今日の片付けのためだろう。入浴に行きたい気持ちはわかるがそれでも。頭上から声が降る。
「こ、困ります……」
それが全然困っていない様子で森の頭を撫でるものだから彼は額をこすりつけた。
「君を困らせたい」
「……しょーがないですね」
甘えて項垂れたままでいると溜息混じりに金属の音がする。聞き慣れたようでその滑らかな音は聞き慣れない。はてどこで聞いたか。
閨だ。
思わず顔を上げる。見れば花袋はにやりと笑っていた。手元には彼のサルエルパンツを支える二重のベルト。今は彼のそれは片手で支えられているのみ。太股が見えた気がする。疲れた体にそれは目の毒で。その手が今はただひとつの貞操帯。
花袋が笑う。
「今日は先生お疲れみたいですし。先生は寝てていいですよ」
喉が鳴った。
End.
pixivからの転載。