ちなみに今回はR-18どころかR-15ですらありませんのでご注意ください(何を?)
さあ・・・・・・と春の風が吹き抜ける。その風に乗ってはらはらと桜の花びらが舞い、幾枚かがわたしの身体にも舞い降りる。
日差しは暖かいけれど、じっとしてると風はまだ少し肌寒さを感じさせる。でも・・・・・・
―――ふふ♪
背中に感じる温もりに思わず笑みがこぼれ、わたしの心が幸せな気持ちで満たされる。
―――このままずっと、こうしていられたらいいのにな・・・・・・
そんなことを考えながら抱えた膝に頬を乗せて、背中の温もりに想いを馳せた。
「おい、庶務に行ってコレ借りて来てくれ」
昼休みが終わり、午後の業務の開始早々に先パイがメモを渡してきた。渡されたメモには借りてくる物品らしきものが並んでいる。
「ブルーシートにトンカチ、えっと・・・・・・ぺぐ?犬ですか?」
「それはパグな。午後から花見の場所取りだって言ったろ?」
わたしのボケをさらりと流されたことに若干の不満を覚えつつメモを見直す。つまりは、ここに書いてあるものが場所取り用のアイテムだということらしい。
「花見の場所取りだって言えばすぐに分かる。頼んだぞ」
「はい」
ひらひらと手を振る先パイに短く返事をして席を立つと庶務課へと足を向けた。そう言えば、今日はうちの部署のお花見だったっけ。そんなことを考えながら軽い足取りで廊下を歩く。
うちの会社のほど近くには桜並木のきれいな公園があって、例年そこでお花見をしているのだそうだ。そして、そのお花見の場所取りは、当然若手の役割になるわけで、今年は私と指導係の先パイに白羽の矢が立ったのだった。
お花見の開始は確か5時半だったから、始まるまで4時間近く場所取りをしておかないといけないことになる。だけど、先パイと一緒だと考えると、そんな時間もご褒美に思えてしまう。
ついつい緩みがちになる頬を引き締めながら庶務課に向かい、頼まれたものを受け取ってくる。そのとき、わたしの顔を見た庶務課の先輩に怪訝な顔をされてしまったのは先パイには内緒だ。
「先パイ。受け取ってきました!」
場所取りセットのつまった、大きめのエコバッグみたいな鞄を先パイに掲げて見せた。
「お、さんきゅー。じゃ、出掛けるから支度しろ。今日は終わったら直帰だからな」
「え?そうなんですか?」
「ああ、撤収はまた別の奴がやるからな」
「はあい」
返事をするといそいそと身の回りの片付けを始めた。
「あ、お前がいつも使ってる膝掛け、あれ持ってった方がいいぞ。日が傾いてくると意外と冷えるからな」
先パイの何気ない気遣いに笑みが漏れる。
「はい、ありがとうございます。先パイ!」
目的の公園は、会社から歩いて15分ほどのところにある。3月の間はまだまだ冬の名残があったけれど、4月に入ってからは一気に春めいてきた。街を行く人たちもコートを着ている人はほとんどいなくなり、明るく春らしい服装の人たちが増えている。そんな街の雰囲気と暖かな春の日差しに、私の足取りも軽くなり自然と鼻歌が漏れてくる。
「やけにご機嫌だな?」
私の少し前を歩く先パイが振り返る。「俺が持つ」と言って場所取りセットの入ったバッグを肩に掛けている先パイの額には、この日差しもあってかうっすらと汗が浮かんでいた。
「やっと春らしくなったなぁって思って♪」
「今日なんか暑いくらいだけどな」
「よっ」と身体を揺らして先パイがバッグを担ぎ直す。
「先パイ、荷物代わりましょうか?」
恋人とはいえ、今は仕事中なわけだから先輩に荷物を持ってもらうのは、やっぱり後輩の身としては気が引けてしまう。
「ん?気にしなくても大丈夫だぞ」
本当に何でもなさそうに先パイはそう答えて視線を前に戻す。まあ予想していた返事ではあるのだけれど。
一瞬だけ先パイの横顔を眺めて視線を戻す。街路樹の緑は明るい色合いに変わり、ぽつぽつと店先に置かれたプランターの花が彩りを添えている。
やっぱり春はいいなと思う。冬の暗い空気が一掃されて、いろんなものが生まれ変わり、新しい何かが始まりそうでわくわくする。去年は社会人としての生活が始まったけど、今年の春も何かが始まるのだろうか。
―――そういえば春じゃないけど、もう一つ始まったことがあったっけ、ふふっ♪
ちらりと並んで歩く先パイの横顔を盗み見る。
去年の春、先パイがわたしの指導係になったときは、まさか先パイと恋人同士になるとは思ってもみなかった。優しそうな人だなぁくらいには見てはいたけれど、好みのタイプとは全然違っていたし、なにより仕事を覚えるのに一杯いっぱいで恋愛なんて考えてる余裕はないと思っていた。
自分がそれなりにモテるらしいというのは、学生時代の友達との話や男の子のアプローチで何となくは気付いていた。でもそれは、わたしの胸が大きめだということに多分に影響しているのではないかと思っている。実際、言い寄ってくるのは妙にギラギラしてる人が多かったし、中には露骨に胸元に視線を向けてくる人も多かったから、学生の頃は自分から恋愛をしようという気にはならなかった。
社会人になってからも「そういう人たち」はやっぱりいて、先パイの目がないところでは、実はちょこちょこアプローチを受けていたりする。しかも学生の頃とは違って、アプローチの仕方も巧妙になって、おまけに下心が透けているものだから時々うんざりしてしまう。
でも先パイは違っていた。先輩の立場を利用して・・・・・・なんて素振りは微塵もなく、きちんと先輩の立場を守ってくれていて、今でもその辺の線引きはしっかりしてくれている。わたしが決めるべきところは、ちゃんとわたしに判断させて、そこで困るようなことがあれば、さりげなく助け船を出してくれる。時々、視線がわたしの胸元に来ることもあるのだけれど、まあ先パイも男の人だから・・・・・・。しかもそんなときは決まって「しまった」みたいな表情を浮かべて視線を逸らしている。そんな仕草をちょっと可愛いなんて思ってしまうのは、好きになってしまったからかも知れないけれど。
「どした?」
わたしの視線に気付いた先パイが首を傾げる。わたしは何でもないふりをして先パイを見上げた。
「ねぇ、先パイ」
「ん?」
「手、繋ぎましょ?」
先パイの方へと「はい」と手を差し出した。先パイは「ああ」と答えてわたしの手を取りかけたが、すぐに気付かれてしまい苦笑いを浮かべた。
「まだ仕事中だ」
予想通りの返事が返ってきて、ぺしっと差し出した手を軽くはたかれる。
「ちぇ~っ」
とりあえず形だけ拗ねてみせるわたしの頭に、先パイがぽんと手を乗せた。
「後でな」
「はぁ~い」
そう答えて、ちょっとだけ先パイの肩に頭をもたれ掛けてすぐに離れる。このくらいだったら許して貰えるだろう。
そんなやりとりをしているうちに目的の公園へと到着した。
週末とはいえ、平日の昼間だからそんなに人はいないだろうと考えていたが、思ったよりも多くの人がいる。もちろん、中心になっているのはお年寄りや小さな子供を連れたお母さんだったりするのだが。
「わあ・・・・・・!」
芝生で覆われた広場をぐるりと囲む遊歩道沿いに、満開の桜並木が咲き乱れていて思わず声が漏れる。
「会社の近くにこんなところがあったんですね!」
桜の名所といえば上野公園や千鳥ヶ淵、目黒川なんかをテレビでよく見るけれど、会社の近くにもこんなにきれいな桜が見れるところがあるなんて思ってもみなかった。
「なかなかの穴場だろ?」
「はい!あ、そしたら来年は二人でお花見に来ましょうよ!」
「バカ、こんなところで花見なんかやってたら、間違いなく誰かに見つかっちまうぞ」
先パイが苦笑いしながら肩を竦めた。せっかく良いところ見つけたと思ったのに・・・・・・。二人の関係を秘密にしてると、こんなときに不便だと感じてしまう。
今のところ女子社員に限定されてるとはいえ、一部の先輩にはバレてしまっているのだから、いっそのこと公表しちゃえばと思うこともある。だけれども、それはそれできっとメンドクサイことになるんだろうな~。
―――もう、さっさと先パイに貰われちゃえば、こんなこと気にしなくてもいいのかな・・・・・・
先パイの横顔を眺めながら、ふとそんなことが頭に浮かんだ。同時にあまりにも気の早い自分の考えが恥ずかしくなり、顔が熱くなってくる。
―――でも、先パイはどう考えてるんだろう・・・・・・
先パイの横顔に視線を留めたまま考える。
先パイと付き合い始めて半年くらい経つけれど、そんな話がわたしたちの間に出てくることは全然ない。ただ、セックスの時は基本的にゴムは着けないし、安全日には中に出してしまうことも多い。もちろん先パイは着けようとしてくれてはいるのだけれど、そこだけ先パイと離れているような気がしてしまうから、危険日以外はわたしの方から着けないで欲しいと言っているのだ。そんなことだから、そのうちうっかり赤ちゃんができてしまうかもしれないのだけれど、そのとき先パイはどんな反応をするのだろう・・・・・・
「よし、ここで広げるぞ」
公園の少し奥まったところにある、ひときわ大きな桜の木の下で先パイが荷物を下ろした。がさがさと賑やかな音を立てながら、先パイがバッグの中からブルーシートを引っ張り出している。
「ん?どうした?ぼーっとして」
手を止めた先パイが少し心配そうな顔をしてわたしを見上げていた。もしかしたら無意識のうちに不安そうな表情をしていたのかもしれない。
「・・・・・・あ、すみません先パイ!手伝いますね」
努めて明るい表情を浮かべながら、わたしもブルーシートに手を伸ばす。二人で両端を持って広げて、四隅と何カ所かにペグなるものを先パイが打ち込んでいく。本当はテントを留めておくものらしいのだけれど、こうすると風で舞い上がらなくなるし、重石がいらないからかさばらなくていいのだそうだ。
「あっという間ですね・・・・・・」
ものの5分としないで場所取り完了だ。
「で、後はひたすら待つだけ・・・・・・と」
靴を脱いだ先パイが、広げたブルーシートの上に「どっこいしょ」と腰を下ろす。そのちょっとおじさんくさい仕草にくすりとしながら、わたしも先パイの横に腰を下ろした。
満開の桜の間から木漏れ日が降り注ぎ、風に乗って子供たちのはしゃぐ声が流れてくる。
「・・・・・・いい天気ですね」
「そうだな」
二人の間にゆっくりと時間が流れていく。普段の、仕事に追われて忙しい時間を過ごしているのが嘘のようだ。
ざあ・・・・・・と少し強めの風が吹き、桜の花びらが風に舞う。
「っと、身体が冷えてくる前に暖かくしといた方がいいぞ」
先パイがわたしの膝掛けを指さした。
「あ、はい。でも、先パイは?」
「ん?俺はいいんだよ」
大丈夫だと言うように先パイがひらひらと手を振る。ん~、でも先パイが風邪引いちゃったら嫌だしなぁ・・・・・・
「じゃあ・・・・・・」
わたしは膝掛けを取ると、先パイの後ろに回って、すとんと背中合わせに座った。
「お、おい・・・・・・」
「このくらいだったらいいじゃないですか♪」
何か言おうとした先パイの言葉を遮って背中を預ける。しょうがねえなとでも言うように苦笑する気配がして、先パイが口を噤んだ。
触れ合った背中から、じんわりと先パイの温もりが伝わってくる。その温もりはわたしの身体だけじゃなく、心まで温かくしてくれる。
―――ずっと、こうしていられたらいいのにな・・・・・・
そんな想いが自然と沸き上がってくる。
「ねえ、先パイ・・・・・・」
後ろ手についたわたしの指先が、同じように後ろ手についていた先パイの指先に僅かに触れた。
「ん?」
「来年も、その次もこんな風にしていられたらいいですね・・・・・・」
そんな言葉が自然と口をついて出てきてしまう。
「ああ・・・・・・」
先パイの手がわたしの手に重ねられ、指先が絡められる。そして、何でもないように先パイが言葉を紡ぐ。
「俺は、そのつもりだぞ」
思わず、はっとなって先パイの方を振り返るけど、相変わらず先パイは向こうを向いたままだったから、そのときどんな表情を浮かべていたのか知ることはできなかった。けれど、わたしの心の中に自然と嬉しさがこみ上げてくる。
「はい!」
短い返事にありったけの想いを乗せて、わたしは絡められた指先にきゅっと力を入れた。
「先輩と後輩ちゃん~天真爛漫だが色々考えてる可愛い後輩~」を読んで頂きありがとうございました。浅倉椎です。
さて、今回は前書きにも書きましたとおりエッチなしです。お気に入り登録していただいてる方々には、こんなTHE普通な話は求められてなかったかもしれませんが・・・・・・
しかも、とっくに花見の時期は終わってるというのにね。いや!東北や北海道の方々だったらまだセーフ・・・・・・たぶん。
次からは平常営業に戻りますので、一回くらいは勘弁してください。
ではでは