ティアマトの番 作:Ω2
今回のコンセプトは『毒を持って毒を制す』ですので、じっくりじわじわと堕としたいのですよ(ゲス顔)
「あ、ぎぃがぁぁがぁぁ!!!」
最早、それは嬌声ではなく、悲鳴でもない。
ただの獣の咆哮だ。
強制的に与えられる悦楽に、泥の上で静謐はもがき、身体を出鱈目に動かす。
許容量を超え、致死量すら上回った快楽は、どのような拷問にも屈することのない、静謐の精神を粉砕し、絶命させる。
だが静謐は死ねない。
「おめでとう静謐。これでちょうど100回目の快楽の絶命だ」
彼女の身体を抱き締める男がそれを許さないからだ。
「さあ、コンティニューだ」
死んだ彼女の精神と身体を口移しで流し込んだケイオスタイドによりギリギリの所で修復し、狂気の宴を続行させる。
「んく、んく」
男から流し込まれる泥を、意識が戻った後も静謐は飲み続ける。
(だめ、もっともっと、飲まないと!)
この泥を飲んでいる間は、毒の快楽が止まるからだ。
快楽の苦しみから逃れる為に、静謐は男と口を交わらせ続ける。
だが、
「ん! ぐ、げほ! げほ!!」
当然限界は来る。もっと飲まなければならないのに、静謐の身体は許容量を超えたものを反射的に吐き出してしまう。
(だ、だめ!)
そう思った時にはもう手遅れであった。
「い、や、ぎいいいいいいい!!!!」
再び静謐は自分の身体の奥底から沸き上がる狂気の愉悦に、支配された。
(気持ちいい気持ちいい気持ちいい気持ちいい気持ちいい気持ちいいいいいいい!!!!!!)
視界が回る。並行感覚が完全に狂ったその感覚は、通常時なら吐き気を感じるはずなのに、頭に回った毒が、それを快感に変換してしまう。
「どうだ静謐」
男の声が聞こえる。どうしてか、それだけはちゃんと理解することができる。
今の静謐にとって正常に認識することが出来るのは、男のことだけであった。
「これが毒だ。お前が利用し、数多の人間を殺してきたものだ」
これが毒? そんなはずはない。自分の毒とこの男の操る毒はまったくの別物ーー否、別次元だ。
「いいや。強弱の違いはあれど、これは同じだよ静謐」
男は静謐の肌に指を這わせる。
「一度取り込んでしまえば、成す術なく身体を犯し、蹂躙しつくす力。それが毒だ」
「――」
語りかける男に、静謐は答えない。
否、答えられないのだ。今正に101回目の快楽の絶命を迎えた所だから。
「おっと、これは失礼」
再び男が口付けを行い、ケイオスタイドを流し込む。
「!」
静謐の意識が戻る。
男の言葉は念話へと変わり、尚も静謐に語りかける。
『苦しいか?』
頭に直接語り掛ける言葉に、静謐は抵抗する気力もなく、答える。
(苦しい)
『辛いか』
(辛い)
『なら、どうすればいい?』
(飲まないと)
泥を。もっと飲まなけれならない。
これを飲んでいる間だけが、苦しくないのだから。
「ん」
再び静謐は男からの泥の供給を受ける。
先程飲んだ分は身体に同化したのだろう。
身体の中の異物感はまったくない。
むしろ、今ならさっきよりも多く、長く、泥を飲む事が出来そうだ。
『気持ちいいか静謐?』
(気持ちいい)
泥のおかげか、身体から沸き上がる快楽がちょうどよい。温かい湯船に浸かるような心地よさを感じ、静謐は目を細めた。
(もっと――)
身体が求める。心が求める。
いけないと分かっているのに、抗う事が出来ない。
男と口付けを交わす事が心地よい。
ただただ、心地よい。
(このまま、ずっと――)
この心地よさに溺れて――
「さて」
「ん、あ」
口が離され、溶けかけていた意識が少し戻る。
「どうした? 残念そうだな?」
「そんなことは――ありません」
気恥ずかしくなり、静謐は顔を逸らす。男はそんな初々しい少女の反応に、微笑む。
「このままお前の相手をしていてやりたい所だが、用事を思い出した」
「え」
男が抱擁を解いた。ずっとあった温もりがなくなり、切なさを覚えてしまう。
「少し離れるが、安心しろ。地面に広がるケイオスタイドを飲めば、毒は大人しくなる」
「……」
答えない。喋らない。
顔を俯かせ、会話をする気はないと、態度で伝える。
「じゃあな。いい子にしていろよ」
頭を撫でられる。子供扱いするな男を睨みつけてやろうと、顔を上げるが、
「あ」
男はもうそこにはいなかった。
一人。その事を意識すると、ずきりと胸が痛んだが、頭を振り、雑念を振り払う。
そんな事よりも、今はこの状況を何とかすることを考えなくては。
(逃げないと)
既に今の自分に戦闘の選択肢はない。疲弊しきった今の身体では勝負にすらならないだろう。
ならば逃走か?
いや、不可能だ。辺り一面には泥しかない。このような場所で一体どうやって脱出するというのだ。
(ならば)
考えるまでもなかった。
生きていても、自分が主にとって不利益な存在でしかないのならば、暗殺者がとるべき選択はただ一つ。
(死のう)
幸い、自分の武器である短刀がすぐ近くに落ちてある。
あれを拾い、自らの喉に突き立てれば速やかに絶命する事が出来――
「!!」
ドクンと、そこまで考えた静謐の意識を塗り潰すように、快感の波が来た。
「あ! うっ!!」
流されるわけには行かない。あの男がいない今こそが好機なのだ。
身もだえしそうになるのを堪え、静謐は必死に短刀に手を伸ばす。
だが――
「ひいやぁぁぁ!!!」
一際強い波が再び静謐を襲う。
(これ、は……)
間違いない。自害をしようとする自分の意志に反応するように身体の毒が快楽を送り込んできているのだ。
秒刻みに深く、濃くなっていく悦楽の波に、静謐はたまらず地面に膝を屈する。
「は、ん。んく、んく」
そして地面に広がっている泥を必死に飲む。
男の言葉通り、身体の中の毒が大人しくなり、静謐の身体は徐々に正常なものに戻っていく。
(あれ?)
しかし、それだけであった。
それだけであったのだ。
あの魂を溶かすような恍惚感も。
あのすべてを委ねてしまいたくなるような安心感も。
あのいつまでも味わっていたくなるような幸福感も。
何一つない。
あるのは無。
ただ毒を抑えているという事実だけしかない。
(どういうこと?)
泥を飲んでいる間は苦しくないはずなのに、胸が苦しい。
切ない。
そう。切ないのだ。
切なくて、寂しくて、頭がおかしくなってしまいそうだ。
「う、あ……」
泥を飲むのを止める。まだ身体の毒の効果が少し残っているのに。
静謐はそれ以上泥を飲む気にはなれなかった。
気が付いてしまったからだ。
(私は――)
自分が感じていたものを与えてくれていたのは、毒の快楽でも、
ましてや泥でもなく――
(あの人なの?)
困惑する静謐の臍の周りの褐色の肌には、青い紋様がはっきりと浮かんでいた。
次回、静謐さんが完堕ちします。