揺れる荷馬車に乗せられる際、女性と思われる騎士に連行されたわけだが。
気のせいだとは思うが、その騎士に体を触られたような気がした。
……いやまぁ、連行されてるわけだから体を触られているわけでありますが。そうではなくて、胸の辺りにタッチしてみたり。お尻あたりに手が触れてみたり。そんな感じのボディタッチがされていたような気がしたのだ。
が、別段気になるほどの事でもないし、もしかしたら本当に単純に触れてしまっただけの事故かも知れないことを考えると黙っておいた方が良いだろうと言う考え。
変に出しゃばっていきなり目を付けられるのも嫌だし。
「……なぁおい、君」
「……は、えっと、私ですか?」
「ああ、君だ。見たところまだ若いんじゃないのか? どの村から出されたのか知らないが……なんともまぁ、可哀想な男だ」
「あー……ま、まぁ、今回は私から進んで村のために立候補したので何とも」
「す、進んで……?」
あははと小さく笑っておくが、進んでと言った瞬間に荷馬車に乗っている男性からの視線が一気に集中した。
え、何ナニ? 驚いてその人たちを見渡してしまい、気付いた。
この人たちの表情は完全に死んでいたのだ。
下を向いて俯いているとか、落ち込んでいるとか。そういったレベルじゃない、本当に生気が抜け落ちたような表情。何より一番ヒドイのが、この数時間でやつれ切った表情をしている人の目が、何よりも暗く、力が無かったのだから。
「……そう、君は、進んで……なに、それだけ村の事を愛していたんだね」
「は、はは……そうです、ね……そうなりますね」
――それっきり荷馬車の中での会話は一切無くなってしまった。
雰囲気はかなり重たい。こ、これは俺が原因なんだろうか? まぁ、若い女が自ら進んで……となると確かに重い。と言うか想像つかない。俺もそんな対象として見られているんだろうか。と言うか、俺、普通の男子なんですけど?
ガタッゴト……
未だに荷馬車は揺れ、先へと進んでいる。
この世界だと時計という存在が無いから、どれぐらいの時間が経ったのかを知る術がない。荷馬車の一部、四角に空いた穴から覗くことの出来る外の様子を見る限りではまだ日は暮れてないようだが。
……この世界で『自分』という意識を取り戻したのは1か月くらい前。
あの村の環境に慣れるまで時間はかかったが、もうそろそろ普通に生活できろうとしていた。そんな時期にこんな事があって。
だが、村にいたところで俺の運命は変わらなかっただろう。下手に戦争に介入なんて出来るわけなんてないし、そんな事をしたところで不審者として殺されるのがオチだろう。知恵も自信無いし、力だってそんなにない。何より、努力をしようとする気持ちも薄い。
あの村で必死に生きている人たちを見て、正直眩しいって、思っちゃったからなぁ……
「よぉし、今日はここで一晩明かすぞ! ほら、お前らも出てきて仕事を手伝え!」
「はい……」
ずっと座ったままで凝り固まってしまった体を解しながら荷馬車から降りる。外はほんのりと暗くなっていた。
が、再び大地に降り立った俺が目にした現実に、目を見張ってしまった。
荷馬車に繋がれていた馬を引っ張っているのは女騎士。野宿をするための陣を整えているのも女騎士。力仕事をしているのも、俺たち男性組を引き連れていこうとしているのも。全員が女騎士で構成された部隊だったのだ。
え? 何この世界……女尊男卑なの?
なんて思ってしまうぐらいに女性が圧倒的な働きを見せていた。
今この短い時間で垣間見ることのできた仕事量ですら、うちの村の男性陣が数人でやっとこなすことのできる量の仕事量だったし。
「よし、今日はここがお前らの寝床になる。人数が少ないからそんなに窮屈しないと思うがな。で、お前らはいったんここに横一列に並べ。ほら早く!」
「は、はい……」
いそいそと男性陣が動き出し、前後のバラつきのある整列と言えない整列をしたのだった。
それからすぐに仕事をしていた女騎士が集まり始めた。
な、なんだなんだ? 横の男も小さくぼやいている。まさかもう、とか呟いているが何を意味してるんだろうか。
やがて、この場にいる全女騎士が集まり終えたとようなタイミングで一人の騎士が前に出た。首から下は甲冑を身に着けており、周りの女性の物よりも少し豪華に見えた。
つまりこの人がこの部隊の長だろうか……?
「では、今回はこの男どもが我がセイジョー隊における下男となった。が、まだこの隊に配属させられたばかりの者たちだ。最初から激しい事をして壊してしまわないように」
最初から激しく……?
その言葉を聞いた瞬間、横の男の息遣いが荒くなった。
誤解の無いように言っておくが、興奮してるわけでも何でもなく、単に震えていたのだ。おそらく彼は恐怖を抱いているに違いない。
「それから、君たちもセイジョー隊において良く励むように。何、簡単なことだ。これからほぼ毎日彼女たちの相手をすればいいだけの話なのだから。評判、評価の高い男についてはどんどん対応を良くしていく。今後、一人の男として生きたいのであれば……励め。それだけだ。まぁ、最低限励むことができるだけの生活は保障してやろう。それ以外はどうしようもないがな。さて……話はここまでだ。解散!」
励む……
って、さすがにここまで来れば話の内容は理解できた。
ようは、ここにいる女性たちの性の相手――セックスの相手を勤めればいいだけの話じゃないか。チラチラと女性の顔を見ていたが、皆結構ルックスが良い。正直、顔面偏差値がかなりヒドイ女性とかが戦争の一員として働かされて、そのはけ口として俺たちみたいな男を……なんて考えてたんだけども。
ていうか、これぐらいの女性たちであれば普通に街で男性を漁ることなんてできると思うが……それだけ戦争のフラストレーションは溜まりやすいってことなんだろうか?
ま、話を聞いて安心した。
いや、壊れるぐらいに激しいってのが唯一聞き逃せない内容なんだが、取りあえず、ひどい肉体労働をされるわけでもないし、普通以上に生活することができるのであればいう事なんて無い。
……さて、現実に戻ろうか。
「ね、お前はどれにするんだ?」
「いやぁ……やっぱりあいつかなぁ……この中で一番若そうだし」
「だろ!? いや、お前もあいつかよ……なんかあいつ、ちょっと違うんだよなぁ」
「お? じゃ、俺がもらおっかな」
「いや!? その違うじゃねぇよ! なんか、いつもの男と雰囲気が違うっていうか……」
「確かに、彼は今までの男と違って雰囲気が明るい……? のかな?」
「あぁ……はやくヤっちまいたいな」
次々に語られる卑猥な話に、顔を背けてしまう。
実際、こんな女性が俺たちを見てエロい話に夢中になってるなんて信じられないし。そもそもまだここは夢の中なんじゃないかって思うけど、荷馬車に揺られ続けた尻がじんじんと痛んでいるし、現実なんだろう。
……俺が顔を背けた瞬間、俺に視線が集中し始めた気がする。
それに、この中で一番若いって言えば俺のことだろうし……!
俺が、前世で全くもてなかった俺が女性の対象になっているだと……っ!!
「そうだなぁ……お前、名前はなんて言うんだ?」
「え? ……ペース、です」
「ペース、か……なるほど。良い名前だ」
「あ、ありがとうございます」
「ふっ……面白い奴だ。気に入ったぞ……喜べ。君の初めての相手は俺がしよう」
「は……?」
目の前には先ほど演説らしき事をしていた女性が。
つまり、この隊の長。隊長が自ら俺の事を選んできた。
周囲の女騎士の様子を見るに、こんな事は滅多にないんだろう。かなり驚いた表情だ。……つまり、この隊長はなんらかの理由で進んでエロイ事をしようとしなくなった、ってわけか?
「マリッジ中尉……! 中尉がこの男とするんですか……?」
「ああ、そうだ。それから、これから男の事は名前で呼んでやれ。せっかく一夜を共に過ごすことになるんだからな。名前で呼べば、より気持ちよくなるぞ……?」
「ひゃ、ひゃい!? りょりょりょうかいしましたぁぁ!?」
あ、これアカンやつや。
見た目はかなりスレンダー。燃えるように赤い髪をなびかせ、俺の肩に腕をまわしてきた。両目をじっと覗き込まれ、つい緊張してしまう。かつてこんな近くまで美女が来たことがあっただろうか……! いや、ない! あったとしてもPC画面の奥の女の子だけ! こ、こんな女性と本当にヤれるんだろうか……?
ゴクリ――
「うん? ……くっく、本当にペースは面白い奴だなぁ。これからが楽しみになってきたよ。さぁ、楽しい時間はこれからだ、一緒に行こうではないか」
「は、はい……」
俺をエスコートせんばかりの優しい雰囲気だ。
口調は男っぽく、それが一層凛々しさを引き立てているんだが。
――俺はこれから、男になります。