後はキャラ別に書いていこうと思います。
「ここが、あなたの部屋です、何か足りないものがあれは」
寺院の最上階に近い一室に案内しながら、フロローは色々な事を考えていた。
詩人も探偵も寺院にいれば安全だという、それはジャン・バルジャンという男が昔、神父に命を助けられた事があるからだという、寺院、聖職者達に危険、危害が及ぶ事はないと心配はないというが、では、それに値しない人間はどうなるのか。
(カジモトには注意しておかなくては、この部屋には近づかないように)
修道女とは違う女性を見て、よからぬ気持ちにならないとも限らない。
そんな事を考え、窓の下を見下ろす背中を見ながらフロローは、これからどうなるのかと不安を覚えた。
時間というものは、こんなにもはやく過ぎるものなのか。
一日は、あっというまだ、退屈しているだろうとフロローは数冊の本を持って彼女の元を訪れたのは久しぶりのことだった。
話し声がするので、驚いて部屋の扉の隙間から中を覗き込む、女はカジモトと話をしていた。
片目が押し潰れたようになっているので相手の顔と唇を観ながら会話をするのだが、近づきすぎではと思うくらい女はカジモトの顔を正面から覗き込んでいる。
大抵の人間は、そんな接し方はしない、そしてカジモトは、大抵顔をそらすのだが。
女の顔をじっと見ている。
「ジャン・バルジャンがあなたに声をかけてきた、女が寺院にいるだろうと」
「ああ、白い髪の女がいるかって」
「いると答えたのね」
「あんたが言ったから、でも、いいのかい、昨日も寺院の周りにいた、あの男は」
女は頷いた、自分に逢いに来たのだと。
「今夜、寺院を抜け出すのを手伝って、その男から話を聞かないと」
友達でしょうと言われてカジモトは顔を歪めた、これを自分の主であるフロローに報告しないわけにはいかないと思ったからだ。
だが、友達の頼みを断るのは正直心が苦しい。
しかし、この話を扉の向こうでフロローは全て聞いていた。
寺院にいれば安全だ、守ることができると考えていたフロローにとって、この会話は驚きだった。
バルジャンという男に彼女が逢いに行こうとしている、いや、自ら危険の中に飛び込もうとしていることが信じられない。
自分が止める事ができればいいが、正直、どうすればいいのかわからなかった。
かといって彼女が抜け出す事を黙って見過ごすというのは。
自室に戻り、本を書棚にしまうと溜息しか出てこなかった。
そのとき、司祭様と男の声がした。
「シャーロック・ホームズ、あなたが来るのを待っていた」
フロローは、利用手を広げて彼を迎えたい気分になった。
「そうですか、しかし剛胆な女性だ、危険の中に自ら飛び込もうとするとは、そういうところは侯爵に似ているのか、それともアイリーナ・アドラー、あの女優の影響なのか、どちらにしても、長引くのは避けたいところです」
「すると、この件は解決したというのか」
「ええ、ただ、真実は随分と違うようです、ジャン・バルジャンは彼女に危害を加える事はないでしょう、ただ」
「どういうことです」
「コゼット襄は彼女に聞くべきだった、直接ね」
真夜中という刻限にオペラ座の前に現れた女は待っていた。
「ジャン・バルジャン」
フードを被った黒い影が頷き、そこから現れた男の素顔に女は不思議そうな顔をしたのは恐怖という者を感じなかったせいかもしれない。
「娘さんの事は気の毒だったと思います」
「それはもう昔の終わったことだ」
「聞きたい事があるんです、いいですか」
「怖い、君が何を言い出すのか、だが、その質問に答えなくてはいけないのは分かっている」
「シャンデリアを落としたのはコゼット、あなたではない、答えなくていいです」
「いいや、それに答える義務がある」
「狙われていたのは女優では、アドラーではなかった」
男がすまないと繰り返した、謝罪の言葉に女は首を振った。
「女性一人で細工ができるのかと今でも思っています」
「道具係の主任だ、コゼットと仲がよかったらしい、アドラーの取り巻きの一人に娘は夢中だった、だが、その男はいつも木元一緒で」
「その人は私の付き添いをしてくれたんです、アドラーに頼まれて」
互いに黙りこんだまま、だが先に口を開いたのは女のほうだった。
「皆、あなたを疑っていた、わざとそうしていたのか、事情があったのか、でも、今はどうでもいいという気持ちなんです、何かできる事はありますか、パリを離れたいならお手伝いします、私の姉たちは警察にも顔がききます」
「いや、釈放の時のジャベール警視の様子からして、私は冤罪で間違って投獄された、気の毒な人間らしい、これからは身を隠す必要もない」
「それは、それは」
女は笑いながら、何を思ったのか仰ぐように上を見た。
雪が降ってきたのだ、この時、何を思ったのか、男がマントを脱いだ。
「帰らなければ」
寺院にと聞かれて女は、今度は声を上げて笑った。
「友人が待っているんです」
「カジモトという男か、君の事を尋ねるとしどろもどろになっていた、あれではすぐにばれてしまう」
それも演技かもしれません、自分の肩にかけられたマントにありがとうと言い、女は歩き出した。