オリジナルヒロインを狙う首切り男
少しダークな内容です。
夜の街は危険きわまわりない、ロンドンの殺人鬼がパリにやってきたのに深い理由はない、自分は、ただ頼まれただけだ。
女を殺して、首切りと名乗れと言われたのだ。
普通なら、そんなことは頼まれてもお断りだ。
だが、退屈していたし、報酬もよかった、だから最初は遊び半分で引き受けたのだ。
一人、二人、最初のうちはおっかなびっくりだったが、警察の手が伸びる事はなかった、奴らがあまりにも間抜けすぎるのかもしれない。
ロンドンの警察は間抜けだと新聞でかき立てられた記事を読むと、男はだんだんと楽しくなってきた。
自分は、ただ、殺すだけだ、何故なら殺した後の死体の始末は自分に任せろと依頼人に言われていたからだ。
殺しをした翌朝、女の死体は目立つ場所に飾られる。
一度は警察署の前に十字架にキリストのような格好で張り付けにされていた、あれには度肝を抜かれたが、それが楽しくなってきた。
ところが、七人目の女を殺した後、依頼者から連絡が来た。
パリに行けというのだ。
「探偵が動き出した、ホームズだ」
犯罪者の中では知られているらしい、だが、初めて聞く名前だ。
「パリで仕事をしろ、だが今度は女なら誰でも言い訳ではない、外国人の女を狙うんだ」
自分にロンドンでも外国人を見る事はある、だが決して多くはない。
「目印は白い髪だ」
依頼人の言葉に男は驚いた。
年寄りを殺せというのか、つまらないと思ったのだが。
それを察したのか依頼人は笑った。
「明日、パリで死体が見つかる、ロンドンと違ってあちらは大騒ぎだろうな、盗人や泥棒のたぐいはいても、人殺しはいない」
パリで殺人がないという言葉に男は不思議そうな顔をした。
「死体を公然と見せびらかす犯人など、あちらにはいない、首切り男のなは有名になるだろう」
まともな人間の仕業だよ、ワトスンと言われて相棒の医者は複雑な表情になったのは無理もない。
ロンドンで事件が起こると余裕人の相棒として自分はいつも一緒に行動をしていた。
だが、今回に限って探偵は同行を断ったのだ、これは自分への挑戦状だと言って、ついて来ることを許さないのだ。
「ホームズ、どうしてだ」
「君のいいたいことはわかる」
そう言って探偵は一通の封筒を差し出した。
良いのかいと思いながら中身を読み始めた医者の顔は青ざめ、そして怒りに震えたものとなった。
「君と一緒にパリに行けば、僕の患者に不幸がって、脅迫じゃないか」
「ああ、そして手紙の差出人は本気だ、関係のない人間を巻き込む訳にはいかない」
当然だと医者は頷いた。
「だが、相手の言いなりというのも気にくわない、君に頼みたいことがあるんだワトスン」
「何だい、ホームズ」
「今まで殺された女性達について調べてくれ」
「警察の発表されていることだけでは足りないのかい」
「見落としていることがないか調べてほしい、殺されたのは女性ばかりだが、職業は娼婦から旅行者、様々だ、だが、ある共通点があった」
「な、なんだい」
「髪を染めていたんだ、これは答えにならないかもしれない、だが、もしかしたらきっかけになるかもしれない、時間がなくて僕が調べたことはこれだけだ」
「髪を染めていた、化粧は、変装かな」
「調べてくれないか、ワトスン、どんな些細なことでもいい分かったらすぐに知らせてほしい、場合によってはパリに来てもらうことになるかもしれない」
「ホームズ、だが、そんなことをしたら」
「僕の相棒、捜査の協力ではなく、旅行客としてだよ、相手がどこまで本気なのか、それに、これは君に対する挑戦でもあるんだ」
「なんだって」
犯人は自分たちのことを、今までの事件解決したことを知っているなら、ワトスン、君の性格だって分かっているはずだと言われて医者は黙り込んだ、確かに、そうかもしれない。
「ホームズ、気をつけてくれ」
「勿論、だが、君もだ、犯人はきみにだって監視の目を光らせている可能性があるんだ、万が一の為に拳銃を持っていてくれ」
探偵の言葉に医者は深く慎重な顔で頷いたのは無理もない。
「どこに行ってたんだ」
ドアが開いた瞬間、入ってきた女の姿を見ると「お帰り」という言葉よりも先に男の口から出てきたのは、最初の怒ったような声と言葉だった。
だが、同時に、後悔したのは女の顔を見たからだ。
女のそばに近寄ると、夕食にしようと声をかけた。
「いつもより遅かったから」
この二、三ヶ月あまりで自分と女の間には友情、信頼とも言える綱がりと関係ができた、嬉しいことだ、だが。
「聖歌隊が」
女から日曜日の礼拝に合唱団が歌うから一緒にいこう。そう言われても男は、すぐには返事ができなかった。
嫌なわけがない、二人で暮らすようになってから、夜の街を散歩がてら歩いたりはした、それは夜なら、自分も人目を気にすることなく振る舞うことができたからだ。
日曜日の教会、参拝という公なものに対しては憧れていた。
いつか、自分も出かけたいという夢があった。
だが、一人ではない、そう、誰かとだ。
ドレスが必要だ、男の言葉に女は驚いたのも無理はない、自分の来ているのは男から借りたシャツとズボンだけで、ドレスなど持っていないからだ。
男は考えた、トルソーを作り仕立屋に頼んでも時間がかかる、オペラ座の衣装部屋に忍び込み、適当なものを選ぶことをした。
日曜日の礼拝で、この二人連れは人目を引いたのは無理もない。
顔の左半分を仮面で隠した男は紳士という出で立ちで、連れの女はといえば真っ白な髪、肌もだ、それに顔立ちもフランス人ではなすれ違う、男も女も、つい視線を向けてしまうのは無理もない。
女が注目されていることに仮面の男は優越感を感じていたが、それは次第に別の感情に変わっていることに気づいた。
気になるのは盗み見するような男たちの視線だ、いや、それだけではない、女もだ、淫猥な視線を不躾に向けてくる、服装や雰囲気からして私娼なのは明らかだ。
「こちらには初めてですか」
建物の中に入ると、驚きと好奇心に満ちた視線で周りを眺める女に近づき声をかけてきたのは司祭だった。
頷く女は、相手の顔を見ると不思議そうな顔をしたが、その表情をほんの少し曇らせた。
「どうかなさいましたか」
慌てて女は首を振った。
いいえ、いえと、声にはならないが、その表情に司祭の視線は釘付けになった、ほんの一瞬だが。
見つけた、あれだ、間違いない。
ほんの少し離れた場所から一人の男が、司祭と女を見ていた。
ひた隠しに押さえていた殺意かわずかに顔を出す、そうい殺意。
後を付けて、居場所を突き止めて、夜道で。
いや、今回だけは今までのようでは駄目だ、パリでの初めての仕事だ。
新聞が書き立て、街中の人間があっと驚くようなやり方で行わなければ意味がない。
そう、時間を、場所を選ばずにだ。
男は隠し持っていた拳銃を取り出すと二人に近づき、銃口のねらいをつけた。
女ではなく、司祭にだ。
「さあ、女、このナイフで自分の首を自分で切るんだ、だが、一度で切り裂くな、ゆっくりと何度も繰り返して、苦しみながら死ぬんだ、
この聖域で自殺だ」
関係のない人間が目の前で死ぬのを見たくなければなと言うと女は驚きよりも怒りの視線を向けてきた。
そのとき、首切り男、見つけたぞ。
聖堂に響き渡った、それは探偵、シャーロック・ホームズの声だった。