"GIRLS und PANZER" R-18版短編集 作:キルロイさん
(1/3)ハンバーグを作るための道具と材料を準備しましょう
ねえアナタ、美味しくハンバーグを作るコツは知っているかしら。
知らない? そう。
ハンバーグなんてひき肉料理は、食材が良ければ誰でもおいしく作る事が出来るという人はいる。でもね、いい加減な調理をすると不味くなるだけよ。だから、今は何も言わずに黙って私の話を聞きなさい。
美味しく作るポイントは3つよ。肉、塩と温度、そしてソースよ。
順番に説明するわよ。まず、始めにひき肉よ。鮮やかな桜色の肉を選びなさい。出来ればその場で挽いてもらった肉が望ましいわよ。
色が黒ずみ赤い汁で浸されている肉は避けなさい。あの液は血ではなくドリップといって肉の細胞から漏れて来た液体だから安全だけれども、鮮度が悪い証拠だからそのようなひき肉を選ばないようにしなさい。グラム単位で買う場合でもパック入りを買う場合でも同じ事よ。
次に塩と温度よ。ハンバーグを捏ねる時はボールに入れたひき肉に塩を加える。この塩がひき肉に粘り気を出して肉汁を閉じ込めることになるのよ。粘り気が出て来たひき肉にパン粉や玉ねぎのみじん切り、卵を加えて更に捏ねるけれど、食材は低温のままで料理人の手も冷たい状態にするのが重要よ。温度が高くなると肉が緩くなって肉汁が流れ易くなるからね。
ついでに言うと、プロの料理人は肉を入れたボールを、氷水を入れたボールに浸して捏ねる事があるそうよ。美味しく作るためには様々な工夫が必要なのよ。
最後にソースよ。私が手に握っているのはソースのボトルよ。ハンバーグはケチャップ、ドミグラスソース、ソイソースを掛けた大根おろしもいいけれど、私が持ってきたこのソースも中々のものよ。
ちなみに、カレーソースは邪道よ。カレーの香辛料の香りや味が強調しすぎて、ハンバーグの持ち味を殺してしまうわ。透明のボトルに入っているから、液体の色は分かるよね。そう、無色透明よ。このソースはね、ハンバーグの味を引き立てる最高のソースなのよ。
どうかしら。私が出来る準備は整えたわ。後はアナタ次第よ。西住みほ副隊長。
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私は美味しいハンバーグの作り方を熱く語った。
私の目の前には私と同じ学校に通う黒森峰女学院高等部二年生の女の子であり、私が入居している部屋とは別の部屋で生活しており、選択科目の一つである戦車道においてチームの副隊長を務める程の技量と胆力を持ち、私を「逸見エリカ」という本名ではなく「エリカさん」と呼ぶ西住みほが、二段ベッドの下段に腰掛けたまま私の話を黙って聞いていた。
だが、彼女の顔には困惑、狼狽、理解困難といった様々な文字が表情として表れていた。
彼女は暫くの間、私の言葉と私が握っているソースボトルと私たちが居る部屋の状況から一つの解答を生み出そうとして脳をフル回転させていた。だが、咄嗟の状況判断に基づいて臨機応変に対処出来る柔軟な思考を持つ彼女でさえ、答えは見つからなかったようだ。
「エリカさん。やっぱり意味が分からない」
「何が分からないのよ」
「ハンバーグを作るならキッチンじゃないの? ここはベッドだよ。おかしいよ」
「おかしくないわよ。私が美味しいハンバーグを作るために、アナタの協力が必要なのよ」
「ふぇっ?」
「ハンバーグを捏ねる時は食材や料理人の手を冷たくする必要があるけれど、同時に手早く捏ねてはいけない。肉に熱が加わってしまうからなのよ。だから、優しく捏ねないといけないのよ」
「そうなんだ。知らなかった。でも、なぜベッドなの?」
私は彼女の質問に答えようとしたが躊躇ってしまった。みほが私の顔をしっかり見つめていたからだ。これから私が話す言葉は欺瞞というどす黒い感情によって十分に汚されているから、確実に彼女の純真無垢な瞳を濁らす可能性がある。
とはいえ、澄んだ彼女の瞳が濁っていく姿は見たくない。だから私は視線を下ろし、衣服で隠されている彼女の胸を眼力で透視するかの様に見つめた。嘘八百口八丁でここまで来たが、この後の説明で彼女はどう反応するだろう。何としてでも目的は果たさなければならないのだ。だからといって強硬手段は取りたくない。
不安であるが心も痛む。でも私はそうした感情を断ち切り、彼女に思いが伝わる様に優しく力強く話し始めた。
「あのね、優しく捏ねるコツは女の子のおっぱいを揉むのと同じ要領でするらしいわ。だけど、私が自分の胸を揉んでも要領が分からないのよ。だから、アナタの胸を揉んで練習したいのよ」
「えぇぇぇぇぇ!?」
「いいじゃない。練習試合ではアナタに胸を借りて試合に挑んでいるのよ。ここで胸を貸してくれてもいいじゃない」
「国語的に意味が違うよ」
「そんな事を言うなら、私はハンバーグ作るのを止めるわよ」
「そんなぁ」
「今日の晩御飯で、私が作ったハンバーグを食べたいって言ったのはアナタじゃないの」
「そうだけど……」
「日頃、不甲斐ない私の練習相手になって貰っているから、私はメキメキと上達している。私たちの乗員も同じよ。だから、その恩返しをしたくて私の得意料理であるハンバーグをご馳走したいのよ」
「で、でも……」
愚図愚図するみほを問い詰めるかのように話しつつ、私は内心で後悔していた。ああ、失敗したか。オイルマッサージをするついでに胸を揉む展開で進むべきだったかと。
だからといって、マッサージを前面に出した場合、みほが「疲れていないから大丈夫だよ」と言われると先に進めなくなってしまう。どちらを選んでも立ち往生する可能性があるのだ。だから、戦車の如く荒野を突き進むしかないのだ。そう自分に言い聞かせ、更にみほを言葉巧みに誘導しようとした。
「ねえ、みほ。アナタはおっちょこちょいだから、ボタンを掛け間違える事が結構あるよね。昨日もそうだったよね」
「う、うん」
「そして私にボタンを留め直させた」
「ち、違うよ。エリカさんが『手が掛かる副隊長だわ』と言いながら私の服を」
「ねえ、昨日は私がアナタの胸に触れたのに、今日はダメな理由は?」
「だ、だって」
「減る物では無いでしょ」
「分かった。いいよ。揉んでも」
よし、第一関門突破! ガッツポーズで決めたい所だがこの程度で小躍りしてはダメだ。何しろ次の関門は彼女の衣服を脱がせる事だ。私の不用意な発言で彼女が脱ぐのを躊躇ってしまうような事をしてはいけないからだ。
「ねえ、私はハンバーグを作りたいのよ」
「うん、分かっている」
「あのね、服の上から揉んでも分からないのよ。感触が」
「えっ」
「柔らかさ、温かさ、弾み具合、それを私の十本の指に教え込まなければならないのよ」
「えぇぇぇぇぇ!?」
「だ、か、ら、早く脱いでよ」
「で、でも」
「今日の晩御飯は」
「……脱ぐよ」
そう言うと、みほは着用しているパンツァージャケットのボタンを掴んだ。
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レースのカーテン越しに見える青空には次第に黄色が混じりつつあった。数多の星が輝く夜が訪れるまでそれ程時間は掛からないだろう。
私がぼんやりと外を眺めている間に、みほはベッドに腰掛けたまま黒地に赤の縁取りで装飾されたジャケットを脱いでいた。深い紅色だけで染め上げられた襟付きシャツは、傷一つ無いきめ細やかな彼女の素肌を妖しく魅せる色彩効果を十分に発揮していた。
私にとって彼女の姿は見て
上目使いで不安げに私を見上げるみほの姿を見て、私はすぐにでも彼女を抱き締めたかった。いや、違う。彼女に抱き付きたい。そしてしゃぶりつきたい。思う存分に味わいたい。そう考えた瞬間に私の体が脊髄反射の如くみほに飛び付こうと動いた。
だが、未だに冷静に活動している頭脳がブレーキを掛けた。危なかった。頭脳だけは正常だ。いや、みほを騙そうとしている時点で異常なのかもしれない。私の脳内で欲望と自制、善と悪が仁義なき戦いを繰り広げている最中、みほは私に話し掛けた。
「ねえ、脱いだよ」
「そのシャツも脱ぎなさい」
「……脱ぐよ。何か、いつものエリカさんじゃない」
そうよ。そのとおりよ。いつものエリカは封印しているのよ。今のエリカは悪魔と契約したエリカなのよ。
私が悪魔と契約した発端は、ネットサーフィンして見つけた怪しげなWebサイトを見つけた時から始まった。私は違法な課金サイトやウィルスに感染されていないサイトである事を確認してから開いた。それは黒魔術の術を紹介する個人運営のWebサイトだった。
女の子は、人生に一度はコックリさんやタロットカード、占星術といった占いに興味が湧くものだ。だから私は興味本位でそれを隅々まで読み、いつか試そうかと思いしっかりと覚えた。
そして昨日、練習試合でみほにコテンパンにやられてムシャクシャしていた私は、冗談半分の軽い気持ちで床に魔法陣を書いて暗記した呪文を唱えた。
そうしたら、本当に悪魔が現れてしまった。
だが、悪魔と言っていいのだろうか。どう見ても、中年の日本人男性にしか見えない冴えない風貌をしていたからだ。
ビジネススーツ姿で登場した悪魔は懐から名刺を取り出し私に渡した。てっきり「喪黒福蔵」と書かれているかと思いきや、「浅岡何某」と書かれていた。興味無かったから下の名は忘れた。
そもそも、アンタは防諜工作官として合衆国や中共の情報機関を相手に好き勝手やらかしているから悪魔と呼ばれてもおかしくない。だけど、登場する作品を間違えていないか?
私の疑問を余所に彼は説明を始めた。どうやら何通りかある呪文とアクセントを置く位置を選ぶ事によって召喚される悪魔が選べるらしい。この男の場合は「日本人」「フツメン」「中年オヤジ」「変態の皮を被った紳士」というカテゴリーから選ばれたそうだ。
この男が誰に復讐したいのかと聞いてきたので、私は召喚した理由を一から話した。それを黙って聴いていた男は呆れた表情をして私に言った。
「僕はね、可愛い女の子同士の喧嘩を眺めながらご飯を食べる程の変態さんじゃないのだよ。他の仕事は無いの?」
「例えば?」
「うーん、そうだな。じゃあ、君のライバルである西住みほちゃんが男の子と付き合うように仕掛けよう」
「それのどこが復讐なの?」
「実はこの男の子はサンダース大付属高校に在籍している女の子の彼氏であり、その女の子の指示でみほちゃんと付き合い始めた。目的はみほちゃんの心を弄んでどん底に突き落とす事さ。だから、彼女の体はキズモノになり心が壊れてしまうのさ。みほちゃんは戦車道を続ける事が出来なくなるから、来年度はみほちゃんでは無くエリカちゃんが戦車隊の大隊長に成れるよ。大隊長閣下、ご命令を」
「では命令する。回れ右をして、すぐに帰りなさい」
「おいおい、それは困る。何もしないで帰ると手当が出ないのだよ」
「私には関係無いでしょ」
「僕には大いに関係あるのだよ。成長真っ盛りの子供が三人いるから、食費と毎年買い替える子供服代で生活費がカツカツなのさ」
「じゃあ、その能力を私の成績を上げるために使ってよ」
「それはダメだよ。エリカちゃんは僕を召喚した時に、みほちゃんに対して腹を立てていた。それは認めるよね?」
「まあ、そうだけど」
「君が心の中でみほちゃんに向けていた敵意によって、君は社団法人統合悪魔組合と契約したのだよ。だから僕は、君に代わってみほちゃんに何か復讐する事しか出来ないのさ」
私は困り果ててしまった。みほに対して腹を立てたのは事実だ。だが、それは悔しさによるものであり彼女が傷付くような事は望んでいない。おまけに、時計の針は私が眠りにつくべき時間である事を指し示していた。
この男が部屋に居座ったままだと私が寝付けない。当たり前の事だが、私が寝ている姿を見せてもいい男は私が選びたい。
私は電源を入れたままにしていたパソコンに向かい、「エリカ」と「ハンバーグ」、他に「てきとう」に思いついた「マッサージ」を検索ワードとして打ち込んだ。すると、とある人物が執筆したWeb小説にアクセスされた。
そこでは、マッサージ士の免許を取得した私がみほをマッサージするのだが、何故かみほが「イクゥ♡」とか「そこはラメェェェ♡♡」とか言うエロ味要素満点の小説だった。まあ、マッサージ程度ならなら彼女が傷付く事はないだろうと思い、男に言った。
「この小説の様にマッサージして復讐したいけれど、どうかな」
「ふうん、この程度でいいのか。随分と安い復讐だな」
「これで終わりよ。睡眠不足は美容の敵だから私は寝たいのよ。だから、さっさと帰ってよ」
「でもな、そのまま真似るとアイディアをパクったとかパクられたとかの騒ぎが起きるのは確実だぜ」
「ダメなの?」
「よし、悪魔組合に小説を書くのが上手い男がいるから、この呟きを元にアレンジした小説を書かせる。そして、君はそれに基づいて行動しなければならない。この条件でどうかね」
「分かったわ、その条件を飲むわよ。ところで、その小説どおりに行動しないとどうなるの?」
「そうだなぁ」
男は数秒ほど考えていたが、その後とんでもない事を言い出した。
「よし。小説どおりに行動しない場合、みほちゃんが戦車で轢き殺されるという罰にしよう」
「何でそうなるのよ!」
「だって、この世界は男が戦車に乗ってはいけないのだろ?」
「そうよ。積極的に戦車に乗りたがる男は変態扱いよ」
「ならば、この世界の価値観をひっくり返して僕が堂々と戦車に乗れるようにしたいと考えるのは当然さ。そのためには、ヒロインであるみほちゃんに退場してもらおう」
私は思わず大きなため息をついた。私にとって74式戦車とはいえ戦車隊小隊長になった程の能力がある男を相手にするには荷が重かったからだ。面倒事を招いてしまった事を後悔すべきか、この程度で済む事を喜ぶべきなのか、心の整理がつかないまま私はこの条件に同意した。
「分かったわよ。その小説どおりに私が演じればいいのね」
「そうだ。君はその小説のヒロインとして光輝く存在になるのさ。念のために繰り返すが、君が小説どおりに演じない場合はみほちゃんに罰を与える。いいね」
男はそう言い残して消えていった。
だが、私は男という生き物が持つ妄想力を理解していなかった。
浅岡何某の指示で小説という駄文を仕上げた「流行の波に乗れない自称小説家」は、みほに対してマッサージでお仕置きするだけの小説を、大日本帝国と独逸第三帝国が北米大陸で血みどろの戦いを繰り広げる程の歴史改変が為された小説並にアレンジしてしまったのだ。
そう、私はアレンジされた小説に基づいて、みほにエロイ復讐をする事になってしまったのだ。