クロスアンジュ-青年から少女に転生した者-(完) 作:森島響
西暦2016年。数日前に28歳の誕生日を迎えたばかり。冬も終わりを迎え、まもなく今年も春が来ようとしていた頃。僕…いや、私は…少女に生まれ変わっていた。
なぜこうなってしまっていたのかは分からない。年齢は、大体15、16歳ぐらいか。それだけじゃない。数日前までの…男だった頃の記憶を一切無くしてしまっていたのである。
そして、一番驚いていたのは…。今、私が目を覚ました場所は…見たこともない軍事基地にいたことだった。
とりあえず、状況がよく理解できていないまま、私は基地の中に入っていった。そこには、見たこともないロボットが大量に並べてあった。そのロボットを珍しそうに眺めていると、整備をしていた一人の少女が話しかけてきた。
??「そこの貴女。 見たことない顔ね。 新入り?」
私「あ…は、はい。 新入りというよりは…ところで、ここはどこなんでしょうか?」
??「え? どこって、ここはローゼンブルム王家管轄の対ドラゴン軍事基地アルゼナルよ。 知らなかったのに、貴女どうやってここまで来たの? それと名前は?」
私「え…? な、名前ですか…?」
名前を尋ねられるのは当然だが、今の私はなぜか記憶を一切無くしてここで目を覚ました身。聞かれても名乗れるわけもなく戸惑ってしまう。
??「…貴女、まさか記憶が…? ちょっとこっち来て!」
名前もまだ聞いてない女の子に、急に腕を引っ張られ、医務室らしき部屋に連れて来られる。その部屋にも、また女の人がいた。
??「何だいメイ、その女の子は? アンタの知り合い?」
メイ「違うわよ、何かこの子、記憶がないみたいなの。 ちょっと診てもらえる? マギー」
マギー「ふーん…記憶が、ねぇ…。 ちょっとアンタ。 検査するからそこの椅子に座りな」
私「は、はい」
今の私と歳が近そうな女の子がメイ。医者の女の人がマギーという名前と言うのは分かった。そのマギーさんに言われるまま私は椅子に座った。
マギー「…診た感じ、脳に異常はないみたいだけど…アンタ、これまでの経緯(いきさつ)を説明してもらえる?」
私は、これまでの事情を説明した。
マギー「元“男”!? 信じられない話だけど…前世の記憶が一切無くて、目を覚ましたらこの基地にいた、と。 そういうことね」
私「は、はい」
メイ「ねぇ、マギー。 ジルの所に連れていって彼女のこと説明してやろうよ。 私達だけじゃとても手に負えないし」
マギー「そうだな。 アンタ、ちょっとついておいで」
そう言われ、二人の後ろを一生懸命ついて行きながら、ここの基地の偉い人らしき人がいる部屋に着いた。二人は、彼女に私のことを説明してくれた。
ジル「…そうか。 で、検査の結果、マナは使えてノーマではないんだな、マギー?」
マギー「ああ。 見た目は普通の人間の筈なのに」
ジル「分かった。 そこの君、私はここの基地の司令官、ジルだ。 …さて、本当の名前を覚えてないということだが…そうだな…。 “ミナ”というのはどうだ?」
私「ミナ…いい、と、思います…」
ジル「ちなみにその名前の由来だが…この基地に配属されたある少女の名前を捩(もじ)ったものだ。 そいつは…既に故人だが」
ミナ「え?」
私はそのある少女について聞いた。彼女の名前はナオミ。この基地の幼年部を卒業し、第一中隊に配属された新人メイルライダーだったが、14歳という若さで戦死したらしい。
でも、そんな事情を知っても、私は特に嫌な気持ちにはならなかった。何せ、仮の名前でも名前がないよりはマシと思ったからだ。
ジル「すまんな、故人の名前を元にした名前しか付けてやれなくて」
ミナ「いいえ。 きっと亡くなったその子も報われると思うので…」
メイ「そういえば、貴女。 この基地がどういう場所かまだ知らないわよね? 良かったら案内するけど」
ジル「そうだな。 それがいい。それとすまんがマギー、基地の案内が終わったらまたここに連れてきてくれ。 重要なことなのでな」
マギー「ああ、分かったよ」
メイ「さ、行くわよ。 ついて来て」
ミナ「は、はい」
ちょっと足早に一度司令室をあとにして、基地の案内をしてくれるメイさんの後をついて行った。でも、このときの私はまだ何も知らなかった。
まさかこの先、あんなことが起きるなんて…。